第67話 疾風の様に
再度確認するが、敵はボスゴブリンを含め8匹。
しかも、ボスを中心に防御の陣形で構えている。
今までなら、一旦引いて夜襲をかける。
もしくは挑発して、おびき出して数匹を削り、最終的にはボスと一対一で戦う。
だが、今回は修行の一環だし、師父が見ている。
多分師父なら、魔法の一撃で全滅させる事ができるだろう。
師母なら、8匹を一瞬で惨殺するだろうし。
だから、僕は引く事ができない。
せめてスモークが残っていれば……
まぁ、スモークも武器っぽいし、使用していいかわからないんだけど。
とにかく、できるだけ正攻法で8匹を倒す。
そのためには、よく観察しなければ……
前衛の3匹は木の盾を装備している、武器は持っていない。
その後ろに、長剣を持ったゴブリンリーダーが1匹。
更に、ボスゴブリンは、フライパン?
丸い鉄板のついた不思議な武器を持っている。
まぁ、ちょっと柄が長いからフライパンではないだろう。
ボスの左右には、短剣を装備したゴブリンが2匹ずつ。
しかも、お互いが邪魔にならない位置で、隙がない。
少なくとも、陣形を崩さないと……
囲まれて死ぬ。
身体強化の魔法は……
魔力が少ないから、8匹倒す間は保たない。
特にボス相手にとても保つとは思えない。
それなら、ヒット&ウェイを試してみるか?
僕は、敵が攻撃してこないだろう位置までゆっくり進み、一気に駆け抜け手前の盾ゴブリンに、盾ごと片足で前蹴りを入れる。
盾ゴブリンはぐっと堪え、一瞬持ち堪えられるかと思ったが、すぐに2発目を喰らわすと、後ろに倒れた。
僕は……
即座に倒れた盾ゴブリンの脚を掴み、引きずりながら引っ張っていく。
ゴブリン達が反撃する前に、その場から離れ、引きずられて瀕死のゴブリンから、ありったけの魔力を吸収する。
次は……
僕が近づくと、盾が引いてゴブリンリーダーが斬りかかってきた。
僕は、上からの斬撃を避け、ゴブリンリーダーの腹を殴りつけた後、怯んだゴブリンリーダーを後ろに投げる。
そして、盾で挟み込もうとしてくるゴブリン2匹をバックステップで避け、振り向いてダッシュで逃げる。
倒れたゴブリンリーダーの脚を引っ張りながら。
ゴブリン達は意味がわからないのか、すぐには追ってこない。
それはそうだろう、ゴブリン達は自分達が捕食者で、人間に食べられるとは思っていない。
それに、相手が吸血生物ならともかく、人間にエネルギーを吸われるなんて想像もできないだろう。
そんな事を考えていると、ボスゴブリンが咆哮を上げ、左右に居たナイフゴブリンがこちらに向かって走り出した。
ゴブリンリーダーを救いにきたのか?
4匹同時、いくら雑魚ゴブリンでも、ちょっとミスれば大怪我する可能性もある。
だが、4匹が本当に同時なら、だけどね。
実際は、4匹の走る速度に個体差があり、1匹ずつ戦える。
丁度ゴブリンリーダーの魔力を吸いきった辺りで、最初のゴブリンが到着する。
そして、僕は回し蹴りでゴブリンの頚椎を蹴り抜く。
うん、死なない程度に気絶させる事ができた。
次いで、手刀で2匹目を、懐に入りアッパーカットで3匹目を気絶させる。
っと、4匹目は後ろからナイフを投げてきやがった。
と言っても、今の僕は魔力の気配を察知できるから。
投げてくるのがわかれば、避けるのも造作無い。
まぁ、心臓直撃じゃなければ死なないけど、できれば痛いのは避けたいしね。
しかし、近接で勝てないと判断したとは言え、一個しか無い武器を投げるとは……
しかも、避けた先で爪の斬撃を放ってくるとか、この集団かなり戦闘慣れしている?
まぁ、それでも僕の様なタイプは初めてなんだろう。
ふふ、初めてじゃなきゃとっくに全滅してここには居ないか。
4匹目の爪の斬撃を避け、やはり回し蹴りで気絶させる。
ん?
