第72話 聖騎士とは
北の詰所に行くと、そこには……
鶏の鶏冠の様なモヒカン頭でトゲトゲの鎧を着た、なんかヤバそうな人が入り口に立っている。
さて、帰るか。
という訳にはいかないか。
相手は大司教、それでも師父達がいれば楽勝だろうが、僕1人で聖十字教団に挑んで勝てるわけがない。
それに、魔力も残りが少なくなってきたし……
できれば一度回復のためにゴブリン狩りでもしたいところだが……
そんな余裕はない。
なので、僕にはボルツマンさんの協力を取り付ける必要がある。
仕方ない、なんか怖いけど話しかけるか……
「すいません、ボルツマンさんに用事があって会いに来たんですが?」
「団長に用事?
君みたいな子供がなんでだい?
理由を説明してくれるかな?」
入り口のヤバそうな人は、僕の目線に合わせ、丁寧に話しかけてくれた。
ウンコ座りだし、目つきがめちゃくちゃ悪くて凄く怖いんだけどね……
「野薔薇って言えばわかりますか?」
「君、どこでそれを聞いたんだい?
いや、そんな事は関係ないか……
でもこんな子供を巻き込むなんて……
うん、わかった。
団長の所に案内するよ」
そう言って、怖いお兄さんは僕を詰所の中に案内してくれた。
中には……
ここは魔物の巣窟か?
そんな雰囲気が漂う、怖い人が沢山居た。
そして、一番奥の部屋に案内されると、そこには……
チビで、デブで、禿げたおじさんが居た。
「団長、例の合言葉を知っている子供が団長を訪ねてきました」
「あー、アリガトネ。
ボキの名前はボールチュメーン、元アレニウス隊の隊員で、今はこの詰所のダンチョだ。
キミは誰かね?」
団長と言われるおじさんはとても甲高い声で、独特のイントネーションで自己紹介し、僕の名前を聞いてきた。
どうしよう?
本名を言っていいものか……
僕は咄嗟に、「アズライトです」と答えた。
アズライト、青が綺麗な鉱石の名前だと、師父から聞いている。
まぁ、いくつか用意した偽名の1つだ。
「アズライト君きゃ、いい名前だにゃ。
それーで、なんで合言葉を知っているーのかな?
何ギャ目的か?」
「僕は……
カンピロバクター大司教を討ちたいと考えています。
兄と、友の仇討ちです。
しかも、故あって必ず僕がカンピロバクター大司教を殺さないといけません。
ただ、カンピロバクター大司教の周りは警戒が厳重だと聞いて……
情報屋のサビィさんに聞いて、ここに来ました。
もしも、貴方達の目的に合うなら、僕と一緒に戦ってくれませんか?」
「ふむ、それを私達聖騎士に言うのかい?
もしも、キミを捕まえて、カンピロバクターに売り渡したらどうするツモーリかね?
考えてみたまえ、ボキ達聖騎士が子供に仇討ちなんて、させるとおもーうのかい?」
「ダメなら1人でも行きます。
貴方達は……
ちょっと怖いけど、僕も冒険者です。
逃げ切るだけなら、全然余裕ですよ?」
「ほむ、ならば実力を見せーてもらうかね?
裏庭に来るがいい」
そう言って、ボルツマンさんは、裏庭へと僕を案内する。
裏庭には、小さいながらも闘技場があり、怪しい顔をした聖騎士達が訓練をしていた。
「団長、本当にこんな小さな子供と戦うんですか?
可哀想ですよ?」
入り口にいた男が、怖い顔で心配そうに聞いている。
「しキャタあるまい。
カンピロバクター大司教を討つなら、ボキ位は倒せないとにゃ。
その実力があれば、ボキ達にも福音だしに」
そう言って、団長は鉄の棒を構える。
隙の無い構え。
かなりの鍛錬を積んでいるのだろう。
だが、女将さんよりはちょっと弱いくらいか?
