第90話 ダンジョンの始まり
目覚めると、そこは薄暗い……
なんか、壁がほんのり発光していて、微小な魔力を感じる。
ここは、幌馬車のはずでは?
いや、違うな。
多分だが、ダンジョンの中だ。
目の前には、扉と、そして奥へ続く道がある。
扉の先には大人2人位の気配が……
まぁ、これくらいの扉なら破壊できなくもないが、ジャン達もいるし、やめておこう。
それより、サナは……
僕の近くにサナとジャンとベルゼさんが寝かされている。
呼吸はしているし、寝ているだけだろう。
ただ、揺すっても起きないし、3人とも眠りが深い。
まるで魔法で眠らされたかの様に……
いや、魔力を感じないから魔法ではない。
多分だが、睡眠薬?
すると、あのレベルアップ薬が怪しいか。
恐らく、僕だけ早く回復して、起きたのだろう。
魔力が充分あったしね。
それに、命の危険があれば血抜き君達が動くだろうから、ただ単に眠らされただけなのだろう。
さて、状況は何となく理解したが……
ここはフォーマルハウトのダンジョンで合っているのだろうか?
僕らを眠らせたオジさんは、ダンジョンに僕らを運び込んだ。
多分、僕が寝ていたのは半日程度、元々寝る予定分くらいだと思う。
あの位置から、幌馬車で進めるのはフォーマルハウトの街くらいのはず。
確か、この周辺でフォーマルハウト以外のダンジョンは、見つかっていないはずだし。
ここがただの洞窟、なら別だけど、この広さと佇まい、雰囲気はダンジョンじゃないかと思う。
しかし、ジャン達は未だに起きる気配がない。
ちょっと先を見に行くか?
少し行った先に人の魔力を感じるし、誰かいるのだろう。
ただ、壁から薄っすらと感じる魔力のせいで、いつもより索敵範囲は弱い。
恐らく奥には魔石の感覚も感じるのだけど、強さまではわからない。
ここは多分安全だと思うけど……
やはり、寝たままのサナを置いていくわけにはいかない。
仕方ないので、地面に落書きでもして暇を潰す……
書いてもすぐに、絵が消える。
どうやら勝手に修復されるらしい。
落書きもできないのかよ!
逆にルートとかの目印すらつけられないのか……
パン屑を撒いておくのはどうだ?
……
ダメだ、暫く時間が経つと、地面に吸収されてしまう。
恐らくそういう魔法がかかっているのだろう。
多分だが、死ぬとダンジョンに吸収されてしまうのじゃないかな……
逆に魔力を吸収することも出来ないのか?
僕は試しに壁から魔力を吸ってみる。
おっ、おお!
ん、んんっ?!
吸えなくはないし、魔力は多分沢山あるんだが、効率が非常に悪い。
分散していて吸いにくいというか、質が悪いというか……
まぁ暇つぶしににはいいかもだけど、その程度かな。
緊急時には使えないレベルだ。
うーん、このままジャン達が起きないのも退屈だし、なんか不安でもある。
かといって、1人づつ魔法で解毒して起こすって訳にもいかない。
ならば……
範囲系はあまり得意ではないのだが……
というか、身体から離れての放出系魔法が苦手と言った方が良いか。
それでも、やるしかない。
「エリアキュア」
そう唱え、3人同時に解毒魔法で眠り薬を解毒していく。
くっ……
かなりキツイが……
なんとか、魔法をかけ終わる。
「えっ?
えっ?
こ、こ、ここはどこ?
なんで?
どうして眠ってしまったんだ?
というか、ここは?」
と、焦るジャン。
「ウゲー、よく寝たぜ!
もう身体バッキバキだなこりゃ。
腰も痛いしノゥ。
ジャン爺さんや起こしてくれんかノゥ?」
と、意味不明のサナ。
「ここは……
そうか、俺たちは奴の薬で眠らされて……
という事は、ダンジョンか」
と、冷静なベルゼさん。
やはり、この3人で1番冒険者に向いているのは、ベルゼさんだよな……
まぁ普通に考えて。
次点はサナ、いやむしろこんな時に冗談が言える胆力は凄いかも?
ジャンは失格、未だに混乱しているし……
でもそれが、僕たちズンドコベロンチョ、じゃなくてダンジョンスレイヤーズのリーダーだ。
うーん、不安しかないが、なんとかするしかない。
その後、ベルゼさんは扉を調べたり、ダンジョンの壁を調べていた。
サナは退屈そうに、腹をかいて欠伸をしていた。
ジャンは……
本当にダンジョンに来たとわかったみたいで、逆に興奮していた。
「凄いよ!
