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第94話 敵が強くなった

僕達が戻った時、残っていた人達は心配そうな顔をして待っていた。

皆、初めての僕達が無事だったか、心配だったのだろう。

そんな雰囲気を察したのか、ジャンは言い放つ。


「僕達は無事に戻ってきた!

しかも、魔物を倒し魔石を5個も手に入れた!

約束通り、この魔石を食料に替えて、皆で分配しよう。

安心してくれ、皆の安全は確保された。

だから、しっかり食べて、じっくりと回復してくれ」


ちなみに、ジャン2匹、クロロさん2匹、サナ1匹で、最後のジャンが倒したミニゴブリンは半分はクロロさんが倒したも同然なんだけどな……

なんか、ジャンが全部倒したみたいで、ちょっと引っかかる。


「本当に?

本当に最初の魔物狩りで5匹も?

凄い!

凄すぎる!

ジャンさん……

貴方は一体、何者なんですか?」


「僕はバトラーズ流剣術の子弟だよ。

最強の剣術を学び、剣の腕を磨いてきたんだ。

だから、ゴブリン如きには負けない。

皆も、僕について来てくれ!」


ジャンがそう言うと、クロロさんもそれをサポートしている。


「僕も、ジャンさんについて行ったら、勇気が出て身体が動くようになったんだ!

それに、ジャンさんはミニゴブリンを一刀両断し、サナさんはミニゴブリンの頭蓋を一撃で弓で粉砕したんだ。

だから、僕達も信じて、ジャンさん達について行こう。

みんないいね?」


「勇者誕生だ!」

「僕もジャンさんについて行きます!」

皆口々にジャンを褒め称える。

ジャンもかなりいい気分の様だ。


「皆さん、静粛に!

それじゃあ、これから魔石を食料に替えてくるから。

皆は待っていてくれ。

クロロ、道案内をよろしく。

サナとシアン君も、ここで待っていていいからね?」


そう言って、ジャンはクロロさんを連れ、扉の方に向かった。

そして、暫くすると、10個のレーションを持って戻ってくるのだった。


扉の位置と、魔石の交換方法を説明するため、僕はジャンさんについていく。


「魔石の交換の交渉はどうしますか?

5個あれば、交渉次第で上乗せしてくれる事もありますけど?」


「なら、クロロに任せるよ。

ただ、僕が後ろで指示を出すから、その通りやってみてくれるかい?」


「わかりました。

ちなみに、ここの小窓をノックすると、向こうから開けてくれます」

そう言って、僕は小窓をノックする。


「おう、お前は……

クロロだったか?

まだ生きてやがったのか、しぶとい奴だな。

まぁいい、何個だ?」


「ミニゴブリンの魔石が5個です」


「それなら、レーション10個だな?」


〔20個で交渉して〕

ジャンさんが僕に耳打ちする。

ええっ?

20個とか、無理じゃ……

それでも、ジャンさんの指示には逆らえない。

僕は、恐る恐る……

「……20個で、お、お願いします」


「ああん?

舐めてるのか?

殺すぞコラ?!

11個だ。

それで我慢しておけ」


〔なら交換しないと言って、次は15個で交渉してみて〕


「なら……

今回は交換はいらないです。

久しぶりだし、15個はつけてくれないと、交換できません」


「チッ、なら13個だ。

それ以上は、団長に怒られるからな。

ほらよ、これでいいだろ?


それと、次も5個以上持って来いよ。

あんまり少ないと、オマケは付けてやらねーからな?」


そう言われ、僕はジャンさんから受け取った魔石を5個渡し、レーションを13個受け取る。

そして、2人で扉から離れる。


「ジャンさん、やりましたね!

あんな多めの交渉が通るとは思いませんでした。

ジャンさんは商売の才能もあるんじゃないですか?」


「高めに吹っかけて、調整するのは商売の基本だからね。

まぁ、一応は商人の家で産まれたしね。

これくらいは普通だよ。

いや、むしろ魔石1個でレーションが10個は買えるしな……

なんか、損した気分だよ。


さて、この余り分は、2人で分けようか。

はい、これはクロロの分ね。

でも、他の人には内緒にね?」


そう言って、ジャンさんは僕にレーションを1個渡してくる。


「えっ?

でも、みんなで分けないと……」


「大丈夫だよ。

明日はもっと狩る予定だし。

クロロも今日は頑張ったから。

さ、ここで食べてしまおうぜ。


それに、明日も頼んだよ」

ジャンさんがそう言うなら……

僕もお腹を空かせていたし、我慢出来ずレーションを食べてしまう。


「これは、2人の秘密だからね?

