第91話 ジャンの提案
「僕達はヘニョーラの町で冒険者学校を卒業して、貴方達と同じくヨグソトースに勧誘されて、フォーマルハウトのダンジョンで修行する為にここへ幌馬車で来ました。
一緒に来たのは、僕と弟のフルオロ、あとあそこにいるブロモとヨード、アスタチン、それに……
ゴブリンとの戦いで怪我をして、亡くなったテネシン。
僕達はハロゲンユニバースと言うパーティを組んでいました。
後は、僕達の後から来た、サルファ、ニトロ、ボロンの計8人、いやフルオロを除いて7人が今のここに居る全員です。
もちろん、僕達の前にも何人かはいましたが……
皆、死んでしまいました。
ちなみに、ここは地下第1層で、この場所にはゴブリン供は来ません。
ここなら安全に寝れるし、湧き水もあるので皆が集まっています。
所謂、安全地帯ってやつです。
まぁ、ここ以外は知らないんですけどね……
ちなみに、入り口の扉は見ましたか?
あそこは攻略組以外は、出入りできません。
例え出たとしても……
ヨグソトースの手下に殺されます。
実際に逃げようとして、何人か殺されるところを見ていますし……
ただ、魔物を狩って魔石を入り口にまで持って行けば、僅かですが食料と交換してくれます。
入り口の扉には小窓があって、そこで魔石1個とレーション2個を交換してくれるんです。
これが、食料を手に入れる唯一の手段です。
それでも、僕等も最初は上手くいっていたんです。
第二層までは、5人でかかれば余裕だったし、同時に3匹まではニセゴブリンを倒せたんです。
でも、途中から攻略組が来て、第3層までの魔物を根こそぎ狩ってしまって……
1日経てば、また魔物は湧いてくるんですが、毎日狩られればどうしようもありません。
それで、ついには食料がなくなってしまったんです。
実は。途中で食べ物を争って……
仲間同士で殺し合いになりそうな時もありました……
それで、僕達の前からいた人達は無理をして第4層に挑み……
結局、帰らぬ人となりました。
僕達も、焦って第4層に挑もうとしたんですが、第3層のイヌゴブリンに出会って……
僕を庇ったテネシンが、怪我を負ってしまいました。
でも、怪我って言っても薬草ですぐ治るレベルの怪我ですよ?
それでも、この場所では治療できなくて。
3日後には手遅れな程に化膿して、テネシンは死んでしまいました。
つまり、一撃でも喰らえば死ぬかもしれないって事なんです……
それからは、僕達は安全を確保しながらしか、戦えなくなりました。
いえ、戦いに怯えていたと言うのが正解でしょう。
当然、ゴブリン達を狩る数も少なくなり、攻略組の討ち漏らしを狙ってしか戦う事ができなくて……
あっという間に、このザマです。
ただ死ぬのと戦うのに怯えて、惨めに生きるしかなかった。
僕達の後から来たサルファ達も、最初は僕達を励ましてくれましたが……
仲間を第3層で1人失って以来、僕達と同じになってしまいました。
そして、食料難で食べれずにいると、次第に筋力は衰え、今では第2層ですら、ニセゴブリン1匹ですら苦労する有様です。
そして、弟も……
数日前にミニゴブリンを1匹狩ってきたんですが、その後の様子がおかしくて……
結局は……」
クロロは沈痛な面持ちで、これまでの事を語ってくれた。
……のはいいのだけど、僕はどうしても気になる事があったので聞いてみる。
「えっと、このダンジョンってゴブリンの亜種しかいないのですか?」
「……うん、そうだよ。
第1層には、ミニゴブリンが。
第2層には、ニセゴブリンが。
第3層には、イヌゴブリンが。
あっ、イヌゴブリンって言っても、犬顔のゴブリンじゃなくて、似ているけど違うモノって意味のイヌだからね
第4層には、デミゴブリンが。
第5層以降は噂だから正確かどうかはわからないけど、第5層にはゴブリンもどきが。
第6層には、角ゴブリンもどきが。
第7層には、角なし角ゴブリンもどきが。
第8層には、角あり角なし角ゴブリンもどきが。
第9層には、フェイクゴブリンが。
第10層のボスとして、真ゴブリンスピリッツが出るらしい。
でも、さっきも言った様に、ミニゴブリンですら危険な存在だよ?
だから、侮ってはいけないんだ……」
真ゴブリンスピリッツって……
ただのゴブリンじゃないのか?
ボスゴブリンやゴブリンリーダー、ユニーククラスはいないらしい。
まぁ、初心者向けと言うのも頷けるな……
「もう!
シアン君、悪いけど今は重大な話をしているんだ。
興味本位で、あまり口を挟まないでくれないか?
クロロさん、そんな事より、攻略組について教えてくれないか?」
「えっと、攻略組は……
ヨグソトースの息子のヨグソトースJrがリーダーで、ポテチ、ポテロン、ポテコーのポテ三兄弟のパーティで、時々やってきては、上層のゴブリンを狩っていくんだ。
奴らは、自由に扉を出入りできるから、半分遊び感覚しかなく、僕達の事なんて御構い無しにね。
ちなみに、攻略組は、第5層までは行っているらしいけど……
残念ながら、悔しいけど攻略組は僕達よりも強い。
戦ってもきっと勝てないと思う。
だから、ジャンさん達も深層へ行けるくらいにならないと……
攻略組は、生半可な気持ちで手を出さない方がいいと思うよ」
「そうか……
ならば、いつかは僕達も攻略組と鉢合わせるかもしれないね。
そうなったら、敵として相対さなければならないかもしれない。
それはともかくとして、今の状況をなんとかしないと……
まずは君らの体力回復が先か……
どうだろう、暫くは僕達がゴブリンを狩る。
そして、全員で食料を均等に分け合うと言う事でどうだろうか?
