第98話 意地悪
僕達が帰る途中で、フラフラのサナとそれを支えるクロロさんを見つける。
どうやら、サナは全力で魔法を撃った後、ジャンを助けようともう1発撃とうとして力を使い果たしたらしい。
まぁ2発目は不発に終わり、魔力だけが無くなったしまったと言うオチなのだが……
サナがジャンを想う気持ちが本気と知り、悲しくなる。
それでも、そんな事は無いふりをして、サナを安全地帯まで送る。
サナは、安全地帯に着くと、すぐに寝てしまった。
クロロさんもなんだか疲れた顔をしており、口数が少ない。
一体何があったのか聞いても、教えてくれなかった。
そのため、僕達の戦果についてとかも、話す間がなかった。
まぁ、僕から見たら戦果としては、少な過ぎるのだけど。
サルファさん達、彼らとしては大成果で、本当は話したくて仕方ないって顔をしていた。
実際、安全地帯に着いてからは、皆興奮冷めやらぬといった感じで、盛り上がっていた。
ちなみに、ジャンとボロンさんは、2人だけで第2階層に挑んでいるらしい。
たった2人で大丈夫なのだろうか?
そう思ったが、サルファさんに聞くと。
「ボロンは、少人数の方がアシストが上手いから。
多分大丈夫だと思うよ?
まぁ、武器が万全ではないけど、それも含めて理解していると言うか、とにかく第2階層くらいなら1人でも大丈夫なくらいだし。
大丈夫って言っても、死にはしないと言う意味で狩は厳しいか?
そこは、ジャンさんと組めば問題ないはずだけど……
それに、決してボロンは無理をしないから。
体力とか、色々な配分ができる奴だから問題ないよ。
あと、話も上手いしね。
欠点といえば……
人数が多いと返って何もしない事かな。
あと、自分より強い敵とは絶対に戦わないし、安全マージンは広いと思うよ?
多分、今日のイヌゴブリン、あのレベルの敵とは絶対に戦わないと思う。
例え多数であっても、絶対に安全ってわけじゃないしね。
そんな感じだから、安心して良いとは思うよ?」
そんなサルファさんの言葉通り、暫くすると、ジャンとボロンさんは、無事戻ってきた。
心なしか、ジャンの雰囲気が明るい。
どうやら、ジャンとボロンさんの相性は良かった様だ。
「僕達は2人だったから、今日は3個しか取れなかったよ。
すまない。
ちなみに、サルファ達はどうだったんだい?」
「それが!
凄いんです。
ミニゴブリン8匹と、なんとイヌゴブリン5匹も倒せたんですよ!
イヌゴブリンなんて、当分無理だと思ってたのに……
やっぱり、魔物の感知できる子が居ると大分違いますね!
シアン君もただの子供じゃなくて、流石ジャンさんの弟子だって知らされました。
それに、あの指示も、勇者のパーティーとしての試練だったんですね。
改めて、ジャンさんの凄さがわかりました。
これからもジャンさんについて行くつもりですから、よろしくお願い致します!」
「まぁ、僕は勇者だからね。
みんなを育てるのも、役目の1つだから。
気にしなくても良いよ。
でもね……
その程度で調子に乗るんじゃない!
ここは戦場なんだ、浮かれていると、死ぬぞ?
わかったか?
わかったなら、返事!」
「は、ハイ!
すみませんでした。
偉そうに言ってすみません。
僕1人の力じゃなかったですし……」
「わかれば良い。
別にサルファだけを、責めている訳じゃないんだ。
みんなも聞いてくれ!
ここは安全な修行場ではない。
命をかけた戦いの場なんだ。
だから、あまり便利な方法に頼りすぎるのも良くない。
僕は今日、改めてそれを知った。
さっきのサルファみたいに浮かれていたら、いつかは死ぬかもしれない。
もちろん、イヌゴブリンを倒した戦果は、大したものだ。
だが、本当に勇者のパーティーの一員として、胸を張って戦ったと言えるのか?
違うだろ?
楽して勝って、浮かれさせて、後で追い詰められる。
それがわかっているなら、自らの手で魔物を倒すべきだ。
ちゃんと、自分で倒せる様になるまで、シアンの力に頼るのは禁止する!
シアン、僕はもう君をただの子供だとは思わない。
だから、当分は君の能力には頼らない事にするから。
もし嫌なら、ここを出ても良い。
例え残っても、居ないものとして扱わせてもらうから。
ただし、勝手な事をするなら、敵とみなして排除する。
わかったかい?
それにみんなも、わかったならリーダーの僕の命令に従う様に!」
ジャンは一方的にそう言って、サルファさんから魔石を回収して、ボロンを連れて食料との交換に行った。
何故だろう?
なんでこんな事になってしまったのか……
僕は本当に、出て行ってしまった方が良いのか?
