第84話 面影
声をかけてきたオジさんは、中肉中背で白髪、歳は50歳くらいだろうか?
見た目は素人っぽいが、手練れの元冒険者だろう。
年齢的な原因だと思うけど、力はさっきのハイアット教官よりもちょい弱いくらいかなぁ。
ただ、熟練度が高ければ、互角位は行くのかもしれない。
そんなオジさんが、僕をダンジョンに誘ってくる。
「私は怪しい者じゃないよ?
ただ、上級コースに入れなかった子供達にね、ダンジョンで成長して貰うために案内役をやっているんだよ。
ダンジョンに行けばね、比較的安全に魔物が倒せるから、上級コースなんかよりも実戦的で、すぐに強くなれるんだよ?」
自分で自分を怪しくないって、怪し過ぎるだろ?
この人は多分、門番さんが言っていた、初心者をダンジョンで食い物にしている人達の仲間だろう。
実際、笑顔で柔和に話しているが、目わ笑っていない。
しかし、元からダンジョンに行く予定だったし、連れて行ってくれるなら好都合ではある。
「ダンジョンって、フォーマルハウトの街のダンジョンですか?」
違うダンジョンだと困るし、一応聞いてみる。
「おっ、フォーマルハウトを知っているのかい?
それなら話が早い!
なんせ有名な勇者が何人も攻略したダンジョンだ。
バルタン、メトロン、レイブラッド……
みんな若い内にフォーマルハウトのダンジョンを攻略し、その後は勇者や英雄として名を馳せた。
だから、君もダンジョンに挑んで成功の道を掴んでみないかい?
もちろん、格安でフォーマルハウトの街まで運んで、ダンジョンまで案内してあげるからさ。
どうかな?」
バルタンもメトロンもレイブラッドも、聞いた事も無い勇者の名前だが、この地方では有名なのだろうか?
それはともかく、問題は年齢制限だ。
僕はオジさんに確認してみる。
「うーん、年齢制限とかはないんですか?
僕はまだ12歳だから、冒険者見習いの扱いですよ」
「大丈夫、大丈夫。
ウチは年齢制限とかないから。
なんなら10歳とかでも安全に冒険できるから。
安心して良いよ?
それに、君の他にも一緒に行く人がいるから。
その人達に頼んでパーティを組んだら良いんじゃないかな?」
パーティ……
ジャルとアナと組んだスカイハイ以来、僕はずっとソロだった。
まぁ、師父と師母の修行もあったけど、パーティという関係ではなかった。
そして、今の僕が他の人と狩なんて、本当にできるのだろうか?
ダメだろうな……
さっきのカロリーヌさん位のレベルでは、全く話にならない。
多分、群青の旅団でも足手まといだ。
きっと、ジャルとアナでさえ、あの時のレベルでは……
それに、なんと言っても、僕自身が他人と上手くやっていける自信もない。
だから、無理だろうな……
パーティの言葉に一瞬逡巡してしまったが、それは別としても行き先は決まっているので、僕はすぐに返答した。
「それなら……
行ってみたいと思います!
ちなみに費用はいくらですか?」
「普通なら2000ジルと言いたいところだけどね。
1000ジルにまけておくよ?
いや、12歳ならそんなに持ってないか……
えーい、サービスだ!
300ジルで良いぜ」
僕の質問に対し、オジさんは勝手に一人芝居をして、300ジルにまけてくれた。
実際、これが高いのか安いのかはわからない。
馬車代なら、まぁ、妥当な価格か?
