第69話 オールドワン
パキポディウムの魔石を収納した僕は、師父達の下に向かう。
自分でも驚いたんだが、僕はよく生きてたよな、ってくらいすごいクレーターができている。
そして、僕の身体は……
傷一つない。
魔力がほぼ満タンまで溜まっているから、そういう事なんだろう。
というか、魔力酔いで気持ち悪い。
吐きそうだ……
でも、またアシッドブレスは出したくないし。
ならば、魔石を吐けないか試してみる。
うっ、グェっ、ガ、ガ、ガ、ゲー
吐き出した吐瀉物の中には、魔石ではないが、綺麗な石が入っていた。
でも、凄く喉越しが悪いというか、気持ち悪い様な痛い様な……
とにかく、2度とやりたくない感触だった。
まぁ、綺麗な石は売れそうだし、取っておくけど。
僕は、吐き気が収まるまで休憩してから、師父達の下に向かう。
だだっ広いクレーターを一気に駆け抜けると、師父と師母がいる。
師父は、僕を見た瞬間に驚き、涙を流しながら僕を抱きしめる。
師父ってなんかいい匂いがするんだよな……
まるで母さんの様な?
逆に師母は父さんみたいな……
「無事でよかった!
あの爆破凄かったし、周りの火災も激しいし。
それより、シアンが逃げろって言ってくれなかったら、私もアリスも怪我をしていたかもしれない。
ありがとう。
シアンも怪我はないかい?
大丈夫かい?」
「魔力酔いはありましたが……
自動回復のおかげか、傷一つありませんよ。
大丈夫です。
ちなみに、パキポディウムってあんなに強いのばかりなんですか?
それとも、僕が弱いだけなのか……」
「いやいや、さっきのパキポディウムはかなり大きかったからね。
普通はさ、これくらいの掌サイズなんだけど、シアンが倒した奴は大木くらいだったしね。
まぁ掌サイズでも、魔法はかなり強いし、強敵ではあるんだけど、触手や自爆攻撃は初めて見たよ。
助けに行こうか大分迷ったんだけどね、シアン1人で倒せるって信じてたから……
ちなみに、アリスなら倒せなかったと思うし」
「あの股は無理、入らない」
師母は頷いている。
って言うか、何が入らないのだろう?
「それにしても、あんなに大きなパキポディウムがいるとはね。
ひょっとすると、メンデレーエフが造った最初の魔法生物かもしれないね。
そうだったら、伝説級の魔法生物だよ。
多分、私でもちょっと苦労したかもしれないし、シアンは凄いよ」
「いやいやいや、僕なんてまだまだです!
師父の足元にも及びません」
そんな事を話していると、突然師母の顔付きが厳しくなり、「何か来る」、と呟いた。
僕も気配を調べてみると……
来る!
凄く強い魔力と魔石の気配が。
しかも、速い。
下手すると、師父や師母に匹敵するレベルだ。
僕達は、すぐに武器を構える。
ちなみに、血抜き君はさっき毒の血を吸ったせいか、刀身が毒々しい紫色に変色している。
そして、そいつは現れた。
猿人?
とにかくデカイ、師父よりも背が高く、手足が長い。
「ヒバゴン……?
いや、あれはただの伝説だったはず……
それは別として、コイツかなり強い。
A級上位、いやS級クラスか。
ちなみに、アリスなら殺せるかい?」
「ギリ?」
ギリオッケーなのか、ギリ無理なのかわからないが、相当強いらしい。
そして、ヒバゴンはこちらを睨め付けると、怒鳴り声で語りかけてきた。
「嗚呼ん?
テメーらがダゴンを殺ったのかコラ!」
「ダゴン?
さっきの大きなパキポディウムの事かい?」
師父が答える。
「そうだよ、他に何か別のダゴンがあるんかコラ!
誰が殺ったのかって聞いてるんだよ!
サッサと答えろよコラ!
嗚呼ん」
「殺したって言うか、自爆みたいな?」
僕はそう素直に答える。
「嗚呼ん?
つまりダゴンを自爆まで追い詰めたって事か?
それは、コッチの細い魔法使いの兄ちゃんか?
それとも、ソッチの殺気ガムンムンの嬢ちゃんか?
