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第81話 別離

僕は、ボルツマンさん達と別れを告げ、師父達のいるスラム、だったところの宿屋に向かう。

辺り一面の更地……

家も、人も、動物や草木ですら見当たらない。

恐らく、一度隆起して、その後に地中に沈み込んだのだろう。

まっさらな、ただただ広い更地が広がっている。


その先に見えるのは、あの宿屋。

まぁ、当たり前だが無事に残っているみたいだ。

そして、宿屋から街壁までの間の貧民街は無事に残っている。

多分、情報屋のサビィさんも無事だと思う。

せめて宿屋の女将さんとサビィさんくらいは、生きていて欲しいと思う。

まぁ、こんだけ多くの人を犠牲にしておいて、都合の良い話かもしれないが、心からそう思った。


そして、宿屋に着くと、女将さんが出てきた。


「アンタも、無事だったかい。

良かった、心配してたんだよ、本当にさ。

なんか良くわからないけどさ、領主軍がスラムを蹂躙していてね。

ここもヤバイって、アンタの連れを逃がそうとしたらさ……

突然、イケメンの方が立ち上がって、窓越しに魔法を放ったんだよ。

私もあんな凄い魔法見たのは初めてだったんだけど、アンタら一体何者だい?

それに、あの童顔の女の子も只者じゃないよね?

これでも、私もこの街ではそれなりなはずなんだけど、あの子は別格さね。

多分、触れる事すらできないレベルって感じだよ。

だから、あんな事はあったけど、手を出していない、っていうか、手出しできなかったと言う方が正確かね。

アンタもあの2人の仲間だし、大丈夫だとは思ったけど、まだ子供だしね。

とにかく無事で良かった、本当に」


ちなみに、あの2人は女将さんより年上なんですけどね……

とはちょっと言えなかった。

まぁ、それは別としてあの2人が無事で良かった。


「ありがとうございます女将さん。

それに、色々と迷惑をかけてごめんなさい。

多分今日で僕達は出て行きますから。

もう、これからは平和な日常に戻ると思いますので安心して下さい。

それじゃ、僕は師父達の所に急ぎますので!」


そう言って、僕は師父達の部屋に急ぐ。

部屋を開けると……

師父と師母がキスをしていた。

しかも、まぁ、結構、ディープなやつ?

僕はすぐさまドアを閉め、暫く待ってからドアをノックして入る。


「やあ、シアン。

その顔は、ちゃんと目的を果たしたみたいだね。

エライ、エライ。

それで、どうだったかい、初めて人を殺した感覚は?

大丈夫たかな?」

と師父が聞き、


「祝完了」

と師母が褒めてくれた。

……人殺しを褒められるのは、ちょっと微妙な感じだ。


「初めての人殺しは……

吐きそうなくらい気持ち悪かったです。

できれば、もう2度とやりたくはないんですが……

その前にも、とても強い相手と戦いました。

師父達に会う以前の僕なら、多分負けていたくらい強かったです。

3人でシンクロする魔法なんて、初めて見ました。

それに、神経毒もヤバかったし……


そうそう、この手甲も手に入れました。

なんと、血抜き君の仲間みたいなんです!

名前はペスで、詳しい能力はわからないんだけど、多分魂を吸い取る事ができるみたいです。

カンピロバクター大司教が持っていました!」


「そっか、大変だったね。

……ええっ!

呪いの武器が増えたの?

しかも、そのナイフと同等の呪い?

いや、普通なら正常ではいられないと思うけど?」


「えっと、夢かもしれませんけど、このペスが言うには、僕はこのシリーズの影響を受けないらしいんです。

だから、全然平気ですよ」


そう言って、僕は手甲を外し、地面に叩きつけて、グリグリ踏みつける。

まぁ、そんなくらいじゃ傷つかないけどね。


「と言う事で、僕は大丈夫です。

それよりも、師父の方が無理したんじゃないんですか?

