第99話 破綻の始まり
僕はジャン達の元を離れた後、いや追い出された後って言った方が正確か。
その後、僕はまず、ベルゼさんの所に向かった。
ベルゼさんは、第3階層で1人で頑張っているみたいだし。
途中のイヌゴブリンは適当に倒し、ベルゼさんのいる通路へ。
ベルゼさんは、敵の居ない場所を選んで休憩していた。
「ベルゼさん、大丈夫?」
「誰だ?
いや、シアン君か。
一応、生きてるよ。
今の俺ではここのイヌゴブリンが精一杯だけどな。
まぁ、当面の食料もあるし、油断さえしなければなんとかやっていける。
だから、ジャン達のパーティーには入るつもりはないよ。
アンタには悪いけど、あそこにいたら……
ダメになる。
だから、申し訳ないが」
「いやね、僕も追い出されちゃってさ……
今は1人だから、勧誘じゃないよ?
ちょっとベルゼさんの様子を見にきただけだから。
でも、大丈夫そうで良かったよ。
まぁでも、これは渡しておくね。
怪我したら飲んでみて」
そう言って、僕はどこかの街で買った回復用ポーションをベルゼさんに渡す。
ちなみに、収納魔法に入れていた奴だから、良化されており、効果は問題ないと思う。
死んだら効かないけどね。
「ありがとう。
もし……
ジャン達のパーティーから出たのなら……
俺と……
いや、俺じゃ足手まといだよな。
すまない、忘れてくれ」
まぁ、今の段階では連れて行く必要もないし、足手まといにしかならない。
実際、ついて来たいと言われても断ってだろう。
「それじゃ、ベルゼさんも元気でね」
僕はそう言って、その場を立ち去った。
さーて、どこに行こうかなと思いつつ、行き先は……
ジャン達に遭わない下層しかない。
上には戻らなくていいわけだし、ある意味自由になった、という見方もある。
元々は、このダンジョンを調べるのが目的だったしね。
ジャン達のペースに合わせていたから、全然進んでないけど。
僕1人なら、もっと早く進めるだろう。
でも……
サナが気になるし、できればみんなで攻略、したかったな……
もうそれは、叶わない夢なのかもしれないけれど。
とりあえず、第5階層までは一気に降り、ゴブリンもどき3匹を適当に殺し、魔石を回収する。
続いて、第6階層に降り、角ゴブリンもどきを見つける。
うん、ゴブリンもどきの額に小さな角がある。
それ以外は微妙に強くなった程度か。
僕は、1匹だけを蹴り殺し、魔石を回収する。
その次は第7階層へ、ここには確か、角なし角ゴブリンもどきがいたっけ?
そして、実際見つけたそいつは……
角ゴブリンもどきの額の角が、折れて無くなっていた。
……舐めてるのか?
ちょっと腹が立ったので、ブン殴って倒す。
まぁ、普通のゴブリンでも殴って殺せるから、余裕っちゃ余裕なんだけどね。
今回も、魔石を回収して終了。
更に第8階層に進む。
ここは確か、角あり角なし角ゴブリンもどきだっけ?
一応、どんなんだろうと気になったので、見てみると……
角なし角ゴブリンもどきの右側頭部のみ、角が生えていた。
……
「ふざけんな!」
僕はそう叫び、ブン殴って倒す。
すると、奥から3匹くらいの角あり角なし角ゴブリンが出てきた。
どうやら、音に反応し、徒党を組んで来るくらいの知能はあるらしい。
とりあえず、僕は血抜き君を抜き放ち、速攻で殺す。
角があろうとなかろうと、関係ない。
だだ、その後でもう1匹現れて、そいつは口笛を吹き出した。
すると、暫くして、通路の前後から挟み撃ちする様に、角あり角なし角ゴブリンが2匹ずつやって来た。
まぁ、僕なら余裕だが、ジャン達だったら……
間違いなく挟撃されて、死ぬだろう。
確かに少しずつ強くなっている。
ここまで来ると、このダンジョンはなんらかの意図を持って作られた、そんな感じがする。
ちなみに、挟撃と言っても、逃げ道を塞いだだけで、戦略的な連携まではできないようだ。
だから、片側を突破すれば問題ない。
いや、正直4匹同時でも大した事は無いので、血抜き君で斬り裂き、一気に殺す。
さてさて、次は……
第9階層は、フェイクゴブリンだったな。
近場の1匹を見つけ、観察すると、フェイクゴブリンは、見た目はただのゴブリンだった。
本当に、普通の、これこそゴブリンって感じの。
でも……
魔力の雰囲気はゴブリンとは似ても似つかない。
ドヴェルガー、無属性のゴブリンとは違い、地属性の小鬼がいるとは聞いたことがあるが、多分その近縁種ではないだろうか?
