第54話 閑話 レオンとアリスの過去 出会い
その日はとても良い天気だった。
僕は万端の準備をして、カヌレ王国の元王都、ガストラにたどり着いた。
ガストラの街はかなり復興されているらしく、活気に満ち溢れている。
人々は笑顔で、往来には一生懸命に働く人達が、それぞれの仕事を頑張っている。
勿論、中には冒険者や一攫千金を狙う山師、それに暴力沙汰専門の人もいるのだが、この街で盗みや殺しを行う者はほとんどいない。
それくらい治安が良い。
まぁ、真面目に働けば必ずお金が貰えるし、税金はかなり安く、薬師や医者も大勢いる。
子供達は学校に通い、大学まであるため優れた人物が集まっている。
それに、最強の兵団と言われるレオンハートがこの街を守護しており、今やレオントピアと呼ばれ、各地から人が次々と集まってくる。
中には難民や孤児、行き場のない老人までいるが、全て受け入れ、状況に応じて施しを与えたり、仕事をもらったり、教育したりと、適切な対応をしているため不満は起きていない。
ただ、それでも人が飽和していないのは、元の街が大き過ぎるから。
未だに空き家があり、耕作地も充分残っているらしい。
それに、普通なら、こんなに大きな街はスラムや貧民街ができるのだが……
少なくとも、他の街の中流層位が最低レベルなので、差ができたとしても貧しくはない。
ちなみに、街の門では一応検問があり、結界が張られているため、テロリストや殺人等を目的とする場合、入る事ができないらしいのだが……
僕の番が回ってきた。
さて、どうしようかな。
「お嬢ちゃん、孤児かい?
いや、それにしては服がちゃんとしてるし、学校に入りたくて来たのかい?」
衛兵が僕に聞いてくる。
しかも、この衛兵、中々強いな。
もちろん、僕なら瞬殺だけど、クレープ王国の衛兵なら20人分くらいの強さだ。
まぁ、嘘は苦手だしなぁ……
という事で、正直に言う。
「レオン暗殺しにきた」
「えーっと、お嬢ちゃんが暗殺者か……
本当にいいのかい?
レオン様はとんでもなく強いよ?」
「僕も強いよ?」
「なら、仕方ないね。
対象がレオン様に限り、暗殺者は通すルールだからねぇ。
通って良いよ」
そんな感じで、僕はアッサリと通る事が出来た。
しかも、レオンの居城までの地図まで付けてくれる親切仕様だ。
なんか衛兵の対応も慣れてるし、どうなっているんだこの国は?
そんな事を考えながら、真っ直ぐにレオンの居城に向かう。
僕は土人形が守護する無人の居城に入り、レオンの部屋へと進んでいく。
そして、レオンの部屋のドアを開けると……
今まで見た事も無いような、美形の麗人がいた。
見た目は男装だが……
女性の匂いがする。
レオンはとても透き通る声で、僕に話しかけてくる。
「こんにちは、君が新しい殺し屋さんかな?
女の子……
いや、魔力は男の娘だね。
はじめまして、私がレオン。
一応、グラッセ王国の将軍だよ。
まぁ、自己紹介はそれくらいにして、まずは紅茶でも飲まないかい?
丁度、美味しい南方産の紅茶が入ったんだよ。
それに、クッキーも焼いておいたんだ。
美味しいよ、食べるかい?」
そう言って、レオンはティーセットを準備し始める。
僕に毒でも盛るつもりだろうか?
いや、多分だが毒は入っていないだろう。
何故なら、レオンは圧倒的な余裕の風格があり、凛とした佇まいをしている。
そして、僕に対する殺意が全く無い。
正直なところ、心から楽しそうに見える。
それに、毒殺そんな姑息な手段を使わなくても、この人は僕よりも充分強い。
だから……
僕は遠慮なく、紅茶とクッキーを頂いた。
美味い!
こんな美味いもの食べたことが無い!
流石王族?
いや、素材自体はそこまで高いものではない。
市場に普通に売っていたものだ。
とにかく、僕は出されたクッキーを全て食べ尽くすのだった。
☆
今日は久しぶりに、暗殺者が来たとの連絡が入った。
しかも、可愛らしい女の子らしい。
ヤホーイとテンションが上がる。
最近は退屈していたしね。
どうやら、私の強さは近隣諸国に伝わり過ぎて、今では私が出陣すると、全ての相手が降伏してしまう。
この前も、山賊団の討伐に出かけたら、戦う前に降伏されてしまった。
仕方がないので、罪状を調べ、罪の軽い者は許し、罪の重い者は労役を課した。
労役を課した者も、今ではこの街の住人になり、真面目に働いている。
だから、私の相手をしてくれるのは、部下か時々来る暗殺者くらいしかいない。
ただ、部下と言っても一般兵では簡単に死んでしまうため相手にならない。
十血くらいならちょっとは相手になるが、色々な役職があり、そんなに暇じゃないため、中々手合わせする機会もない。
だから、私は時々来る暗殺者の強さを楽しみにしている。
何故なら、私の所に来る暗殺者は、それなりに強い者が選ばれる。
しかも、契約の影響で命懸けの戦いを挑んで来るため、真剣さが稽古とは桁違いになる。
この前も、病気の妹の薬代のために、西方の一流の剣士が私を殺しに来た。
あの時の戦いは楽しかったなぁ。
その剣士の形相は、正に鬼気迫ると言った感じで、私の攻撃を死線ギリギリで避け、渾身の一撃で斬りかかってきた。
一進一退の攻防……
まぁこちらは余興程度なんだけどね、身体強化も使ってないし、ただの模造刀を使って相手の魔法剣を受け流しているのだから。
結局、最後は私が勝って、その剣士は自分の命と引き換えに妹を助けて欲しいと懇願してきた。
なので、いつも通り暗殺契約をディスペルで強制解除し、楽しませてくれた御礼に大金を渡してあげた。
それと、スペシャルサービスで、私特製の薬草を付けてあげた。
聖魔法をかけながら育てた特別な薬草だ。
巷ではエリ草と言われているらしいが、死者は蘇らない。
それでも、色々な病気に効くので、かなり重宝されている。
その剣士は涙し、帰っていったが、元気にしているのかな……
それはともかく、今日来る予定の女の子も相当強いのだろう。
そうだ!
