第63話 中間試験
「何コレ?!
とんでもなく美味しくなっているんだけど?」
僕の収納魔法に入れたクッキーを食べた師父は、味が、香りが、深みが変わったと頻りに言っている。
ただ、師父のクッキーは元々かなり美味しく、正直僕には味の違いがわからなかった。
確かに食べ比べれば、なんとなく収納魔法に入れた方が甘みがまろやかで、小麦の香りが引き立っているんだけど、誤差みたいな物だし。
ちなみに、師母は味に関係なくボリボリとクッキーを大量に食べている。
「なら、この旅先で間違えて買ってしまった不味いパンを入れてみて」
師父に言われ、僕はボソボソで焼き過ぎの堅いパンを師父魔法に入れてみる。
そして、取り出してみると……
柔らかそうな、美味しそうなパンが出てくる。
一口食べてみると、普通に美味い。
師父のクッキー程ではないが、美味くなっている。
ならば、2回入れると?
残念ながら、あまり変わらない様だ。
一応、元のパンも食べてみるが……
見た目通り不味い!
「やっぱり、何故か知らないけど、シアンの収納魔法は良化する作用があるみたいだね。
コレは面白い作用だよ!
初めて見た!
って事で色々試してみよう」
そう言われ、僕は師父に言われるままに物の出し入れをした。
結論から言うと、武器は斬れ味が上がるし、防具は強度が上がるらしい。
食べ物は軒並み美味しくなる。
魔石は純度が上がり、魔導具の効果も増えるみたいだ。
ただ、壊れた物を治す事は出来ない。
壊れた状態で質が上がるだけだった。
実は僕が魔法の修行を始めたくらいの時に、パワーグローブやウイングブーツ等の魔導具は壊れ、機能を失っている。
だから、収納で修復できないかと思ったけど、無理だったのは非常に残念だった。
まぁ、身体強化魔法があれば不要ではあるんだけど、貰った時の嬉しさや思い出までが壊れたわけじゃないし……
そして、肝心の生き物は……
僕はウサギを生け捕りにして、収納魔法に入れてみる。
あれ?
どうやら、生き物は入れれるが、取り出せないらしい。
ちなみに、殺してから入れると、取り出す事ができるようになる。
もちろん、毛並みや肉質が上がって。
「ひょっとすると、原料から良化すれば更に美味しくなるんじゃないかな?」
師父に言われ、僕は小麦と砂糖を収納魔法に入れて良化する。
その後、師父はクッキーを作り、再びそれを収納魔法に入れて良化すると……
「これは凄い!
シアンは王都の五つ星レストランも開けるだろうよ!
もうこうなったら、一流の料理人とかを目指してみるかい?
実は私は昔、料理人に憧れた事もあってね」
「いやいやいやいや!
だから、僕はハンターになりたいんですって。
料理人とかは無理ですよ」
「まぁそうだよね。
冗談、冗談。
でも、これからは料理も手伝って貰うよ。
いいね?」
「それならオッケーです。
僕も美味しい物を食べたいし」
「それじゃあ、今日は台湾カレーにしよう!
なんで台湾と言うかは不明なんだけど、香辛料にたっぷり漬けた挽肉を入れた、辛い辛いカレーだよ」
そう言って、師父は米と香辛料、挽肉や野菜を僕に渡したんだけど……
野菜は取り出せなかった。
野菜って生きているのか?
まぁ、焼いた野菜なら取り出せるから、やっぱり野菜は生きている、そう言う結論になった。
米は脱穀して、乾燥させてあるから大丈夫みたいだけどね、
師父が料理した具材を、一旦収納した後で、取り出すと美味しそうな香りが漂ってきた。
ちなみに、温かい物は温かいままで、冷たい物は冷たいままで保管できるので、温かい料理をいつでも食べられるのはとても嬉しい。
そして、僕達はカレーを一口……
「「辛い!」」
「辛美味」
どうやら、辛味までかなりレベルアップしてしまったらしい。
正直、僕と師父には食べられないくらいに。
もう、味とか風味とかわからないくらいに辛いし、口の中はヒリヒリして、これ以上スプーンが進まない。
一方で、師母は平気で食べており、お代わりまでしていた。
やはり、師母は底知れないらしい。
とりあえず、僕と師父は大量のご飯に数滴のカレーををかける事で、なんとか食べる事が出来た。
確かに味は美味しいんだけどなぁ……
そして翌日、朝食後に師父が、
「今日は中間試験にしようか。
これをクリアしたら次はアリスの修行だよ?」
と、言ってきた。
僕が、「お願いします!」と言うと、師父は中間試験の説明をしてくれる。
「今から、土属性の精霊を土人形として召喚するからね。
シアンがその土人形を倒せば、中間試験はクリアだよ。
ただね、相手は土人形だから、斬撃はほとんど通用しないし、魔力が無くなるまで倒せない。
しかも、相手は剣の腕もなかなかだからね。
良く考えて戦いなさい。
それと、魔法は自由に使っていいけど、回復用の魔力は残しておく事。
私も、シアンが死なない様には気をつけるけど、出来るだけは自分でね。
それじゃ、頑張って」
師父はそう言うと、召喚魔法で土人形を呼び出す。
「あれ?
下級精霊を呼んだはずなのに、中級精霊がなんで?
