第73話 偽善者
北の詰所に行った翌日。
僕は、再びサビィさんの情報屋へと訪れる。
「昨日に話はついたらしいな?
そして、他にも用事があるってか?
いいぜ、パンをくれ!」
サビィさんは僕が話をする前にパンを要求してきた。
まぁ、安いパンだから全然いいのだけど。
とりあえず、10個をまとめて出して、サビィさんの目の前の机に置く。
「お、こんなに沢山かい?
気前が良いねー。
それはさておき、聞きたいのはブラックマーケットの場所と、聖騎士反乱の噂を領主軍に流す事かい?
それならば、その引き出しの地図を持って行きな。
ブラックマーケットの位置と領主軍の兵長と聖騎士の団長の情報が書きこんであるぜ」
えっと、僕はまだ何も言ってないんだけど……
まぁ、目的は一致しているから良いんだけどね。
「ちなみに、アイルロポダの魔石って、売るといくらになるんですか?
相場ってあるんですか?」
僕が質問すると、サビィさんは酷く驚き、食べかけていたパンを全身タイツの中に吐き出してしまう。
「アイルロポダ?
あの有名な白黒の熊の魔物だよな?
確か、最後に討伐されたのは80年前で、国軍3000人で仕留めたが、ほぼ壊滅状態に追い込まれたってあれか?
そんなのを倒したとか……
お前化け物かよ?
ちなみに、そんな魔石はブラックマーケットでも値段が付かねーぜ?
下手すりゃ、街が一個買えるレベルだからな……」
売れないのか……
そしたら、ダゴンやクトゥグアの魔石なんて、鑑定すらできないのかもしれない。
「困りましたね……
ゴブリンの魔石はほとんど売ってしまったし……
パンを買わないと、作戦が……」
「金がいるのか?
まぁ、あまり沢山は手持ちはないが……
お前のパンなら1個100ジルで買うぞ?
どうだ?」
えっと、手持ちのパンは100個はあったかな。
僕は頷いて、パンを1個ずつ取り出す。
「ちょ、流石に多いって。
机に乗らないし!
ちょっと待て」
そう言うと、サビィさんはハンドベルを鳴らす。
すると……
全身タイツのメイドさんが現れ……
マジックバッグらしき袋に詰めていった。
サビィさんの趣味って……
それはともかく、100個で丁度10000ジルを貰った。
大体この街のパンの相場は2ジルだから、5000個は買えるかな。
と言っても、1つのパン屋で1日に作れるパンの量は、精々50個くらいか?
一気に焼く技術が無いためと、原料の調達が安定しないから、作り過ぎないようにしているらしい。
とにかく、僕は見つけたパン屋で、片っ端からパンを買い占めて行く。
結局、20店を廻り、買えたパンは1121個。
まぁ、こんだけあればなんとかなるか。
お金は2000ジルちょっきりで、残りは8000ジル。
とりあえず、近くの武器屋で300ジルのナイフを15本買い、残りは3500ジル。
ブラックマーケットは、行くのがテンプレらしいけど……
面倒だし、行かなくてもいいや。
僕は、スラムに戻ると、いつも通り餓死しかけの子供から優先にパンを分け与える。
ちなみに孤児って言っても、僕より年上もいるんだけどね。
その孤児の元締めの孤児に、指定の5人を呼び出してもらう。
そして、僕はまずその5人にパンを3個ずつ渡し、腹一杯まで食べる様に指示する。
まぁ、腹を空かしているから、指示しなくても食べてしまうんだけどね……
「それじゃあ、君たち5人には魔法を覚えてもらうよ、いいかい?」
食べ終わった5人の孤児に、僕は唐突に言い放つ。
そう、この5人は潜在的な魔力を持っている。
ただ、魔物の様に体内に魔力を蓄積している訳ではないので、直接は吸い取れない。
だから、魔法を覚えさせ、吸い取ろうと言う算段だ。
我ながら……
酷い事をするなって思う。
とは言え、孤児が魔法の修行をできるチャンスはほとんどない。
パンだって余分に与えられているし、これはギブアンドテイクだ……
なんて、偽善だよな。
所詮僕は、家畜にパンと言う餌をあげ、魔力を搾り取る為に魔法を教えているのと同じ事をやっているに過ぎない。
僕は1人ずつ、孤児の後ろに立って、孤児の手のひらの後ろから僕の手を重ね、仮設の的に向かって魔法を使わせる。
「キミは火の属性が得意だね。
それじゃ、いくよ?」
僕は、孤児の魔力を使って、火の魔法を少しだけ解き放つ。
「うわぁ!」
火の魔法を使った孤児は、とても驚いている。
「アズライトさん、凄い!
僕が魔法を使えるなんて、凄い、凄い!」
魔法を出した孤児はとても喜んでいる。
他の孤児達も、なんだか羨望の眼差しで見ている。
しかし、魔力が無い僕が魔法を教える。
皮肉なものだよな……
他人の魔力も操れる僕の能力は、魔法を教えるのに丁度良いらしい。
ちなみに、火が2人、水が1人、風が1人、聖魔法が1人だった。
他の孤児にも次々と魔法を教え、パンをあげて少し休ませる。
そして……
「さて、それじゃあ僕に向かって魔法を撃ってくれるかな?」
……皆、さっきより驚いている。
「危なくないんですか?
本当にいいんですか?」
「まぁ、僕なら大丈夫だから。
君らの魔法程度なら全然効かないし。
それに、対人で使う練習になるでしょ?
