第79話 魂の救済
クロノバクターの神経毒を抜くため、僕は暫くの間床に伏しながら、身体の代謝を促進し、具体的には発熱させて沢山汗をかかせてみた。
風邪の時も熱を出せば治るって言うし……
とはいえ、汗をかきすぎると、水分が足らなくなり、喉が乾くので、水魔法で少量の水を出しながら飲み続ける。
そうしていると、今度はだんだん筋肉が痙攣してきた。
そう言えば確か……
水魔法の水ばかりを飲んでいると、汗の味が薄くなって、次第に筋肉が痙攣して、死に至る。
そんな話を父さんに聞いた事があったな。
熱痙攣だったか?
純粋な水は飲み過ぎると、身体から魂が抜けるらしいけど、清めの塩を少量舐めると抜けた魂を補完できるとかなんとか。
まぁ魂ってのは眉唾らしいけど。
僕は、岩塩を取り出し、一欠片を口に含みゆっくり舐める。
ちなみに、僕は飴をガジガジ噛んで食べてしまう癖があるんだが、流石に岩塩は我慢して、少しずつ口の中で溶かしていく。
しかし、収納魔法に入れたせいか、岩塩はまろやかでとても美味しくなっている。
癖になりそうな味だ。
だけど、岩塩ばかりを食べるのも危険らしいし、それに岩塩は高いのでそんなに沢山は持っていない。
取らないと死ぬし、取り過ぎても死ぬ、塩分は本当に不思議だ。
実は魔法でできているんじゃないかと思うくらいに。
暇なのでそんな事を考えながら、僕は床に突っ伏して身体を休める。
岩塩が効いてきたのか、なんとか自力で立てる位にはなってきた。
大体、30%くらいは回復したかな?
もう大分時間が過ぎたし、ボルツマンさん達や孤児の元締め達の事も気になるし……
早くカンピロバクター大司教を殺さねば。
僕はゆっくりと螺旋階段を上っていき、最上階の部屋に辿り着く。
ドアをゆっくりと開けると、中には色々な祭具が飾られており、そして1番奥にベッドがある。
ゆっくり、気配を消しながらベッドに近づく。
そこには……
裸の男女が寝ていた。
正確には、中年男性は高いびきで寝ていたが、女性は虚ろな目をして、「お花が…、お花畑が見えるの…」、と呟いている。
まぁ言葉が喋れているので、下の人達よりはマシなのかもしれないが?
この男がカンピロバクター大司教……
僕は、そっと近づき、血抜き君を心臓に突き刺す。
ズブリ、嫌な感触が手を伝わる。
そして、血抜き君はカンピロバクター大司教の血を一気に啜り、カンピロバクター大司教は干からびた様になって死んだ。
初めて人を殺した……
僕は殺人者になってしまった。
まぁ最初からそのつもりだったし、覚悟はしていたはずなのに、なんだか手が震える。
あれだけ動物や魔物だって殺してきたはずなのに?
それに、直接は殺していないけど、僕は間接的に何人かを殺している。
だから、慣れっこ、何でもないはずなのに……
その罪悪感から、僕はすぐに遺体から目を逸らし、この部屋から出ていきたい衝動に駆られる。
だけど……
さっきから誰かに見られている気がする?
僕は扉に手をかけようとした直後に、違和感を感じて振り向くと、そこには死んだはずのカンピロバクター大司教が立っていて、僕に殴りかかってくる!
咄嗟に避けたが、まだ十全でない僕に反撃の余裕はない。
無様に這い蹲りながらも、攻撃を躱していく。
上手く動かない身体を魔力で強制的に動かす。
さながらゴキブリの様に四つん這いで、床を這ってなんとか逃げ切り、立ち上がる。
「なんで?
死んだはずだったのに……
ちゃんと心臓が止まったのも確認したんだけど?」
僕は、カンピロバクター大司教?に訪ねる。
「フハハハハ。
私は神に愛されし存在!
それ故に、死なぬのだ。
諦めよ、小僧。
神の使徒たる私には絶対に勝てぬのだよ。
しかし、こんな小僧が暗殺者とは……
しかも、バクター3兄妹にクロノまで倒して辿りつくとは……
お主、何者だ?」
カンピロバクター大司教?は全裸で、ティムティムをブラブラさせながら、尊大な態度で聞いてくる。
「僕の名前はシアンです。
ハンターをやっています」
僕は、正直に今の名前を名乗る。
何故なら、必ず殺す相手だからだ。
絶対に殺す覚悟で、僕はカンピロバクター大司教?に名乗りを上げる。
「シアンバクター、いやシアノバクターの方が語呂が良いか?