でも、サナを置いて行きたくないし、誰にも死んで欲しくない。
どうしようか思案に暮れていると、クロロさんが僕のところに来た。
「シアン君……
これから、どうしよう?
このまま、ジャンさんについて行けるのか、僕は……
自信がないよ。
シアン君はどうするつもりなんだい?」
「うーん……
正直、僕自身何がどうなっているのか、わかっていないんだ。
でも、ジャン兄が僕を嫌って、避けているのはなんとなくわかっている。
だから、ここを出て行くか、何もしないか、そのどちからで悩んでいるって感じかな……
正直なところ、僕は1人でも大丈夫なんだけど、僕が居ないと、ジャン兄とサナ姉が心配って言うか……
クロロさんは、どうしたらいいと思う?」
「悪いけど……
僕にも良くわからないんだ。
でも、このままだとかなりヤバいと思う。
そろそろ、攻略組も来そうだし。
そうなると、また前と同じ状態に……
いや、ジャンさんが今の状態なら、更に危険かもしれない。
でもさ、僕は1人ではここで生きていけない。
だから、誰かに頼らなければならない。
あのさ……
シアン君は、出て行くなら、僕を一緒に連れて行ってくれるかい?」
「クロロさんはさ、死ぬ覚悟はあるのかな?
無いなら……
やめた方が」
そう言おうとした瞬間、後ろから誰かに止められる。
「シアン、クロロまでお前に巻き込むな!
クロロは悪くないだろ?
確かに、お前の能力は凄いとは思う。
でも、オレ達をここから助けてくれるのは、ジャンさん以外にいないんだよ!
だから、オレ達とジャンさんの絆を切る様な真似はやめてくれ。
居なくなるなら、お前1人で勝手に行ってくれ。
そうじゃないなら……
オレ達に話しかけるな、わかったな?」
そう言ったのは……
確かニトロさん。
クロロさんを巻き込む……か。
まぁ、正直クロロさん1人を連れて行っても、僕には何にもメリットが無い。
荷物が増えるだけだし、ジャンやサナの戦力もダウンする。
むしろ総合的に見てマイナスか?
色々な意味で、クロロさんを連れて行くのはよろしくない。
もちろん、死地に活路を見出す覚悟があるなら問題無いが……
実際、死ぬ気でやればデミゴブリン位までは、1人でも倒せなくはない。
でも、みんな死にたくないから、ミニゴブリンから安全マージンを取ってでしか戦えない。
でも、それでは生き残れない。
死に向かえば、助かるのに……
そんな言葉が頭をよぎる。
と言う事で、僕は一時的に退場しよう。
そう決意し、クロロさんに告げる。
「うん、わかりました。
やっぱり、僕はここから出て行きます。
くれぐれも、サナ姉とジャン兄をよろしくお願いします。
クロロさんも、無理はしないで。
ちゃんとジャン兄に従っていたら、多分問題無いと思うから」
そう言って、僕は安全地帯を後にするのだった。
△
シアン君が立ち去り、暫くするとジャンさんとボロンが戻ってきた。
そして、先程の経緯はニトロが説明するのだが……
「って感じで、強く言ってオレがシアンの奴を追い出してやったんですよ。
そしたら、シアンの奴はシュンとして、まぁ所詮は子供ですからね。
オレ達が本気なら、チョロいもんですよ。
ついでに、クロロを裏切らせ様としていたのも、阻止したんですよ?」
「そうか……
できれば僕がいる時に……
まぁそれはいい、シアンはすぐに死ぬだろうし、僕達には関係ないからな。
それより、クロロ!
裏切ろうとしたって言うのは、本当かい?」
不意に僕が呼ばれる。
思わず、恐怖で膝が震える。
しかし、ジャンさんに逆らう事は出来ない。
ここで生きて行くなら……
「裏切ろうとなんて、とんでもないです。
あの、その……
誤解と言うか、何というか……
すみませんでした!」
僕は説明できず、謝罪するしかなかった。
しかし……
ジャンさんは、長剣を抜き放ち、僕の首筋に当てる。
「勇者への謝罪がその程度なわけないだろ?
ちゃんと土下座しなさい。
そう、額を地面につけて」
僕は、言われるがままに、土下座をし、地面に額をつけ、何度も何度も謝罪する。
それを見て、ジャンさんは笑っていた。
狂った様に……
僕は、本当に残って正解だったのだろうか?
「まぁ、今回だけは許してやる。
クロロはシアンと仲が良かったしな、仕方ないのだろう。
でも、これからは裏切りは許さない!
クロロは当分、レーションの配布は1個だけだ。
僕に斬られなかっただけ、有難いと思うんだな?
