第66話 久しぶりのアレ
朝になり、ハッと目が覚める。
僕は死んでいない。
生きている。
一方で、昨日の事も夢ではないらしい。
僕はテントを出て、薄っすらと曙色に染まる朝焼けを見ていた。
もちろん、冬の朝は寒い。
でも、今はその寒さすらも、生を実感させてくれる。
ちなみに、昨日は比較的昼が暖かく、雪は止んでいた。
あと少ししたら春節祭の時期だ。
そしたら僕は12歳だ。
でも……
もうアラバ村へは、父さんと母さんの居る家には帰れない。
というか、あれだけ被害が出た後だ、春節祭どころではないのかもしれない。
いつも通り、朝練で身体の動きを確かめた後、師父と朝食を作り、って僕は収納して出しただけだけどね。
ふと、師父達にも春節祭の事を聞いてみる。
「もうすぐ春節祭ですね。
お二人も何かお祝いとかするんですか?」
「春節祭?
ああ、この辺りの国は春に祭を開催するんだったね。
私達のいた国では、そういう風習はなかったからねぇ。
どんな風にお祝いしてるんだい?」
「えっと、みんなで料理とか飾り付けをして、年齢が上がった事をお祝いするんです。
いっつも村長さんの話が長くて、母さんのとっておきの料理や父さんのイノシシの丸焼きとか、幼馴染のボッツやエルミとたわいない話をして、大人達はベロンベロンに酔っ払って、アルフ兄さんとラーナはアナとジャルと楽しそうに……
でも、今年はもう……
えっと、暗い話になってごめんなさい」
「いや、気にしなくていいよ。
そういえば今更なんだけど、シアンは今年で何歳になるんだい?」
「えっと、今年の春節祭で12歳ですよ」
「えっ?!
ハンターって12歳でなれるの?」
「一応、規定では9歳から養成所に入れるし、卒業したので大丈夫です。
ただ、実際は15歳まで見習い扱いらしいんですけど、ヤーフルさんっていう養成所の先生が居なくなってしまったので、友達とパーティーを組んで銅級のハンターをやっていました」
「いやでも、いくら規定でオッケーだからって9歳にハンターなんて普通やらせないよ?
って言うか親は許可したんだよね。
普通なら猛反対されると思うんだけど?
少なくとも私なら止めるよ」
「ええ、実際に親には凄く反対はされたんですけど……
僕が諦められなかったから。
でもでも、家の手伝いをしながら、筋トレや訓練をしたら許してもらえました。
最初は腕立て伏せ10回ですらきつかったんですよ?」
「まぁ、シアンが粘ったならしかたないか。
それに、アリスも早いうちから仕事してたしね……」
「10歳で村を出て、12歳で仕事を始めた」
「師母は何の仕事をしていたんですか?
冒険者とかですか?」
「暗殺者」
「まぁ、アリスは私に会って、暗殺に失敗したから暗殺者を廃業したんだけどね。
ちなみに、私は15歳まで仕事なんてした事なかったから、2人とも凄いね」
暗殺者って冗談かと思ったら本当らしい。
師母は元暗殺者、なるほど、それならあの動きができてもおかしくない。
というか、暗殺者には師母クラスがゴロゴロいるのだろうか?
うん、暗殺者には関わらない様にしよう。
「ちなみに、師父は何の仕事をしていたんですか?
やっぱり魔法士ですか?」
「私?
私はなんか、いきなり将軍、みたいな?
まぁ、しがない小国の将軍なんてお飾りみたいなものだけどね。
それはともかく、今日は魔物を倒しに行ってみようか。
そろそろハンターらしい修行もしないとね」
「はい!」
久しぶりの狩だ。
ちなみに、師父が将軍ってのは、なんとなくスルーしておいた。
何か詳しく聞くなってオーラだったし。
朝食を食べ、荷物を片付ける。
と言っても、収納魔法が使える様になったため、簡単に片付けられるし、量も沢山持っていける。
だから、僕は血抜き君だけと言う、非常に軽装で出かけられる。
「準備はできたかい?」
師父に聞かれたので、「大丈夫です!」と答える。
「それじゃ、北の方角に向かってみようか」
そう言うと、師父と師母は走り出す。
僕も、身体強化魔法を発動し、ついていくが……
2人とも早すぎる。
すぐに2人が僕の視界から見えなくなるくらいに。
まぁ、魔力の気配はちゃんと追えてるけど。
そして、ゴブリンの集落らしい気配のする所の手前で止まり、待っている様だ。
僕は、息も切れ切れで、なんとかたどり着き、師父に聞いた。
「この先のゴブリンを倒しに行くんですか?」
「まだ少し離れているのに、ゴブリンがいるって良くわかったね。
やはり、感知能力は桁外れみたいだね。
ちなみに、ゴブリンは何匹いるかもわかるのかい?」
「ボスゴブリンが1匹、マザーはいません。
ゴブリンリーダーが3匹で、ただのゴブリンは15匹です。
それと、右奥の洞穴に幼体が10匹いますね。
あと、ゴブリン達の北東に強い魔石の気配が……
アイルロポダくらいの魔石の大きさかな?
