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第88話 安全な旅

結局、急ごしらえで狩ったウサギ3匹を、ジャンに渡したところで急に眠くなり、僕は馬車の中で寝てしまった。

気づいたら既に夕方……

流石に昨日は大変だったしな。

キラーマンティスだけならともかく、ハリガネムシは反則だと思う。

まぁ、おかげで充分魔力は溜まったが。

ちなみに、サナがお昼に起こそうとはしてくれたらしいけど……

グッスリ過ぎて、目覚めなかったとか。

うーん、もしジャン達が悪い奴だったら、僕は殺されていたかもしれないと想像する。

いや、まぁジャン達は悪い奴じゃないけど。

ただ、相手を信用してしまうと、弱点をさらけ出してしまうのは、注意しないといけないかもしれない。


それはともかく、グッスリ寝たおかげで馬車酔いはしなかった。

なので、ジャン達と不味いレーションを食べ、また訓練を行う。

まずは昨日と同じく、ジャンの剣の練習から。

とりあえず、バトラーズ剣術の上段斬りを練習した後、次は袈裟斬りを教わった。

と言っても斜めに切るだけで、ほとんど上段斬りと一緒なんだけどね。

まぁ、斜めと言っても角度次第では色々なバリエーションが出てくるのだけど、バトラーズ剣術では相手の左肩を狙うのが基本らしいので、一応それに合わせる。

しかし、バトラーズ剣術って……

防御は教えないのだろうか?

本来、初心者が重要なのは攻撃よりも防御だ。

僕も最初は、父さんとの打ち合いで、防御する事を覚えたし、ジャルやアナは、まぁ状況的に防御しかできなかったんだけど、それでも基礎はできていた。

でも、バトラーズ剣術の話を聞く限り、攻撃方法しか教わらないらしい。


「ねぇ、ジャン兄、剣術の修行って、打ち合いの試合とかはやらないの?」


「ん?

もう試合がしたいのかい?

シアン君は気が早いなぁ。

試合はもっと訓練を積んでからの方が良いよ。

それに、バトラーズ剣術は、一撃一殺の技だからね。

あまり試合とかはやらないんだ」


そんなんじゃ、上級コースの試験に受かるわけがない。

僕は、口に出しかけて、言葉を飲み込む。

そんな事言えば、ジャンが傷つくかもしれないし……

しかし、バトラーズ剣術とやらは、あまり冒険者向きじゃない気がする。

一撃一殺とか、複数相手にどうするんだ?


「えっと、実戦訓練をしないって事?

大丈夫なの?」


「バトラーズ剣術は強力だからね。

かつて、創始者のバトラーは弟子のオッポとメルザの3人で、キラーマンティスを倒したんだよ。

普通は魔術師を含めた冒険者10人くらいで、倒すのが精一杯のところを、剣士だけで、しかも3人だけだよ!」


えーと、僕も昨日戦ったんだよね、キラーマンティス。

しかも、たった1人だったけどね〜

まぁ、正直に言っても信じてもらえないと思うけど。


「途中、オッポが倒れ、重傷を負ったものの、バトラーの一撃がキラーマンティスに致命傷を与えた。

残念ながら、瀕死のキラーマンティスは飛んで逃げたらしいんだけど、その後は見かけた者がいないから、多分死んだのだろうね。

そして、バトラーは、時の王から国士無双の称号をもらったんだ。

その後、弟子達を含めバトラーズを名乗り、この剣術を世に広めたのが始まりと言われているんだ。

さっきも言った様に、バトラーズ剣術の極意は一撃一殺だから、常に最強の一撃が求められる。

だから、試合形式は危険だし、あまり行われない。

実際、僕が上級コースを受けた時も、バトラーズ剣術は使わなかったし。

まぁでも、素振りの一振り毎に実戦を経験するのと同じ意味がある、そう言う剣術なんだ」


「へ、へー……

スゴイデスネー」

僕が乾いた返事をすると、後ろでベルゼさんがクスリと笑った。

ちなみに、サナは魔法の訓練に夢中で、こちらを見てもいない。

多分、バトラーズ剣術は長剣よりも大剣、そして鋼鉄の重装備を付けた重歩兵が使うには良い剣術だと思う。

少なくとも、ジャンの軽装備なら機動性の高い戦術、剣術の方が向いている気がする。

でも一方で、基礎体力や斬撃の訓練としては悪い訳でもない。


「そうだろ、凄いだろ!