他の人も、決してパーティーを裏切る様な真似はするなよ?」
そう言って、ジャンさんは皆を見渡し、その後、食料の配布を開始した。
もちろん、僕の分はなかった。
シアン君の時と同じだ……
僕は、いや、僕達は、シアン君にレーションが配られていないのを知っていた。
まぁ、本人が気にしていなかったから、大丈夫だと、他人事だから知らないと、見て見ないフリをしていた。
シアン君が悪いのだから、仕方ないとさえ思っていた。
でも……
改めて自分がその立場になると、辛さがよくわかる。
仲間外れにされた辛さ。
空腹の辛さ。
自分だけがと言う辛い感情……
だが、そんな辛さは、まだ序章に過ぎなかったのだ。
僕は、空腹を紛らわせるため、水を飲んで、目を閉じて寝ようとした。
しかし、壁に向かって半身で寝転んでいると、誰かが僕の背中を蹴飛ばした。
蹴り自体はそんなに強い力じゃないけど、びっくりして身体をビクッとさせると、笑い声が聞こえる。
ゆっくり振り向いても、皆寝たふりをしており、誰がやったかはわからない。
僕は、恐怖に震えながら、そんな悪戯に耐えていると、その内に飽きたのか、眠くなったのかはわからないが、悪戯は止んだ。
みんなが寝静まった頃、僕は1人で安全地帯から離れた所に行き、泣いた。
悔しくて、悔しくて、悔しくて……
みんながいても孤独で、1人が辛く嗚咽しながら泣いた。
こんな辛さを、子供のシアン君が、感じていたのだとしたら、僕はなんで助けてあげられなかったのだと、後悔した。
一方で、僕がこんな目に遭っている元凶が、シアン君だと思うと許せない気持ちにもなった。
もう、訳の分からないくらい、グッチャグチャな感情が入り乱れ、僕自身何がなんだかわからなくなった。
だから、涙が枯れて安全地帯に戻って寝ようとしても、寝れなかった。
どうしても、どうしようも、どうにもならなかった。
そんな感じで、ほとんど寝れず、翌朝まで過ごした。
そして、空腹のままジャンさんの指示を黙って待った。
今日の組み合わせは、ジャンさん、サナさん、ボロンが第2階層、その他のサルファ、ニトロ、ブロモ、アスタチンと僕は第1階層に行く事に。
体力も気力もない僕は、フラフラとした脚付きでなんとかついていった。
しかし、階段の前まできた所で、第1階層組の皆に囲まれた。
「オレも嫌なんだけどさ、ジャンさんの命令だから。
仕方ないだろ?
なっ?」
そうニトロに言われ、皆に1発ずつ殴られた。
そして、全員に殴られたところで、気を失った。
頭が痛い。
目が覚めると、僕は1人だった。
皆は多分、まだ狩をしているのだろう。
行きより更にフラフラで安全地帯に戻ると、シアン君と出会った。
よかった……
シアン君は1人でも無事だったらしい。
多分、あの感知能力なら、安全に逃げられるのだろう。
シアン君は、僕を見ると、「大丈夫?」と声をかけてくれた。
僕達はあんな酷い事をしていたのに……
そして、黙って僕にレーション2個と、ポーションみたいな物をくれた。
僕も、黙ってそれを受け取り、急いで食べた。
でも……
「ごめん、本当にごめん。
でもでもでも……
シアン君に会ったってバレたら、僕は殺されてしまう。
だから、もう来ないでくれないか?
正直言って、迷惑なんだ。
お願いだ……
僕に構わないでくれ」
思わずそう言ってしまった。
助けてくれたのに、シアン君は数少ない食料を分けてくれたのに……
それでも、僕から出てくる言葉は、礼よりも拒絶だった。
そんな僕を、シアン君は悲しそうな目で、見ている。
「クロロさん、ごめんね。
多分、僕がジャン兄を追い詰めたんだと思うんだ。
だから、クロロさんまで苦労させちゃって……
本当にごめん。
ただ、どうしようもなくなったら、死ぬよりは、死ぬ気の方が良いと思うから?
頑張って、生き延びてね」
そう言って、シアン君は立ち去っていった。
そして、僕はシアン君にもらったポーションを飲み、眠りについた。
レーションとポーションのおかげか、起きると身体の疲れや痛みは取れていた。
それでも、皆が帰ってきて、今日の戦果に盛り上がっている中、僕は隅っこで小さく丸まっていた。
「戦闘にも参加せずに、寝てただけの奴は良いよな?
ハハハ」
「そんな事を言ったら、可哀想だろ?
クロロだって役立たずでも、生きているんだ。
僕は勇者だからね、役立たずでも平等に扱うつもりだよ?」
そう言って、ジャンさんは僕にレーションを1個くれた。
僕は、それを拝む様にして受け取り、食べた。
多分、今日はサナさんが起きているからだろう。
サナさんが寝たらどうなるかは……
わからない。
そんな不安を抱えながらも、今日は無事に寝る事ができた。
しかし、翌朝には新たな事件が起きるのだった。
少年は、仲間から外れる事で自由になる。
そして、当初の目的を果たすため、調査を開始する。
しかし、新たな冒険者が現れ、元の仲間達は……
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