第83話 入口の街
師父と師母が死んで、あれから半年が過ぎた。
僕は、特に目標も無かったし、生まれた村、アラバ村には帰れなかったから、と言う理由でダンジョンがあると言う、フォーマルハウトの街を目指していた。
道中は取り立てて何も無かったが、強いて言えば、あまり村や町には立ち寄らない様にしたので、山賊や盗賊にやたら遭遇したくらいか?
フォーマルハウトの街の場所も、倒した盗賊の頭から聞いたくらいだしね。
えっと、盗賊達は倒しはしたけど、もちろん殺してはいない。
むしろ、お金を渡してパンや食材を買ってきてもらった事さえあるくらいだ。
まぁ、時々盗賊の頭にならないかと誘われるのが鬱陶しかったくらい?
それに、魔物の群れにも時々遭遇した。
ゴブリンへもちろんのこと、ガルフやレッドリザード、2本角の馬バイコーンなんかを倒しながら、僕は進んだ。
むしろ魔物の生息地を選んで進んだ、と言うのが正解なんだけどね。
まぁ、ヒバゴンやパキポディウム、アイルロポダみたいなモンスタークラスには出会わなかったけど。
なんで魔物の生息地を進んだかは……
人が居ない場所を選んだのもあるけど、魔石も欲しいし、魔力も回復したいし、武器も回収しておきたいしって感じで。
きっと、ダンジョン攻略にはお金もいるだろうしね。
稼いでおいて、損はないだろう。
いや、本当はお金には困っていない。
師父から貰ったマジックバッグには、数えたら全部で1億ジル程が入っていた。
それに、貴重な魔石や、魔法が付与された武器や防具、それに魔導具が数え切れないほど入っていた。
一生遊んでも使い切れないレベルだろう。
でも、僕は食材以外はマジックバッグに仕舞い、マジックバッグごと収納魔法の中に仕舞い込んだ。
なんとなく、自分の力で稼ぐ方が重要だと思ったから、ただそれだけの理由なんだけどね。
そういえば、あれから結局、雷蕾拳と血魔法は使っていない。
まぁ、使う必要がある程強い相手には当たってないしなぁ……
ちなみに、これも嘘。
実際は、何度か練習したが、1度も出なかった。
感覚を忘れた訳ではないので、2度とできないわけじゃないと思うけど、必要な時に出てくれないと困るから、練習は続けている。
そして、なんやかんやあって、やっと国境の街に辿り着いた。
いや、嘘だ、正直何にもなかった。
ちょっと自分に言い訳しているだけ。
あー、なんか憂鬱だ。
正直、森に戻りたい。
ちなみに、なんでこんなに不安かと言うと、人が多い所に来るのは久しぶりだから。
それでも、国境ではちゃんと税金を払わないと、盗賊や犯罪者と疑われてしまうらしい。
まぁ、国境と言っても、仕切りがあるわけじゃなく、簡単にすり抜ける事はできる。
だけど、入国の税金を払ったという証明書がないと、仕事を引き受けたり、素材や魔石を売ったり、宿に泊まる事ができない。
多分だけど、ダンジョンにも入れないと思う。
こっそり行って入れないじゃ、あんまり意味がないしね。
と言う事で、僕は道中で身体を洗い、汚れた服を着替えてから、国境の街で入国の順番待ちをしている。
一応、税金がいくらいるかはわからないので、1000ジル位はすぐに出せるように準備しておいた。
しかし、朝から並んでいるが、既に昼になっている。
僕の前はあと3人くらい。
あと2人……
ドキドキする。
あと1人……
目の前で、門番と商人のやり取りが聞こえてくる。
「次、それじゃ名前と出身地、職業と入国の目的を述べて下さいね」
「ベリスタの町から来ました、ロッドです。
商人で、この荷馬車の荷物を売りに来ました。
中身は、綿織物と毛皮です」
「商人ね。
このくらいの量なら……
300ジルね。
はい、これが入国証ね。
じゃあ次の人」
ついに、僕が呼ばれた。
馬車が街に入った後、僕は門番の方に向かう。
「次、それじゃ名前と出身地、職業と入国の目的を、って君みたいな子供が1人かい?!