もちろん、僕からしてみれば安い値段だから、全然全く問題ないのだけど。
とりあえず、即金で払うと、オジさんは少し驚いたが、すぐに馬車へと連れて行ってくれた。
馬車は立派……とは言えないけど、幌馬車だった。
雨風が凌げる馬車、初めて乗る乗り物に、少しワクワクしてきた。
これなら、300ジル払った甲斐があるってもんだな。
そして、馬車の中にいたのはいずれも16から18歳くらいの若者で、男性が2人、女性が1人だった。
多分、あの男女は仲間で、1人離れたところにいる男は別枠なんだろう。
フォーマルハウトの街までは何日かかるかわからないが、狭い幌馬車の中だし、できれば穏便に行きたい。
という事で、僕は警戒心を解くべく、陽気に気軽に声かけてみた。
「あ、あの、その、えーっと。
僕は、シアン、12歳、です?」
嘘だ、同年代への接し方なんて、今の僕にわかるはずもない。
例え格下の相手でも、盗賊相手みたいに武力で制して高慢な振る舞いをする、って訳にはいかない。
実際、かなり緊張して……
不審な喋り方になってしまった。
しかし、手前のカップルの男性の方は、僕の緊張をほぐすかの様に優しく自己紹介をしてくれた。
「僕の名前はジャンクロード、まぁ気軽にジャンって呼んでくれて良いよ。
冒険者養成学校の中級コースを卒業してる、ハンター志望の銅級冒険者だよ。
クラスは剣士、できれば魔法も覚えて魔法剣士になりたいんだけどね。
商家の次男で、17歳だよ。
残念ながら、上級コースに3回落ちてしまってね。
仕方ないから、ダンジョンで修行しようと思っているんだ」
なるほど、商家のボンボンな訳か。
仕立ての良い魔獣の皮でできた鎧、いや小手も脛当てもあるし、ほぼ全身装備か。
剣も多分、装飾の感じから鋼鉄製の一級品だろう。
全部で10000ジル以上、並みの剣士ならゴブリンの攻撃など意にも介さないだろう。
でも、残念ながら本人の力はかなり……
アレだ。
さっき上級コースを受けていた誰よりも、弱い。
いやまぁ、剣術とかはかじっているのかもしれないし、度胸はあるのかもしれないし……
多分、真剣はマトモに振れないだろうな。
そして、魔力が低いので、魔法は使えないだろう。
だけど……
だけど……
だけど……
名前が似ているせいか、ジャルの面影を探してしまう。
全然違うのに、顔も、雰囲気も、育ちも、覚悟ですら全く違うのに、優しかったジャルと重ねて見てしまう。
「それで、こっちの女の子が」
「サナでーす。
シアン君、よろピコ♪
本名はサナトリウムだけど、長いしサナでいいよん。
ジャンとは腐れ縁、みたいな?
同じく17歳で、ジャンについてきたって感じかな。
クラスは弓師、武器はこの長弓だよーん。
料理、洗濯、掃除とか、家事は一切ダメだから冒険者になりました、って感じで女だから舐めんなよこん畜生、ププッ」
サナはとても明るい女の子って感じだった。
普段の僕なら絶対に関わらないタイプ。
力はジャンよりは少し強い。
樫の木の長弓を持ち、武装は普通程度。
動物の皮の服に、皮のホットパンツ、サナの雰囲気にとても合ったデザインだ。
でも待てよ?
サナならひょっとしたら……
上級コースに受かるかもってレベルじゃないか?
少なくとも、ジャンよりは間違いなく強い。
それに、魔力も多少あるし、簡単な魔法なら使えるかもしれない。
ジャンについてきたってのは本当かもしれない。
そして、やはりアナとは全然違うのだが……
だけど……
だけど……
だけど……
だけど……
だけど……
どうしても、アナの面影を探してしまう。
ここまで能天気な感じではなかったが、明るく、優しく、時に妖艶な笑みを浮かべたアナを。
僕は、思わず泣いてしまった。
多分、うわーんと12歳らしい泣き方だったと思う。
もう、嬉しいやら、悲しいやら、恥ずかしいやらで正確には覚えていないが、とにかく暫くは泣いていた。
ジャンとサナは僕の背中をさすってくれ、僕が落ち着くまで待ってくれた。
「大丈夫かい?
やはり1人で不安だったのかな?
でも、大丈夫、僕とサナは歳上だし、ちゃんとシアン君を守ってあげるから。
心配しないでいいんだよ?」
「違うんです、友達が、村で魔獣に襲われて……
2人を見て、その友達を、思い出して……」
けして、1人が不安とか、魔物が怖いとかではないけど。
口に出しかけて、なんか変な言い訳になりそうで、やはり飲み込んだ。
「そっか、辛かったね。
でも大丈ビ!
私もジャンも強いからね?
魔獣なんて……
ヤベー魔獣、見た事ないさ。
この辺だとホーンラビットやギガラットくらいだっけ?
って言うか、街を出るのも初めてなんだけどさー。
にヒヒ」
「ごめんシアン君、サナも悪気は無いから。
でも、確かに僕達はこのエントラの街から、外に出た事は無いんだけどね。
でも、僕達は中級コースを卒業しているから、大丈夫だから安心してね。
ちなみに、シアン君も養成学校は卒業したの?」
「グスッ、は、ハイ!
村の学校は卒業しました。
見習いだけど、銅級です」
まぁ、戦績は別としてだけど……
とは言えなかったけど。
「そっか、初級クラスは卒業したって感じかな?
まぁでも、僕達の方が歳上だし、クラスも上だから、シアン君は僕達のサポートをしてくれないかな?
サポートって言っても、できる範囲で良いから。
ね?
