第80話 手甲の謎
カンピロバクター大司教が死んだ。
そう思ったら気が抜け、血魔法、ブラッドアイの魔法が解ける。
なんだか、足元がふらつく。
貧血か?
僕は、力が抜けて膝をつく……
その瞬間、僕の身体を誰かが支える?!
それは、カンピロバクター大司教、いや顔は土気色で、目に生気はない。
ゾンビ化か?
しかも、死にたてホヤホヤのフレッシュミートゾンビだ。
新鮮な死体がゾンビ化すると、力は強いし、耐久性も高い。
普通はある程度腐るまで魔素を吸わないと、ゾンビ化しないんだけど、特殊な儀式や暗黒魔法で作り出せるはずではあるが……
何にしても、今の体調で戦うのは厳しい。
ゾンビじゃ、血抜き君も効かないし、打つ手なしだ。
クソっ、結局こんな所で僕は死んでしまうのか……
そう思っていると、フレッシュミートゾンビ化したカンピロバクター大司教は、僕を立ち上がらせる。
立ち上がらせてから噛み付く気か?
いや、何故か僕を立ち上がらせた後、フレッシュミートゾンビ化したカンピロバクター大司教は、ゆっくりと膝をついて頭を垂れ、跪いたままで僕に話しかけてきた。
「先程はこの男が大変失礼致しました。
しかし、私めも防具の端くれ、装備者に従うのが定めでございます。
どうか御赦しを御願い致します」
「貴方は……
カンピロバクター大司教ではないよね?
何者?」
僕は尋ねる。
「私めはこの男には、ソウルサルベイションと呼ばれておりました、この手甲にてございます。
我らが主人様には、今後とも末永くよろしくお願い申し上げる次第でございます」
我ら???
手甲がカンピロバクター大司教の死体を乗っ取り、僕と話しているって事か?
そんな事があり得るのか?
そうすると、血抜き君も同じ事が出来るのか?
そう言えば、アイルロポダとの戦いで、僕が気を失った後、僕の代わりに誰かが戦ったみたいだったけど、ひょっとすると血抜き君が……
色々と確かめないと。
「貴方は、その手甲からカンピロバクター大司教を操っているって事ですか?
一応確認なんだけど、ゾンビ化しているわけではないですよね?」
「詳しくは、禁則事項のため申し上げられませんが。
ゾンビ化ではございません。
この男はしっかりと死んでおります。
ちなみに、私めはご主人様の従僕に過ぎませぬ。
敬語などお使いになられなくとも、結構でございます。
それと、主人様の既にお持ちのナイフ、血抜き君?でしたか。
ウププ、いえ失礼致しました、余りにもお似合いの名前でしてね。
その血抜き君同様に私めにも名前を御与え頂けませんか?」
ゾンビ化していないなら、まぁいいや。
それに、本当に敵意は無いようだ。
「名前?
そうだなぁ……
魂を操る感じなんだよね?」
「詳しく禁則事項ですので申せませんが、その様なものでございます。
さあ、是非とも血抜き君よりも素敵な名前を御与え下さいませ!」
「うーん、じゃあタマかな?
いや、猫っぽくないからポチ、じゃなくてペスでどうだい?
幼馴染のエルミの家で飼っていた、猟犬の名前だよ。
カッコいいでしょ?」
「……
……
ぺ、ペスでございますか?」
「うん、えっと嫌なら、タマ抜き君、多摩湖さん、もしくはロドリゲス、略してロリかゲスでもいいんだけど?」
「いえいえいえいえいえいえ!
ペスで問題ありません!
素敵な名前に驚いただけでございます。
誠に素敵な名前を、ありがとうございます」
「ちなみに、さっきの質問に戻るけど、君達は普通の武器防具じゃないよね?
一体何モノなのかな。
聖十字教団とも関係ありそうだし、冥界神との関係があるのかな?」
「禁則事項ゆえに詳しくは申せませんが……
我らは全部で7片ございます。
この男の様に、闇魔法でイカサマをしない限り、普通は使えない武器防具で、世界の各地に埋もれております。
しかし、主人様は我らを使いこなせる特殊な才能をお持ちの様ですから、存分に我らの能力をお使い下さい。
その力で世界を征服するも良し、英雄として名を馳せるのも良し、我らの能力があれば地位も名誉も思うがままですぞ?