お父さんか、お母さんは?」
「師父と師母は死にました。
僕1人です。
カンクの街から来ました、シアンです。
冒険者、と言っても見習い扱いですが、フォーマルハウトのダンジョンを目指して来ました」
良かった、吃らずに言えた!
まぁ頭の中で何度もシミュレートしたし。
なんとかなった……よね?
しかし、そんな僕の気持ちとは裏腹に、門番さんは驚いて聞いてくる。
「カンクの街から?!
大丈夫だったのかい?」
「大丈夫?
カンクの街に何かあったんですか?
僕は半年前くらいに出たので、詳しくは知らないんです」
「そうか、それなら良かった。
いや、最近なんだけど、カンクの街で起きたクーデターを鎮圧するため、セイル国の国軍が攻め入ったらしいよ?
近いうちに大量の難民が出るかもしれないと言う通知があってね」
うーん、結局ボルツマンさん達ではダメだったか……
顔は怖いけど、性格が優し過ぎるからなぁ……
まぁ、僕は関係ない、
うん、多分、関係、無い?
という事で、他人の振りをしておいた。
「しかし、君みたいな子供が冒険者か……
見習いじゃなければ、ペダンの町付近に発生したオークの群れ討伐を勧めるんだけどな……
最近、冒険者を募集しているから、正規の冒険者なら無料で入国できるんだけどね。
残念だけど、見習いでオークは危険過ぎるから、君は行かないようにね?
それと、目的はフォーマルハウトのダンジョンだっけ、確か……
そうそう、昔は有名な初心者向けダンジョンだったんだけど、最近はあまり良い噂を聞かないんだよなぁ……
なんとか団ってのが牛耳って、初心者を食い物にしているとかなんとかって状態らしいよ?
だから、あんまり行かない方が良いんじゃないかな。
みんな大抵は、熟練の冒険者に付いてゴブリンを狩るか、冒険者養成学校の上級コースに行くんだけどね。
詳しくは、街の中心部にギルドがあるから聞いてごらん」
「ハイ、ありがとうございます!
それで……
入国税はいくらですか?」
「えっと、冒険者証は?
うん、銅級だね、問題ないよ。
それじゃ、5ジルね」
僕はそう言われ、袋から5ジルを取り出す。
こんな安くて本当に良いのか?!
確かに子供のお小遣いなら丁度払えるレベルだけどさ……
まぁ、僕もあまり高く言われない様に、血抜き君とペス以外は小さな袋以外に何も持っていない……
正確には、収納魔法に入れて持って無いように偽装しているから、仕方ないのかもしれない。
「ようこそ!
バニッシュ王国の入口の街、エントラへ。
君がこの国で成長して、大成する事を祈っているよ」
僕が入国税を渡すと、門番さんはそう言って送り出し、いや送り入れ?をしてくれた。
街に入った僕は考える。
さて、入国証は手に入れたし、この街にはもう用がない。
どうしようかなぁ……
ギルドには、なんか絡まれても嫌だし、行きたくはない。
でも、冒険者養成学校の上級コースはちょっとだけ気になる。
まぁ、よくある普通の英雄譚なら、主人公はまずギルドに行き、変なオッさんの冒険者に絡まれて、美人の受付に助けられ、美少女と出会って一緒に旅を始める。
そして、なんやかんやで魔王を倒し、実は美少女が某国の姫で、最終的には英雄王として君臨する。
そして、僕の場合は……
ギルドの待合室には、冒険者は1人もいなかった。
受付には、厳つい顔のオッさんがいて、僕が入ると、
「子供が受ける仕事はねーぞ」
と、ぶっきらぼうに言われた。
やはり、美人の受付のおねえさんはいない。
わかっているさ、いるわけ無いって事くらい……
「冒険者養成学校の上級コースを見てみたいんですが?
