第61話 過酷な修行 レオンその四
「さて、これまでに、体外で魔法を消す、体外で魔法を変換する、この2つはクリアできたわけだけど……
この2つだと、常時魔力を補給しなければならない。
だから、次は魔力を身体の中に貯めてみて。
多分、シアンは魔法か魔力を直接魔法に変換していると思うんだけどね。
って魔力を体外で魔法に変換するのは普通なんだけどさ、魔法を直接書き換えるのは……
まぁちょっと変わった能力なんだけどさ、だったら魔力に戻すのもできるんじゃないかと思うんだよね。
って事で、いってみよ〜」
「えーっと、さっきも何度かは風の部分を変換しようと試したんですが、上手くいかなくて……」
「それは多分、魔力じゃなく魔法を魔法に変換しようとしたからじゃないかな?
魔法に変換するには、風魔法の表面の一部じゃ足らないからね。
そうじゃなく、少しずつ魔力を吸うみたいな感じでやってごらん。
その後で、そこを足掛かりにして、ゆっくりと魔力を掌に集めていって、最終的に一気に引き抜くみたいな?
まぁ、言ってる私ができないんだから説得力はないんだけど、多分シアンならできる、と言うかできないとアンチ魔法使いにしかなれないしね」
確かに、僕が魔法を自由に使うには、それしかない。
ならば、やるしかない!
魔力の感覚は、これまでの修行でなんとなくわかってきている。
魔法に触れないギリギリの距離で、風魔法の表面の風刃をちょっとずつ魔力に戻すように試してみる。
魔力、それを表現すると、ここではない何かの様な空気みたいな水と言う感じだろうか。
まぁ自分で言っててよくわからないが、そんな感じ。
損な感じでも、遜な感じでもないけど。
それはともかく、魔力に変換し掌に吸い込む事を念じていると確かに僅かだが、風が魔力に変わっていき、僕の右手に魔力が吸い込まれていく。
そして、最初はちょっとだったが次第に多く吸い込める様になり、僕の右手には魔力が溜まっている。
「師父!
できました、次はこれを使って魔法の訓練ですか?」
僕は先走って聞いてしまう。
「いやー、本当にできるとはね。
驚いたよ、本当にね。
んーそしたらとりあえず、どこまで貯めれるか見たいから、貯める訓練を続けようか?」
「ハイ!」
僕は思いっきり返事をして、繰り返し魔法を吸収していく。
だが、10回目位で……
右手の指が動かなくなる!
何故だ?
「師父!
指が動かなくなりました!
どうしましょう?」
「それはね、多分魔力が飽和してしまったんじゃないかな。
というか、指だけなんだよね?
なら、手だけで貯まっているからだと思うから、ゆっくりでいいので魔力を循環させてごらん。
それで解決するはずだよ」
「わかりました、やってみます!
ふぁっ、なんか……
生暖かくて、ドロドロした……
嫌、じゃない、ものが、身体を……
流れて、いき、いきます!
ふー、落ち着いてきました。
あっ、本当だ!
指が軽くなりました。
しかも、なんか全身の力が漲ってくるような?
不思議な感じです」
「うーん、シアンは魔力をエネルギーにできるのかなぁ……
でもそれって……」
「それって特別なんですか?」
僕は師父の独り言が気になり、思わず聞いてしまう。
「えっとね。
この世界には、魔力をエネルギーとして生きる生き物がいる。
それは、魔石に貯めた魔力を体内に循環させて生きている生き物なんだけど……
まぁそこまで言えばわかると思うけど、魔物の事だよ。
いや、申し訳ないんだけど、一瞬シアンが魔物じゃないかと、そう考えちゃってね。
思わず口に出てしまったみたいだ、ごめんね。
でもね、魔物は魔石無しで、魔力を貯められないんだよね。
それに、シアンは魔力なくても動けるでしょ?
魔物は魔石を失うと、魔力がなくなり動けなくなり、死ぬ。
だから、ピンポイントで魔石を狙って倒す方法もあるんだけど、それくらい魔物にとって魔力は重要なんだよ。
一方で、魔物であっても、魔力を一ヶ所に集めるのは難しい。
サラマンダーのブレス系のように体外に溜めて、って言うなら別だけど、手だけとかに魔力を貯めるのはありえない。
ちなみに、私でもさ魔法はほとんど貯めれないんだよね。
実際、さっきの魔法の1発分も貯めれないよ?
