第76話 天敵
領主の館を脱出した僕は、急いで大教会へと向かう。
お昼まであと少し、ギリギリ間に合いそうだ。
そして、僕が大教会にたどり着くと、既に聖騎士達はいなかった。
作戦は上手くいったみたいだ。
僕はちょっとホッとする。
いかんいかん、僕はこれからが本番だ。
気を抜かない様にしないと。
僕は慎重に大教会に入る。
最初は礼拝堂、まぁここは普段見回りの聖騎士がいるが、常時開放されているので普通に入る。
中には、神父らしき人が講壇の前で必死に神への祈りを捧げている。
僕には全く気づいていない様だ。
なので、僕はこっそりと脇を抜け、奥へと進む。
礼拝堂を抜けると、聖騎士の詰所があるが、ここは無人だった。
詰所を越え、人の気配を気にしながら、慎重に進む。
この辺りは、司教達の住居だったはず……
そして、更に奥に進むと、教練場があり、その先が大司教の住居、ホーリーグラン神殿だ。
しかし、あと少しの所で侵入は邪魔されてしまう。
なぜなら、教練場には3人の男女が待ち構えていたからだ。
流石に見つからないように、すり抜けるのは難しい。
あの3人、それなりに強い気配がするし……
1人相手なら不意打ちでもいいかもしれないが、3人を、しかも実力が伯仲する相手を殺さずに倒さなければならない。
まぁ相手は気にせずに僕を殺しに来るだろうけどね。
上手く奇襲が決まらなければ、逆に隙ができて僕がピンチになるだろう。
それならば……
堂々と行くしかない。
僕は、意を決して3人の前に出て行く。
「小僧、どこから現れた?
ここをカンピロバクター大司教の住居と知っての来訪か。
悪いことは言わん。
今すぐここから立ち去れ」
先頭の男が、僕に帰れと言ってくる。
本当に帰れば見逃してくれそうな雰囲気だが……
「えーっと、その米屋です。
カンピロバクター大司教にお米を届けに来ました」
とりあえず、なんとなくで嘘をついてしまう。
すると、1番奥の女が返答をする。
「あら、そう?
でもね坊や、ウチはスーパーで買っているから要らないわよ?」
「いいじゃないですか奥さん!
お米買って下さいよぉ〜」
「独身女子に奥さんは禁止ワードよ坊や。
殺すわよ?
あー、もうめんどくさいな。
どうする、ヘリコ、アシネト?」
「エンテロの言う通り殺していーんじゃない?
基本、侵入者は殺せってカンピロバクター大司教様も言っていたし?」
「子供相手にか……
しかし、カンピロバクター大司教様の指示には従わなければなるまい。
ならば、拙者、バクター三兄妹の1人、ヘリコバクターがお相手いたそう」
そう言って、先頭の男は細身の片刄刀を抜き取る。
刀という武器の使い手か?
そして、バクター三兄妹、確かボルツマンさんより強いって言っていた人達か。
確か、力のヘリコバクター、守りのアシネトバクター、魔のエンテロバクターだったと思うけど……
なんにしろ、1人相手なら充分行ける。
僕は血抜き君を抜き、構える。
ヘリコバクターはそれを見て、「ぬんっ!」と気合いを入れると、自身に身体強化魔法をかける。
ならばと、僕も身体強化魔法をかけると、エンテロバクターがヘリコバクターを止める。
「ダメよヘリコ、この子供……
なんかおかしい。
多分……かなり強いわよ?