場所を教えて貰えませんか?」
「オメー、何歳だ?」
「12歳です」
「じゃあ無理だ。
14歳からしか入れないぞ、上級コースは。
後数年身体を鍛えてから来な」
「いや、入らないし、ちょっと興味があって見たいだけです」
「なら、このギルドの北にある建物に行ってみな。
そこが学校だ。
初級か中級のコースなら12歳でも受けれるぜ」
「ありがとうございます。
あと、どんな依頼があるのかも見て良いですか?」
「見習いには受けさせないが、見るだけなら良いぜ。
勝手にしな」
そう言われ、僕は掲示板を眺める。
ゴブリン退治 随時 1匹500ジル
ペダン村付近のオーク討伐 緊急クエストにつき1匹1000ジル
バイコーンの角 道具屋買取 1本700ジル
キラーマンティス討伐 金級以上限定で参加10人募集 成功報酬3000ジル以上確約
へー、キラーマンティスなんているんだ。
確か、C級の下位くらいだったかな。
まぁ、金級冒険者が10人いれば余裕だろうけど、僕なら1人でも倒せるかもしれない。
いや、受けれないから行かないけどね。
それはともかく、バイコーンの角って売れるんだ。
そこそこ良い値なのに、若干驚く。
確か、1匹で2本取れるから、魔石も合わせれば2000ジルは固いな。
あんまりちゃんとは覚えていないけど、50匹分くらいはあった気がする。
10万ジルか……
まぁ、すぐに必要な金じゃないし、売りに行くのが面倒だからやめておこう。
そんな感じで掲示板を眺めた後、僕は冒険者養成学校へと向かう。
ギルドの北に行くと、明らかに目立つ白亜の建物……
これが多分、冒険者養成学校なんだろう。
広いグラウンドの中心部には、試合場の様なものがあり、そこでは教官らしき大人と、僕よりは歳上の若者が模擬戦を繰り広げていた。
僕が見学のため、近くに寄ると、教官らしき人とは別の大人の女の人がやってきた。
「ごめんね坊や、今は上級コースの入学試験中だから。
君は14歳以下でしょ。
残念ながら、君ではこのコースは受けられないのよ?」
「いえ、入学試験を見学したいだけです。
後学の為に見ておきたいなって。
ダメでしょうか?」
嘘は言っていない。
元々入るつもりなんてカラっきしないし。
どれくらい強いのか、いや違うな、どれくらい弱いのか、それを見ておきたかっただけ。
「そう。
今のうちから勉強しておきたいのかな?
エライわね。
だったら、お兄さん達の頑張っている姿を、良く見ておいてね」
良かった。
良く分からんが、見学をさせてくれるらしい。
ちなみに、試合場では教官らしき壮年男性の冒険者が、明らかに格下の若者も適当にあしらっている。
若者の方は、必死に木刀を振り、教官らしき男性に当てようとしているが……
遅いし、軌道が単純過ぎる。
まぁ、体格の違いもあるのだろうけど。
せめてフェイントをかけるとか、足蹴を入れるとかしないと……
一方の教官らしき男性は、若者の剣を軽くいなし、退屈そうに捌いている。
そして、ある程度打ち合うと、「合格だ」の一言で試合を終わらせる。
僕は、大人のお姉さんに尋ねる。
「あの試験を受けていた人は、どれくらいの強さなんですか?」
「えっとね、彼はベルベ君って言って、若干16歳で中級クラスを成績上位で卒業しているわね。
かなり強いでしょ?
彼はきっと金級以上になる逸材だよ。
君も見習ってね」
「エェッ?!
あれが成績上位……
そうなんだ、へー、す、凄いですね」
まぁ、別の意味で凄いなんだけどね。
あの程度では、ゴブリンですら1対1でも危ない。
この辺りのゴブリンはあまり強くはないけど、アラバ村付近のゴブリンなら瞬殺されても仕方ないレベルだ。
それが中級の上位か……
ジャルやアナ、それにリッツ達ですらかなり強かったんだな……
今更になって、アラバ村の養成学校のレベルがわかった。
「あの教官もかなり強いですよね?」
僕は更に尋ねる。
「彼?
彼はね〜
群青の旅団のリーダー、戦煌のハイアット、私の旦那よ。
やっぱり彼の強さはすぐわかるでしょ?
