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第96話 先の見えない明日

ジャン達が食料を交換しに行っている間、ボロンさん達は、サナと僕に聞いてくる。


「一体、ジャンさんはなんであんなにシアン君に……

第2階層で何かあったのかい?」


「あー、ジャンはあの日、みたいな?

あの日って言っても、スタッフ蔡瑁は関係ないよ?

色々あり過ぎてバビューンしてるみたいなモノだよ」


スタッフ蔡瑁とは……

800年程前、魔導研究者のボボ=カーター氏が提案した理論で、全ての人、動物、魔物はスタッフ蔡瑁を組み込んだ術式で産み出されたと言うものだ。

万能な術式で、あらゆる召喚魔術の礎となると期待されたが、カーター氏が作成した魔道書は誰も使用する事が出来なかった。

当のカーター氏本人ですら……

しかも、研究報告として出された魔物もどきは、色々な魔物の死骸を寄せ集めただけだとわかり、カーター氏は不正な魔導師として、魔法ギルドから追放された。

あの日は、追放後にカーター氏が書いた手記と言われ、魔法ギルドへの恨み辛みが記されている……らしい。

ちなみに、未だに何故蔡瑁なのかは明らかにされていないらしい。

蔡瑁とは、劉表の後妻の蔡氏の弟で、長男の劉琮ではなく、蔡氏の子である劉琦を劉表の後継にするため策を弄し、最終的には曹操に下って最後には漢陽亭侯に封じられた三国時代の武将らしいのだが……

そんな話を師父から聞いた気がする。

正直、全く意味はわからなかったけどね。


まぁ、それはともかく、サナが言いたいのは時々ジャンは、機嫌の悪い日があるって意味だろう。

僕も、余計な気を回し過ぎているのがいけないのだと思うし。


「本当は……

僕が抜ける方が、いいのかもなんだけど……

ジャン兄は、頑張り過ぎているんじゃないかな。

無理に勇者になろうとしてるとか……

うん、僕も言い方が悪かったと思うし。

お互い様なのは、間違いないからさ……

みんなもあまり気にしないでね?」


「まぁ、僕らもジャンさんには助けられているから、あまりこんな事は言いたくないんだけど、みんなの前で1人を悪く言うのはちょっと……

シアン君が気にしないならいいんだけど、こんな状況では、些細な事がパーティー崩壊につながるからね?

僕らだって……」


「うん、心配してくれてありがとう。

でも、まぁ僕は大丈夫だから。

あまり気にしないで、ジャン兄もきっと機嫌が良くなると思うし」


明日の事すらわからない現状では、彼らも不安なんだろう。

生きるのに精一杯だし。

まぁ、ただ、彼らがジャンに救われたと言うのは正しい。

実際、ジャンがいなかったら、僕は彼らを救わなかった。

そして、彼らも玉砕覚悟で僕達を襲うつもりだった。

クロロさんを除いてね。

ジャンはそれに気づいていなかったが、僕とベルゼさんは気づいていた。

だからこそ、助ける気にならなかった。

いやむしろ、襲いかかってきたら、半殺しにするつもりだった。

そして、今頃は全員死んでいたはず。

だから、ジャンに感謝するのは当たり前でいいと思う。

まぁでも、僕がもうちょっと上手くやらないと、この先が大変になりそうだ。

さて、どうしたものかな……

一層の事、サナ以外全員殺すか?

なんて冗談が頭をよぎる辺り、僕もこの雰囲気に呑まれているのかもしれない。

冷静に、気にせず行こう。


その後は、ちょっとした雑談をしていると、上機嫌のジャンと、クロロさんが戻ってきた。


「聞いてくれ!

交渉の結果、12個の魔石を、27個のレーションと

交換できたよ。

これで、ちゃんと三食食べる事ができるよ。

さあみんな、取りに来てくれ!」


そう言って、ジャンは皆にレーションを配り始める。

皆、口々に礼を言ってレーションを受け取る。

やはり、みんな1日3個食べれるのは嬉しいのか、顔が綻んでいる。

そして、最後は僕の番。


「シアン君は、戦闘していないんだから、1個ね。

別にいいだろ、役に立っていないんだからさ。

それに、いつもレーションを食べてないだろ?

なんか食べ物を、隠し持っているんじゃないか?」


「何も隠してなんかないよ!

ホラ見てよ」

そう言って、僕は袋の中を全て出して見せる。

まぁ、収納魔法の事は隠しているけどね。

食料は山程持っているし、レーションなんて食べてない。

だけど、これ以上疑われるのはあまり良くないから、僕は抗議する。


「確かに……

でも、決めるのはリーダーの僕なんだ!

