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第71話 ひとごろし

「な、なんで?

なんで、人を殺さないとダメなんですか?」

僕は焦って病み上がりの師父に、詰め寄ってしまう。


「落ち着いて、シアン。

私が教えようとしている技はとても危険なんだ。

多分、覚えてすぐは力が制御できないだろう。

でも、その時に私とアリスはいない。


だから、きっとシアンは人を殺してしまう。

山奥にでも籠らない限りね。

シアン、初めて人を殺すってのは案外大変な事なんだ。

恐らくその時シアンは激しい後悔や悲しみに襲われるだろう。

でも、シアンはそれに耐える必要がある。

ただ、技を覚える前なら、人を殺してもシアンが暴走する可能性は低い。

だから、その前に人を殺す経験をして欲しいんだ。


それに、何故かはわからないが、この技を継承すると、腐卵酢帝の刺客に狙われる事になる。

腐卵酢帝の刺客は逝成酢帝奇拳を使う猛者が沢山いる。

残念ながら、不殺のスタイルではとても生き残れないだろう。


そのためにも……

シアン、君には誰か憎い相手はいないかい?

いれば、その相手を殺してきて欲しい」


……確かに。

腐卵酢帝はよくわからないが、この先僕が1人で冒険者を続ければ対人戦も経験しなければならない可能性が高い。

特に、他国との戦争が起きれば冒険者は軍に徴用されるし、そうじゃなくても強い盗賊と当たれば、殺さなければならないケースも増えてくる。

ならば……


「1人だけ該当者が居ます。

この日記を読んで下さい」

そう言って僕は一冊の日記を師父に渡す。

実は昨日、ジャルに渡された鍵の事を思い出して取りに行ってきたのだ。

書かれていた内容は、とある孤児が聖騎士から神父になった話で、その悲嘆と最期が書かれていた。

そして、1人の魔術士の言葉と、親友の苦悩が追記されていた。

特に、この日記の内容はアナには知らさないで欲しい、と涙で濡れた跡が残るジャルの筆跡には、筆舌にし難い苦しみが滲み出ていた。


師父は日記を読み終わると、僕に訪ねる。

「なるほど、このカンピロバクター大司教と言う男がシアンのターゲットなんだね?

しかし、聖十字教団と銀翼十字団か……

この2つの宗教が昔は1つだったのは知っているかい?」


「はい、確か……

どちらも神霊シャダイを信奉していた気がします。

ただ、聖十字教団はヨアヒムの福音書を、銀翼十字団はソドミーの黙示録を教義としていたと思います」

確か、ジャルにそう聞いた気がする。


「そうだね、表向きは、だけどね。

これは私の産まれた国での伝承なんだけど、元々その2つの宗教は1人の王が作り出した。

その王の名前は邪王ネビュロス。

邪王は、暗黒魔法の使い手で、私の産まれた国を支配し、絶望のどん底まで叩き落としたと言われる奴なんだけど、その邪王が崇拝していたのが冥界の神、シャトーブリリアントだったんだ。

まぁ、その名を呼ぶのは不敬とされ、別名でエルシャダイと言われてもいたんだけどね。


だから、2つの宗教が神霊と呼ぶシャダイは冥界の神、シャトーブリリアントを意味しているんだ。

ちなみに、この2つの宗教は死後の安寧を教義に入れている点が共通しているんだけど、死後の安寧を左右する、冥界の神だから当然の事なんだ。

つまり、この2つの宗教は冥界神を信奉する宗教で、本来は邪教として排斥されるべき存在なんだよね。


ちなみに、2つに分かれる前の名前は、聖魔銀十字団。

その後、ネビュロスが討たれた後も、その邪教は生き残る事になる。

その生き残りの1人がヨアヒムで、ヨアヒムは大衆の支配を目指し、厳しい戒律で人民の意志を奪う聖魔十字教団を作った。

一方でもう1人の生き残り、自由な破壊と暴力を望んだソドミーは、銀魔翼十字団を作り、好き放題に暴れ回った。

その一部が、この大陸に渡り、聖十字教団と銀翼十字団となったんだろうね。


まぁ、人民の支配と言うのは、支配者階級にとって都合が良いしね。

だから、聖十字教団は権力者と根付いて信者を増やし、発展してきたのだろう。

だからね、そういう意味ではカンピロバクター大司教の考えは正しい。

人を人形にするのも、邪教じゃ当たり前だしね。

むしろ、聖魔銀十字団から考えれば、逆に神父の方が間違っている事にもなるしね」


「いやでも、宗教とか関係なく、このカンピロバクターがいなければ、ジャルは浮気しなかったかもしれない。

そしたら、きっとアナとジャル、そしてピーチは死ななかったかもしれないんですよ?

そして神父さんも無事に生きていただろうし。

それなら、ミル兄さんアナとジャルに誤解されて戦う事がなかったから死ぬ事も……

だから、許せないんです」


「ふふ。

その意気なら大丈夫かな。

まぁ、できればもう少し殺気も欲しいんだけどね。

そしたら、私とアリスの事は気にせず、行っておいで」


「ハイ!」

僕はそう答えて部屋を出る。


ちなみに、魔石を換金しておいたので、宿を出る前に更に10日分の宿代を払っておいた。

カンピロバクター大司教かすぐに殺せるとは限らないし。

しかし、クロッコさんに教わった宿だからか、この宿はスラムの中にあるのにとても便利で、安全だった。

多分だが、この受付にいる女将さんもかなり強い。

いや、もちろん師父や師母とは比べ物にならないが、魔力無しの僕と互角くらいはありそうだ。


宿を出る前に女将さんに話しかけられた。

「坊やはクロッコの知り合いみたいだけど、1人スラムなんて歩いて大丈夫かい?