なんたって、金級冒険者だしね。
彼は時々こうやって冒険者養成学校に来て、臨時教官をやっているのよ。
まぁ、教官をやりながら、将来有望な若者を探しているって目的もあるんだけどね」
まぁ、金級で妥当な感じ?
でも、僕の父さん程では無いし、ヘリコバクターの足元にも及ばない。
その程度の強さだ。
ついでに、このお姉さんも多分魔法が使えるし、冒険者なんだろう。
僕は、雑談程度で聞いてみる。
「じゃあお姉さんも、群青の旅団の冒険者なんですか?」
「そうよ、まぁ私は銀級止まりだけどね。
霧笛のマリ、水魔法の使い手よ?
攻撃より、回復とか防御が得意だから、サポートメイン要因なんだけどねー。
君はナイフ使いか。
魔法は使える?」
「僕には生まれつき魔力が無いので……
でも、母さんや妹の魔法は凄いんですよ!
母さんも昔は冒険者で、ブイブイ言わせていたらしいですし」
「そうなんだ。
まぁでも、私の知り合いにも強いナイフ使いは沢山いるし、魔法がなくても冒険者として成功する人は多いから、大丈夫!
ちなみに、私の旦那も魔法使えないしね」
まぁ、僕は魔力が無いだけで、魔法は使える。
そんな事を教える必要はないから、言わないけどね。
マリさんと雑談しながら、上級コースの入学試験を眺めているが、さっきのベルベさんと同じくらいの人ばかりだった。
と言っても、弱すぎて見た目では全然分からないから、同じに見えるだけかもしれないけど。
それでもハイアットさんは判定してるし、不合格者も結構多い。
多分だけど、力の強さだけで合格、不合格を決めてるんじゃないかな……
でも、実戦じゃ技を磨かないと魔物には通じないんだけどね。
そんな中、1人だけ強そうな受験者が出てきた。
剣の構え方が違う。
歳は16歳くらい、黒髪長髪の女性だ。
顔はキリッとして、眉毛が立派で、無骨な感じ。
正直、胸がデカくなければ、女性だとは思わなかった感じ?
彼女は、剣を真っ直ぐに、一分も隙の無い構えでハイアット教官の前に立つ。
多分、受験者の中で一番強い。
ハイアット教官もそう感じたのか、顔つきが真剣になる。
最初の一撃は彼女から。
上段から強烈な一撃が繰り出されると思いきや、剣先がヌルリと揺れて、横薙ぎに変わる!
それでもハイアット教官は、冷静に受け止めて、反動で突き飛ばしてから斬り返す。
彼女はぐっと踏ん張りながら、ハイアット教官の斬撃を木刀で弾き返し、次いで2撃目は冷静に避ける。
そして、強烈な突きの一撃を放つが……
実はそれはハイアット教官の誘い受けで、ハイアット教官は突きを紙一重で避け、木刀の柄で彼女のおデコを軽く小突き、「合格!」と言った。
「彼女は確か、カロリーヌちゃんね。
インセクト真剣と言う、名高い流派の師範の1人娘だったはず。
得意技は蚯蚓返し、さっきのユラってした切り返しね。
多分だけど、今年一番の強者ね。
後からスカウトしようかしら」
カロリーヌちゃんっていう雰囲気では無いのだが……
しかし、蚯蚓返しか。
まぁ、あの速度程度なら真似できそうだけど、僕が使ってもそれほど意味はない。
ハイアット教官も、確かに強いとは思うけどねぇ。
それでも、僕なら身体強化魔法を使わなくても勝てる。
もちろん、僕の剣の腕は大したことないから、単なる力押しで勝つのだけど。
ハイアット教官が見えない速度で突くか、防御ごとブチのめすか。
そのどちらかで確実に勝てる。
まぁ、試験はやらないけどね。
結論として、やはり上級コースは受ける必要がない。
そう思い、僕はマリさんにお礼を言って、その場を後にした。
すると、養成学校の出口で、1人のオジさんに声をかけられる。
「ねえ君、ダンジョン攻略をしたくないかい?」
それはとてもピンポイントで、魅力的な誘いだった。
少年を誘う謎の男……
その目的は一体何なのか?
そして、少年は出会ってしまう。
次回 第84話 面影