戦闘中で気づかなかったが、ボスゴブリンと盾ゴブリンは幼体の方に逃げたらしい。
ひょっとして、さっきの4匹すら囮か?
だからナイフすら捨て、文字通り捨て身って訳か。
とりあえず、ボスゴブリン達はこちらに来る様子がないので、僕はゆっくりと気絶したゴブリンから魔力を吸収する。
充分ではないが、そこそこは溜まったな。
これならボスゴブリンでも、戦えるだろう。
そう思い、僕はボスゴブリンの方に向かう。
しかし、やはり戦い慣れているのか、それとも団結が強いのかはわからないが、今度はボスゴブリンが単身で前衛に立ち、残りのゴブリンは幼体を護っている。
ゴブリンのくせに……
それはともかく、ボスゴブリン以外では勝てないと思ったのか、単身で構え、こちらを睨んでいる。
そして、ボスゴブリンの間合いに僕が入ると、フライパンの様な武器を両手で持ち、一旦頭上に上げると、「グルワー!」という叫び声を上げ、ジャンプしながら僕に叩きつけてくる!
流石にアレを喰らったら痛いだろうな……
僕は、咄嗟に身体強化魔法をかけ、ボスゴブリンの全体重が乗った強烈な一撃を、両手の手のひらで強引に挟み込んで、フライパンの様な武器の丸い鉄板部分を起点に、相手が地面に着地する前に捻る!
あれ?
ちょっと力を入れすぎたかな?
ボスゴブリンの腕が回転の勢いで捻り切れ、ボスゴブリン自身も回転しながら地面に叩きつけられた。
そして、手元にはボスゴブリンのフライパンみたいな武器と、千切れた腕。
あっ、これは武器を使った内に入らないよな?
まだ腕が付いてるし……
しかし、念のため武器は空間魔法で収納する。
証拠隠滅っと。
ボスゴブリンは、かなり瀕死の状態だが、生きてはいるらしい。
と言っても、腕がないから立てず、のたうち回っているだけだが。
ボスはやはり魔力が多めなので、ゆっくりと時間をかけて魔力を吸い取る。
他のゴブリン達は、ボスがやられているのを只々見ている。
ボスで勝てない相手には勝てないと諦めたのか、ボスから手を出すなと言われているのか……
まだ逃げ出すくらいならいいのだけど、何もしないで見ているつもりか?
なんか、虫酸が走る。
ボスか死んだ後、僕は帰る振りをするのだが……
「追ってこないのかよ!」
なんとなく腹が立つ。
そして、僕は身体強化魔法をかけ、全速力で残り7匹の所へ。
ゴブリン達は緊張の糸が切れかけたのか、構えを緩めていた。
そんな状態で、僕の奇襲に耐え切れる訳もなく……
ゴブリン達は一瞬で全員、僕の手刀で首を刎ねられ死んでいった。
「ふぅ」
僕は一つ溜息をついて、冷静に周りを見渡す。
自分で言うのもなんだが、一瞬だったな。
魔力もそれなりに残っているし。
身体強化魔法のおかげか、ゴブリンの首は泥の様にスルリと斬れた。
いや、もちろん血抜き君を使えば造作無いが、ただの手刀だぞ?
しかもかなり鋭利に斬れている。
これなら、魔力があればかなりの数を相手にできるのかもしれない。
まぁ、あんまり無理はしたくないんだけどね。
そういえば、久しぶりのゴブリンだったけど、血抜きを使っていないのでなんか……
拗ねている気がする。
そろそろ血抜き君にも血を吸わせないと、斬れ味が落ちるしな。
とりあえず、ゴブリンの死骸は無視して、師父の下に戻る。
どうやら師母も帰ってきたみたいだし。
「シアンお疲れ、なかなか面白い戦いが観れたよ。
ちゃんと相手の力量を見極めながらの、良い戦いだった。
魔力の補充も適切にできていたしね。
しかし、相手のゴブリンも統率された動きをしていたよね。
まぁ、私達だといつも一瞬で終わっちゃうからよくわからないんだけど、ゴブリンってアレが普通なの?」
「多分、ボス次第だと思います。
普通はあんまり頭が良くないはずなんですけどね。
マザーもいないし、色々と縄張り争いから生き抜いてきたのかもしれません。
ちなみに、まだ幼体のゴブリンが残っているんですが……
血抜き君に血を吸わせてもいいですか?