無理ばダメ、3人がかりでいきましょう」
「しかし……
エンテロ、こんな子供相手にか?」
「良いじゃん、良いじゃん。
3人であの技で、サッサと終わらせよージャン。
俺っち早く終わらせて、彼女の所に行きたいしさぁ」
「うむぅ。
エンテロの勘は大抵当たるしな。
確かに、あまり時間をかけるわけにもいかぬか……
カンピロバクター大司教様の仕事に支障があるかもしれないしな。
小僧、悪いが我ら3人、全力で相手させてもらうぞ?」
そう言うと、バクターの3人はそれぞれの武器を構える。
ヘリコバクターは刀
アシネトバクターはスパイクの付いたトゲトゲの盾
エンテロバクターは魔法の杖
そして……
アシネトバクターは、防御魔法を自身にかける。
多分、物理も魔法も防ぐタイプだ。
なるほど、ヘリコバクターが攻撃、アシネトバクターが守り、エンテロバクターが魔法攻撃をするパターンか。
バランスが取れている、確かに強敵だ。
これはちょっと苦労するかも?
そんな風に考えていたのは、まだまだ甘かったらしい……
最後にエンテロバクターが魔法を唱えると、3人に身体強化魔法と防御魔法がかかる。
「何で?
身体強化魔法と防御魔法が全員に?」
僕が驚いて聞くと、ヘリコバクターが答えてくれる。
「ほう。
我らが魔法が見えるのか。
ならば冥土の土産に教えてやろう。
我が身体強化魔法と、アシネトの防御魔法、それをエンテロのシンクロ魔法が共有化しているのだよ。
一旦共有すれば、詠唱はエンテロが肩代わりしてくれるからな、こうして会話もできるのだ。
これが、我ら3人の必殺技、マジカルトライアングルだ。
悪い事は言わぬ、ここで逃げたらどうだ?
去る者は追わぬぞ」
魔法の共有化……
そんな裏技聞いた事がない。
まぁマジカルトライアングルとか名前はダサいが、凄い技だ。
しかし、かと言って逃げる訳にはいかない。
師父からのミッションをこなさなければ、最後の修行ができないし。
幸い、領主の館の結界の魔力を奪ったおかげで、残量は充分にある。
聖職者であるカンピロバクター大司教は、戦闘ができるとは思えないから、事実上最後の戦いかもしれないので、思いっきりいっても良いのかもしれない。
ならば、逝ってみよう、殺ってみよう、他滅してみよう、ガルメン体操いちにいさん、だね。
「僕にも理由があります。
申し訳ありませんが、引けません」
「そうか……
ならば仕方あるまい。
これ以上の会話は不要、いざ勝負!」
そう言ってから、ヘリコバクターは摺り足で進み、僕との間を少しずつ詰めてくる。
隙の無い構え……
武器のリーチの差を埋めるべく、僕は全速力で間合いを一気に詰める。
しかし、ヘリコバクターは僕の斬撃を避けながら、正確に僕の喉元を斬りにくる!
僕は、ギリギリでヘリコバクターを蹴り、防御魔法の反動で後ろに下がる。
この人……
客観的に見て、スピードやパワーは僕の方がかなり上だ、全然負けてない。
だが、剣術の技量は遥かに上、経験の差なんだろうと思うけど、恐らく長年にわたり剣の修行を積んできたのだろうと推測する。
つまり、剣の達人という事だ。
ひょっとすると、純粋な剣術だけなら、師父以上かもしれない……
まぁ師父は剣が苦手って言ってたしね。
魔法使いがあれだけ、天性だけで剣を振るえる事自体かなりオカシイのだけどさ。
更に言うと、ヘリコバクターは剣の腕前だけでなく、防御魔法まで纏っているから、余計に攻略し難い。
こちらの攻撃を与えるには、直接触れて魔力を抜いた後で、斬撃を加えなければならない。
もちろん、そんな隙はある訳ないし……
というか、実際ヘリコバクターの攻撃を避けるだけで精一杯なのに……
「ヘリコ、俺っちも参加するぜ。
早く終わらせよージャン!」
更に、痺れを切らしたアシネトバクターも参戦してきた。
アシネトバクターは防御魔法のはずだが、あのトゲトゲの盾で攻撃してくるのだろうか?
