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第60話 過酷な修行 レオンその三

僕は、お腹が空いて目覚めた。

まだ夜明け前か……

師父と師母はまだ寝ている様なので、起こさないように抜け出し、身体の動きを確認する。

まずは、準備体操から。

身体中の筋や関節、筋肉を少しずつ動かしながら慣らしていく。

やはり……

昨日よりも格段に筋力が増えている。

代わりに柔軟性がやや落ちているので、転んだりしないように注意が必要だ。


しかし、身体強化の魔法が解けると毎回気絶しているよなぁ。

ちょっとは慣れないと、実際の戦闘で倒れたらお終いだし……

肉体的な疲労と言うよりは、精神的な疲労が強いのではないかと思うが、それでも多分肉体の強化が先なんだろう。

恐らく、修行の成果で確実に筋力は上がっている。

と言っても、身体強化魔法の時の感覚が強く残っていて、むしろ身体の動きは遅くなっているから、僕としてはほとんど実感はないんだけどね。

確か、ジャルも身体強化魔法を使うと、暫くの間は硬直して動けなかった気がする。

身体強化の時間はかなり短かったのにもかかわらずだ。

多分、強い力には強い副作用がかかる。

それは、きっと仕方ない事なんだろう。

とにかく、身体強化魔法に耐えられる身体を作ろう!

僕は、ラヂオ体操の後にいつもの筋トレを行う。


暫く筋トレをしていると、師父と師母が起きてきて、みんなで朝食を食べる。

今日の朝食はヌートリアと言う大型のネズミ……

の焼肉らしいが、まぁただの肉だと思えば、充分に美味しい。

そして、その後は師父の修行を再開する。


「今日は、昨日の風魔法を相殺する魔法の修行をしよう。

シアンは昨日みたいに魔法を相殺してね?」


「昨日はたまたまだったんですけど?

消えろって感じで念ずれはいいんでしょうか?」


「大丈夫、大丈夫、最初はゆっくり一個ずつ行くから。

とにかく、風魔法が無くなる様にやってみて」


師父はそう言うと、風魔法の球を一個出して、ゆっくりと僕の方に飛ばしてきた。

うん

確かにゆっくりなんだけど……


「師父!

確かにゆっくりなんだけど、魔力がかなり強いんですが、大丈夫なんですかこれ?」


「いや、逆にね。

ゆっくり飛ばすにはね、かなり魔力が必要なんだよ。

空間保持させるには、進む強い力だけじゃなく、戻る強い力を高速回転のモーメントを付けて、それはもうグルグルグルグルと回しながら使う事が必要なんだよ」


「それって……

ゆっくりだけど、凄くエネルギーが強くて危険って意味じゃないですか!

とはいえ……

速いと、僕は避けるのが精一杯になってしまうし、仕方ないんだろうけど……

わかりました、やってみます!」


僕はゆっくり近づいてくる、巨大な魔力の塊に思い切って手を伸ばし、消えろ!と念じる。


痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

高速回転の風刃の余波が僕の手をガリガリと削っていく。

ピンクやら、白やら、赤いものが、周りに飛び散っている。

そして、頭の中に電流が流れたような痛みが続く。

冷や汗がダラダラ流れ、途轍もない寒気が僕を襲う。

思わず気絶しそうになるが、歯を喰いしばり、ぐっと堪え、ただ一心に消えろと念じ続ける。

そして、僕の手が無くなるんじゃ、と思うくらい削られた感触が訪れた後、やっと魔法を消し去る事ができた。

痛みで動けない……

師父がすかさず回復魔法をかけてくれ、手は元通りになったものの、痛みの残渣が身体を硬直させ、暫く動けなかった。


しかし、動けるようになったら、すぐに修行を再開し、僕は師父の飛ばす風刃を消し続けた。

何度魔法を消したのだろうか?

魔法で回復するため、強烈な痛みは一瞬だが、逆に痛みに慣れて麻痺して感じなくなる事がない。

三千地獄の様に、繰り返し、繰り返し、終わる事のない永劫の痛み……

それでも、馬鹿みたいに諦めないで繰り返すと、次第に念じる速さが早くなり、骨までは抉れなくなってきた。

すると、師父が次の提案をしてきた。


「大分回復魔法の感覚は覚えてきたかな?

そろそろ次の段階にいこうか。

次は、回復魔法の感覚を思い出して、消すんじゃなく風魔法を変化させて、回復魔法にして自分を治してごらん。

ちなみに、次は私は回復魔法をかけないから。

死ぬ気でやってみてね」


そんな……

自分で回復だと?

魔法を消すだけで精一杯なのに。

回復できなければ、失敗すれば、下手したら僕は失血で死ぬ。

例え運良く死ななくても、手を失えば再起は難しい。

そうなれば、命としては死んでなくても冒険者はできない。

そうなれば、僕は生きる希望を無くして、心は死んでしまうだろう。


もちろん、師父が治してくれる可能性も……

ないな、あの目はマジだ。

だから、もう少し時間が欲しい。

なので、僕は師父に素直な気持ちをぶつける。

「師父、いきなりなんて無理です!

回復魔法を使うのは自信がありません……」


「うーん、そろそろいけると思うんだけどなぁ。

それに、こんなところで諦めるのかい?

シアンは、確か悪魔に魂を売っても魔法が使いたいんだよね?

なら、やってみなさい」

笑顔じゃない笑顔で師父が言う。

ダメだ……

やらなければ、僕が殺されてしまうかもしれない。

そんな殺気すら感じる気がする。


まぁでも……

僕の命はアイルロポダとの戦いで、一度は死んだ命だったな。

なら、やるしかないか!