普通、人間の魔力総量は魔力器官で作り出せる限界の事なんだよね。
まぁ、魔力器官の奥で貯めてるって解釈もできるんだけど、それ以外に魔力を貯める必要はないし、貯めれてもほんの僅かでしかない。
もちろん、身体強化魔法みたいに、魔法に変換すれば別だけどね。
それでも、長時間の魔法はかけれないし、大抵は自らの魔力を消費して維持しているって感じかな。
うん、だからね、シアンの能力はかなり特別なんだよ。
だから、自信を持って良いよ。
君は、やり方次第で凄い魔法使いになる。
私はそう思っているよ」
師父の言葉に、僕は涙が出そうな程嬉しくなる。
平凡だと思っていた僕が、魔力のない僕が魔法使いになれる。
それだけでもかなり嬉しかったのに、さらに僕には特別な能力があって、それはとても凄い事らしい。
まぁ、師父の言う通りやり方次第なんだけど、それでも全く無理だった事を考えれば、まるで問題あるかよって感じだ。
「頑張ります!」
そう答え、僕は魔法吸収の修行を再開する。
そして……
100発目を貯めた所で、悪寒が走り、全身が痙攣し始めた。
そして僕は、倒れ気味になりながら、胃の中の内容物を全て嘔吐した。
噎せ返す様な酸性臭、喉を焼く痛み、そして貯めた内の3割程の魔力が吐瀉物と一緒に外に出て……
強酸の魔法になって、大地を即座に溶かしていく。
気づいたら、もう奥が見えない程の深い深い穴になっている。
僕は勿体無く思い、必死で手を伸ばそうとするが、師父に止められる。
「シアン!
危ないから止めておきなさい」
「でもでもでも、僕の魔力が!」
僕は喉が焼けてガラガラの声で反論する。
「まぁ、元は私の魔力だし、過ぎたるは及ばざるがごとしって言うでしょ?
それよりも、まずは喉を回復させなさい。
そう、落ち着いて。
魔力が余ってるせいか、自動回復するみたいだね。
痛みに対し、無意識に反応して余剰分の魔力を消費しているのかもね。
一方で、呼気でも少しずつは魔力が漏れている様だね。
極僅かだから魔法にはなっていないけど。
そうすると……
今の魔力量があれば、20日くらいは魔力を保持できるかもね。
もちろん魔法の使用無しの前提だけど。
さて、落ち着いた様だね。
それじゃ、次は身体強化の魔法を使ってみようか。
全身の筋肉にはエネルギーと柔軟性を、皮膚と関節には弾性を、骨は硬く、血管と心臓には流動性の強化をイメージして。
何度か試した感覚を思い出してごらん。
ただし、あまり気合いは入れ過ぎない様に、あくまで軽く、軽めにね」
僕は、深呼吸して再度呼吸を整えてから、師父の言う通り身体強化の魔法のイメージを思い出す。
全身を巡る魔力から、右手の筋肉にエネルギーを僅かに注ぎ込む。
ヤバイ!
筋肉が強化され過ぎて破裂しそうになる。
強烈な痛みは我慢し、急いで魔力の供給を止め、回復魔法で筋肉を繋ぎ止める。
「師父!
調整が、とても難しい
ちょっとのつもりでも、筋肉が破裂するくらい魔力が入ってしまいます。
どうしたらいいでしょうか?」
「うーん、多過ぎか。
そしたら……
一回右手の魔力を空っぽにできるかな?
できたら、極僅かな量だけを右手に送って、それから強化してごらん」
僕は、言われた通り右手の魔力を空っぽにしてみる。
さっき大分吐いたから、右手分位を空にしても問題はなさそうだ。
とは言え、完全に空にはできないが……
この量で丁度良いかもしれない。
僕は、身体強化の魔法を腕にかけてみる。
さっきよりはマシだが……
やはりキツイ!
右手がパンパンに腫れている。
いや、筋肉が盛り上がっているのか?