そう思っていたら、小さな防御魔法を作り、投げて飛ばしてきた。
不可視の遠距離攻撃……
偶々僕は魔力を感じるのが得意だから良いものの、普通なら避けられない。
こちらも吸収する余裕はない。
とにかく、ヘリコバクターの剣を避ける事に集中し、アシネトバクターの防御魔法飛ばしは多少掠る程度までは無視する。
そして、足の身体強化魔法を更に強化していき、スピードを上げ何とか後退して間合いを開ける。
しかし、逃げてるだけでは勝てない。
そのうち、聖騎士達が戻ってきて僕は囲まれてしまうだろう。
そうなれば、作戦は失敗だ。
とはいえ、この3人、僕が1番戦い難いタイプだと思う。
どう考えても、部が悪い。
ん?
ある程度距離を開けると、ヘリコバクターは追って来なくなった。
逃げるなら見逃そうってところか?
いや違うな、ヘリコバクターは構えを解いていないし。
追って来ない理由を調べるため、僕は相手をじっくり見る。
戦闘中には気づかなかったが、よく見ると3人を繋ぐ魔力の線が見える。
アレがシンクロ魔法の繋がりなのかもしれない。
なるほど、だからマジカルトライアングルなのか。
3人が三角形で繋がり、魔法の効果を共有している。
制限の範囲がある無敵の布陣と言ったところか……
とりあえず、距離を置いておけば、アシネトバクターの遠距離攻撃だけだから、受けて魔力を吸収すれば良い。
というか……
僕にもできるかな?
僕は、掌サイズの防御魔法を展開する。
そして、掴んで思いっきり投げる!
僕が投げた防御魔法は偶々?かどうかはわからないが、アシネトバクターが投げた防御魔法を相殺し、消滅する。
これは、ひょっとして……
確かこんな故事を聞いた事がある。
ある勇者が最強の剣を手に入れ、別の勇者は最強の盾を手に入れた。
その後、どちらが最強か?となった時に、2人は決闘を行ってその武器の強さを確かめる事になった。
そして、最強の剣が最強の盾に振り下ろされた瞬間、2人の勇者は死んでいた。
一説によると、2人の勇者自身の方が、最強の剣と盾の力に耐えきれなかったと言われている。
更にその後、最強の盾と最強の剣を両方手に入れたものが最強の勇者になったらしいのだが……
うん、違うな。
この故事じゃない。
まぁでも、普通防御魔法は互いに触れ合う事はない。
防御魔法をかけながら、相撲でもとれば別だけど。
そんな事をしても千日手。
つまり防御と防御で勝負がつかない、って考えるのが普通だろう。
しかし、アシネトバクターは防御魔法を投げるという裏技を使ってきた。
防御魔法というか、むしろ物理と魔法を通さない板みたいなものとして投げてきた。
そして、それを攻撃にしているとは……
師父が言う通り、魔導の真髄は奥深いらしい。
それはともかく、何か、きっかけがあれば事態を好転させられるかもしれない。
物語とかだと、謎の男が助けに来てくれるものなんだけど、現実はそんなに上手くはいかないよね。
まぁ、来るわけが無いけど、師母が来たら一瞬でこの3人は死ぬだろうな。
確か、「バリア、引き裂けばいい」とか言っていたっけ。
補足すると、相手の魔法の10倍以上の力で引き裂けば、魔法障壁は破れるらしい。
うん、普通は無理な話なんだけどね。
そんな事を考えていると、突然の地鳴りが!
スラムの方向で何かあった……
魔力の雰囲気から師父だ。
つまり、師父に何かがあった、という事なのだろう。
……馬鹿がいたらしい。
ちなみに、魔法の勢いは大教会の手前まで来ており、多分この街の1/4くらいは……
急がないと!
僕はそう思い、気合いを入れ直した。
少年は焦る。
早く行かなければ街は滅んでしまうから……?
しかし、敵も同じく焦っていた。
そして、少年は賭けに出る。
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