やっぱりシアン君にはわかるんだな。

とにかく、バトラーズ剣術は常に鍛錬あるのみなんだ。

だから、素振りを続けるよ。


あ、そうそう、バトラーズ剣術にはいくつか武技があるんだ。

ちょっと見ていて」


そう言うと、ジャンは長剣を両手で持ち、右側から後ろに振りかぶる。

そして、「スラッシュ!」の掛け声と共に、一直線に横薙ぎを放つ。

多分、かなり訓練したのだろう。

淀みない動きと、綺麗な軌線……

剣舞なら100点満点の出来だ。


でも……

ジャンの力では、ゴブリンを斬りきれないかもしれない。

盾や武器を持っていたらなおさらだ。

しかも、掛け声なんて出したら、まず避けられてしまう。

ゴブリンやガルフは素早いからなぁ……

まぁ、鈍重な相手なら別だけどさ、当たらなきゃ倒せないのを知らないのだと思う。

とは言え……


「凄い綺麗な技だね、ジャン兄!」

と、僕は褒めておいた。

世の中は、知らない方がいい事もあるって事で……


「そうだろっ!

僕だってこの武技を会得するのに、1年かかったんだぜ。

だから、シアン君はまだ始めたばかりなんだし、年も下なんだから。

だから、基礎を頑張っていこうね。

良いかい?」


「はい、わかったよジャン兄」

そう言って、僕は無意味な素振りを再開する。


ちなみに、心の中では色々思っているが、別にジャンを馬鹿にしているわけではない。

ただ、僕のやり方とは合わない、と言うか考え方が違い過ぎるだけ。

まぁ、それくらい僕が色々と経験し過ぎただけで、純粋な気持ちで見れていないだけなんだと思う。

アナやジャルの事、ヤーフルさんやあの3人、村の人の事や、ゴブリンやガルフ、そして師父と師母に出会って、カンクの街では出会いもあったけど、人の闇を沢山見た。

その後も、非道な盗賊達や、凶悪な魔物達……

そんな経験をした僕が、純粋なままでいられる訳がないだろ?

多分、あの日ゴブリンに出会う前の僕なら……

きっと、ジャンの剣技に憧れ、バトラーズ剣術を学ぶ事を目指しただろう。


でも、今の僕には無理な話だ。

それだけ、僕が強くなったと言う意味でもあるのだけど、ジャン達と一緒のレベルでいられない事に、一抹の寂しさを感じる。

これが、疎外感って奴なんだろうか?

ジャルとアナが、冒険者を辞めた時の孤独を思い出してしまう。

いや、今回は一緒にいるのに孤独を感じる……

まだ1人の方が気楽だった。

でも、離れたくはない……

気がする。

どうしたらいいのかも、実際自分でもよくわからない。

それを相談できる相手もいない。

師父や師母が生きていれば……

いや、師父は同じ様な孤独を抱えていたっぽいし、師母みたいに強い相手を探せってなりそうだ。

更に、師母なら「殺せば?」って言いそうな気がする。

多分何の解決にもならないな。


そんな事を考えながら、ゆっくりと素振りをしていると、サナが声を掛けてきた。

「あのさ、あのさ!

シアン君見てみて。

一応、葉っぱくらいは回せる様になったよん。

スゲェだろコンチクショウ」


そう言って、サナは風魔法で掌で葉っぱをクルクル回すのを見せてくる。

確かに、綺麗に回っている。

案外、サナは魔法制御が得意なのかもしれない。

僕は細かいのは苦手なんだよな……

これなら、弓矢を放つのも充分できるだろう。


「これだけ出来たなら、弓矢を射る時に加速できそうだね。

やり方はわかりそう?」


「うーん、サッパリだぜ!

じぇーんじぇんわかりましぇーん。

なんちって。

本当にわからないんだよね。

シアン君なら教えられるかね?」


「うーん、多分なんとなくなら?

一回、ちょっと弓を構えて見てくれるかな」


「オッケー墨汁。

こんな感じかい?」

そう言って、サナは弓を構える。

相変わらず、弓が長いのに、矢が短いから弦の張りがちょっと弱い。

ちなみに、サナは左手で弓を持ち鏃を支え、右手で弦を引きながら矢羽根を掴んでいる。

なので、サナの左手に僕の右手を当て、左手は矢の軸を掴んで飛ばない様にしておく。

そして、サナの魔力を風魔法にして鏃に纏わせ、推進力が溜まったところで、「ハイッ!」、と言って手を離す。

サナもそのタイミングで弓を放ち、矢は結構な威力で真っ直ぐ飛んだ。

そして、かなり離れた木に真っ直ぐ刺さり、矢の半分くらいまで突き刺さった。


「うおーーー、スゲェ!