それなら安全だろ?」
確かに、僕がメインだと、ジャンとサナは出番がなくなってしまう。
それに、僕がサポートしながら守れば、ジャンもサナも安全だ。
この2人には無事でいて欲しいし、悪い提案では無い。
「ハイ!
是非よろしくお願いします。
できる限り頑張ります」
「そいじゃ、リーダーはジャンとして……
パーティ名はズンドコベロンチョで良いかな?
ねぇ、ジャン」
「いや、ズンドコベロンチョとか意味がわからないし!
もっとカッコいい名前にしようよ?」
「えー、良いじゃんズンベロで、知らないズンドコ?
巷で噂のアレだよ?
ネェ、みんなでズンドコズンドコしながらベロンチョしようぜ!」
「知らないし、そんなの。
ほら、シアン君もドン引きしてるよ?
それより、魂屠羅でどうかな。
もしくは、魂屠羅スピリッツみたいな?」
「ジャン……
いや、それこそダサいでしょ?
うーん、シアン君はどう思う?
ズンドコベロンチョカッコいいでしょ」
いや、ズンドコだけは無いな。
だけど、魂屠羅も嫌だ!
このままだと議論は平行線だしな……
「だったら間をとって、ダンジョンスレイヤーズでどうかな?
洞窟殺しとか、カッコいい感じでは無いですか?
目的も一致しているし……」
それに、ダンジョンを攻略したら、僕はこの2人から離れ、別の場所に行くだろうしね。
ダンジョンを攻略するまでのパーティって意味も含んでいる。
「全然間はとってないが……
僕は異論ないよ、サナは?」
「長いからダンスレでいいなら、いいなりよ?
いや、言いなりになるって意味じゃないぽ。
シアン君、そんないやらしい目で見ちゃいやん。
わかりなさい?」
いやらしい目で見てないし、わかりなさいとかの意味はわからないが、ダンスレで良いみたいだ。
「よし、じゃあ僕らダンジョンスレイヤーズは、フォーマルハウトのダンジョンを攻略する!
皆で頑張ろう!」
ジャンの掛け声に、僕とサナが拍手する。
すると、奥で1人無関係そうに座っていた彼が、声を掛けてきた。
「悪いが、先にダンジョンを踏破するのは俺だぜ?
お前らみたいなママゴト集団に、負ける訳にはいかないしな。
それに、俺には後がないし……」
「後がない?
あ、貴方は上級コースにいた、ベルベさんの兄弟か親戚ですか?
何となく雰囲気が似てるし」
実際には、魔力の質が似ているのだけどね。
「ああ、ベルベは俺の弟だ。
俺の方が先に生まれ、俺の方が先に冒険者になったのに、奴が後ろから追い抜いていく。
そんなのは認められない!
だから、ダンジョンを攻略して、先に冒険者としての力を手に入れる。
お前らと組むつもりはないからな。
邪魔すれば殺す!
というか、ジャン、お前らだって全然余裕ないのに、よくそんなガキをパーティに入れたな?
あまりダンジョンを舐めるなよ、死にたいのか?」
確かに、ベルゼさんの言う事は正しい。
この2人は、僕が弱いと思った上で、僕をパーティに入れた。
まぁ、実際には逆なんだけど、本来ならそれは自殺行為だ。
父さんにも、パーティを組むときは実力差に気をつけろって、口を酸っぱくして言われたしなぁ……
何故なら、強い方にとっては当然足手まといになるし、弱い方も強い方に依存して成長できなくなる。
もう今回は、僕は裏でサポートの予定だから全然問題ないんだけど、ジャン達側の立場から見たら僕を守りながら戦うのはリスクでしかない。
そんな注意をしてくれるベルゼさんは、多分きっと優しい人なんだろう。
今はちょっと自分に余裕がないだけだろう。
でも、ジャンはそれを理解していない……
「ベルゼさん、確かに僕とサナは中級コースの卒業がギリギリだったけど、それでも皆より努力したんだ!
それに、守るものがあれば強くなれる、古の勇者達だってそうだっただろ?
あとシアン君だって、何か特殊能力に目覚めるかもしれない。
だから、邪魔はしないけど、負けないよ!」
「そうか、まぁ好きにしな。
ただな、努力だけではどうしようもない事もあるんだぜ?
それだけは、覚えておきな。
あと、俺には関わらないでくれ」
全くその通りだ。
ベルゼさんの言う事は正しい。
まぁ、1番正しくないのは僕だけど……
そんな話をしていると、元冒険者のオジさんが「それじゃ、出発するぞ」、と声をかけて来たので皆黙ってしまうのだった。
エントラの街を出発した少年達は、フォーマルハウトまで馬車で旅をする。
少しずつ、互いを知りながら……
第85話 フォーマルハウトを目指して




