第68話 魔法生物
「そういえば……
結局、アリスが見に行った強い魔物の反応の正体は何だったんだい?」
師父の問いに、師母が答える。
「嫌なまた」
「またゴブリンですか?」
僕が質問すると、
「否、ただのまた」
「うーん、股っぽいアレの事かな。
アレがいるなんて、珍しいね。
アレは、まぁ色々厄介だけど、逆にシアンなら丁度良いかもしれないな、まぁアレだったらだけど。
ちなみに、アリスが倒しちゃったのかい?」
「面倒」
「だよね〜
倒せなくはないけど、アリスとは相性悪いしね。
無理に倒す必要もないしなぁ。
でもまぁ、シアンの修行にはピッタリプランだから行ってみようか?」
「プラントのプラン、ぷぷ」
「ハイ!
というか、またって結局なんなんですか?」
「行けばわかるから大丈夫。
じゃ、行ってみよ〜」
僕は師母の先導で、次の敵へと向かう……
相変わらず、師父と師母は速い。
そして、僕は途中で魔力が切れ、身体強化魔法が解けてしまう。
仕方ないので、普通に走るのだが……
体力を消費するし、疲れも溜まってきた。
ゴブリンとも連戦だし、あんな強そうな魔石の気配の敵を倒せるだろうか?
とりあえず、ちょこちょこと休憩を挟みながら、僕は師父達の下に辿り着く。
「遅くなってすみませんでした。
途中で魔力が切れてしまって……
ゴブリンの魔力程度だと、あまり魔法が使えないので、節約が必要かもしれませんね」
「まぁ、それは仕方ないけど、御利用は計画的にね?って諺もあるから注意してね。
でもまあ、今回は魔力は心配しなくていいよ。
やっぱりアレだったし。
アレを見てごらん」
師父の指す先には、2本の脚というか太腿が、地面から生えている様な、胴体が落とし穴にはまって逆さまになった様な、樹の様なモノがある。
「確かに……
股ですね。
実は地面に魔物が埋まっているとかですか?」
「違うよ。
脚っぽいものだけの植物だよ。
アレは魔法生物の一種で、Bランク下位のパキポディウムって言うんだ。
まるで太腿の様な樹って意味らしい。
別名イヌガミケって言うらしいんだけど、田んぼに脚がハマった人みたいだしね。
正確には樹じゃなくて、サボテンとかアロエと同族で、多肉植物由来の魔法生物だよ」
「魔法生物と魔物って何か違うんですか?」
「魔物は昔からいる生き物だけど、魔法生物は人造の魔物って感じかな?
パキポディウムは、その昔に異端の魔導士メンデレーエフが創り出した魔法生物と言われてて、比較的有名だったりするんだよ。
何で有名かって言うと、完全に魔法特化の魔法生物でね、対策ができないと最強だし、対策できればかなり弱いんだよ」
「なるほど、人が造ると魔法生物なんですね。
ところで、対策ってどうするんですか?」
「対策は主に魔法対策だね。
パキポディウムは火と氷と雷属性の魔法を使うし、謎の属性のバリアを張る事ができる。
しかも、触手に触れると洗脳魔法で精神が汚染されると言う極悪仕様でね、魔法消去か魔法防御ができないと倒すのは難しい。
実際、アリスが昔戦った時は、三日三晩遠距離攻撃で削るしかなかったって事があったしね。
まぁ、私なら魔法防御で強引にねじ込んで倒せるけどね〜
って事で、魔法対策のない数多くの強者を屠っている反面、魔法対策ができればあんまり強くない冒険者でも倒せてしまう、そんな意味で有名なんだよね。
ちなみに、魔法生物だから、魔石はかなり貴重でね、高く売れるって理由もあるんだけど。
それと、面白い事に肥料になる糞尿を与えると、大人しくなるって性質もあってね。
案外こんな僻地で、ゴブリンと共生してるなんて事もあるんだよ。
場所によっては守神として崇拝される事だってあったらしいよ?
まぁ、そう言う事で、シアンなら倒せるから行ってみよう!」
師父にそう言われ、僕はパキポディウムの前に出る。
うーん、かなりデカイな。
大木って言ってもいい大きさだ。
そして、僕が近づいた途端に、パキポディウムは火の玉を放ってきた!
紅蓮の火球は正確に僕に向かってくる。
しかし……
多少速いが、師父の魔法に比べれば大した事はない。
僕はちょっと火傷しただけで、パキポディウムの魔法を全て吸収する。
火が効かなかったと悟ったのか、パキポディウムは次に無数の雹弾を飛ばしてくる!
と言っても、散弾的ではなく、一方向だけなので、小さな魔法障壁で受け止めて吸収していけばノーダメージだ。
そして、次は雷撃だったのだけど、これが一番厄介な攻撃だ。
何故なら……
攻撃が全く定まっておらず、無作為に雷が落ちるから、受けるのが難しい。
実際、10発撃って、僕に当たったのは1発。
とはいえ、後ろ斜めからの不意打ちなんて、魔力が読める人じゃなきゃ避けれないだろう。
それに、ランダムで当たらなくても、目の前でピカピカするし、バチバチ音がして五月蝿いから、魔力を読むか、広範囲の結界を張らないと厳しいかもしれない。
そんな事を考えていたら、雷撃の合間を縫って火球が飛んできた。
僕が動いていないからかもしれないが、かなり正確な狙いだなぁ。
とにかく火球は魔力として吸収し、雷は向かってきたやつだけ対処しているが、相手の魔力が枯れる気配もなく、膠着状態が続く。
雷か……
確か、高い所に落ちやすかったよなぁ?