俺は気が短いんだ、サッサと答えろよコラ!」
「ふふん、何を隠そう、私とアリスじゃなく、このシアンが1人でダゴンとやらを追い詰めたんだよ。
凄いでしょ?」
師父が何故か自慢気に答える。
「嗚呼ん?
このガキがか?
ダゴンも耄碌しやがったな。
確認するが、お前ら3人で戦った訳じゃないんだなコラ?」
「そうです」
僕はそう答え、頷く。
「嗚呼ん?
マジかよ、マジなのかよ?
こんなガキかよ。
まぁでもルールだから仕方ねー。
戦うのはお前だけだ。
お前ら2人は、消えな!」
ヒバゴンがそう言って、手を振ると、師父と師母が突然消える。
「師父達に何をした!」
僕は思わず叫ぶ。
「嗚呼ん?
別に何もしてねーよ。
ちょっと明日まで飛ばしただけだ。
時空魔法って知ってるか?
明日になれば、2人とも出て来るぜ。
まぁ、それまでお前が生きているかは知らねーけどな。
さて、古の盟約により、説明してやるよ。
俺様の名はクトゥグア、我が主人が生み出せし魔法生物、オールドワンの1柱なり。
我が主人が命により、ダゴンを倒した者に試練を与える。
さあ小僧、俺と戦え!」
「本当に、師父と師母は無事なんだな?
よかった……
ちなみに、盟約って何?
試練とか言われてもわかんないのだけど?」
「嗚呼ん?
面倒だなぁ。
まぁ、アレだ。
ダゴンを倒した奴がいたら俺様が相手するって決まりなんだよ。
決まりは決まりだからな。
文句あんのかコラ?
殺すぞ!」
うん、意味がわからないし、わからなくても殺しに来るという事がわかった。
師父達が無事、って言うのはなんとなく嘘じゃない気がする。
もちろん、目の前のヒバゴン、もといクトゥグアを倒さなければ確認すらできずに、僕は死ぬだろうし。
いや、むしろ僕が死ぬ可能性の方が高いか……
冗談抜きに、このクトゥグアは強い。
師父と師母の2人がかりなら殺せるかもしれないが、僕が相手できるレベルではない。
かと言って、クトゥグアが逃してくれる可能性はかなり低い。
というか、逃げたら確実に殺されるだろうな……
ならば、全力を尽くすしかない。
僕は思考加速と身体強化の魔法を限界までかける。
そして、紫色に怪しく光る血抜き君を構える。
その瞬間、何か来る!
咄嗟に右に避けたが、衝撃波で左の耳に痛みが走る。
耳たぶには異常がないから、鼓膜が破れたのかもしれない。
まぁ自動回復するだろうけど、音が若干聞こえにくい。
「俺様の一撃を避けるとは、お前ガキのくせにやるじゃねーか。
まぁその褒美に教えてやるぜ。
俺の身体はな、全身がこういう風にゴムみたいに伸びるんだぜ。
ラバーマニア、それが俺様の特性だ。
さて、次の一撃も避けれるか?
嗚呼ん?」
そう言って、クトゥグアは腕を後ろに振り、伸縮の反動で超高速のパンチを放つ。
耳の感覚が変なせいか、今度は避けられない!
僕は全身を硬化させ、クトゥグアのパンチを受ける。
そして……
僕は思いっきり吹き飛ばされた。
クレーターを越え、更に奥の森まで吹き飛ぶ。
全身が痛い。
腕は……
完全に折れている。
って言うか、両腕とも粉砕されている。
内臓はギリ大丈夫だからいいけど。
硬化させてなかったら、多分全身が粉砕されていただろう。
クトゥグアは、すぐにこちらに向かって来る。
「なんだ小僧、生きてやがったのか?
しぶといガキだな。
サッサと死んだ方が楽だぞコラ!
まぁ、しかしダゴンを倒したって言うのもあながち間違いではなさそうだなぁ。
しかも、もう回復するとか、人間か本当に?
だかよ、お前に勝ち目は無いぜ小僧。
俺様はこの通り全身が柔らかいからな、攻撃だけじゃなく防御も完璧だぜ。
諦めて降伏しな。
そしたら、楽に殺してやるからさ。
お前も痛いのは嫌だろ、嗚呼ん?」
確かに、今の僕にこの相手は勝ち目がないだろう。
あまりこの方法はやりたくないんだが……
仕方がない。
「ま、待って下さい。
降伏はできないけど、ちょっとだけ休憩させてくれませんか?