だから、魔力が無くなるまで、撃ち続けてね。
遠慮は要らないっていうか、ちゃんとやらないと、もうパンはあげないよ?」
僕がそう言うと、皆の目つきが変わる。
っていうか、元締めの孤児の目つきが一番怖い。
最初に教えた孤児が、最初に魔法を撃ってきた。
師父の魔法に比べれば、魔力の密度が明らかに低い。
まぁ、それでもそれなりの殺傷力はあるんだけど。
大した暑さも感じずに魔力を吸収する。
「凄い……
魔法って吸収できるものなんですか?」
孤児の1人が聞いてくる。
確か風の子だったな。
「普通はできないよ?
僕は生まれつき魔力が全くないからできるんだって。
さあ、あまり時間がないからドンドン撃ってきて!」
僕がそう言うと、皆一生懸命に魔法を撃ってきた。
まぁ、聖魔法の子は回復だけどね。
そして、暫くすると、魔力を使い果たし、気絶してバタバタと倒れ始めた。
「大丈夫、魔力が無くなると倒れるから。
命に別状は無いし、起きたらこのパンをあげておいて。
それと、次は体力のある子を20人くらい連れてきてくれるかな?」
魔力はそれなりに溜まった。
次は、実際の作戦を頼む要員だ。
元締めの孤児が、ぞろぞろと孤児を連れてやってくる。
「アズライトさん、連れてきました」
元締めの孤児が僕に言う。
僕はパンを全員に3個ずつ渡す。
「君達には、ちょっと危険な仕事を頼みたい。
ひょっとすると死ぬかもしれない危ない仕事だ。
だから、嫌だったらさっきあげたパンを持って帰っていいよ」
「いえ、危ない仕事でも平気な連中を連れてきましたから。
誰一人帰りませんよ?」
元締めの孤児がそう言う様に、誰一人として帰ろうとはしなかった。
「それなら、このナイフを一人ずつ渡しておくね。
明後日、聖騎士と領主軍が戦う事になる予定なんだけど、乱戦になったら適当に刺して、逃げてくれるかな?」
そう言って、僕は普通のナイフとゴブリンナイフを出して渡す。
「このナイフ……
斬れ味が異常なんですが?
石が斬れますよ?」
孤児の1人が試し斬りして驚く。
ああ、そう言えば斬れ味が上がるんだっけ。
しかも耐久性も。
「間違えて自分を切らない様にね。
ちなみに、領主軍は殺さない程度に、脚だけ斬ればいいからね。
って言うか、殺しちゃダメだよ本当に。
あと、絶対に顔を見られない様に、死ぬと素性がバレるから、攻撃も喰らわない様にね。
無理そうなら、相手の武器だけ狙ってもいいから。
わかった?」
「こんな凄い武器があれば、領主軍を撹乱するくらいは余裕ですよ!
それに、全員の口は堅いし、死んでもわからない様にしますから大丈夫です。
安心して下さい!」
元締めの孤児はそう言うが……
いや、あんまり死んで欲しく無いんだよね。
できれば敵も含めてさ……
所詮、僕の都合に巻き込むだけなんだし。
「死んだらパンが食えなくなるんだから。
無駄死には何にもならないし、生きて完了報告するまでが依頼だからね。
ちなみに、北の詰所のボルツマン部隊は絶対に狙わないでよ?
特にフライパンみたいな武器を持った、チビでデブでハゲたオッさんは注意してね?
それに、君らはそんなに強く無いんだから……」
「俺達だって、伊達にスラムで生きていませんよ?
コイツらのほとんどが、喧嘩での腕に覚えがある奴らばかりですし。
アズライトさんには恩がありますが、あんまり舐めないで欲しいんですけど?」
馬鹿にされたと感じたのか、元締めの孤児が反論する。
「うーん、そう言う意味ではないんだけどね。
まぁでも、僕みたいな子供が言っても説得力ないから。
そうだね、試しに全員で僕にかかってきてごらん」
孤児達は戸惑いながらも、先程渡したナイフを構える。
構えは、素人だな。
まぁ、素人の構えの方が読みにくいって言うけどね。
それでも、身体強化魔法をかければ関係ない。
孤児達が飛びかかってくる前に、全員の手に手刀を入れ、ナイフを落とす。
「これでわかった?
相手の力量を見極められなければ、生き残る事はできないよ。
少なくとも、君らにできるのは、不意打ち程度だと思うから。
理解できないなら、次はちゃんと身体で覚えさせるよ?」
孤児達は、理解したのか頷き、ナイフを拾って解散していった。
「次は、誰でもいいからとにかく沢山集めて」
僕は、再び孤児の元締めの孤児に依頼をする。
すると、孤児の元締めの孤児は、老若男女問わずスラムの住人を150人ほど連れてきた。
僕は、1人2個ずつパンを渡し、皆に言う。
「明後日、聖騎士の反乱が起き
領主軍との戦いになります。
貴方達は、その噂をできるだけ多くの人に伝えて下さい。
そして、できるだけ住民を逃してあげて下さい。
お願いします」
僕が頭を下げると、皆戸惑いながらも了承した。
まぁ、ちょっとだけ暗示魔法も使ったしね。
これで、下準備の第1段は終わった。
僕は、孤児の元締めの孤児に礼を良い、その場を後にしたのだった。
少年は、狩をする様に入念な下準備をしていく。
……あれ?
今までの狩って下準備なんてしたっけな?
それはともかく、次の準備は……
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