実際、蹴っ飛ばしてみると、結構硬い。
逆に動きは鈍いので、僕からすればゴブリンより楽勝なんだが、鋭利な剣で斬ってきた冒険者なら、かなり梃子摺るかもしれない。
多分、普通の剣なら刃毀れしそうな硬さではあるからね。
ちなみに、フェイクゴブリンから取れる魔石は地属性を帯びていた。
かつて、リッツが使った属性付きの魔石か……
まぁあの時は火属性の魔石だったけど。
これも、使い方によっては、魔法の媒体にできるのかもしれないな。
後、地属性の魔道具の材料にもできるから、結構貴重だったりもする。
いやまぁ、僕には不要なんだけどさ。
それでも何かの役には立つかもしれないし……
うーん、僕って貧乏性なのかなぁ。
とにかく、魔石が地属性で珍しいと言う理由だけで、第9階層のフェイクゴブリンを狩り尽くす。
動きが鈍いから楽勝ってのもあるけれど、血抜き君で斬って、斬って、斬りまくる。
ふー、最近は人の戦いを見ていただけの方が多かったから、自分で戦えると楽しさを感じてしまう。
贅沢を言えば、もう数ランク上だともっと楽しいのだけど。
そして、最後は第10階層。
一応、公式にはここが最終階層と言われているが……
階段を降り、第10階層に着くと、少し広い部屋に出る。
そこには……
刀を持ったゴブリンが3匹いた。
刀、ヘリコバクターが持っていたのと同じ、片刃の細身の剣だ。
流石にゴブリンが持っているのは、ヘリコバクターの刀程の業物ではないが。
コイツらが、真ゴブリンスピリッツか。
能力的にはアラバ村周辺のゴブリンと同程度。
ゴブリンリーダーや、ユニーククラス、ボスゴブリンに比べれば遥かに弱い。
この街の周辺の普通のゴブリンよりは強いくらいか?
よく見ると、頭に魂と書かれており、だからスピリッツなのかもしれない。
まぁ、どうでもいいけど。
真ゴブリンスピリッツ達は、僕を見つけると、仲間内で会話を始める。
「グギャ?(こんな所に、童が紛れ混んできただと?)」
「グリュグリュ(我らに挑むだと?笑止千万なり!)」
「グキョグギャー!(今宵の村正は血に飢えておるわ、斬り刻んでくれようぞ!)」
ちなみに、ゴブリン語なんてわからないし、奴らの会話は僕の想像だけどね。
ゴブリン達は、会話が済むと、陣形を維持しながら僕の方に摺り足で近づいてくる。
そして、先頭の真ゴブリンスピリッツは上段から斬り込み、後ろの2匹は刀を真っ直ぐに突いてきた。
まぁ、とは言え所詮はゴブリン、ヘリコバクターの様に剣技が優れているわけではなく、力技で強引に斬ろうとしているだけだ。
僕に当たるわけもない。
余裕で避け、刀ごと腕を斬り落とす。
そして、刀は回収し、収納魔法に仕舞う。
多分、ゴブリンの背丈に刀は合っていないのだろう。
元々はその鋭い爪や、牙を使った攻撃の方が向いているのだし。
実際、刀を奪われた後の3匹の動きは、まあまあのものだったし。
もちろん、動きの観察が終われば用がないので殺したけどね。
この階層はコイツらだけ。
つまり、ボス的な存在なのだろう。
そして、奥には隠し部屋があり、宝箱には効果不明の首飾りが入っていた。
それと、この壁の窪み……
多分、アニマを嵌める所だろう。
だが、今は止めておいた方が良さそうだ。
この奥からは、かなり強い気配を感じるしね。
多分、ジャン達を外に出してからじゃないと、危険だと思う。
逆に、アニマさえ嵌めなければ、多分ここは絶対に開かない。
だから、僕が開けなければ大丈夫だって事になる。
さて……
そうすると、当分はまた暇になるなぁ。
とりあえず拠点も作らないといけないし。
そう言う意味で、この場所は丁度良いのかもしれない。
最下層の隠し部屋なんて、そうそう誰も来ないし。
普通の冒険者程度なら、あの真ゴブリンスピリッツ達でも梃子摺るから、ある意味盾にもなるし。
もちろん、師父クラスの人が来たら話にもならないけど。
僕は、収納魔法から比較的大きな岩を出し、隠し部屋の扉の前に置く。
これで、扉を開けるのは難しくなっただろう。
少なくとも、真ゴブリンスピリッツが入ってくる事はできない。
そして、更に簡易ベッドを収納魔法から取り出し、僕は眠りにつくのだった。
「ふぁ〜、よく寝た」
なんか、久しぶりにゆっくり寝た気がする。
僕は、朝ご飯をゆっくり食べ、再びベッドでゴロゴロする。
ちなみに、扉の外では真ゴブリンスピリッツがリポップしているみたいだが、こちらの方には気付いていないらしい。
これなら当分は、安全だな。
更に、暫くはごろ寝をした後、僕は柔軟体操やラヂオ体操で身体をほぐし、筋トレを行う。
最近、筋トレをやれなかったせいか、少し身体が鈍っているな……
それでも、一通りはこなした後、僕は扉の前の岩を退け、真ゴブリンスピリッツ達がいる部屋へ。
あっ……
真ゴブリンスピリッツ達だけでなく、刀まで復活している。
これは、刀をゲットできるからお得かもしれない。
ちなみに、扉を開けると、真ゴブリンスピリッツ達の真後ろに出る。
そのため、背後からこっそり襲えば、難なく殺す事ができた。
というか余裕過ぎ?
