第6話 養成所
春節祭から約1カ月が過ぎ、春の日差しが心地よいある日から、僕はヤーフルさんの冒険者養成所に通う事になった。
ヤーフルさんの冒険者養成所は、村の外れの森の手前にあり、家とは村の中心を挟んで反対側なんだけど、朝は日の出と正午の中間位に始まるので、朝練後に行っても十分に間に合う。
とはいえ、今朝は緊張のため早く起きてしまったので、朝練を長めにやって緊張感をほぐしてから朝ごはんを食べ、ゆっくりとヤーフルさんの冒険者養成所に向かう。
ヤーフルさんの冒険者養成所は、言ってしまうとただの小屋みたいな感じだった。
結構早く出たので、1番乗りかと思ったけど、既に2人、お兄さんとお姉さんが待っていた。
「おはようございます。
僕はブルー、この村の出身で、ハンター志望の9歳です」
僕が挨拶すると、お兄さんの方が答えてくれた。
「えぇっ?
9歳でハンターとか、早過ぎないか?
まぁ事情は人それぞれだから仕方ないんだろうけど……
僕はジャル、ガード志望だよ。
歳は14で、君より5個上だね。
でもまぁ、年齢に関係なく同期ってことで頼むよ。
ちなみに、隣町の孤児院からこっちのアナと一緒にやってきたんだ」
「アナだよ。
ブルー君よろしくね。
ちなみに、ジャルと同じく14歳でガード志望だよ。
ジャルとは隣町の孤児院で一緒に育ったんだ。
そうそう、孤児院って言っても変なとこじゃ無かったから、心配はしなくていいよ。
それと、私達は村の集会所に泊まってるから、先に着いちゃったんだよ」
「うん!
よろしくね。
なんかでも、いつもは冒険者志望者なんてあんまりいないらしいんだけど、今回は3人なんて珍しいね」
僕がそう答えると……
「いや、実はまだ他にもいるらしいよ?
僕らもまだ会ってないんだけどね」
それから暫くはお互いのことを話し合った。
ちなみに、ガードと言うのは商隊や移動馬車等を警護する冒険者で、安定した職業らしい。
だが、獣や魔物だけでなく、盗賊とかからも警護する必要があり、人を殺す覚悟がいるらしい。
うーん、僕には無理かも……
そんな話をしていると、ジャルとアナより少し年上っぽい3人組の男がやってくる。
そして、先頭の人が声をかけてきた。
「お前ら早いな。
っていうか、ガキが紛れ込んでいるが大丈夫のか?
まぁいいや、俺らは隣のカシ村からやってきたからさっき着いたばかりだ。
当面は親戚の家に泊まる予定だからよろしくな。
俺はリッツだ。
歳は15で、ハンター志望だ」
リッツは若干背が低めで、悪ガキって感じの雰囲気だが、3人組の取りまとめ役、つまりリーダーっぽい感じだった。
「俺も、同じく、カシ村からやってきた、カール15歳だ。
俺もハンター志望だ」
次いで、カールはやや長身だが、神経質そうな感じだった。
「僕はビスコ、2人と同じくカシ村の出身だけど、14歳だよ、まぁ春節祭直後の産まれだからあんまり2人と変わらないんだけどね。
できればハンターになりたいけど、ガードとストーカーの道も考える予定だよ」
ビスコは丸顔の小太りで、やや自信がなさそうな雰囲気だった。
そして、僕らも自己紹介をすると、リッツは笑い出した。
そして……
「マジかよ?
孤児院の奴らは仕方ないんだろうけど、9歳で冒険者にするために家を出すとか、お前の親はおかしいんじゃないか。
普通の家なら、15歳までに土地がないとかじゃないと、冒険者に子供を出さないぜ?
それか、よっぽど親に嫌われているのかよ」
と、言われた。
「違うよ!
土地はあるらしいし、父さんも止めたけど、僕がやりたいって言ったんだよ。
だから、父さんは関係ないよ。
それに、ハンターになるためちゃんと準備はしてきたから、大丈夫だよ」
「ははは、変な奴だな。
まぁ、せいぜいはぐれゴブリンに殺されないようにでも、注意しながら頑張れよ」
リッツはそう言うと、3人組で固まり、自分達を主人公にした英雄譚作りに盛り上がっていた。
更に暫くすると、ヤーフルさんがやってきた。
そして、リッツの
「起立、礼、着席!」
の合図に合わせ、立って、ヤーフルさんに礼をし、切り株でできた椅子に座った。
「俺が今日から、お前ら新人冒険者の教育をするヤーフルだ。
俺も元冒険者だが、何年か前に怪我をしたので引退し、今は養成所で新人を育てている。
だかな、正直なところ冒険者として生き残るのは10人に3人くらいだ。
悪いことは言わないから、自信のない奴は今すぐ家に帰れ……
なんだ、誰も帰らないのか。
めんどクセェな。
まぁいい。
俺の指導は厳しいからな。
つうか、訓練で死ぬ奴もいるから、死にたくなければちゃんと俺の言うことを聞けよ。
さて、冒険者と一括りで言っているが、実際は何種類かの職業に別れている。
ハンターは獣や魔物を狩るスペシャリストで、俺も昔は腕利きのハンターだったんだぜ。
儲けは多いが、1番危険で、死者も多い仕事だ。
実際、憧れる奴も多いが、ちゃんと考えろよ?
次に、ストーカーは遺跡探索のスペシャリストで、まぁ遺跡がある国では多いが、この付近には遺跡が見つかっていないからほとんどいないな。
逃げるのが上手い奴と、鍵開けが得意な奴が多かったぜ。
そして、ガードは商隊なんかを護る仕事だ。まぁ、これが1番安全だが……
正直実績がないと、雇ってくれるとこなんてないぜ。
だから、大抵はハンターを少しやって、実績を作ってから商隊に売り込む必要がある。
最後に、特に仕事を固定しないフリーランスもいるが……
まぁ、滅多にはいないからな。
ということで、こんな感じで、自分のなりたい職業を含め、自己紹介をしな」
ヤーフルさんに言われ、僕らは先程と同様な自己紹介をする。
リッツ、カール、ビスコ、ジャル、アナと年齢順に自己紹介し、最後は僕だった。
「確かに規定では、9歳から15歳になってはいるんだが……
本当に9歳でハンターになりたいなんて奴は初めてだからな。
さっきも言ったが、止めるなら今のうちだぞ?
正直なところ、身長も体格もまだまだじゃねーか。
それとも……
本当に死にたがりなのか?」
ヤーフルさんは僕を辞めさせたいのだろうか、そんな質問が頭をよぎる。
でも、僕もそんな事で止める程度の覚悟じゃない。
だから、反論した。
「違うよ!
僕はハンターになって、近隣のゴブリンを討伐して、この村を平和にしたいだけなんだ。
それに、ウサギやハトなら狩った事があるし。
大丈夫です!」
「まぁ、勝手にしな。
どうせすぐ死ぬ。
っていうか、他の奴らも棺桶に片足突っ込んだわけだ。
俺はちゃんと警告してやったからな。
さて、今日はここまでだが、明日からは本格的に授業を始める。
午前は座学で、午後は実技だ。
昼飯は各自調達するか、朝にしっかり喰ってこい。
あと、金土日は休みにするから間違えて来るなよ。
では、解散!」
こうして、僕らの養成所生活が始まった。
最初はちょっとしたきっかけだった。
だが、僕の一生懸命な想いは違った方向にズレて行く。
運命のベクトルはどちらに向かって行くのだろうか?
次回 第7話 かけちがい