第55話 閑話 レオンとアリスの過去 結魂
やってしまった……
アリスちゃんの攻撃が、あまりにもすごい一撃だったため、無意識に極身体強化を発動してしまい、本気の蹴りを放ってしまった。
そして、アリスちゃんは……
中に霊樹の様な帷子を着込んでいたせいか、完全には貫通しなかったが、かえって霊樹の帷子の破片が食い込み内臓と帷子の破片がぐちゃぐちゃに入り混じっている。
腸もはみ出しているし、心臓も潰れてしまった。
明らかな即死……
こうなると、残念だが回復魔法では治療できない。
唯一の方法は、蘇生魔法のみ。
蘇生魔法、究極の聖魔法の一つで、死者を生前と同じに生き返らせる。
ただし、死者を生き返らせる事は、生命の摂理に大きく反するものであり、特別な場合を除いて禁忌とされている。
特別な場合とはすなわち、
勇者とそれに連なる者
ダンジョン内
凶悪な魔物との戦いで、不合理な死を遂げた者
等であり、かつ高位の聖職者である事が求められている。
そのため、例え王族が事故死したとしても、蘇生魔法を使う事は出来ない。
魔法をかけた聖職者は死刑、生き返った王族もゾンビとして処分されるだろう。
まぁ、この背景には、圧倒的に失敗が多く、ゾンビ化する可能性が高いという事もあるのだが……
この子がゾンビ化すれば、私でも止められない可能性が高い。
そうなれば、この大陸全土の民が次々と殺され、更にゾンビと化すだろう。
つまり、この子に蘇生魔法をかける事は、相応のリスクを負うと言う事になる。
初めて会った、ただの暗殺者に、そこまでするのか?
いやしかし、この子の強さは本物だ、いずれ会うだろうネビュロスとの戦いに必要となるだろう。
それに、クッキーを美味しそうに食べていたあの姿を思い出すと、例え禁忌であっても生き返らせなければ、そう思ってしまう。
だから、私は決意し、アリスちゃんに蘇生魔法をかける。
精神を集中させ聖魔法を使い、肉体を再生させながら、魂を回帰させ肉体に混ぜ合わせていく。
特に、肉体の再生は、あまりにもぐちゃぐちゃで難しい、と思っていたが、霊樹の破片が聖魔法を増幅し、容易に再生していく。
まるで、最初からこの蘇生魔法のために準備されている様に?
それよりも難しいのは魂の回帰だ。
この子の魂が特殊過ぎて……
引っ張られる!
正直、このままではヤバイかも?!
★
ここは……
僕は死んだのか?
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。
今はまだ彼岸だよ?
パーラミッタと言った方がわかりやすいかな?
現在は生き返りかけって感じかな。
だから、死ぬ事も出来るし、生き返る事も出来なくはない」
うーん、できればまだ死にたくはない。
と言うか、アンタは……
父さんなの?
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。
死神とは自動的なシステムの一部だから、それを共有しているんだけど、実際に行ったのは別の死神なんだよね。
まぁそれはともかく、死にたくないなら対価を支払う必要があるんだよね。
君の場合、本来死ぬ運命じゃないから、そう大した事はないんだけど」
対価って、死神代行とか?
「いや、別にこの世界に死者の魂が出てきて悪さしてるとか、死神同士の陰謀とかはないから大丈夫。
ちなみに斬魄刀とかはないからね?
期待されても困るし。
単に、これまで君が倒した者達の魂を、解放する事と、死神の力の一部を返してもらう事、それと暗黒魔法の使い手を殺してもらう事、それでどうかな?」
死神の力の一部……
因果律の力か?
因果律が無くなる、つまり雑魚を殺すのに手間が増える。
まぁ、あんまり関係ないし、いいか。
でも暗殺は失敗したから、廃業確定なんだけど、暗黒魔法使いを殺しに行ってもいいのかな?