でも、気配はアイルロポダではないです」
「なら、シアンはここでゴブリン退治で、アリスは北東のモンスターを見てきて。
ちなみに、シアンが倒せないレベルのモンスターならアリスが倒して良いよ」
「りょ」
師母はそう言うと、北東に向かって颯爽と駆けていく。
師母って足音がしないんだよな……
あんなに速いのに不思議だ。
「それじゃ、シアンはまず魔力を消して、空っぽにしてくれるかい?」
師父にそう言われ、僕は魔力が消える様に念じ、体内の魔力を消滅させる。
魔力なしはちょっと久しぶりだな……
まぁでも、身体強化すればゴブリンなんて瞬殺になってしまう。
だから、魔法は使わないようにと言う事なんだろう。
しかし、冒険者の死亡原因の1番はゴブリンだと言われている。
まぁ、1番数が多い魔物だから仕方ないのかもしれないが、初心者だけでなく、中級、上級の冒険者だって死ぬ事がある。
理由は魔力や体力切れとか、油断や数の見誤りとかいくつかあるんだけど、総じて過信はいけないと言う事らしい。
まぁ父さんからの受け売りだけどね。
それに、今はウイングブーツの効果が使えないし……
なので、初心に戻って血抜き君で1匹ずつ、そう考えていたのだが。
「ちなみに、武器の使用も禁止ね。
素手だけであのゴブリン集団を退治してみて」
「えっ!
そんな、相手は低級とはいえ魔物ですよ?
相手だって武器を持っているし、鋭い爪や牙だってある上に、筋力も人よりも強いんですよ?
魔法もなしでどうやって倒せって言うんですか」
「まぁ、今のシアンなら余裕だと思うけどね。
とりあえず、近くにいるゴブリンをよく見てごらん」
僕は、師父にそう言われ、ゴブリンの集落に向かっていく。
そして、いた!
1匹のゴブリンが地面を掘って餌を探している。
僕は、そのゴブリンに気づかれない様に隠れながら近づき、観察する。
ゴブリンをよく見ると、魔力が全身を巡っている。
前に師父が言った通りだ!
それならば……
僕はできるだけ静かに、ゆっくりとゆっくりと、ゴブリンに近づいていく。
そして、後ろから首根っこを掴み、脚を払って思いっきり地面に叩きつける。
ゴブリンは、声を上げる事もできずに地面を這い蹲り、起き上がろうと抵抗するが……
やはり、魔力を吸えば力が入らないらしい。
そして、全ての魔力を吸い尽くすと、魔石の反応が消えてゴブリンは生き絶えた。
魔力は、師父の風刃の4分の1くらいか。
身体強化なら僅かな時間のみ、回復なら1回分と言ったところだ。
僕は一旦師父の所に戻る。
ちなみに、さっき殺したゴブリンは集落から少し離れていたため、他のゴブリンは気づいていない。
「師父、ゴブリンから奪った魔力はどうしましょうか?」
「魔物から奪った分は、シアンのだから自由に使って良いよ。
これからも、相手から魔力を補充しながらの戦闘が出てくるだろうしね。
ただし、相手の数をちゃんと計算して、効率良く使ってね。
魔力切れの時に囲まれたら最悪だからね」
「わかりました!