僕は今、6個のレーションを持っている。
それと朝にシアン君が狩ったウサギもある。
サナはどうかな?」
「私は5個持っているよん」
「なら、シアン君は?」
レーションは食べてないから、9個残っている。
3日間の3食分だ。
まぁ、パンだけなら1年分は充分にあるけどね。
とはいえ、全く食べてないと言うのも不自然だし……
「僕は4個あるよ?」
と、嘘を答える。
「ならば、合計15個だね。
これを一旦全部僕が預かって、全員に一個ずつ配分するよ。
良いかい?」
ジャンの提案は……
とても正気なモノとは思えなかった。
貴重な食料を分配するとは……
まぁ、僕はレーションなんて食べないから、全然要らないからいいけどさ……
サナは迷わずに、全部のレーションをジャンに渡す。
仕方ないので、僕もレーションを4個渡す。
しかし……
ベルゼさんは違った様だった。
「悪いが……
俺は抜けさせて貰うぜ?
ジャン、お前の考えには、俺はとてもついていけない。
と言うか、本当に正気か?
自分達の分ですら精一杯なのに、他人の面倒まで見切れるかよ。
じゃあな、俺は先に行かせて貰うぜ」
そう言って、一瞬だけ僕を見たが、ベルゼさんは先に行ってしまった。
まぁ、本来なら僕も同じ考えで、ジャンの提案はとても飲めないのだが……
今の僕に発言権はないらしいし……
正直、今のままでいいのかは疑問だけど、反論すれば即座にパーティを追い出されるだろう。
それでは、サナとジャンを守ることは出来ない。
それだけは避けないと……
そうこうしているうちに、ジャンは皆を集める。
「僕は皆を助けたい。
当面は僕達で魔石を集めるから、皆は僕の配給する食料で体力を回復させて欲しい。
代わりに、体力が戻ったら、魔物退治にも参加してくれ。
ちなみに、得られた食料は必ず均等に配分するから。
僕を信用して欲しい。
異論がない者はこちらに来てくれ」
ジャンの呼びかけに、皆は重そうな身体を起こし、ジャンの下に集まる。
それに対し、ジャンは1人1人にレーションを手渡しする。
皆口々に「ありがとうございます」と言う姿に、ジャンはとても満足そうだった。
皆と食事を食べ、一息つくと、ジャンは言う。
「さて、それじゃ早速、僕達は狩に行こう!
ダンジョンスレイヤーズの初冒険の始まりだ。
ただ、流石にいきなりは不安だしな。
そうだ、ちなみに誰か1人道案内してくれないか?」
ジャンがそう言うと、クロロが手を挙げる。
「あ、僕が案内します。
第3層まではマップもあるし。
戦闘は厳しいですが、道案内とサポートくらいならできます」
そう言って名乗りでる。
かなり身体は重そうなのに……
多分、あの眼差しはジャンの事を尊敬しているのだろう。
つまり、ジャンの賛同者が増えた、という事だ。
色々な意味で、足手まといが増えた事にもなる……
気が重いなぁ……
そんな僕の気持ちは御構い無しに、ジャンは楽しそうに言った。
「さあ、新たな冒険の始まりだ。
僕達の勇者としての道は、ここから始まるんだ。
サナ、シアン君、クロロさん、行こう!」
そして、ジャンを先頭に、次いでサナが進む、そしてクロロさんに肩を貸しながら最後に僕と続いて進む。
暫く一本道を歩いて行くと、階段と左右に分岐が見えてきた。
「クロロさん、どちらに行けばいいかな?」
ジャンがクロロさんに尋ねる。
「真ん中の階段は、第2層以降につながる階段です。
実は第5層まではこの階段で降りる事ができます。
左右の道はどちらでも問題ありませんが、ここからが第1層の魔物出現エリアになります。
魔物の出るポイントはランダムで、運が悪いと道に入ったら突然出てくる事もありますから、気をつけてください」
「そういえば、シアン君は魔物の感知ができるんだよね?
どちらの道に魔物を感じるかな?」
……こういう時は、僕を頼るのか。
まぁ、利用できるものを、利用するのは正しい。
だから別にいいんだけど……
なんだかなぁ……
まぁいいや。
ちなみに、ベルゼさんは左に行ったらしい。
そして、今この階層には8匹のミニゴブリン?がいるっぽい。
ベルゼさんとバッティングしてもいけないし……
どちらに進んでも、さほど変わらないからなぁ。
「右がいいと思うよ」
と、僕が答える。
そして、僕達は右の道を進む。
少し進む度に、ジャンは「魔物はまだかな?」と、聞いてくるが、明らかに目の前にはいないし、影にも隠れていないんだけど……
そのままゆっくり進み、右に一回曲がる。
角では慎重に敵を確認し、ゴブリンがいないのに残念がるというか、ほっとしていた。
その先も、岩場を確認しながら慎重に直進し……
この先の左に曲がったところにミニゴブリンがいる。
というか……
ミニゴブリンは幼体レベルの弱さしかない。
とにかく弱い。
まぁ、魔石と魔力の感じからの推測に過ぎないが、多分だけど素手で殴れば死ぬくらい弱い。
村人でも余裕で倒せるレベルじゃ……
まぁ、これならジャンでも余裕なはず。
ベルゼさんも、さっき1匹倒したみたいだし。
「次の角にミニゴブリンがいるよ。
ジャン、構えて!」
僕がそう言った瞬間、曲り角からはひ弱で小さなゴブリンが現れたのだった。
少年はただ戦いを見守るしかできない。
彼らを育てるために……
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