第74話 反乱の噂
ついに決行は明日。
ちなみに、スラムの人々に噂を流させただけで皆が反乱を信じるなんて、僕も思っていない。
まぁ、準備期間も短いし、間違いなく失敗するだろう。
このままではね。
それはともかく、孤児の元締めの孤児に頼んでもらい、昨日の5人を呼んでもらい、魔法の練習と称して魔力の吸収を行う。
「やはり……
昨日よりも魔力が上がっているね。
限界まで魔法を使うと魔力が上がりやすいらしいから。
これからも、ちゃんと練習してね。
って、全員気絶してるから聞いてないか……
まぁいいや。
元締め君が伝えておいてね。
それと、明日はよろしくね」
「わかりました、アズライトさん。
必ず、領主軍に一泡吹かせてやります。
ただ、俺が言うのもアレなんですが、俺らみたいなスラムの人間が噂しただけで、本当に領主軍が動くんですか?」
「んー、無理だよね、普通。
領主や国王の言葉ならともかく、一般人が噂したって、領主軍は動かないよ」
「えっ?
それじゃ、作戦はどうするんですか?
まさか、冗談でした、じゃ今更済まないですよ、流石に……」
「大丈夫、大丈夫。
領主軍にね、ちょっと魔法をかけてあげれば、何とかなるから。
まぁ、結果は明日のお楽しみって事で」
「そうなんですか。
アズライトさんは、力も強いし、魔法も使える上に、策略も立てる事ができるんですね。
凄いです、尊敬します!」
?策略?
まぁ文字通り魔法をかけるんだけどさ……
それはともかく、なんか勘違いされている気がする。
「いやいや、僕はただの初級冒険者だよ?
僕より強い人なんていくらでも居るから、あんまり凄いとか言われても実感がないんだけどね。
それに、生まれつき僕には魔力が無いから、最近まで魔法なんて使えなかったんだよ?
しかも、僕の魔法は師匠の足元にも及ばないからね。
僕の育った村はとても小さかったんだけど、この街にきて世界は広いんだなって感じたくらいだから。
元締め君も、手に職をつけたら旅をして色々な人を見てみたらどうかな?」
「俺は多分、ここでしか……
いえ、なんでもありません。
とにかく、明日の作戦は全力を尽くしますから。
アズライトさんに受けた恩はキッチリ返しますので、よろしくお願いします」
「あんまり無理はしないでね。
必ず死なないって約束を守ってね。
頼んだよ?」
そう言って、僕は元締め君と別れる。
本当に大丈夫かなぁ。
いや、まぁでも彼らを使う以外に方法は無いし、仕方ないか。
正直なところ、スラムの孤児も心配だけど、ボルツマン隊はもっと心配だしな……
僕は、昨日同様にパンを買い漁り、その後に北の詰所に向かう。
入り口には……
ファントホッフさん、つまり見た目がとても怖いが、実は優しくて礼儀正しい人が門番をしている。
さて、帰るか……
僕が悩んでいると、残念ながら向こうから話しかけてきてしまった!
「アズライト君、準備はどうかな?
団長なら奥にいるけど、会っていく?」
「はい、お願いします」
そう言って、僕はファントホッフさんに奥に案内され、団長の部屋に入る。
「アズライト君!
ボキの所にも、大教会から連絡がきたョョョ。
どうしよう?
聖騎士反乱の噂が市井に流れていて、信じないョーにって、通達が各所に行っているみたいだョ!
大教会が火消しに回っているみたいだし、ヤバイょヤバイ。
本当に明日、作戦を決行するのかい?」
「大丈夫です。
その噂は僕が流したし。
って言うか、そう説明しましたよね?
それよりも、ボルツマンさんは、班分けとルートの確認をしっかりしておいて下さいね。
決行は明日の昼過ぎにします。
きっと上手くいきますから、しっかりと頼みますよ?」
「そうは言うけどね……
いや、確かに、ボキ達が焦り過ぎているョね?