私の名前はカンピロバクターなり、偉大なる神に選ばれた存在だ。
お主、私の配下になって、神の使徒として生きる気はないか?
そうすれば、現世の悩みから解き放たれ、お主は自由を手に入れるのだぞ。
何も考える必要も無い。
ただ、神の言葉に従えば良いのだ。
神は素晴らしい!
解脱するぞ、解脱するぞ、解脱するぞ、解脱するぞ……」
なんだか、カンピロバクター大司教?は、トリップし始めた。
当然、仲間になる気はないんだけど。
しかし、さっきからやはり、何かの視線を感じる気がする。
多分、カンピロバクター大司教の、左手にはめた手甲からなんらかの視線と言うか、気配を感じる。
それも、なんだか既視感のあるような、知っている様な?
そうか、血抜き君だ。
あの手甲からは、血抜き君と同じ匂いがする気がする。
ただ、なんか変な感じもするんだけど……
とにかく、情報を引き出そう。
「神の使徒って、その手甲と関係あるんですか?」
「流石だな、シアノバクターよ。
この手甲こそ、私が神より賜りし神器、ソウルサルベイションだ。
この手甲に刻まれし紋様が、聖十字教団の秘されし紋様と同じ事が何よりの証拠。
つまり、私は神に選ばれたのだ!
わかったなら、私の前でひれ伏すが良い」
うーん、シアノバクターになった気はないんだけど……
それはともかく、あの紋様、血抜き君に刻まれているものと同じだ。
それならば、普通の人には持てないはずなのだが、カンピロバクター大司教は僕と同じという事だろうか?
でもなんか違う気がするんだよね……
「それなら、僕の血抜き君にも同じ紋様があるんだけど?
でも、僕は神の使徒じゃないよ」
僕は、血抜き君の柄に刻まれた紋様をカンピロバクター大司教に見せる。
「な、なぬっ!
そんな、私以外にも神に選ばれた者が……
シアノバクターよ、一つ聞くがお主は闇魔法の使い手か?」
カンピロバクター大司教が変な事を聞いてくる。
闇魔法?
使えなくもないけど、使い手って程ではない。
「えっと、闇魔法の使い手ではありませんよ?
というか、生まれつき魔力を持ってないから、魔法は使えなかったし。
ただのハンター、それだけです」
嘘は言っていない。
「何故だ?
私ですら、闇魔法を手に纏わなければ触れる事も能わぬというのに……
貴様が真の救世主?
そんな、認めぬ!
許さんぞ、それだけは許さない!
せっかく名前まで与えてやったのに、そんな裏切りが許されようか?
貴様には、神の名の下に厳格な死を与えてやる、覚悟しろ!」
カンピロバクター大司教は、急にキレだし、僕に襲いかかってきた。
少し時間を稼いだので、なんとか50%くらいは動けるようになってきたか?
まぁ、カンピロバクター大司教は左手でしか攻撃してこないので、軌道は予測しやすいからいいのだけど……
何というか、カンピロバクター大司教のパンチには重みがない。
まるで、ただ当たれば良いかのように……
やはり、血抜き君の様な特殊な力があるのかもしれない。
当たっただけで、危険になる何かが。
とにかく、丁寧に避け、相手の様子を伺う。
どうしても避けられない場合は、血抜き君で直接手甲を弾く。
そうこうしているうちに、カンピロバクター大司教の攻撃パターンが見えてきた。
僕は、その一撃を見極め、血抜き君で思いっきり手甲を斬りつける。
それでも手甲には傷一つつかないが、本体であるカンピロバクター大司教は衝撃でよろめき、態勢を崩す。
僕は、その隙を突いてカンピロバクター大司教の足を払い、転ばせる。
そして……
再び血抜き君を心臓に突き刺す!