口答えするなら、食料は渡さない。

嫌ならパーティーから外れても良いんだよ?

君みたいな子供が、こんなところで1人では生きていけないんだ。

理解したなら、謝りなさい!」


「ジャン!

シアン君は何も悪い事してないよ?

ちょっと落ち着こうよ。

ほらほら、ドゥドゥ!」


サナは、僕をかばってくれたが、それが更にジャンの怒りに火をつける。


「サナまで!

もういい、勝手にしろ!

とにかく、反省するまでシアン君は食料無しだ。

わかったな!」


そう言って、ジャンはサナの手を引いて、僕から離れた位置へ。

反省も何も、ジャンが勝手にキレているだけなんだが……

まぁ、レーションなんていらないからいいんだけどさ、こんなところで仲間割れとかは、やめて欲しい。

なんか、ジャンとサナが言い合っているし……

それをクロロさんが止めに入っている。

そして、収集がつかないまま、皆寝てしまった。

嘘、こっそりと僕が眠らせた。

起きて明日になれば、冷静になって、元通りに戻るだろう、そう期待しながら……


さて、今日はっと。

ここに沢山いる、死者の魂達が鬱陶しいので、処理をしよう。

実はこの場合に来た時から気になっていたのだが、ダンジョンに連れてこられ、出れずに死んだ若者達の霊が、ここに沢山いる。

皆、このダンジョンに縛られ、出ることも、成仏する事も叶わず、漂っている。


「さて、僕には魂を冥界に還す力があるんだけど、希望者はいるかい?

まぁ、天国じゃないけど、冥界でもここにいるよりは全然マシだと思うよ。

もちろん、このダンジョンを永遠に彷徨い続けたいなら構わないけど。

さぁ、サッサっと決めてくれるかな?」


僕の声に気づいた霊たちは、こちらに寄ってきて、一様に挙手する。

やはり……

皆、ここから離れたいのか。

確か、魂が望めば、勝手に発動するんだっけ?

そう思った瞬間、魂達は勝手に冥界に還っていく。

僕の力を奪いながら……

なんだろう、精神的な力がガリガリ削られる様な。

魔力が空になったみたいなそんな感覚に……

そして、最後にクロロさんの弟、フルオロさんを冥界に送ると、僕の意識は途絶えたのだった。
















「おーい、シアン君!

起きろ?

おっハロー、バッファロー。

さぁ、朝だにょん。

起きれ〜」


そう言って、サナが僕を起こす。

アレ?

僕は、寝てしまったらしい。


「おはよう、サナ姉」

僕がそう言い、起き上がると、グゥーっとお腹が鳴ってしまう。

そう言えば、昨日の夜は何も食べてなかったっけ……


「シアン君、腹減ったのかにょ?

仕方ないな〜

これ、ジャンには内緒だからね?

コッソリ食べてね」

そう言って、サナは僕にレーション一個をさりげなく渡してくる。


「ダメだよ、サナ姉のだろ?

僕が貰ったら、悪いじゃないか」

どうせ、僕は食べないしね、こんな不味いレーションは。


「大丈夫、大丈夫。

私は2個食べたしね。

シアン君がいないと困るからさ、ちゃんと食べるんだよ?」

そう言って、ニシシと笑うサナを見て、僕は心にチクリと刺さる何かを感じた。

もういっそのこと、全部話してしまおうか、喉元まで出かけて、僕はそれを飲み込む。

そして、サナがくれたレーションを一口齧る。

不味い……

とても不味いのだが、サナの香りがする気がして、僕は一生懸命それを飲み込むのだった。


もう……

ダメだ。

僕はもう、サナを見捨てる事が出来ない。

それは、ジャンを見捨てる事が出来ないのと同じ意味になる。

更に、クロロさんや、その他の人も極力助けなければならない。

しかも……

僕の実力は隠したままで。

でも、僕のその想いは、いきなり挫かれる事になる。


「じゃあ今日は、僕とサナ、クロロとボロンの4人で第2階層に行ってくるよ。

ヨードとアスタチン、サルファとニトロとブロモは足手まといのシアン君を守りながら第1階層に行ってくれ。

それじゃ、いくよ!」


そう言って、ジャン達は先に行ってしまう。

僕は、ヨードさんら5人に着いて行くと……

階段のところで、ヨードさんが言い放つ。


「悪いんだけど、ジャンさんの命令なんだ……

ちょっと痛い目にあうだけでいいからね?