それに、我ら7片を全て集めれば……
これは禁則事項でしたな。
私めが話せるのはこの程度でございますが、御分り頂けましたでしょうか?」
「いや、英雄とか無理だし、興味もないから。
それよりも、普通にハンターになりたいだけだから。
できれば普通に、オーガとか狩れるくらいにはなりたいかな。
まだ見た事ないけどね、オーガもオークもリザードマンも。
早いとこ、これらを倒して金級に上がれるといいんだけど」
「それが主人様の望みなら。
私めが、ハイオーガだろうが、オークキングだろうが、ナーガラジャだろうが倒して見せましょう。
それに、我らが力を合わせれば、ドラゴンですら倒せますぞ?」
「いや、ドラゴンとかは無理だから……
あれ?
なんだか眠くなってきた……」
どうやら限界だったらしく、僕はそのまま意識を失ってしまった。
目覚めると、目の前には怖い顔が?!
「ギャーーー!」
思わず大声で叫んでしまう。
まぁ相手も驚いた顔をしているんだけど……
驚いた顔もとても怖い。
って、ファントホッフさんか。
多分、心配そうな顔をしていると思うんだけど、めっちゃ怖い。
寝起きに至近距離とか、絶対にやめてほしい。
ファントホッフさんは、僕が無事なのを確認すると、部屋を出て行った。
ところで此処は何処なんだろう?
私は誰?
って言うのは冗談だけど、この部屋は知らない部屋だ。
カンピロバクター大司教の住居では無い事は、間違いないと思うんだけど……
そして僕は……
そう言えば、ペスと話していた最中に眠たくなって……
倒れたんだっけ。
しかし、ペスが、手甲が話すなんて……
あれは夢?
そして、何故か僕の左手には、ペスがしっかりとはまっている。
これ、呪いで外せないとかだったら、嫌だよな。
僕は、慎重に手甲を外す。
……大丈夫、外せるみたいだ。
それと、身体は……
魔力はほとんど残っていない。
その代わり、大分回復しているみたいだ。
大丈夫、腕も脚もちゃんと動くな。
とりあえず、ベッドから降りて、立ち上がる。
神経毒の影響は消えたみたいだ。
まぁ、寝起きなんで100%ではないが、身体がちゃんと動くって素晴らしい。
僕はいつも通りに、ラヂオ体操をして身体をほぐした後、筋トレを始める。
そして、スクワットをしている最中に、ボルツマンさんがやってくる。
「アズライト君、大丈夫カヒ?
……なんだ、ボキが心配するまでもないくらい、元気ダニ。
しかし、ビックラしたよ。
チミがカンピロバクター大司教の死体と一緒に倒れてるって聞いた時は。
それに、色々あったンダョ!
街は大変な事になってるし……」
「とりあえず、落ち着いて、ゆっくり説明してしてもらえますか?」
僕は、ボルツマンさんに状況を確認する。
どうやら、カンピロバクター大司教は、ちゃんと死んでいたらしい。
死……
僕が直接殺した……
思い出すと、悪寒が走る。
思わず身震いしてしまいそうな程だ。
そして、領主軍は完全に壊滅。
ここまでは、まぁいいのだが……
孤児の元締め達は全員戦死したらしい。
どうも、1人が顔を見られて深追いしたのが原因らしい。
だから、無理するなって言ったのに……
とはいえ、その後の大規模な土魔法の攻撃で、スラムのほとんどが壊滅、僕が助けた孤児達は誰一人として生きていなかったらしい。
それだけでなく、街の半分が壊滅して、生存者を必死に探しているが、ほとんど絶望的とのこと。
改めて、師父の強さを思い知ると共に、手を出した領主軍の愚かさに腹が立つ。
ちなみに、ボルツマン隊は、偶々大聖堂の反対側に隠れていたため、無事だったそうだ。
大規模な土魔法の攻撃が止んで、暫くしたら大聖堂に突入し、カンピロバクター大司教派の司教達を捕らえてくれていたらしい。
そして、教会内を制圧してから、神殿内に突入すると、沢山の意識の無い少女達がいるのに驚き、それでも助けようが無いので、最上階に来たら、僕とカンピロバクター大司教が倒れていたらしい。
それからは、急いで僕を簡易宿泊所に連れてきて、ファントホッフさんが介抱してくれていた、ということらしい。
うん、気絶してなかったらヤバかったわ。
「という事は、色々あったけど作戦は成功したってことでいいのかな?