でも、次の1匹はガチバトルにしてみますね」
そう言って、僕は別の弱そうなゴブリンの所に向かう。
今度は正面からだ。
このゴブリンも、他のゴブリンから離れ、地面を掘って餌を探している。
僕は、ゴブリンが気づく程度の軽い足音をさせながら、ゴブリンに正面から近づいていく。
ゴブリンは僕を見ると、獲物が来た!みたいな顔で舌舐めずりする。
そりゃそうだろう。
僕みたいな小さな子供が、武器を構えずに近づいてくる。
ゴブリンにとっては、食べやすそうな餌が呑気にやってきたように見えるだろう。
だから、楽勝だと思ったのか、それとも独り占めしたかったのかはわからないが、ゴブリンは仲間を呼ばずに一直線にこちらに向かってきた。
素早い動きと、鋭い爪の斬撃……
今まではそう思っていたのだが、師父達の修行の後では遅く感じる。
それに、魔力が感知できるようになり、視力以上に魔物の動きを察しやすくなった。
多分、ゴブリンくらいなら目を瞑っても攻撃を避けられるだろう。
僕は、ゴブリンの攻撃をヒラリと避けると、背中がガラ空きのゴブリンに蹴りを喰らわす!
この時、魔力を吸う力も込めてみたのだが、蹴りでも充分に吸えるらしい。
そして、ゴブリンは数発の蹴りを喰らうと、魔力が切れる前に事切れてしまった。
魔力が減って弱ったからか?
いや、僕の蹴りの威力が上がったからなんだろう。
ゴブリンは手や足があらぬ方向に曲がり、全身が痣だらけになっていた。
凄い……
師父と師母が強すぎて、あまり実感がなかったけど、僕も確かに強くなっているみたいだ。
しかも、あんな短期間でこんなに修行の成果が出るとは……
やはり、より上位の者に教わると成長率が高いのだろう。
おっと、そんな事を考えている暇はない。
ゴブリン3匹がこちらに向かっている。
さっきの戦いで気づかれたのだろう。
多分だが、様子見で3匹がこちらに向かい、幼体の守りに5匹が、残りはボスを中心に警戒網を敷いている。
ちなみに、油断なしでの前提でいうと、3匹までなら多分大丈夫だと思うが、それ以上だと囲まれ、ダメージを喰らう可能性が高い。
それに6匹以上だと、最悪死ぬ可能性も考える必要がある。
更に、ゴブリンリーダーやボスゴブリン、それと弓や魔法を使うゴブリンが入れば危険性は増えるだろう。
とりあえず、すぐに岩陰に隠れ、3匹のゴブリンが来るのを待つ。
といっても、ゴブリン達にはとっくに見つかっているので、隠れたのはバレバレだが。
それでも、岩越しに魔石と魔力の感知ができる、僕の方が有利だ。
ちなみに、ゴブリン達は左右の2匹が岩から周り込む作戦の様だ。
確かに、それならば僕を逃す可能性は低いし、どちらかが戦いになったら、真ん中のゴブリンリーダーが加勢するつもりなのだろう。
良く考えているな、僕が普通の子供なら間違いなく仕留められるだろうし、銀級冒険者でも1人なら危ないのかもしれない。
でもね、確かに僕は子供で見習いの冒険者だけど、あの2人の弟子なんだよ。
負けるわけにはいけない!
僕は、ゴブリン2匹が岩の左右に差し掛かった瞬間、岩を一気に駆け上がり、ゴブリンリーダー目掛けて飛び蹴りを喰らわせる!
流石に上からの攻撃は想定していなかったのだろう、ゴブリンリーダーは頭に強烈な蹴りを喰らい、絶命する。
そして、すぐさま右のゴブリンの後ろに回り、回し蹴りで首をへし折り、倒れたところに更に踏み潰す様に蹴りを入れトドメを刺す。
最後のゴブリンは、呆気にとられ、動けなかったので脚を掛けてうつ伏せに倒し、魔力を全て吸って殺す。
ただ、ハンターとしては、魔力を吸う攻撃は微妙かもしれない。
なぜなら……
一番高値で売れる魔石が劣化するからだ。
全部魔力を吸い尽くすと、魔石すらなくなるしね。
さて、残りはボス1、ゴブリンリーダー2、普通のゴブリンが11匹。
うち、ゴブリンリーダー1匹と、普通のゴブリン4匹は幼体の護衛に入っている。
問題は、ボス混じりの8匹をどう相手するかだが……
僕は魔石を回収しながら、考えをまとめるのだった。
少年は今できる限りの全力で、ゴブリンと戦う。
それが命懸けであっても、修行の成果を師に見せるために。
次回 第67話 疾風の様に