ズブリと嫌な感触が手に伝わる。
またこの感触か……
できれば殺したくはないんだが、何度この感触を味合わないといけないかと思うと、ウンザリする。
再び干からびるカンピロバクター大司教、うん確実に死んでいる。
だけど、さっきの言葉が本当なら、きっと生き返るはず。
僕は、少し距離を空け、カンピロバクター大司教が生き返る様を観察する。
10を数えたくらいだろうか。
カンピロバクター大司教の身体が一瞬光り、そして再び立ち上がった。
そして、僕を見つけまた殴りかかってくる。
「無駄、無駄、無駄、ムダーっ!
私は死なない、何度でも生き返る。
だから、貴様は死んでそのナイフを私に寄越すのだ!」
確かに、2度生き返った事を考えれば、倒せる気がしない。
でも、本当に不死身なのか?
そう言えば、師母が昔、レヴァなんとかって言う不死身の死霊を倒した時は、666回殺したとか言っていた様な気がする。
カンピロバクター大司教もそれだけ殺せば?
いや、時間がかかり過ぎるしめんどくさい。
それに、666回も殺している間に、カンピロバクター大司教の攻撃を喰らえば、僕もどうなるかはわからない。
ならば……
身体を斬って殺すのではなく、命を斬って殺せないだろうか?
なんて考えてみたものの、どうすれば命を斬れる?
まぁ、そもそも命が見えないからな……
生命力が見える魔法があれば……
僕がそんな事を考えていると、
「あるよ?」
という声が聞こえた気がした。
もちろん、僕の声でも、カンピロバクター大司教の声でもない。
むしろ、カンピロバクター大司教には聞こえてなさそうだし。
そして、思わず「血魔法、ブラッドアイ」と僕が呟くと、時間が……
遅く流れて見える?
それに、カンピロバクター大司教の魔力だけでなく、血の流れが全て見える。
更に、それとは別に霊魂みたいな……何かが見える。
これが生命力なのだろうか?
カンピロバクター大司教の中に一個、そしてその背後にはカンピロバクター大司教の手甲に紐付けされた、無数の生命力みたいなもの?が見える。
ひょっとすると、この生命力みたいなものが、不死の秘密かもしれない。
僕は、ゆっくり迫るカンピロバクター大司教の拳を避け、ゆっくりとした動作で再び心臓に血抜き君を突き刺す。
ズーブーリーと、嫌な感触が長く続く。
そして、再びカンピロバクター大司教は血を抜かれて干からびて死ぬ。
すると、カンピロバクター大司教の背後にあった生命力の様なものが5個くらい吸い込まれていく。
それらが手甲に完全に取り込まれると、カンピロバクター大司教は息を吹き返した。
やはり……
あの生命力の様なものが、不死の秘密なんだろう。
ならばと僕は、再びカンピロバクター大司教に血抜き君を突き刺した後、生命力みたいなものを血抜き君で切ってみる。
しかし、物理攻撃は全く効かないようだった。
そうしたら……
あの生命力みたいなものが、あの手甲が奪った魂だとしたら……
僕は、血抜き君に光魔法を纏わせ、生命力みたいなものを斬り裂く。
やはり斬れる!
とにかく、ひたすらに、カンピロバクター大司教が生き返る前に生命力みたいなものを斬り裂いていく。
ただ、側から見たら何もない場所で、ナイフを光らせながら振り回す怪しい子供に見えるんだろうな……
まぁ、どうせ意識がなさそうな女性が見てるだけだし、気にせずにいこう。
そして、僕が全ての生命力みたいなものを斬り裂いた時、ついにカンピロバクター大司教は生き返らなくなった……
謎の力を手に入れ、ついに、ターゲットを殺した少年。
しかし、死んだはずなのに立ち上がる仇敵?!
果たして、少年の運命は?
第80話 手甲の謎
※人物紹介?
カンピロバクター
家畜の腸管等に生息し、主に鶏肉での食中毒を引き起こす原因菌
ギランバレー症候群という重大な神経疾患を引き起こす事がある。
クロノバクター
自然界に一般的に存在するが、乳幼児が感染すると壊死性腸炎等の重篤な症状を引き起こす。
ヘリコバクター
所謂ピロリ菌
耐酸性が強く、胃の中で繁殖し、胃がんを引き起こす原因菌
アシネトバクター
自然界に広く分布している菌。
変異しやすく、多剤耐性菌が問題となっている。
エンテロバクター
自然界に広く分布している菌。
人間や動物の腸内にも存在している。