でも、重要なのはこれからですよ。
僕は仇討ちが終わったから、この街から出て生きますけど、ボルツマンさん達は、生き残った人達をまとめあげて、次へ進まないといけない。
この先はどうするつもりですか?」
「そりはダニ、カンピロバクター大司教の悪事を暴いて、みんなでどうするか話し合ってダニ……」
「つまり、ノープランって事ですよね?
うーん、例えばこんな感じでどうでしょうか。
大規模な土魔法の攻撃は、カンピロバクター大司教の悪事に対する天罰で、カンピロバクター大司教を討たなければ、この街は滅びる寸前だった。
何故なら、カンピロバクター大司教は実は邪悪な暗黒魔法の使い手で、謀略で大司教にのし上がり、影で悪事を働いていたから。
そこで、神からの啓示を受けたボルツマンさんが立ち上がり、カンピロバクター大司教を倒してこの街を救った。
これなら、この街を統治する大義もできますし、どうでしょう?」
「そ、ソンにゃ!
今回の作戦は、ほとんどアズライト君の功績なのに……
ただの囮役のボキ達だけ栄誉を得るなんて、できないよォ!
せめて、アズライト君の活躍は語らせてホシーよ?」
「それが一番困るんですって!
とにかく、僕はいなかった事にして下さいね。
僕はただ、カンピロバクター大司教を殺したかった。
うっ……
思い出すだけで気分が……
良いですね?
絶対僕の名前を出さないで下さいね!」
「わ、わかったよ。
ボキ達も出来るだけ頑張ってミルョ。
それでも、アズライト君には本当に感謝しているょ。
ありがとう」
「僕も目的を達成できましたから。
ありがとうございます。
後始末は任せますので、よろしくお願いしますね」
そう言って、僕はボルツマンさん達の前から立ち去り、師父達の元へ向かうのだった。
閑話 その後のカンクの街
ボルツマンさん達は、住民達の下へ赴き、一人ずつ丁寧に説明をした。
中には信じない者もいたが、街の被害を見て天罰を恐れて従い始めた。
そして、ボルツマンさん達は、暫定領主としてカンクの街を統治する事を宣言し、神の名の下に平等な支配を約束した。
最初に始めたのが富の再配分だった。
一旦全ての資産を神の下に集め、ボルツマン定数という比率を決め、住民全員に再配分した。
この政策は、最初は非常に上手くいった。
何故なら、住民の大半が死亡し、領主の類系もほとんど死んだため、残された財産が豊富でほとんど誰も損をしなかったからだ。
むしろ、貧民階級の者達からは絶大な支持を受けたくらいだ。
しかし、そんな政策も長くは保たない。
働かなくとも分配される生活になり、働かない者が激増し、真面目に働く者は別の街へと逃げていった。
そして、他の街から無法者達が集まり、治安は荒れに荒れた。
少数のボルツマン隊だけでは、これらの無法者達を取締る事が出来ず、次第に配給もできなくなって途絶えてしまう。
結局、ボルツマン達の政策は、社会的弱者に大量の餓死者を出し、犯罪者や狂人、盗賊達を街に集めただけだった。
その後、近隣の村や街からの陳情で、国軍が動きカンクの街を包囲する。
そして、ボルツマン隊は街の住人を助ける条件で自首し、国軍により処刑された。
その際、盗賊団が街に火を放ち、結局は街の住人の大半が死亡した。
それから更に50年後、大いなる厄災からやっとのことで、カンクの街は復興を遂げた。
そして、街の中心部には、大いなる厄災から街を守ろうとして命を懸けた、と噂されるカンピロバクター大司教の像が建てられたのだった。
この像は、1000年後にカンクの街が他国に侵略されるまで、街の住人を見守り続けたという。
少年は、命がけで目的を達成した。
それが、多くの犠牲を払ったものだとしても。
そして、最後の修行が始まる。
第81話 別離