これがダンジョンなんだね。
壁がほんのり発光しているし、寒くも暑くもない。
それに、この扉から自由に出入りできるんだろ?」
ジャンは楽しそうに聞いてきた。
「ダメだ。
扉は開かない……
多分、内側からは開けれない様になっていると思う。
クソッ、あのオヤジに嵌められたのか。
何がレベルアップ薬だ、ただの睡眠薬じゃねーか」
ベルゼさんが愚痴る。
「嘘……
どうするんだよ?
食料だってあんまりないし……
買い物にも行けないし……
あっ!
お金だけ全部抜き取られてる。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう……
いかんいかん。
リーダーの僕がしっかりしないと!
サナやシアン君が不安になってしまうし。
しかし、どうすれば……
いや、何か手段はあるはず。
みんなでこのピンチを乗り越えないと……
ベルゼさん、一時的でも良いから、貴方も僕達に協力してもらえませんか?」
「……
とりあえずは、状況がわからないしな。
一時的なら、別に構わない。
まぁ、後ろについて行くだけだがな。
それで良いな?」
「うん、シアン君のガードと、殿を務めてくれるかな?
僕が先頭、サナ、シアン君、ベルゼさんの順で進もう。
サナもそれで良いね?」
「あー、私は構わないよん。
オーケーオーケー、オーケー便。
頼れる運送オーケー便だよ〜
私の弓がビュンビュン唸るぜ?」
ジャンの提案に、皆が納得したようだ。
って、僕への確認は無しか……
と、思ったらベルゼさんが聞いてきた。
「えっと、シアンさん……
じゃなくてシアン君、確か魔物の感知ができるんだよな?
今のところ何か感じますか?
じゃなくて感じるのか?」
「んー、ダンジョンの中は感知能力が落ちるみたいだから、あまり正確にはわからないのだけど、暫くは魔物は居ないよ。
逆に少し先に人の気配はあるけど」
「シアン君は人の気配までわかるんだ!
凄い能力だなぁ……
ちなみに何人いるかはわかるかい?」
「8人くらい……
かな?
多分みんな若いと思う。
僕達と同じくらいかも?
でもなんか……
弱っている感じ?」
「そんな……
それじゃすぐに助けに行かないと!
みんな、行こう」
そう言ってジャンが進もうとするのを、ベルゼさんがジャンの肩を掴んで止める。
「待て、向こうの方が人数が多いんだぞ!
それに、罠の可能性もある。
慎重に進むべきだ」
「でも……
伝説の勇者、アソパソマソだって、道中に困った人を助けながら、最後は狂大な魔人、黴菌瞞を倒しただろ?
僕達もそうするべきだ!」
「アソパソマソって、飢えた虎の子に自分の頬を切り取って喰わせたって、伝説の狂人じゃねーか。
それに、大鉈で大量殺人した婆他孤散とか、淫魔と称された蝕犯満、そして天転鈍呑添貪曇事件の黒幕であるTENDON!Manを束ねるならず者集団のリーダーって話じゃないのか?」
ベルゼさんの反論に、ジャンは少し黙る。
ちなみに、黴菌瞞は淋病という不治の病に侵されており、誰にも合わずにひっそりと暮らしていたのに、土禁荘という女が蝕犯満に色狂いした結果、黴過敏ルンルンを黴菌瞞に嗾しかけ、淋病を村にばら撒く事になり、魔人と呼ばれる事になったという説もあるらしいのだが……
真相は闇の中、勝ったアソパソマソが英雄と言われる伝記が、公には伝えられている。
「……今はアソパソマソの事はどうでも良いだろ?
とにかく、困っている人を助けるのが勇者って事が重要なんじゃないか!
それに、どの道進むしかないだろ?」
「わかった、なら勝手にしな。
だが、俺は殿で慎重に進ませて貰うからな。
言っておくが、ここはダンジョンなんだからな?
油断は即、死へと繋がる事は理解しておけよ」
「大丈夫。
僕だって、ダンジョンスレイヤーズのリーダーだし。
常に危険には備えているさ。
でも、きっとこの先には僕達を待っている人達がいるはず。
そんな気がするんだよ。
だから、行こう!」
そう言って、ジャンは先へと進み出す。
サナは、当然のようについて行き、僕もその後ろからついていく。
「ベルゼさん、多分大丈夫だから。
敵になる程強くないから、気にしないでいいと思うよ?