いずれにせよ、腕が動かない。
暫くその状態にしておくと、筋肉が萎み、元の手に戻った。
「師父、身体強化の魔法は……
回復魔法よりも魔力消費が少ないのですか?」
「うーん、回復の仕方によりけりだよ。
というか、シアンの場合はちょっとした傷でも高位回復魔法を使っているからね?
それと同じ感覚じゃ、とても身体が保たないよ。
もっともっと少なくて良いと思うよ?
まぁ、死ななければ私が回復してあげるから、頑張って」
「なら……
さっきぐらいの魔力を使って、全身の筋肉に広げてやってみますね」
僕は、右手に僅かに魔力を入れ、可能な限り抜いていく。
そして、僅かに残った魔力を、全身の筋肉の強化にあてていく。
すると、すぐに魔力が無くなったが、全身の筋肉にいい感じで身体強化がかかる。
そうか、局所的に使わなければ問題ないのか!
ただ、維持はなかなか難しい。
それでも、少しずつ、少しずつ魔力を供給し、身体強化魔法を維持してみる。
慣れてきたら、更に骨を硬くしてみる。
骨は硬くするだけだし、ちょっと位なら魔力を入れ過ぎても問題ないらしい。
まぁ、過剰だと何が起こるかわからないし、怖いけど。
関節と皮膚には弾性を、って言うのは簡単だけど、既に複数の魔法を並行させるだけで手一杯だ。
維持が切れると、筋肉からやり直し。
魔力も少しずつ強める必要があるし、凄く難しい。
師父はこんなのを一瞬でやっていたのか……
とにかく、ひたすらに続けていると、夜になってしまった。
ここまでで、何とか形にはなってきたのだが……
バランスが悪く、師父の魔法とは比べ物にならない。
歩けばコケるし、一瞬の一撃必殺くらいならできるかもしれないが、正直戦闘に使えるレベルではない。
それでも、身体強化魔法が使えた事はとても嬉しく、僕は夕飯の後も、意識がなくなり寝落ちするまで身体強化魔法を使い続けたのだった。
☆
やはりシアンは天性の才能を持っている。
膨大な魔力を貯めれるとか、強酸性のブレスを吐く、まぁ文字通り吐いただけなんだけどね。
なので、翌朝の朝ご飯の時、今後について話してみた。
「正直、私は魔導の真髄を極めたと思っていたんだけどさ、シアンに出会ってまだまだだって思い知らされたよ。
ありがとう」
「いえいえ、色々教えてもらっているのは僕ですし、こんな魔力の無い人間に魔法を教えれる師父は凄いですよ。
本当にありがとうございます!」
「それはともかく、この先シアンは私達の修行を終えたらどうするんだい?
君なら、一流の冒険者、いやそれどころか勇者にすらなれるかもしれない。
それか、軍に所属すれば、将軍や英雄になれるくらいの素質があると思うよ。
もしくは、魔法を極めるのも良いかもしれない、大魔導師や賢者なんかも良いんじゃない?」
「いやいやいやいや、そんなの無理ですよ!
そりゃ、小さい頃は英雄や勇者に憧れはしましたよ。
でも、世の中には僕より凄い人が一杯いるし、僕は平凡なただの子供ですよ?
どちらかと言うと、主人公より脇役だと思うんですよね。
それに、僕はただ魔物を倒すハンターになりたいだけなんですよね、強くなりたいのも確実に魔物を倒せる様になりたいからだし。
だから、僕は修行が終わっても、ハンターとして師父達についていきたいって思ってます。
ダメですか?」
「私達はいいんだけどね、まぁいいか。
それじゃ私達が死ぬまでは一緒に旅しようか。
アリスも文句はなさそうだし」
「それに、当分修行は終わらなさそうですしね。
これからもよろしくお願いします!」
全く、欲がないのか自信が無いのかはわからないが、シアンはやはり不思議な子供の様だ。
でも、一緒に旅できるのは楽しみだ。
例え、終わりの時は近いとしても……
少年は魔法の幅を広げていく。
出来る事と出来ない事を一つ一つ調べていき、出来る事を増やしていく。
例えそれが危険であっても……
第62話 過酷な修行 レオンその五