「今まで通りの身体能力は保証するから、まぁ能力については心配しなくていいと思うよ。
あと、死霊の脳髄を吸い出す能力は、死神の力じゃないから。
アレは意味がわからないモノだしね。
それと、一回死んでいるから契約は全て解除されているよ。
だから、気にしなくていいよ?」
なんだか、全部誰かのシナリオ通りに行っている気もしなくもないのだが。
まぁ、いいかなそんな御都合主義で……
だから、「んじゃ、頼む」と言うと、意識がスーッと消えていく感じがして……
☆
なんとか魂は回帰した。
だが、私の魂の一部が、僕の魂と結合し、また2つに分かれて元に戻った。
いや、私には僕の魂の一部が、僕には私の魂の一部が入り混じってしまい、記憶や感情に混乱がある。
多分だが、アリスちゃんの暗殺の経験が私に、私の魔法の技術や格闘術がアリスちゃんに継承されている。
それはいいとして……
目覚めたアリスちゃんは正気を失い、こちらに襲いかかってきた。
あの型は、私の格闘術か。
まだ、起きたてで身体が上手く動いておらず、初撃はなんとか避ける事ができた。
「グルルルル」
アリスちゃんは、手負いの獣の様な威嚇をしてくる。
こっちも魔力をかなり消費しているんだけどねぇ。
しかし、アリスちゃんはこちらが休む間も無く、攻撃を仕掛けてくる。
また殺してしまっても意味がないしな……
そんな事を考えていると……
アリスちゃんは身体強化の魔法をかけ始めた。
ヤバイ!
ヤバイ!
ヤバイ!
マジで洒落にならない。
あの身体能力で身体強化の魔法をかければ、どうなるか予想がつかない。
僕の魔力では、私の様に極身体強化は使えないはずだが、それでもかなり危ない。
とりあえず、極身体強化の魔法を私にかけ、後ろに飛んで間合いを取る。
お互い、初手をどうするか決めあぐねている。
アリスちゃんは、見た目はヨダレダラダラで、狂っている様にも見えるが、戦闘に関しては冷静な判断ができている。
多分だが、私の狂気の一部を取り込んでしまったのだろう。
私の狂気……
巷では、私は聖人であるかの如く語られているらしいが、私の中にも狂気を孕んでいる。
しかも、多分それは普通の人よりもかなり強い。
ただ、理性が更に強く、狂気を押さえ込めているに過ぎない。
逆に僕は、理性も狂気も少ない。
いや、ほとんど無い無邪気さだ。
敵を殺すのも、子供が蟻を潰すのと変わらないノリでやっている。
ただ面白いかどうかだけ。
ある意味、狂気とは紙一重だが、ほぼ純粋に本能で生きている、そんな感じだ。
そんな僕に、私の狂気だけが入った……
この辺りは、死神の眷属である事が影響しているのだろうが、アリスちゃんは今、狂気で全てを殺すキルマシーンと化している。
それならば……
残り少なめの魔力で、超越強化を使う。
保って数秒だが、それでいい!
私は、一気に間を詰め、「グワーッ」と叫ぶアリスちゃんに強引にキスをし……
ちなみに、ファーストキスだ。
そして、舌を噛みきる!
大量の血が宙を舞う。
結魂、誓いのキス、フラワーシャワーの様な血のシャワー……
そうか、一生独身だと思っていたけど、私と僕は結ばれたのか……
アリスちゃんが気絶する寸前で回復魔法をかけ、舌を繋ぎ合せる。
ここで、魔力が切れた。
もし、アリスちゃんが立ち上がり、襲ってきたら確実に死ぬだろう。
まぁでもそれで良い、その時は2人で死のう。
★
気づいたら……
血塗れで倒れていた。
隣では私が寝ている。
状況が把握できない。
頭が痛い……
僕が私で斬魄刀が無い。
斬魄刀?
それはどうでもいいとして、私は……
僕か?
記憶が混濁している。
死神代行になったんだっけ?