覚悟を決めて、僕は回復魔法のイメージを頭に浮かべながら、風魔法に手を伸ばす。

風魔法の荒々しい流れを、回復魔法の温かく、柔らかいイメージに変えていく。

相変わらず手がガリガリと削られていき、激烈な痛みがこめかみを突き抜ける。

ただ、ほんのりと柔らかい暖かさを感じる。

どうやら……

回復魔法がかかった様だ。

削られては治り、削られては治りを繰り返す。

だがそれは、最大瞬間風速的な痛みが連続で来る事を意味する。

回復魔法は、身体を治すが痛みを消すわけではない。

暗示魔法が効けば、痛みを感じなくできるかもしれないけど、僕には効かないし。

つまり、激烈な痛みが連続的に僕を襲う。

痛い、かなり痛い、多分普通ならばショック死するんじゃないかと思うくらい痛い。


だが……

僕はこの痛みの中、興奮している。

いや、別にマゾヒズムに目覚めたわけではない。

だって、この僕が魔法を使っているんだよ?

魔法使いの母さんやミル兄さん、ラーナはもちろんとして、父さんやアルフ兄さんも魔力を持っている。

まぁ父さんとアルフ兄さんは、魔力が少なくて魔法は使えないけど。

一方、僕には一切魔法が無く、絶望的に魔法を使う事ができない。

その僕が、ジャルと同じ回復魔法を……

いや

ジャルでもここまでは治せない。

大僧正に匹敵する回復力ではないだろうか?

だから、僕は思わず高笑いしてしまう。


それを見た師父は、気が狂ったのかと、心配そうに見ているが、正直説明する余裕はないので、魔法が切れるまで回復魔法の修行を続ける。

なんとか、風魔法が無くなる前に回復が終わり、僕の手は無事だった。

そして、緊張の糸が切れて僕はそのまま倒れこむ。


「シアン!

大丈夫かい?

流石にちょっと早すぎたみたいだね。

ゴメンね、私の読みが甘かった。

本当にゴメン」


「だ、大丈夫です。

すぐ起き上がるので……

修行を再開して下さい!」


「そんな……

無理しなくてもいいんだよ?

今日はゆっくりと休んだ方が」


「嫌です!

せっかく僕が魔法を使えたんですよ!

長年の夢が叶ったんです……

もっと、もっとやりたいんです!

痛みなんて気にしません!

だから、もっと魔法を!」


「いや、本当に大丈夫かい?

まぁ、身体に異常はなさそうだけど……

あまりの痛みにおかしくなってないよね?

本当に休んでもいいんだよ?

って、その目は真剣か……


えーい、ならば仕方ない、ドンドンいくよ!」


「ハイ!」


こうして、僕は魔法の修行を続けさせてもらう。

最初は回復するだけで精一杯だったが……

10回目位の時、ふと痛いのから身を守れないかと思い、風魔法を薄い膜で覆うようなイメージが浮かび、回復魔法のイメージと並行して試してみると、バリアを張る事ができた。

もちろん、薄いバリアなんて直ぐに破れてしまうが、一瞬でも痛みが無くなるのは嬉しい。

それに、風魔法の魔力の減りが早くなるから、早めに終わるのも助かる。

あと、バリアとかカッコいいし!

超絶アガるね!

ヒャッホーウみたいな?


更に慣れてくると、バリアを厚く張れる様になり、最初以外はダメージを喰らわなくなった。

一瞬の痛みだけで済む、その程度で魔法が使えるなら、激痛なんて安いものだ。

それと、僕が魔法を変換できる距離もわかってきた。

大体小指の先の太さくらいの距離……

たどし、師父の魔法は、魔力の塊を魔法として明確に表現できる部分が覆い、その外側を魔力が僅かな真空の刃がグルグルと回っている。

その真空の刃の厚みは、小指の先の太さの1.5倍くらいで、真空の刃の変換はできなさそうなので、奥の魔法部分まで手を突っ込まないといけない。

そのため、どうしても小指の先の太さの半分くらいは手が削られる。

僕の変換範囲が長くなればその前に届くのだが……

そんなんどうやって伸ばすんだ?


あと、バリアと回復魔法を並行して使っていると思っていたのだが、どうやらバリアが先な気がしてきた。

多分、回復魔法はそのバリアの一部を変換し直しているんじゃないかと思う。

ならば……

バリアを厚めにして、次の魔法まで保たせれば?

回復魔法は使わないで、バリアの維持だけで良くなるかもしれない。

ただ、そんなインチキを師父が許してくれるかどうか……

止めておこう、多分この痛みも必要な事なんだろう。

それなら、やはりバリア自体がダメなのかもしれない。


「師父、バリアはやっぱりダメですか?」


「いやいや、ダメじゃないよ!

むしろ、色々な魔法に変換してごらん。

そうだな……

今は聖魔法の物理防御だけど、次は光属性を入れて魔法特化の防御にしてごらん」


そう言われて、僕はさっきまでと同じく、風魔法に手を当て、バリアを張って回復してから、バリアに光のカーテンのイメージを追加していく。

すると、柔らかな光に包まれ、そして……

師父の風魔法が消えた。


「光のカーテンか、これなら広範囲に魔法が消せるよ。

しかし、凄いね!

光魔法なんて、中々使える人がいないのに。

これもやっぱり、シアンには属性がないからなんだろうかねぇ。


さて、そしたら最後に仕上げと行こうか?」


「ハイ!

よろしくお願いします」


師父のさわやかな笑みに対し、僕は思いっきり返事をするのだった。




少年は魔法を覚えた。

かなり限定的だが……

そして、魔法の修行は最終局面へと差し掛かるのだった。


第61話 過酷な修行 レオンその四

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