身体強化魔法無しでも戦えるとは思うけど……
僕は闘技場にあった木刀を借り、身体強化魔法無しで構えを取る。
あまり長剣は得意ではないが、木刀なら軽いし大丈夫だろう。
「かまーん」
僕が構えると、団長が誘ってくる。
僕は慎重に、木刀を水平に構え……
突きを放つ様に真っ直ぐに投げる。
突然木刀を投げつけられた団長は、咄嗟に鉄棒で弾く。
予想通りの軌道だ!
僕は、弾き飛んだ木刀を空中でキャッチし、そのまま団長の足をなぎ払う。
意表を突かれた団長は、転んでしまう。
そして、僕は団長の首筋に木刀を当てると……
「勝負あり!」
怖い顔の一言で、勝負は決する。
団長は、すぐに立ち上がり、砂を払って一礼する。
「さっきは子供と言ってワリュカッタよ。
ごめん、ごめん。
キミはボキよりも強いみたいだね。
多分、不意打ちなんてなくても倒せたダリョ?
まぁ時間がかからない様に手加減された、ッてことなりかね?
いずれにしても、その強さなら信用できるョ。
ファントホッフ君、皆を集めてクレ」
そう言って、団長は元の部屋に戻る。
僕はそれについていった。
「さて、キミの実力はわかったョ。
キミならカンピロバクター大司教討伐を託せるダロウ。
ボキ達ボルチュメーン隊は、さっきも言ったがアレニウス様の部隊だったんだよ。
アレニウス様は、ボキ達の様な変わり者でも分け隔てなく接してくれたしね。
本当にいい隊長だったんだョ。
ボキはその意思を継いで、他では働けない見た目が異形の者たちを集め部隊を再編成シタノヨ。
いつかカンピロバクター大司教を討つためにニェ。
ダカラ、見た目はアレだけど、みんな正義の心を持つ聖騎士なのよ?
そして、丁度3日後に、カンピロバクター大司教を討つ予定だったのョ。
これも、偉大なるシャダイの導きネ。
ちなみに、キミはなんでカンピロバクター大司教を殺したいのかニャ?」
僕は団長に日記を渡す。
団長はそれを見て、蒼ざめ、滂沱の涙を流す。
「なんと!
ファラデー君の日記じゃないか。
そうか……
ニルヴァーナ行きはあれほど止めたのに、行ってしまったか……
可哀想に……
コノ日記を持っているなんて、やはり神の思召しダネ!
アズライト君、キミにはやはりボキ達の作戦に参加してホシイ。
頼むよ!」
気づくと、僕の後ろには団員が集まっており、皆が涙を流している。
うーん、やはりここは魔窟か?
ゴツい顔が怖い人達が集団で泣いている姿なんて……
見たくないんだが?
やはり帰ろう……
という訳にはいかないのが悲しい。
とりあえず、作戦を聞くと以下の通りだった。
最初に大教会の前でカンピロバクター大司教の悪事を晒し、騒ぎを起こす。
具体的には、木の看板を作り抗議集会をするらしい。
ある意味、めっちゃ怖い集団だが……
そんなのすぐに全員捕らえられて終わるだろう。
そして、抗議集会をしている間に、数名が大教会に忍び込み、礼拝堂の奥から司教の住居、鍛錬場を経て大司教の住居に侵入し、相打ち覚悟でカンピロバクター大司教と戦う。
という事らしい。
「貴方達は馬鹿ですか?
そんな事をしても聖騎士が出てきて、すぐに討伐されるだけですよ。
大教会の聖騎士はカンピロバクター大司教のいいなりなのは、貴方達もわかっているでしょ?
それに、貴方達では目立つから潜入は無理です。
そんな作戦、ただの無駄死にですよ。
例え上手くいっても、全員死刑は免れません」
「しかし……
ボキ達は聖騎士だし。
被害は最小限にしないとね、なのょ。
あまり大規模にやると、市民ニモ被害が出るでしょ?