身体は大丈夫なんですか?」


「うーん、正直言うと、ギリギリかな。

多分明日までは保たない。

いやぁ、歳をとるって怖いね。

それに、できればもっと早くシアンに出会いたかったよ。

師としてもっと色々教えてあげたかった。

それが、本当に悔しい。

とはいえ、これも運命だから仕方ないさ。

さあ、最期の修行をしに行こう」

そう言って、師父は立ち上がる。

そして、宿を引き払い、街を出て、草原へ。


草原には、魔物や人の気配は無い。

「それじゃ、最期の修行を始めよう。

さて、シアン、ちょっと難しい話をするよ。

まず、この世界のあらゆるものは、紐というか弦でできている。

その紐は、とても小さくて目には見えないんだけど、確かに存在している。

この話が大前提になるんだけど、良いかな?」


「いえ、唐突過ぎて全くわかりません。

ただ、わからないけど、信じます。

それで良いでしょうか?」


「うん、今はそれで良いよ。

その紐はね、色々な形を作る事ができて、紐が形造ったものが素粒子になり、それぞれが閉じたり、開いたり、形を変えたりしているんだけど、そのいずれの過程でも紐が振動して波を持っている。

その振動の力が、世の中全ての力になっている。

まぁ、私自身で確認したわけでは無いが、そう言う風に言われている。


ちなみに、魔法はこの波の力を別次元の力、即ち魔力で波を変形させる事で体現していると言われており、操る波形の得意系が魔法の属性に直結しているって話だよ。

紐が閉じたり、開いたりする揺らぎに魔力が干渉して、波の形質が変わるって感じらしいんだけど、わかるかい?」


「話自体は難しくてサッパリです!

ただ、魔力を使う時に波動は感じますので、魔力の話はなんとなくわかります」


「そして、ここからが本題だよ。

これらの波は、それぞれバラバラに思い思いに動いている。

だけど、ランダムで動く故に、ある程度方向が、ベクトルが一致すると言う事象が、一定の確率で存在する。

このタイミングに合わせアクションを起こすと、魔法も魔力も使わずに強力な力を引き出す事ができる。

水の波でも、タイミングを合わせて力を加えれば、強くする事も、打ち消す事もできるでしょ?

つまり、森羅万象、あらゆるものの波を操る事で、攻撃を強化し、敵の攻撃を無効化する、それが雷蕾拳の原理。

ただ、普通に波を操るのは難しいから、特定の呪言で力を引き出す、そうして体系作られた拳法が雷蕾拳となった、ってところかな。

まぁ、私が教わった時は、チャーの呪言で力を漲らせ、シューの呪言でスピードを増し、メンの呪言で爆発的な威力を叩き出す、これが基本の型チャーシューメン、って感じだったけどね。


さて、シアンがわかったかわかってないかは別として、試しにやってみるから、よく見ておいてね」


師父はそう言うと、徒手空拳で構えをとり、「チャー」の掛け声で正拳突きを、「シュー」の掛け声で裏拳を、「メン」の掛け声で回し蹴りを放つ。

一つ一つが、強力な一撃!

とても魔術士とは思えない攻撃力、風圧がビリビリと伝わってくる。


「す、凄すぎます!」

あまりにも驚き過ぎて、僕はただ単調な感想しか言えなかった。


「これでも、0.1%位の力なんだけどね。

まぁ、普段の力が0.005%位だから20倍はあるからそれなりの威力にはなる。

この威力で魔力を全く使わないんだから、凄くお得でしょ?