できれば僕達もこんな事したくないんだけど……

できれば抵抗しないでくれると嬉しいんだけど」

そう言って、ヨードさんは武器の棍棒を構える。

他の4人は、僕を逃さない様、囲んでいる。


「君達、本気?」

僕は軽く聞くと、ヨードさんは自信無さげに答える。


「そりゃ、僕だって……

でも、恩人のジャンさんの命令だよ?

仕方ないだろ?」


その返答に、もう一度、僕は怒気を強めて聞く。

「もう一度聞く、君達、本気?」


その一言で、5人全員が動けなくなる。

「いや、本気じゃないならいいんだ。

そもそも、勇者であるジャン兄が、そんな命令本気ですると思うの?

君達を試しただけなんだよ。

無意味なイジメなんてしてたら、勇者のパーティーには相応しくないからね。

ジャン兄なりのテストだったんだよ。

わかったかな?」


僕が怒気を緩めてそう言うと、皆ホッとした様に脱力する。

「なんだ……

ジャンさんも人が悪いな。

テストだったとは思わなかったよ。

ごめんね、シアン君、次からは勇者のパーティーとして恥ずかしくない行動をするよ」


「うん、わかってくれればいいんだ。

それじゃ、サッサとこの階層は終わらせようか?

ヨードさん達は、ここで待っていてね」

そう言って、僕は1人で右の道に入る。

中のミニゴブリンは8匹。

僕は、最短ルートで8匹を挑発し、入口付近にまで引っ張って行く。

俗に言うトレインってやつだ。

ちなみに、長い距離を走らされたミニゴブリンは、息が切れており、入口付近に着いた頃にはバテている。

また、多少元気なミニゴブリンは、僕が皆の前で転ばさせる。

ヨードさん達は最初は驚いたものの、僕が「かかれ!」と号令をかけると、すぐに飛びかかり、8匹のミニゴブリンを瞬殺して行く。


「シアン君、凄いよ!

凄過ぎる。

何をやったんだい?」


「ん?

無様に逃げ回って、ミニゴブリンを連れてきた、みたいな?

それより早く魔石を回収してね。

あと、早く終わっちゃったね。

せっかだし、第3階層に行ってみる?」


「ダメだよ!

第3階層には、イヌゴブリンって強力な敵がいて、危ないよ?」


「いや、5人がかりなら余裕だと思うけど?

僕に任せてついてきて」

そう言って、僕はヨードさん達を先導する。

ちなみに、第2階層では、2匹のニセゴブリンが倒されているみたいだ。

そこそこ順調って事かな?

ただまぁ、それからはあまり進んでないみたいだけど。


僕は、再び5人を第3階層の入口で待たせる。

イヌゴブリン、はっきり言ってニセゴブリンよりちょっと強い程度だが、こちらの姿を目にすると、近づいて襲ってくる。

ニセゴブリンはかなり近づかないと攻撃してこないし、ミニゴブリンに至っては攻撃か挑発でもしないと、目の前に居ても襲って来ない。

ちなみに、イヌゴブリンは青色で、顔は普通のゴブリンで犬っぽさは皆無だった。


イヌゴブリンは、僕の姿を見ると、嬉々として襲ってきた。

僕はそれを見てすぐ後退し、入口付近で砂で目潰ししてから、イヌゴブリンの背後に回り、背中を押してヨードさん達の前に出す。

ヨードさん達は、態勢が崩れ、目潰しで目が見えないイヌゴブリンを全員で一斉攻撃して、殺す。


その次は目潰しなしで、連れて行ったが、前後左右全方位で囲めば、誰かの攻撃は当たる。

倒せる事がわかれば、恐怖は薄れ、自信に変わる。

更にその次は、サルファさんとニトロさんに、投石を教え、支援攻撃をしてもらう。

投石の支援があるだけで、敵の攻撃は牽制され、戦いはかなり楽になる。

イヌゴブリン5匹を倒したところで、全員が手応えを感じており、自信に満ち溢れていた。


「やっぱり、シアン君の感知能力は凄いよ。

流石、ダンジョンスレイヤーズの初期メンバー。

最初はただの子供、ジャンさんの腰巾着かと思っていたけど、僕の勘違いだったみたいだ。

ごめんね」


「いやいや、皆さんもこれまで頑張ってきた実力があるからこそだし、僕はちょっと手助けしただけだから。

それじゃ、上に戻りましょう」


こうして、僕達は悠々といつもの場所に帰るのだった。

いつもは当たり前にあったもの。

それがいかに重要な事だったのか……

逆にそれを知ってしまったが為に、ジャンは更なる怒りが込み上げるのだった。


次回 第97話 恐怖

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