第9話 好転
どうやら、逃げたビスコがヤーフルさんを呼んできたらしい。
ヤーフルさんは、無我夢中でリッツを殴る僕を、蹴飛ばして止めたようだ。
「ゲフッ、何するんだよ!」
気が立っている僕は、思わずそう言ってしまう。
「それはこっちの科白だ!
ブルー何してやがる、リッツを殺す気か?」
……………冷静になって、リッツを見てみると、歯が折れ、顔中血塗れになって気絶している。
僕は、自分のしてしまった事に驚愕して青ざめる。
「で、でも悪いのはリッツ達だし……
僕だって、こんな事するつもりじゃ……」
「馬鹿野郎!
元々はお前が俺の言う事を聞かずに、勝手にリッツ達に模擬戦を頼んだんだろ?
リッツ達も、金を取っていた事は問題かもしれんが、元々は全部ブルー、お前が悪いんじゃないか!
それを逆恨みして、手加減しているリッツ達を卑怯な手で倒すとか、根性がひねくれてやがるな」
「いや、僕はお金じゃなくて、ジャルとアナのために……」
「なんだよ、今度はあの2人のせいか?
お前みたいなクソガキは、ちゃんと根性を叩き直してやらないとダメみたいだな。
もう、明日からは筋トレはやらなくていいぞ、俺が直接相手してやる。
ブルー、わかったな?
それと、ビスコ、カールを起こしてリッツを家に連れて帰れ。
リッツが治るまでは当分休んでも良いぞ」
そう言って、ヤーフルさんは僕の話を一切聞かず、帰ってしまう。
ビスコはカールを起こし、リッツを連れて帰る。
帰り際、カールはこっちを睨んでいたが、僕が気づくと怯えた目をして、ビスコと2人でリッツを背負い、逃げていった。
翌日から、座学の後の実戦訓練に僕も参加させて貰える事になり、ヤーフルさんが僕の相手をしてくれる事になった。
1対1
ヤーフルさんは木刀を構え、僕は木のナイフで対峙する。
流石、元冒険者なだけあって、ヤーフルさんの構えに隙はない。
それに、木刀の先端をワザと揺らしており、軌道を読み難くしている。
当たり前だが、リッツ達とは格が違う!
とにかく、僕は防御に専念する事にした。
「なんだクソガキ、かかって来ねーのか?
それじゃ、俺からいくぜ!」
そう言って、ヤーフルさんは一撃を放ってくる。
横薙ぎと見せかけての、上段からの袈裟斬り!
横薙ぎと袈裟斬りでは、避ける方向が全く違うので、一瞬迷うも木のナイフを頭上に上げて木刀の切っ先を辛うじて逸らす事に成功する。
そして、バックステップですぐに後退する。
「すばしっこいガキだな。
ゴブリンみたいなガキだぜ。
まぁいい、それならこれは耐えられるか?」
そう言って、ヤーフルさんは次々と攻撃を繰り出してくる。
一撃一撃はさっきより軽いが……
僕は防戦一方で、手も足も出ず、ただひたすらにヤーフルさんの攻撃を避ける。
暫くこれを続けていると、ヤーフルさんは
「今日はここまでだ」
と言って、帰っていった。
ちなみに、致命傷になるような攻撃は辛うじて避ける事が出来たけど……
腕や足は数発掠っている。
やっぱり大人の一撃は力が強いから、ちょっと痛む。
とりあえず、軽くマッサージして、ある程度痛みを引かせてから帰ろうとすると、ジャルに声をかけられた。
「あのさ、一体何があったんだ?
リッツ達は来てないし、いつもの模擬戦をやらずにいきなりブルーとヤーフルさんだけで戦い出すし……」
「うーん、話すと長くなるんだけど、最近ずっと、リッツ達に模擬戦の相手をしてもらってたんだ。
だけど、偶々遅れたらジャルとアナの模擬戦の時に仕組んでいるって話をしていたんだ。
なんかさ、それを聞いたらカーッとなって、リッツ達に本気の喧嘩を仕掛けちゃって……
それで、リッツ達をボコボコにしたって感じかな。
そしたら、ヤーフルさんが止めに来て、お前みたいなのは直接教えてわからせてやる、みたいな流れで、今日から指導してもらう事になったんだよ」
うん、大体合ってる……はず。
すると、ジャルはちょっと怒って、僕に聞いてくる。
「なんだよ!
それじゃ、僕達のためにやったって言うつもりか?
勝手な事するなよ。
僕達だって、リッツ達のインチキは知ってたさ。
だけど、強くなるために我慢してたんだよ!
それを邪魔するなよ!」
「うーん、悪いけど、あの模擬戦をいくらやってもジャルとアナは強くならないよ?」
「僕達だって一生懸命やってるし、ちょっとずつだけど、強くなっているはずだ!
なんでそんなこと言うんだよ!」
「いや、別に僕はジャルとアナが弱いって言ってるわけじゃないんだけどな……
そう言う意味じゃないけど、まぁでも、いいか。
じゃあ、今から僕と君ら2人の1対2で模擬戦をしよう」
「馬鹿にしてるのか?
いいだろう、アナ、練習の成果を見せてやろう!」
ジャルがアナに言うと、
「わかったわ、ジャル」
とアナが答える。
そして、ジャルは木の大楯を構え、アナを背後に庇い、アナは後ろで木刀を構える。
うーん、名付けるなら騎士風スタイル(仮)という感じだろうか?
ガード志望のジャルとアナらしい組み合わせだ。
ジャルが攻撃を受け、その隙にアナが後ろから攻撃する。
場所が狭い場所や、護る物がある時や、闇雲に突っ込んでくる単純な相手にはかなり有効だと思う。
だが……
「じゃあ行くよ!」
そう言って、僕は腰を屈め、ジャルの大楯の正面から突っ込み、飛び蹴りを喰らわして、盾ごとジャルを吹っ飛ばす!
アナを巻き込んでジャルが倒れる。
2人が起き上がったら、「次!」と言って、模擬戦を再開する。
次は……
ジャルが盾を持って踏ん張っているので、盾の直前で身をかわし、ジャルをすり抜けてアナを直接攻撃する。
僕はアナの木刀を手刀で落とし、背後がガラ空きのジャルを足払いで転ばす。
そんな感じで、10戦した結果……
僕の全勝だった。
と言うか、ジャルとアナは攻撃すらできなかった。
「これで少しは僕の話を聞いてくれるかな?
とにかく、今のままでは2人は強くなれないよ。
だから……
強くなりたいなら、僕について来てくれないかな?」
「ジャル……
正直、私も今のままではダメだと思うの。
ブルーに頼んでみない?」
「ああ、本当に完敗だったしな。
僕達の……
負けだ。
敗者は勝者に従わないとな。
頼むブルー。
僕達が強くなる方法を教えてくれ!」
こうして、ジャルとアナは強くなるために僕についてくる事になった。
歩く事1時間……
そうして、ついた場所は僕の家だった。
少年達の誤解は解け、友達となった。
そして、互いに切磋琢磨し、成長していく。
更にチームを組む事で、深い絆となっていくのだった。
次回 第10話 パーティー結成