でもね、欠点もないわけじゃない。

まず、タイミングが非常にシビアで、出すのはかなり難しい。

これは仕方ないとして、例え出せても威力の調整がほとんどできない。

0.1%で狙っても、0.3%で出る時もあるしね。

そうなると、私の0.1%ですら腕が捻挫しかけているから、0.3%なら骨が完全に砕けてしまうだろうね。

そして、それ以上は死を意味する。

つまり、威力を間違えれば、自らを滅ぼす程危険な技なんだ。

だから、常に制御をして、自壊しないよう自らを鍛えなければならない。

シアンの場合は、魔力をしっかり蓄えてから使う事を心がけるように。

わかったかい?」


「わかりました!


……でも、僕にはこの技が出せる気がしないんですが?」


「まぁ、やってみるしかないからね。

まずは魔力を補給するよ?」


そう言って、師父は僕を優しく抱きしめ、全身に魔力を補給してくれる。

暖かい……

まるで、母さんみたいな……

僕は、思わず懐かしくなり、目尻に涙を浮かべてしまう。


そして、魔力の補給が終わると、母さん、じゃなくて師父は僕に構えをとらせる。


「じゃあ、行くよ、ハイっ!」

師父の合図で、僕は先程の攻撃を試す。

「チャー」の掛け声で正拳突きを、「シュー」の掛け声で裏拳を、「メン」の掛け声で回し蹴りを放つ。

自分の身体じゃないかのように、とてつもない威力の攻撃が出る!

そして……

右手は複雑骨折した上で、血管から血が弾け飛ぶように吹き出し、右脚はあらぬ方向に曲がっている。

痛い!

痛い!

痛い!

痛い!

痛い……


頭を焼くような痛みが、僕を襲う!

なんか、いっそのこと腕を切り落とした方がいいんじゃないかと思うくらいに痛む!


暫く悶絶していると、魔力による回復で痛みが引いてきた。

「た、確かに凄い技ですが、僕にはまだ早いかもしれません……」

タイミングはなんとなく掴んだが、身体が保たない。

ちょっと無理だなっと思ったので、素直に伝える。


「そうだね。

まぁ、気長に覚えていけば良いよ。

掛け声は、気分次第で変えればいいし。

私の代で終わりだと思っていたから、シアンは誰かに伝える必要はないからね。

多分、こんな危険な技、使える人はほとんどいないしね。

幸い私の家系は耐性があったから、大丈夫な人が多かったみたいだけど、中には自壊して死んだ人もいたらしいし、シアンは無理をしないようにね。


さて、私もちょっと疲れたな……」

そう言って師父は草原にゆっくり横たわる。


「そうそう、このマジックバッグはシアンにあげるよ。

中には、私達が集めた魔導具や食材、魔石なんかが入っているから。

シアンの好きなように使って良いよ。

ちなみに、使用者の限定は解除してあるから、誰でも使えるようになっているから注意してね。


しかし、残念だな……

もっとシアンの師匠として、一緒に居たかった。

シアン、いやもうブルーに戻っても良いよ。

それじゃ、願わくば来世では私達の子供として……」

そう言って、師父は静かに目を閉じ、安らかに息を引き取った。























僕は、暫し沈黙した後、

「師父、ありがとうございました。

貴方の事は一生忘れません」

と、泣きながら言った。

そんな僕の背中を師母は優しくさすってくれた。


僕は、落ち着いてから師母に尋ねる。

「ところで、師母はこの先どうするんですか?」


「死ぬけど?

シアンと修行、楽しかった。

また来世」

と、軽い感じで、笑顔で右手を上げると、そのまま砂の様にサラサラと崩れていき、風と共に消えていった。


「えっ?

いきなり過ぎるでしょ!!」

師母については泣く間もなく、別れが来てしまった。


また来世とか言われても困るし!

まぁ、師母らしくて、まぁ、いいか……


僕は、師父の遺体を丁重に埋葬し、小さな塚を作って手を合わせる。

師父、師母、ありがとうございました。

僕は頂いた力を使って、立派なハンターになります。

2人も煉獄で見ていて下さいね。


そう心に誓い、僕はその場を後にするのだった。

次回 第82話 閑話 カンピロバクター大司教

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