いや、違うな、ファンデル将軍やネビュロスとの戦いは……
僕じゃない。
なんだか、物凄い負のエネルギーで、気が狂っていた様な気もするが……
身体が動かない。
血が足らないのか?
とりあえず魔法で……
って魔法なんて使った事ないのに!
今では使い方がわかる気がする。
まぁ、魔力が空っぽで魔法なんて出せないけど。
「あ、起きた?
ちゃんと正気みたいだね。
よかった。
一時はどうなる事かと心配したよ。
ふー、本当に疲れたよ」
どうやら私も起きたらしい。
って言うか、私じゃなく、レオンだ。
グラッセ帝国の将軍、レオン グラッセだよな?
つまり、私が何かをした?
とにかく、状況を確認しよう。
「イミフ」
「あー、そうだよね。
状況がわからないし、記憶が混濁して意味不明だよね。
えっと、まずはアリスちゃんが死んだ、そこは理解してる?
そうそう、死神に会ったんだよね。
その時私が蘇生魔法をかけていてね、アリスちゃんの身体を復活させる事は出来たんだけど……
魂の回帰に失敗してね〜
そんで、私の魂の一部がアリスちゃんの魂と混じり合って、一部が私に戻ってきたみたいな?
だから、私とアリスちゃんの記憶も混ざってしまってね。
いや〜失敗、失敗。
それでね、私の狂気の一部が、アリスちゃんにも入っちゃてね〜。
狂化して、凶禍して、強化して襲ってくるから、まぁ……
キス……
しちゃった。
キャー、乙女にそんな事を言わせないでよ!」
いや、キスしただけでこんなに血塗れにはならないだろう?
私の性格から推測すると、恐らく舌を噛み切られた。
そして、失血して気絶して正気に戻った、と言ったところだろう。
私の狂気は……
残ってないな、多分だけど。
ならば大丈夫か。
それに、僕は僕だ、私じゃない。
それよりも、これからの事が重要だ。
「暗黒魔法使い、殺す」
レオンに死神からの依頼を伝える。
「暗黒魔法使いか、まぁエリーゼの事だよね。
そうだね、確かにそれはアリスちゃんの依頼でもあるけど、結魂したんだし、私達夫婦になった訳なんだから、私の依頼でもある訳なんだよ。
これからはずっと一緒だよ?
君を離さない。
私が死ぬその時まで、一緒にいて欲しい。
いいかい?」
「りょ」
重要な事だが、僕はあっさり了解する。
と言うか……
多分だが、魂が結合した段階で、レオンから離れる事は出来ない。
恐らく、レオンが死ねば僕も死ぬ、逆にレオンが死ななければ僕は完全には死なない。
僕の魂がレオンの魂の一部に定着しており、例え肉体が滅びても霊界に堕ちる事はない。
だから、多分生き返れる。
一方で、僕は蘇生魔法が使えないから、魔力が多分足らないからね。
必然的にレオンは生き返れず、僕とレオンの魂は互いに消耗し、一緒に消滅する。
死ぬ時は一緒、魂が結合し、お互いの気持ちもわかる。
僕達は、そんな関係になってしまったのだ。
だから?
確かに苦しむ事は多いかもしれないが、別に悲観する事ではない。
正直、大した問題ではないのだろう。
今までだって、流れに任せ生きてきた。
これからは2人寄り添って生きていく。
うん、違いがわからないや。
こうして、僕達2人は同意の上で夫婦?となった。
ならば……
「腹減った」
夫婦だし、当然食事は提供してもらう。
僕は亭主関白ばりに、食事を請求するのだった。
紆余曲折を経て、魂が結ばれた2人
そして、最強で、最恐な、最凶に、最狂の2人だ。
立ち塞がるモノは全てなぎ倒し、進んで行く。
しかし、その先で待っていた者は……
懐かしのあの人だった。
次回 第56話 閑話 レオンとアリスの過去 再会