まぁそれなりに鍛えているみたいだけど、変な誘いには乗るんじゃないよ?」


「今のところ、クロッコさんの指を見せれば大丈夫みたいですよ?

まぁ最近では、この指自体を狙っている人もいますけどね……

それより、ちょっと人探しをしたいんですが、良い情報屋は知りませんか?」


「それなら……

サビィさんを訪ねてみたらどうかい?」

そう言って、女将さんはサビィさんの家を教えてくれた。

「ありがとうございます!」

僕は女将さんにお礼を言い、宿を後にする。

女将さんに教わった通りに進み……

スラムの更に奥、サビィさんの家はそんなところにあったが、なんとか無事にたどり着いた。


僕がドアをノックすると、「入りな」という声が聞こえる。

僕は慎重に中に入ると、中にいたのは全身タイツの顔が見えない人だった。

性別はわからない。

声も魔法で変えているみたいだし……


「お前がパンの王子様とか言われている奴か?

想像よりも小さなガキだな」


パンの王子様……

ああ、あれか。

そう、実は最近、僕は西地区の安いパン屋でパンを買い、スラムの瀕死の孤児に配っていた。

スラムには餓死しかけの孤児が沢山いて、なんとなく目の前で死なれるのが嫌でついつい渡してしまったのが始まりだ。

ただ、僕の収納に入れると栄養価が高いのか、ほぼ全員が元気になった。

飲み込む力が無くて死んだ2人を除いて……


パンも実は、大店の意地悪で営業妨害されている、可哀想なパン屋から格安で仕入れているんだけどね。

その店のパンは丁寧に作られており、普通に美味しいんだけど、収納に入れるとヤバイ味になる。

なので、孤児に集られて、若干面倒な事になってしまっている。

まぁ、孤児達も死にそうな奴を優先して連れてくるからいいんだけど……


「別に、ただの偽善ですよ?

そのうち、この街を出ると思いますし」


「まぁ、偽善だろうが、ペテンだろうが、死にかけのガキ共が助かってるんだ。

別に卑下する必要はねーさ。

それより、依頼があるんだろ?」


「はい、カンピロバクター大司教の居場所が知りたいんですが?」


「そんなん、情報屋に聞くまでもなく、大教会に居るに決まっているだろう?

まぁ、ただカンピロバクター大司教に近づくのは、難しいだろうな。

アイツの裏の顔は有名だからな……

常にテンプルナイトに囲まれ、なおかつ子飼いの暗殺者まで持っているしな。

復讐か?」


「復讐……

若干微妙ですが、仇討ちみたいなものです。

しかも、僕がカンピロバクター大司教を直接殺さないといけないんですが……」


「なんか訳ありか?

まぁいい、それならば情報料を寄越しな。

そうだな……

噂のパンをくれ!

天国行きとも言われる、幻のパンが食べてみたい」


そう言われ、僕は2個1ジルで買ったパンを、収納から出し1つ渡してみる。

サビィさんは、お腹あたりのタイツの穴からパンを入れ……

タイツの中を不気味に動かしながら、パンを口に持って行き、もしゃもしゃとパンを食べ始めた。


「なんじゃこりゃ!

繊細で豊潤な小麦粉の香りが溢れていやがる。

パンの膨らませ方、焼き加減、味付け、どれをとっても王都の一流店ですら足下にも及ばねー。

こんなん食ったら、もう他のパンは食えねーじゃねーか!

ヤバイ、ヤバイぞパンの王子様。

もう1個くれ!」


そう言われ、僕はもう1個のパンを出す。

パンで情報料を払えれば安いものだし。

サビィさんは相変わらず、気持ち悪い食べ方でパンを食べている。

なんか、見た感じでもしゃもしゃ感が伝わり、キモい。


「ふぅ。

ヤバイなこのパン。

パンの王子様が居なくなったら、餓死者が大量に出るぞ多分?

他のパンが食えなくなるからな。

いやマジで。



それはともかく、カンピロバクター大司教を殺したいなら聖騎士のボルツマンを当たってみな。

ボルツマンは北地区の詰所に居るから、行ってみるといいぜ。

ちなみに、ただ行くだけじゃダメだぜ、合言葉がいるぜ。

合言葉は……

そうそう、合言葉は野薔薇だ。


他にこの街の情報が欲しければまた来な。

ただし、パンだ、パンだパンを持って来い、絶対だぞ」


「わかりました、ありがとう。

次は沢山パンを仕入れておきますね」


「死ぬんじゃねーぞ、死んだら美味いパンが食えなくなるからな」

僕はサビィさんのその言葉を聞き、情報屋を後にするのだった。

そして、僕は北地区の聖騎士の詰所へと向かうのだった。

少年は殺しに行く。

仇討ちのため?

正義のため?

自分のため?

何が正しくて、何が間違っているのかもわからないままに……


次回 第72話 聖騎士とは

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