ならば、僕は血抜き君を引き抜き、頭上に高く掲げてみる。
すると、雷撃は血抜き君に引き寄せられる様に落ち続ける。
流石血抜き君だ、この程度の雷撃なんてビクともしない。
しかも、血抜き君を通じて魔力に変換すると、効率が良いらしい。
まぁ、火球は別途避けるか、蹴りで受ける必要があるけどね。
そんな感じで暫く魔力を吸収していると、限界の半分くらいまで溜まってきた。
あんまり欲張ると、かえって体調を崩すから、僕は身体強化魔法をかけ、雷撃と火球を避けながらパキポディウムに向かう。
途中、謎のバリアは直接魔力を吸い取って消す。
これで後は魔石を奪うだけ……
しかし、そうは問屋が卸さないみたいだ。
パキポディウムは触手で攻撃してきた。
速いし、威力も高い!
あれ?
魔法以外は弱いんじゃなかったのか?
鞭の様にしなる攻撃が4本、絶え間なく攻撃は続く。
身体強化魔法がかかっているから、なんとか避ける事は出来るけど……
結構キツイ。
上下左右から緩急織り交ぜて迫り来る攻撃に、避けきれない!
僕はついに脚を掴まれてしまう。
そして、逆さ吊りにされ、洗脳魔法らしき魔法を触手から流し込まれる。
肥料、糞尿、腐乱死体、腐葉土、屎尿、肥溜、糞、糞、糞、フーン!
鬱陶しい声が頭に響くが、全然効かないんだよ!
僕は洗脳魔法を魔力に変換し、吸収する。
更に、触手内に内在する魔力を風属性で暴走させる。
一瞬で触手が消し飛び、僕は地面に落とされた。
頭から落ちたから、違う意味でヤバかったが、なんとか受け身をとり、地面を転がる。
パキポディウムは、植物のくせに痛いのか、触手を無軌道に振り回している。
アレが当たったら痛いな、多分。
とはいえ、3本だし、狙いが定まっていないから避けられない事もない。
ギリギリで避け、収納から手斧を取り出して触手を根本から切り落とす。
残り2本、もう余裕かなって思ったら、今度は狙いが正解になってきた。
とにかく、ひたすら避けて、パキポディウムの隙を伺う。
そういえば、バリアを越えてからはパキポディウムは魔法を使ってこないな……
ひょっとすると、自滅しない様にしているのかもしれない。
こう見えて、高度な知能があるのかも?
ならば……
催眠魔法で眠れと命じてみる。
完全には効いていないが、触手の動きが鈍くなった。
このチャンスを活かし、僕はパキポディウムの触手を2本とも切り落とす!
これで攻撃手段はないはず。
そう思った僕は、ついつい油断して近づいてしまう。
そして、パキポディウムの本体に手斧を振りかざそうとした瞬間、下から何か来るのを感じる!
ギリギリで避ける事ができたが、地面から突き出た根っこに左腕を刺されてしまう。
しかも、毒を喰らった!
一旦下がるも、左腕は刺された部分が蒼くなり、そして蒼い部分はどんどん広がっていく。
左腕を斬り落とすか?
いや、そんな事をすれば戦えない。
ならば……
僕はまず、幹部を血抜き君で抉る。
痛い!
なんか普通のナイフで切るより痛い様な……
しかし、毒で汚染された血液も吸ってくれたみたいだ。
もうほとんど毒は残っていないが、僕は傷の回復とキュアの魔法、毒や病気を治す魔法をイメージして治る様に念じる。
暫くして、完全に治り、毒も消えた様だ。
ちなみに、触手を無くし、根の攻撃しかできないのか、パキポディウムは近づかなければ襲ってこない。
魔法も使わないみたいだし。
再び僕が近づくと、根の攻撃を繰り出してきた。
しかし、ネタが割れれば師父の修行より大した事はない。
しかも、手斧で斬り裂けるしね。
少しの間、僕が根を避けながら斬り裂いていると、次第に根の攻撃すら出さなくてなってきた。
ネタ切れか?
いや、なんだか嫌な予感がする。
パキポディウムの身体に、とてつもない魔力が……
あれって、自爆じゃ?!
そう思った瞬間、僕は魔力で体表に障壁を張りながら、師父達にも「逃げろー!」、と叫びながら後ろに走る。
そして、そのすぐ後で全身が光に包まれ……
「だからさ、もう来るなって言ったよね?
そろそろいい加減にしないと、彼岸に送るよ?」
目の前にはネムティのお兄さんがいる。
彼岸にはアナとジャルとミル兄さんは居ないらしい。
成仏したのかな、良かった……
それはともかく、今回は死にかけてないつもりだったんだけどな……
まだまだ修行が足りないらしい。
「すみません!
相手がかなり強かったもので……
植物相手で言霊も効かなかったし。
次は頑張ります!」
「いや、普通はさ、死んだら頑張れないし。
なんか気が抜けるからいいや。
サッサと帰りなさー」
「ハイ!」
僕が返事をすると、再び意識は……
立ち上がり、振り返ると、目の前には巨大なクレーターができていた。
周りは焼けただれ、師父達は消火活動をしているらしい。
そして、中央には巨大な魔石が一つ。
僕の身長より大きい、こんなの見たことないや……
僕は、あまりの美しさに、一瞬息すら忘れてしまう。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかないし……
僕は、魔石を収納し、思わず
「猛将李典、討ち取ったり!」
あわ、間違えた。
「パキポディウムを取ったどー!」
と、叫ぶのだった。
偉大なる魔導士がかつて造った生物
強力で尊大なそのモノは少年に更なる試練を与える。
次回 第69話 オールドワン