初めてちゃんと真っ直ぐ飛んだし!

威力もヤバイじゃない!

ス、ゴ、ス、ギ、ル?

私って、天才じゃね?

ねぇシアン君?」

サナは、上手くいったのに興奮し、はしゃいでいる。

そんな姿も可愛い……

って僕は何を考えているんだ?

いかんいかん、忘れよう。

ちなみに、さっきの威力なら、ゴブリンくらいなら一撃で殺せるかな。

バイコーンだと、頭を正確に貫けばギリギリいけるかも。

牽制ならもう少し弱めでも良いかもしれない。


「うんうん、凄い凄い。

でも、サナ姉の魔力だと、さっきくらいの強さの魔法は3発くらいが限度だからね。

あまり乱発しないように気をつけてね。

あと、右手の矢羽根に魔法を込めた方が飛距離は出るけど、狙いが難しくなるし、威力は落ちるからね。

状況に合わせて使い分けた方がいいよ」


「了解です、シアン師匠!

って言うか、魔力がないシアン君がこんだけ魔法に詳しいとか……

実は魔導師を目指していたとか?

なんかとても初級コースしか受けていないとは思えないんだけど……

実は大魔導師で身分を隠してるとかじゃないよね?」


ヤバイ、ちょっとやり過ぎたか?

少なくとも大魔導師ではないけど、魔力が生まれつき無いのも事実だし嘘は言っていないが……

確かに普通なら知らない知識だろうな、少なくとも冒険者見習いで知っていたら、かなり怪しい。

とは言え、あまり実力を知られたくはないし、経歴とかは話せない。

なんとかこの場は誤魔化さないと、鼻から練乳が出そうだ。


「えっと、あの……

近所のお姉ちゃんが、大魔導師だったから、色々聞いた……

みたいな?

少なくとも、僕1人では魔法なんて使えないから。

偶々だよ、タマタマ、多摩の玉之助とは、あっしの事でございます、みたいな?

うん、玉之助とか知らんけど。

だから、気にしないで」


「えー、玉之助カッコいいよ?

タマタマしくて、イカしてると思うぜ!

シアン君、本気で改名しない?」


よくわからんが……

サナは玉之助に食いついてきた。

って言うか、あんまり何度も改名する気はないし。


「それよりも、次からは自分でやってみてね。

さ、ガンバ!」


「へいへいほー。

まぁ、感覚はわかったからやってみるよん。

ありがとうね、玉之助さん」


「玉之助ちゃうし……」


こうして、暫く修行をした後、皆は眠りについた。

今日はオジさんが盗賊に会いに行く事もなかったし、魔物とも遭遇しなかった。

本当に安全な旅だった。

そして、明日にはフォーマルハウトの街に着くはず。

一体どんな所なんだろうか?

それに、オジさんは僕達をどうする気なのか……

少なくとも、殺されはしないだろうが、お金は全て取り上げられるかもしれない。

武器や防具まで要求されるとかなり困るんだが……

ただ、ダンジョン内で魔石を集めるなら武器、防具は取り上げない方がいいか。

それに、冒険者になりたての武器なんて大した事がないし。

オジさんの剣だって、ジャンやベルゼさんの剣よりも多分良いモノだと思うし。

わざわざ取り上げる必要は無いだろう。


まぁ、それに僕の血抜き君やペスを盗んだら……

本人が危ないだろうな。

それはそれで、呪いの武器を持ってるって、ジャン達に知られてしまうから嫌なんだけどね。

とにかく、その点だけは絶対に阻止しないといけない。

最悪、オジさんを戦闘不能にして、行方不明にでもするか?

でもなぁ……

あんまり変な事をすると、ジャン達を巻き込んでダンジョンに強行突入しないといけなくなるかもしれない。

それは避けたい。


まぁ……

考えても仕方ないか。

なるようにしかならないし。

それはともかく、昼にいっぱい寝たので、全然眠く無いしね。

今日も憂さ晴らしに散歩をしよう。

そう思い、全員を眠らせてから、夜の散歩に出かけるのだった。

ついに、少年達はフォーマルハウトの街に着いた。

しかし、そこはいきなり……


第89話 闇の入口

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