それに、魔物はまだ先だし」
僕がそうコッソリ教えると、ベルゼさんは少し間を空けてついてくる。
そして……
少し広めの空間に出た。
そこには……
8人の冒険者らしき若者、全員男性で、僕よりは年上だけど、ジャンよりは下か、同じくらい?
皆、絶望したかの様な死んだ目をして、僕達を見ている。
ただ2人を除いて。
「なぁ!
あんた達、朝からフルオロの意識がないんだ。
助けてくれないか?
頼む!
食べ物をフルオロに……
お願いします!」
兄弟らしき2人の、兄らしき若者が僕達に懇願してくる。
「大丈夫か?
わかった、レーションでいいなら、食べさせてみてくれ」
そう言って、ジャンは袋から食べ物を取り出そうとする。
「ダメだ!
貴重な食料を知らない奴に渡していいのか?
それに、そいつはもう……
助からない。
俺たちは医師や回復魔法使いじゃないんだぞ?
わかっているのか?」
また、ベルゼさんがジャンを止める。
そして、ベルゼさんの意見は正しい。
実際に、フルオロさんは助からない。
まぁ、僕が本気を出せば別だが、いつ死んでもおかしくないくらい衰弱しているフルオロさんに、レーションを食べさせても、回復はしない。
というか、多分だが、ここに居る人は皆、魔物を食べたのだろう。
身体の中に、悪い魔素が溜まっている。
そして、フルオロさんの中には、かなりの魔素が溜まっており、それがフルオロさん自身の命を削っているのだろう。
だから、例え魔素を抜き取っても、既にボロボロの身体は……
保たない。
「それでも!
やってみなければわからないじゃないか。
僕は、助けを求める人を見捨てる事は出来ない。
さあ、コレを食べさせてみて」
そう言って、ジャンはレーションを渡す。
「すまない。
ありがとう、本当にありがとうございます」
兄らしき若者は、衰弱したフルオロさんに、レーションを食べさせようとする。
しかし……
レーションのカケラを、フルオロさんの口に含ませたその時、フルオロさんは息を引き取った。
不思議な光景……
フルオロさんの魂が抜け、代わりにダンジョンの床から魔力がフルオロさんの身体に染み込んでいく。
そして、フルオロさんの身体自体が魔素に変換されていき、一瞬で霧散する。
「フ、フルオロ?
フルオロー!
なんで、なんでだよ!
消えるな、消えないでくれ。
フルオロー……」
兄らしき若者の悲痛な叫びがダンジョンに木霊する。
まぁ、この世界ではよくある風景の1つでしかないが……
ちなみに、兄らしき若者はフルオロさんが死んだ瞬間にレーションを投げ飛ばしてしまい、他の人が拾って食べてしまった。
つまり、ジャンは一食を無駄に失った事になる。
それでも……
「僕の名はクロロ。
弟、フルオロの為に貴重な食料を出してくれて、ありがとう。
フルオロは助からなかったけど、感謝しています。
本当にありがとうございます」
というクロロさんの言葉に、ジャンは満足そうな顔をしていた。
そして、クロロが落ち着いたのを見計らって、ジャンが自己紹介を始める。
「僕の名前はジャンクロード、ジャンでいいよ。
こっちの女の子は、サナトリウム。
僕の幼馴染だ」
「サナ様と呼ぶがいい。
フハハハハ。
なんちゃって?」
「そして、この子はシアン君。
この3人がダンジョンスレイヤーズのパーティだよ。
それと、彼はベルゼさん。
彼も悪気はないから、許してあげて欲しい」
「あ、いえ……
このダンジョンで食料は貴重ですから……
ベルゼさんの言った事は当然で……
だから、気にしていません!
それよりも、本当に、本当にありがとうございます。
貴方達も、ヨグソトースに騙されてここに来たんですか?」
「いや、さっき来たばかりで、あまりよくわかっていないんだ。
良かったら、ここの事について教えてくれないか?」
「わかりました、知っている範囲なら説明させてもらいます。
まぁ僕も全部知っている訳ではありませんが……」
そして、クロロさんが語り出した内容は……
明かされるダンジョンのルール。
それは、初心者の冒険者には厳しすぎる内容だった。
そして、ジャンは決意し、提案する。
次回 第91話 ジャンの提案