ちょ、まだ指示してないんだけど、勝手に行かないで!」
強力な魔力を帯びた土人形、土でできた剣を持ち、顔はのっぺりしていて、側から見るとシュールな出で立ちのそれは、呼び出されると即座にこちらに向かってきた。
なんか師父が焦った声を出している。
その刹那に、土人形の斬撃が、僕を襲う!
土人形とは思えない程の、素早い斬撃。
僕はかろうじて血抜き君で受け流したが、腕を切られた。
まぁ、ちょっと痛いけど、自動回復できるレベルだから問題ない。
だが、次はヤバイ。
即座に身体強化の魔法をかけ、次の薙ぎ払いは無傷で避けた。
その際に、血抜き君で斬り返したが……
やはり相手は土人形、硬いだけで斬った感じがしない。
血抜き君の能力である、血抜きも土人形には全く効かないし。
当たり前だけど。
それに、最近血抜き君に血を吸わせてないしなぁ……
仕方ないので、僕は土人形と距離をとってから血抜き君を仕舞い、素手で相対する。
身体強化魔法は当分保ちそうだが、相手もこれだけの魔力があれば、3日は戦えるだろう。
流石にそれでは試験不合格になってしまう。
そんな事を考えていると、師父が聞いてきた。
「なんか、土精霊の様子がおかしいし、途中でやめるかい?
無理なら遠慮なく言って」
「えっと、た、多分、大丈夫、です」
僕はなんとか避けながら、返事をする。
うん、結構ギリギリなんだけどね。
とにかく、身体強化魔法の効果を最大限に発揮し、ひたすら避ける。
避けながら、掌底や蹴りを当てていく。
と言っても、ただ当てるだけなら手脚が痛いだけで、なんのダメージにもならないだろう。
相手は魔力で動く土人形、ならば掌底や蹴りを当てた瞬間に、相手の魔力を奪えばいい。
そして、実際にその攻撃は地道に、確実に土人形にダメージを与えている。
ひょっとしてこの方法なら、魔物を倒すのにも使えるのかもしれない。
ただ、そのためにはこれまでの血抜き君を使った戦い方を捨て、格闘術で戦わなければならない。
何かを得るためには、何かを捨てなければならない。
そう言う事か……
ならば仕方ない!
とにかく、少しずつ、少しずつ魔力を削っていく。
すると、段々と土人形の動きは鈍くなり、ついには身体の維持すらできなくなって……
僕が一気に魔力を奪うと、土人形は型が崩れ、只の砂と成り果てた。
「師父、やりました!
これで合格ですか?」
「もちろんだよ、シアン。
と言うか、当初の予定では下級精霊の予定だったし、引き分けでも充分なくらいだよ。
ちゃんと、自動回復と、身体強化魔法と、魔法吸収も使いこなしていたしね。
100点満点、文句の付けようがないよ」
「そんなに下級精霊と中級精霊で違うんですか?」
「下級精霊でも普通は倒せる人はあんまりいないよ。
というか、アリスくらい?
もちろん、戦争の時は何体かやられた事もあるけど、完全には倒されていないしね。
中級になると、魔力も耐久性も増えるし、剣の腕はかなり高いよ。
確か、私のいた国の伝承では、中級精霊に剣を教わった者が伝説の剣豪と呼ばれたくらい?
まぁ、シアンは剣の腕じゃなく、身体強化魔法と魔法吸収のごり押しだったけど、剣筋とかは読み難かったんじゃない?」
「えっと……
多分、師父との修行を受けて無ければ、剣筋が鋭すぎて避けれませんでした。
でも、師父の修行がトリッキー過ぎて……
それに比べれば、なんとかなりました。
ありがとうございます!」
「いえいえ、どういたしまして。
もちろん、シアンの頑張りもあるから、そこは自信持って良いよ。
ちなみに、上級精霊じゃなくて良かったね。
上級精霊だと身体強化魔法くらいじゃ、多分勝てないしね。
うーん、比較すると昨日の悪霊よりもちょっと強いくらいかな。
更に大精霊になると、最盛期の私でもギリギリなレベルだから、相当強いよ。
それはともかく、試験に合格したから、明日からはアリスの修行だね。
可哀想に……
いや、なんでもない。
頑張ってね、私もサポートするから」
ん?
なんか、不穏な独り言が聞こえた気がするが……
気のせいだろう。
僕は、明日からの修行も楽しみにして、その夜は眠りにつくのだった。
☆
精霊の暴走、そんな事は未だかつてなかった出来事だ。
私の命令に反し、勝手に動くのは、召喚され、使役されたモノにとって禁忌のはず。
まぁ、昨日の悪霊の様に、召喚された井戸に偶々居て、使役されていないモノなら話は別だが……
そういえば、例外として使役者の命の危機があると勝手に動く場合もあったはず。
ならば、シアンはひょっとすると、私達の残り少ない命を削っているのかもしれない。
だが、そうだとしても大きなお世話だ。
残りの命全てを使ったとしても、シアン以上の弟子に出会える可能性はゼロに近い。
いや、絶対にないと言い切っても過言じゃない。
それに、もうどうしようもなく気に入ってしまったのだろう、私達の子供として。
だから、明日からの修行、生き延びて欲しいなぁ。
師母の修行、それは命懸けを通り越して……
次回 第64話 死線