逆に運動にもならないから、ツマラナイだけか……
次からどうするかは考えよう。
でもな……
わざわざマトモに戦う必要性もないんだよな……
とりあえず、やっぱりサナ達が気になるので上に上がって行く。
第5階層のゴブリンもどきはあっさり倒し、第4階層から第3階層に向かう途中の階段で……
知らない人達がいるのに気づいた。
そして、第2階層と第3階層の間の階段で、彼らに出逢った。
そこに居たのは4人組の男の人、歳はジャン達と同じくらいで若い。
手前の長剣を持った人が一番強そうで、多分ベルゼさんよりワンランク上って感じ。
あの御者のオジさんと同じ雰囲気を持っているから、親族かもしれない。
多分、角なし角ゴブリンもどきくらいなら倒せるだろう。
他の3人は少しランクが落ちるが、ベルゼさんと同程度の強さはありそうだ。
鎌使いに、鉈使いに、鉤爪使いと、全員が近接か。
ゴブリン類相手なら丁度良いのだろう。
鍬使いがいたら、農業になっちゃうけどね。
ただ、全員が十分な栄養と休息を取り、防具もジャン並でしっかりしている。
だから、クロロさん達とは大違い。
銀級手前のパーティーといった感じだ。
「おい、おまえ……
何者だ?
こんな所で何をしている?」
手前の男が聞いてくる。
「僕?
僕はシアン。
一応冒険者見習い、かな?
上に居た人達のパーティーを追い出されちゃったから、ここにいるんだ。
お兄さん達は?」
「俺はヨグソトースJr.だ。
コイツらはポテ三兄弟」
「俺はポテチ」
「オイラはポテロン」
「俺っちは、ポテリコ。
って言うか、ヨグの兄貴、こんなガキはぶっ飛ばして先に行きましょうよ?」
「いや……
おまえ、最近来たガキだろ?
確か……
親父がなんか、嫌な予感がするガキだったって言っていたし……
ポテリコ、手を出すな。
親父の命令だ!」
「えっ?
団長の?
こんなガキがですかい?
……まぁ、ヨグの兄貴が言うなら仕方ありません。
ガキ、良かったな命拾いして。
でもな、俺っち達、いや、ヨグの兄貴の邪魔をするなら、殺すぜ?」
「うーん。
どうしようかな。
まぁ、いいか……
うん、わかったよ、お兄さん達はお兄さん達で頑張ってね。
僕も極力邪魔をしないように頑張るよ」
殺すって言った相手を生かすのか、非常に悩んだが、とりあえず今は大人しくしておいた。
ジャン達のいいライバルになるかもしれないしね。
ただ、ヨグさんはいいとして、ポテ達は最終的には排除する必要があるかもしれない。
「おい、ちなみにおまえはなんでここにいる?
いや、なんで1人で第3階層まで来れるんだ?」
ヨグさんに質問される。
まぁ、この辺なら余裕だから、というのが正解なんだけど、正直に答える必要もないし……
「この階段って、第5階層までは敵が出ないから、大丈夫だよ?
それに、魔物を感知できる能力があるから、僕1人なら隠れられるんだ」
「そうか……
俺達は、今から第3階層で狩をするから、近づくんじゃないぞ?」
ヨグさんはそう言って、立ち去っていった。
途中、ポテチが僕を蹴ろうとしたけど、アッサリ躱すと悔しそうな顔をしていた。
そして、僕は上へと向かう。
どうやら、第1階層と第2階層の敵は全て倒されている様だ。
まぁ、ヨグさんから沢山の魔石の気配があったから、あの4人が倒したのだろう。
そうなると……
ジャン達は、より下層で戦う事を余儀なくされる。
僕は心配になり、安全地帯のジャン達の様子を入口からこっそり確認すると……
ジャンがクロロさんを殴っていた。
既にどうしようもないくらい、若者達の心はすり減っていた。
だから、これはある意味必然なのかもしれない。
次回 第100話 破滅