さあ、戻ろうか!」


そして、戻った僕達2人は、レーションを分け、皆と一緒に食べたのだった。

僕は、1人だけ余分に食べた事に、少しの背徳感を感じつつも……


✴︎

さてと、皆がレーションを食べ、眠りについた後、僕は全員に睡眠魔法をかけ、深く眠らせる。

そして、ヨードさん達の悪い魔素を抜いていく。

すると皆、穏やかな顔つきになった。

やはり、大分苦しんでいたのだろう。


それが終わると、僕は1人ダンジョンの先へ向かう。

まず、最初の三叉路は階段を下りる。

一気に地下第5階層まで、駆け下りる。

そして、暫く進むとやや広めの部屋が見える。

そこには……

ゴブリンもどきだっけ?

そのゴブリンもどきが3匹いる。

うーん、ただの弱いゴブリンみたいに見える。

見た目は普通……


いや、腋毛が生えている。

僕の知っているゴブリンには、毛が一切生えていないが、このゴブリンもどきには腋毛が生えている!

……

……

……

わかるか、そんなもん!

せめて腋毛ゴブリン、とかにして欲しいものだ。

命名者のネーミングセンスを疑ってしまう。

まぁ、そんな事は全然どうでもいいのだけど。

さて、さっさと倒そう。

僕は、身体強化無しの全速ダッシュで近づき、右手の血抜き君で右手前のゴブリンもどきを斬り裂き、左手のペスで左手手前のゴブリンもどきの頭をぶん殴り、それぞれ一撃で倒す。

そして、1番奥のゴブリンもどきは、そのままの勢いで顎を蹴り上げ、踵落としで蹴り下げる。

まぁ、ミニゴブリンよりは強いか……

不意打ちにもかかわらず、奴ら身構えたしなぁ。

いま、まぁダンジョンの外なら、普通のゴブリンは敵を見て身構えるのが当たり前なんだけどね。

攻撃されるまで全く身構えない、ミニゴブリンが異常に弱い、と言った方が正解だろうか。

とにかく、ゴブリンもどきは弱いゴブリン。

そんな感じかな……

とりあえず、僕はゴブリンもどきの魔力を吸い尽くして次に進む。


そこには……

またもや三叉路か。

真ん中は階段で、左右に分かれている。

うーん……

今日はここまでにしておくか。

そう言って、僕はその場を後にし、サナ達が寝ている場所へと戻り、しっかりと食事を摂って眠りについたのだった。






翌朝、いや朝かどうかとかわからんけど。

僕が丁度起きた頃、魔法が解けた皆も起きだした。


「シアン君、おっハローワーク」

サナは相変わらず元気だ。


そして……

「身体が軽い?

昨日までの気怠さが、痛みがなくなってる!」


「俺も」

「僕もだ!」

「これが、ジャンさんの勇気の力?」

「ヤバイ、マジで勇者なんじゃ……」

「本当に……」

「夢じゃなかったのか……

あと1日、フルオロも頑張れたら助かったかもなのに……」


皆身体の異変に気付き、騒めいている。

そして、ジャンが起きる。


「ん?

朝から騒がしいな……

みんな起きた?

元気になったのか……

んん?

顔色も良くなったね。

これなら第1階層なら行けそうな感じかな。


いや、僕は何もしてないよ。

まぁでも、僕の提案でみんなの勇気を刺激したなら。

それはとても良い事だね。

そうだ、実はウサギの肉があるんだった。

みんなの快気祝いに、これを食べよう!」


「このダンジョンで肉は貴重な食べ物なのに……

ジャンさんは、本当に勇者だ!」


まぁ、僕が取ったウサギなんだけどね。

ジャンは、火打ち石と、藁を取り出し、ウサギの肉を軽く焼く。

と言っても、藁がそんなにないから、表面しか焼けないのだけど……

クロロさん達が服の端切れを足して、火を燃やす。

少なくとも、表面は焼けたし、大丈夫だとは思うけど……

食べるのか、それ?