ワキャッたよ。
それでも、最悪の場合にはボキ達が大教会の聖騎士を止めるから、アズライト君は潜入を頼んだョ?」
「わかりました。
まぁ、でも無理は絶対にしないで下さいよ」
最後に釘を刺して、僕は詰所を後にする。
何だかんだでもう夕方か……
さて、これからが本番だ。
僕は、サビィさんに貰った地図を頼りに、領主軍の将校と聖騎士の団長の家を訪ねる。
と言っても、この街の規模ならそれ程多い人数ではない。
領主軍の将校が5人、中隊長4人と大隊長1人、総司令官は領主だから流石に直接は会えないとは思うけど。
聖騎士の団長は、東西南北の詰所に1人ずつ、大教会には聖騎士長が居て、総司令官は大司教、つまり今回のターゲット。
北の詰所のボルツマンさんは味方だから、計9人を何とかすれば良い。
僕は比較的綺麗な服に着替え、パンをバゲットに入れてから、領主軍の将校の家のドアをノックする。
「あら、どなたかかしら?」
出てきたのは中年の女性だった。
多分、将校の奥さんだろう。
「できたてパンの訪問販売をしています。
良かったら買って頂けませんか?」
「うーん、うちは自家製のパンを焼くからねぇ。
でも、とっても良い匂いね。
あなた、ちょっと来て」
奥さんらしき人がそう言うと、奥から中年の男の人が出てきた。
鍛えられた筋肉、多分この人が中隊長だろう。
「なんだい?
ああ、パン売りか。
うちは自家製のパンを焼くから、いらないぞ……
いや待て、確かに美味そうな匂いだ」
「ひょっとして、貴方は領主軍の中隊長、ボルボさんですか?
なんでも領主様の叙勲を何度も受けている凄い人だって噂を聞きました。
凄いなぁ。
握手して下さい!」
僕がそう言うと、中年男性は少し嬉しそうに僕と握手してくれた。
そして、僕がパンを一口食べてから、味見をして貰うと、「美味い!」と破顔して、パンを10個買ってくれた。
ちなみに、僕は何をしに行ったのでしょうか?
①パンを売って資金を増やした。
②中隊長の実力を見に行った。
③パンに毒を仕込んだ。
正解は……
④の洗脳魔法をかけに行った、でした。
うん、1人クイズはなんか虚しいね。
しかも、選択肢に答えはないし。
孤児から魔力を吸い取ったのは、この為だ。
しかも、今回の洗脳魔法は、指向性を追加してある。
例え本人にかけなくても、身内から隊長クラスに移すことができる。
まぁ、最低限として、隊長の家かは確認するけどね。
そのためのパン売りだ。
それと、洗脳魔法は明日発動するのだが、その時は拡散性も追加される。
以前、空間魔法で井戸を呼んでしまった事があったのを覚えているだろうか?
あの時の悪霊が落とした黒い箱、アレには魔法ではないが、中を見た者が、恐怖を種として、次々と悪霊を拡散していく、そんな呪いの様な力がこもっていた。
だから、僕もそれを真似、魔法で再現してみたのだ。
聖騎士反乱の恐怖が、隊長クラスを経由して一般兵にも伝わる。
実現すれば、大混乱に陥るだろう。
まぁ、魔力が分散するから、洗脳魔法に必要な魔力が足らなくなって、実際はそこまで多くの兵には広がらないかもしれないが、多分何もしないよりはいいだろう。
ちなみに、洗脳魔法の内容だが、基本的には明日の昼に「反乱だ!」の言葉に対して、全軍で討って出るように仕組んでいる。
後は領主軍なら聖騎士、聖騎士なら領主軍と相手方を分けただけだ。
そして、カンピロバクター大司教が死ぬと、洗脳が解ける様になっている。
無駄な戦闘は要らないしね。
そうして、僕は次々と回って洗脳魔法をかけて行くと、最後に大隊長の家が残った。
僕がドアをノックすると、半裸の白髭の筋骨隆々の老人が出てきた。
「なんじゃ?
お主……
パン売りか?
いい匂いだ、ひょっとしてスラムで噂になっているアレか?
ちょっと待っておれ」
僕が何も言わないうちに、老人は一方的にそう言って僕を少し待たせると、綺麗な衣装に着替えて出てきた。
「お主が、今スラムで噂のパン売りだな?
我が主人がお前のパンを所望でな。
悪いが、ついてきてくれ」
主人?