定期的に血を吸わせないと、斬れ味が落ちるので。
幼体だけなら武器を使ってもいいですかね?」
「血を吸わないと斬れ味が落ちるの?
まぁ、別に良いんだけど……
やはり、そのナイフ、普通じゃないね。
とりあえず、シアンはそのナイフに操られてないんだよね?
正気なら、良いと思うよ?」
「ん?
大丈夫ですよ。
アメンボ赤いなアイウエオ
って言えますし、正常です。
確かに今日の血抜き君は、血に飢えている気がしますが、腹減ってるならほら土でも喰ってろ」
そう言って、僕は血抜き君を抜き君を地面に突き刺す。
「ね?
操られていたら、こんな事しないですよ。
だから、大丈夫ですよ」
「わ、わかったよ。
シアンを信じるよ……
でも、なんだか怖い雰囲気がするから、ナイフは地面から抜こうか?
それに、幼体でも逃すと人の害になるしね。
最後まで倒してきてね」
「ハイ!」
僕はそう返事して、血抜き君を地面から抜いて幼体の所に向かう。
「さっくり殺して血を抜いて〜♪
魔石を奪って帰りましょ♪」
僕は、なんとなく気分が上がり、思わず鼻唄を歌ってしまう。
ちなみに、ゴブリンの幼体達は穴蔵の中に居て出ていない。
まぁ、ボスゴブリンの死骸で塞いであるしね。
僕は、ゴブリン達の死骸から魔石を奪い、ボスゴブリンの死骸を退ける。
ゴブリンの幼体達は出てこない。
それならば……
「ちゃらららっちゃちゃらら〜ん。
ウサギの死骸〜」
僕はウサギの死骸を取り出し、穴蔵の前に置く。
すると、臭いに釣られたのか、ゴブリンの幼体達がゾロゾロと出てきて、ウサギの死骸を貪り食べ始める。
かなり飢えていたらしく、それはもう醜い奪い合いとなるのだが……
それはともかく、端っこの奴らから1匹ずつ血抜き君に血を吸わせていく。
と言っても、幼体だし1刺しで終わりなんだけどね。
しかし、周りの仲間が死んでも気にしないで食べ続ける姿は、若干異様に見えた。
ひょっとして、収納効果で良化されたのが影響しているのかもしれない。
それならば……
敵をおびき出す餌としても優秀なのかもしれない。
そして、僕は意気揚々と師父達の下に戻るのだった。
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ワシは小さなゴブリンの集落で鹿の腹から産まれた。
特別身体が大きいわけでも、力が強いわけでも、特殊な能力があるわけでもない、ただの普通のゴブリンだった。
しかし、ある日人間共の冒険者に集落を襲われ、仲間を殺された。
ワシは偶々狩に出ていたため無事だったのだが……
それからワシは流浪し、少しずつ仲間を増やしていった。
もちろん、順風満帆というわけではなかった。
同族との縄張り争いに負けたり、人間から逃げるため何度も何度も土地を転々としていった。
そして、やっと見つけた安住の地。
ここは人里から離れているから、人間共が来る心配はほとんどない。
それに、少し離れてはいるが、あそこには口にするのも恐ろしいアレがいる。
最も、アレですら定期的に供物を捧げれば、滅多に襲って来ることもない。
ここは、大丈夫、ゆっくりと仲間を増やし、力を蓄えればいい。
それに、この武器、モホロビチッチさえあれば、怖いものはない。
……はず。
いやまぁ、ちょっとは覚悟していたんだが……
その日現れたのは、人の幼体だった。
何故こんな場所に?
と思わなくもなかったが、ワシにも同胞にも、それは餌にしか見えなかった。
実際は悪魔とも知らずに……
そして、分不相応なモノに手を出した報いか、同胞達は無残に死に絶え、そしてワシも……
ソレは確かに、初めて見る生き物だった。
少年は、そのよくわからない生き物と死闘を繰り広げる。
次回 第68話 魔法生物