それに正義があれば、結果が伴うってアレニウス様が言っていたし……」
この人達……
顔とかはアレだが、心は馬鹿みたいに純粋なんだよな。
でも相手はそうじゃない。
自分の都合だけで、卑怯な手だって平気で使ってくる。
「そんな甘い事では、正義は貫けませんよ?」
僕に正義なんてあるのか?
一瞬、そんな考えが頭をよぎるが、僕は話を続ける。
「カンピロバクター大司教は聖十字教団を私物化し、裏では悪事を繰り返す悪人です。
生かしておけば、僕の友や兄さんみたいな被害者がもっと出るでしょう」
嘘だ、カンピロバクター大司教がいなくなっても代わりは出てくる。
「だから、貴方達が真の聖騎士なら、どんな手段を使ってもそれを阻止しなければならない。
その覚悟はあるか!」
僕は、立ち向かえと暗示魔法をこっそりかけながら、皆に問いかける。
暫しのざわめきの後、ボルツマンさんが意見をまとめ、僕に言う。
「ワキャッたよ。
アズライト君の言う通りだ。
ボキ達はカンピロバクター大司教を討って聖十字教団を正しく導くョ。
アズライト君、ボキ達に力を貸してください」
「わかりました。
ならば、作戦は僕の案に従って下さい。
最終的に、カンピロバクター大司教を殺し、ボルツマンさん達が聖十字教団を掌握する事、それを目標とします。
そのためには、大教会の聖騎士の無力化、カンピロバクター大司教の討伐、領主軍への対策の3点が必要です。
ちなみに、ボルツマン隊は他の聖騎士と比べてどれくらい強いんですか?」
「ウチの隊は、模擬戦なら一番強いョ。
実戦経験はほとんどないんだけど。
個人で言えば、ボキはこの街で5番目ダネ。
1番はスラムの宿の女将さんョ。
2から4番目はバクター三兄弟
力のヘリコバクター
守のアシネトバクター
魔のエンテロバクター
だョ。
大教会の聖騎士はあまり大したコトはないけどにー。
数は多いンョゥ」
「それなら、まずは聖騎士と領主軍を戦わせましょう。
僕が、孤児と情報屋の伝手で、聖騎士反乱の噂を流します。
ボルツマン隊の方々は二隊に分かれ、領主軍と大教会の聖騎士をおびき出して下さい。
ボルツマンさんには、このモホロビチッチを渡しておきます」
そして、僕はボルツマンさんにボスゴブリンが持っていたフライパンみたいな武器を渡す。
「こで、凄い武器だに。
こでなら、殺さずに戦えるカモらしれない」
「とにかく、誘導したら合流して、皆さんはあまり戦わず、領主軍と聖騎士の両方を少しずつ倒して時間稼ぎをして下さい。
決して無理はせずに、1人1人確実に倒せばオーケーです。
その間に僕がカンピロバクター大司教の住居に潜入します。
そして、カンピロバクター大司教さえ倒せば、後は大教会を占拠して、勝利宣言すれば、僕達の勝ちです。
後はボルツマンさん達に任せますので、この街を正常化し、上手くまとめていって下さい」
「確かにイー作戦だきゃど、アズライト君が1番危険な気がするんだけど?
せめて、ファントホッフ君だけでも連れて行ったらどうかね?」
門に居た男を連れて行く?
なんか怖いし、絶対嫌だ。
「申し訳ございませんが、足手まといはいりません。
僕より弱い相手を連れて行く事はできません。
それとも、ファントホッフさんは団長以上なんですか?」
僕がそう聞くと、怖い顔の男は必死に顔を左右に振って否定する。
「ワキャッたよ。
それじゃあ3日後、それまでに可能な限り準備をしておくョ」
こうして、僕達は共闘する事に。
いや、僕がボルツマンさん達を利用する、ただそれだけだ。
「所詮は偽善……
でも!」
僕は思わずそう呟いて、詰所を後にするのだった。
少年は目的の為の準備を始める。
例えそれが利己的な理由であっても……
利用するしかないのだから。
次回 第73話 偽善者