大隊長の主人と言えば、領主しかいない。
侵入は難しいと思っていたが、棚からぼた餅の様なラッキーだ。
ちなみに、どうやら僕のパンの噂はスラムだけでなく、この街全体に広がっていたらしい。
やはり、食べ物の力は偉大なんだなと、僕は改めて思う。
僕は大隊長のアウディさんに連れられ、領主の館に向かう。
カンクの街の領主、メルセデス様は100代続く領主の名家で、その治世は安定していたらしい。
アウディさんも昔から仕える家系で、齢80歳だが鍛え抜かれた筋肉は、とても老人には見えない。
多分、若い頃はボルツマンさんよりも強かっただろう。
ただ、良縁に恵まれず、独身のため跡継ぎがいないらしい。
途中で僕を養子にしたいって話も出たが、断っておいた。
師父は1人でいいしね。
そんなこんなで、領主の館に着くと、ボディチェックを受ける。
最初に血抜き君を取られそうになったが、形見のナイフで飾りだからと頑なに断った所、アウディさんが領主に危害を加えないと保障してくれたため、そのまま入る事ができた。
血抜き君は普通の人が持つと、ヤバイからなぁ……
あまり騒ぎを起こすと、明日の作戦に響くので、ここは気をつけないと……
そう思っていたら、結局僕は牢屋に入れられてしまった。
なんでこうなるの!
経緯はこうだ。
僕は順調に、領主に謁見した。
別に玉座がある訳でなく、ちょっと広い応接間だったけど。
領主は比較的若い、目付きの鋭い痩せ型の男だった。
僕は、アウディさんに聞いた通りの作法で挨拶し、要件を聞いた。
「はじめまして、僕は旅のパン屋のアズライトと申します。
領主様、どういった御用でしょうか?」
「お主、私の領地で勝手にパンを売っているらしいな?
まぁ、それはいいのだが、何故に領主である私に先に献上しないのだ?
理由を申せ」
「いえいえ、僕みたいな子供の売るパンを領主様に献上するなんてとんでもないです。
それに、領主様のお口に合うとは、夢にも思いませんでしだので……」
「ふむ。
ならば仕方ない、しかし、私が食べてみたいと言うのだ。
当然、献上するのだよな?」
「はい、もちろんです!」
そう言って、僕は収納魔法からパンを一個取り出し、恭しく差し出した。
「収納魔法?
お主、魔法使いか。
いや、それはいい」
領主がそう言うと、侍従が僕の手からパンを受け取り、毒味で一口食べる。
焼きたての特に美味しいパンだ、きっと美味いはず……
そう思っていると、侍従はパンを全て食べてしまう。
「領主様すみません、と、とても美味しいです。
一口食べたら止まりません!」
「ええい、使えないヤツめ!
別の者が毒味をしろ!」
そう言われたので、僕はもう一個のパンを出す。
やはり、侍従は食べてしまう。
さっきの侍従もそれを羨ましそうに見ている。
気のせいかヨダレが垂れている?
次の侍従もダメ、兵士もダメ、アウディさんですら……
アウディさんは半分食べたところで、領主に献上した。
食の魅力にあがらうとは、この人かなり精神力が強いのかも?
まぁ、洗脳魔法は効いたけどね。
やっとパンを食べられた領主は、暫く無言になる。
「毒味はいらぬ。
次をよこせ。
これだけ食べても大丈夫だったのだ、問題なかろう?」
「しかし……」
アウディさんや侍従達は心配そうに見ている。
「なら、僕が一口毒味をしますね」
そう言って、僕はパンを一口食べ、領主に差し出す。
それから、領主は一気に10個のパンを食べきった。
飲み物も無しに。
貴族というのは凄い人だと聞いてはいたが……
やはり、いろんな意味で凄いのかもしれない。
「アズライトとやら、美味かったぞ。
大儀であった。
よし、お主を私の専属にしてやる。
これから毎日、パンを寄越すのだ。
報酬は弾むぞ?」
専属?
いや、それはちょっと困るな……
どう断ろうか。
「あ、あの……
明日にはこの街を出る予定でして……」
僕がそう言うと、領主は突然怒り出し、僕を牢屋に入れるように指示した。
アウディさんは止めてくれたんだけどね。
聞く耳持たないって感じで、今僕は牢屋の中にいる。
どうしたものかなぁ……
僕は、思案にくれるのだった。
少年は冷たい牢屋の中で考える。
世の中は思い通りにはいかないものだと。
それでも、一度動き出した流れは、止まらない。
次回 第75話 作戦開始