そう思って僕が見ていると、ジャンはナイフでウサギを切り分け、皆に与えていく。

皆、久しぶりの肉にむしゃぶりつき、美味しそうに食べている。

サナとジャンは1番美味しい腿の部分を分け合って食べている。

そして、僕の番……


「ごめん、シアン君は、非戦闘員だから肉は無しね。

みんなはこれから戦うわけだし、栄養を付けないといけないからさ。

それで良いだろ?」

実際、僕の分は分けていなかったらしい。

僕が取ったウサギで、実は裏で戦闘をサポートしているのに……

いやまあ、実際にいらないんだけど……

少なくとも、生焼けのウサギなんて、食べたくはない。

だけど、なんだかなぁ……

まぁ、要らないからいいけど、仲間外れみたいな嫌な感じ……


「うん、僕なら大丈夫。

みんな一生懸命戦っているんだし、ワガママは言わないよ。

だから、気にしないで」


そう僕が断ると、サナが


「シアン君はいい子だー。

私の食べさしで良ければ食うかい?」


と、腿の骨を差し出す。

いや、要らんしマジで。

その場は断り、僕は水を飲む。

まぁ、後でイノシシの肉でもこっそり食べようかな。


そして、食事が終わると、皆狩に出かける準備を始める。

「今日は、第2階層に挑んでみよう。

サナはもちろんとして、クロロも引き続き僕について来てくれ。

シアン君も僕達の班で。

僕達の側にいるのが一番安全だからね。

ヨード、ブロモ、アスタチンは第1階層を右側道から、サルファ、ニトロ、ボロンは左側道から進んで、ミニゴブリンを狩ってくれないか?

ただ、第1階層組は戦闘が久しぶりだから、無理はしないように。

みな、無事でここに戻ってきてくれ。

それじゃ、行くよ!」


ジャンの班編成に従い、皆が分かれて階段までの道を進んでいく。

ちなみに、ベルゼさんは夜中に帰ってきて、扉の付近で寝ているようだ。

倒したミニゴブリンは3匹。

頑張っているなぁ……

そして、第1階層には、ミニゴブリンが7匹いる。

多分、このダンジョンでは、一定時間後に魔物が再出現する。

昨日より、1匹少ないのは、ベルゼさんが倒した時間が遅かったためだろう。

まぁ、第1階層組で5匹倒せれば、御の字なんだけどね。

それに、第5階層があの程度なら、ジャン達でも第2階層なんて余裕のよっちゃんだろう。

僕は、そんな風に気楽に考えていたのだが……


第2階層に着き、すぐに階段と左右の道の三叉路がある。

昨日の夜は、左右の道をすっ飛ばして第5階層へ行ったけど、今日は右の道から進む事に。

右の道に行くと、かなり先にニセゴブリンが1匹見える。

ニセゴブリンは……

ピンク色だった。

背丈はミニゴブリンと同じか、ちょっと大きいくらい。

それ以外は、ほとんど同じだ。


「まずは私から殺るよん。

行くよ、シャイニングスターライトスーパーマグナム……」


「ちょっ、サナ姉は力を込め過ぎだよ!

もうちょっと、魔力抑えめで充分倒せるから」


「えーっ?

全力全開が私のモットーなんだけどなぁ。

まぁいいや、んじゃ行くよ!

Winーnyショット!」

そう言って、さっきより抑えめだが、明らかに過剰な魔力でサナが弓を放つ。

そして、それはニセゴブリンの頭に当たり、ニセゴブリンの頭蓋を華の様に散らせる。

まぁ、今回は魔力の使い過ぎで倒れる事は無かったからいいが、今日はもう2発目は撃てないだろう。


「見たか!

これが必殺のゴブリン散華なり。

むははは〜

頭痛い」


「やっぱ魔法は凄いな……

でも、僕もサナには負けないよ。

次は僕の番だ、クロロ、サポートはよろしくな」


「ハイ、次はジャンさんのタイミングに合わせるように頑張ります!」


「それじゃ、行くぞ!」


サナに一番手を取られ、少し悔しいのか、ジャンはかなり気合いが入っていた。

そして、暫く進むと、またニセゴブリンが居た。

クロロさんは、ジャンとの間合いを慎重に図りつつ、ニセゴブリンに斬りつけ、同時に脚を引っ掛けて転ばす。

その隙に、ジャンが近づき……

「醜悪な魔物め!

バトラーズ流剣術を喰らえ!

行くぞ、上段斬り!」

そう叫んで斬りつける。


しかし、ニセゴブリンは声に気付き、振り向いて腕でガードする。

ガキッという音がして、ジャンの剣はニセゴブリンの腕を斬り裂く途中で止まってしまう。


「そ、そんな……

バトラーズ流剣術が効かないなんて……

ありえない!

たかが1階層分下がっただけで、こんなに敵が強くなるなんて……」

そう言って、ジャンはフリーズしてしまうのだった。


自分の剣が通じない事に呆然とするジャン。

自らを勇者として信じる余り、自信を失い、周りが見えなくなってしまう。

そして……


次回 第95話 勇者の戦い

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