お願いします」
僕は身体が動かない振りをして提案する。
多分だけど、クトゥグアは口調はキツイが、性格は実は優しい系かもしれない。
それに賭けてみる。
「フン。
どうせ暇だしな、回復が終わるまでは待ってやる。
ただ、次に構えた時が、小僧お前が死ぬ時だぜ。
まぁ、俺様も随分長く生き過ぎたからな。
オールドワンも、俺様とお前が倒したダゴン、それにハスターが眠ってるくらいか。
俺様の人生最期の相手が小僧ってのも皮肉なもんだが……」
クトゥグアが喋ってくれている間に、僕は気づかれない様に暗示魔法をクトゥグアにかける。
猿と言う言葉に反応するように……
そして、起き上がると同時に、「猿は動くな!」と言霊を込めて怒鳴りつける。
狙い通りだ!
クトゥグアの身体は動かない。
僕はすかさず、全速力で斬りつける。
僕が立ち上がったのを見たクトゥグアは、驚いた顔をしながらも即座に反応して僕の斬撃を避ける。
しかし、かろうじて血抜き君の切っ先がクトゥグアの右手を擦り……
即座にクトゥグアの右腕が紫色に変色していき、腐り落ちた。
何アレ?
ちなみに、血抜き君の刀身はいつも通りの黒色に戻ったんだけど……
あまりの強毒性で毒が全身に回るよりも早く、腕が腐り落ちる方が早かったらしい。
あと少し毒性が弱ければ倒せていたかもしれないのに。
それはともかく、万策が尽きた……
どうしよう?
気分的には絶望的だが、諦める気にはならない。
とりあえず、構えを解かずにクトゥグアを睨みつけながら、再度暗示魔法をかけ続ける。
「小僧、貴様何をした?
答えろよコラ!」
威圧感のある怒鳴り声で、クトゥグアは聞いてくる。
「………」
それでも僕は、無言で睨みつけ続ける。
すると、クトゥグアは気が触れたのか笑い始めた。
ちなみに暗示魔法の影響ではないし、暗示魔法は多分効いていない。
「ククッ、ハハハ。
まぁ、自分の力の秘密なんて喋らないわな。
って言うか、余裕ブッこいてノコノコと喋っていたら殺していたぜ。
それは圧倒的な強者の権利だからな。
グハハハハ。
気に入ったぜコラ。
しかし、小僧貴様運が良いぜ。
俺の全盛期なら、最初の一撃で受け切れずに死んでいただろうからな。
まっ、それも含めて運命ってやつなんだろうなぁ。
ほらよ、これを持って行きな」
そう言ってクトゥグアは青い石の欠片を投げて渡す。
「コレは?」
僕が聞くと、クトゥグアは答える。
「それは、アニマだ。
まぁ、特別な鍵みたいなの物だ。
それを持って、フォーマルハウトのダンジョンに行ってみな。
行けばわかるし、説明はできないからな」
「貴方はまだ戦えるのに、何故コレを?
いや、もちろん戦えば僕が負けるのはわかっているんだけど……」
「不満か嗚呼ん?
殺しても良いけどな、そしたらアニマが渡せないだろうがコラ!
俺様の役目は強い奴にアニマを渡す事だしな。
それに、まぁどのみち後数日で死ぬ予定だったしな。 寿命って奴だ。
だから、小僧が最期の相手で丁度良かったんだぜコラ!
って事で、コイツもやるよ」
クトゥグアはそう言うと、左手を自らの胸に突き刺し、魔石を抜き取る。
??
何をしているんだ?
自殺行為だろ!
そして、高純度でキラキラ光る美しくその魔石を、クトゥグアは僕に投げてよこす。
「小僧、貴様は俺様が認めたんだからよ。
頑張れや」
そう言って、クトゥグアは森の奥に消えていき、魔力の気配も無くなった。
死んだ……
のだろう?
潔い、クトゥグアらしい死に方、なのかもしれない。
僕が死ぬ時もあんな感じにできるのだろうか?
それはともかく、師父達は本当に大丈夫なのだろうか……
少年の心配をよそに、待ち人は現れる。
その命の炎を散らしながら……
次回 第70話 師の帰還