クッキーを焼こう。
と言っても、普通のクッキーではない。
普通の小麦、牛乳、卵、蜂蜜、塩を使うが、土魔法、風魔法、火魔法、水魔法を駆使し、最適の配合、混合、型取り、焼き上げを行う私のスペシャリテだ。
その味は、サクッとした食感を残しながら、口の中が乾く感じがしないしっとりさ、複雑に甘みと塩気が口の中で広がり、絶妙なハーモニーを奏でる。
それと、南方産の紅茶も淹れよう。
きっと楽しんでくれるはず。
そんな感じでウキウキと準備していると……
入ってきたのは、かなりの美少女?
いや、魔力の感じは男、ただ半分はかなり変わった魔力、死の臭いがする。
と言っても、ネビュロスみたいに、盲いた夜鷹がほくそ笑む様な腐臭ではなく、死者の脳髄を吸い取って煉獄の炎で焼いた様な感じ、何か死の神の加護でも得ているのかもしれない。
しかも、ほとんど物音もせず気配を隠し、這入ってくる。
見た目とは裏腹に、只者ではない。
私がクッキーを勧めると、遠慮なく食べているし。
口いっぱいに頬張る姿が、リスの様で可愛らしい。
嬉しい事に、お代わりまで食べてくれたしね。
ただ、あまり話すのは得意ではない様だ。
こちらから話しかけても一言しか返ってこない。
それでも、なんとなく伝わるのは運命的な何かなんだろうか?
これから戦うのが楽しみだなぁ。
「それじゃ、そろそろ戦うかい?
私はここで戦ってもいいし、広い場所が良いなら裏庭の演習場に行ってもいいよ。
武器は……
使い慣れた得物を持っているよね?
無いならこちらで支給もできるけど。
私はとりあえず、長剣を使うね。
この青紅の剣にしようか。
これは魔法剣じゃないけど、岩を泥の様に切ると言われている斬れ味があるんだよ。
さあ君はどうする?
いや、君じゃ味気ないね、名前は?」
「アリス、武器ある、外希望」
「アリスちゃんね。
わかったよ、それじゃ外の演習場に行こうか」
そう言って私は、演習場側の窓を開け、そのまま飛び降りる。
まぁ勿論風魔法で減速しているが……
アリスちゃんは、魔法無しでも壁を走って降りてきた。
やはり、思った通り身体能力が高い。
多分、身体強化の魔法をかけないとまずい。
私は即座に身体強化の魔法をかけ、青紅の剣を構える。
アリスちゃんは、両手に短剣を構える。
右手の方の短剣が僅かに長い様だが……
あれもかなりの業物だな、この青紅の剣と同レベルの様だ。
そんな事を考えていると、アリスちゃんが瞬時に間を詰めてきた。
疾い!
左からの斬撃を長剣で受け払うと、即座に反対側から短剣で突いてくる。
拳一個分の隙間で避け、土魔法で壁を出してアリスちゃんとの間合いを取る。
パワーはこちらが僅かに上だが、スピードはアリスちゃんの方が速い。
まぁ魔法が使える分、私の方が有利なんだけど、かなり楽しい。
多分ファンデル将軍よりもアリスちゃんの方が強い。
ヤバイな、楽しくて鼻から牛乳が吹き出そうなレベルだよ、ふふふ。
まぁ牛乳なんて飲んで無いけどね。
★
なんなんだこのレオンという人、化け物じゃないか……
正直な話、底が見えない。
実際、この依頼ね話をした時、ギルドのマスターとバズさんが可哀想なものを見るような目で僕を見ていた理由がわかった。
マスターに餞別として貰った、この雌雄一対の剣がなければ、戦いにもならなかっただろう。
この雌雄一対の剣は、グリップに首の長い霊獣と言われるキリンが彫られており、雄が長めで、雌が短めの2本の短剣だ。
魔法はかかっていないが、軽くてかなりの斬れ味がある。
ちなみに、バズさんには霊樹で編んだ帷子を貰い、服の下に着込んでいる。
しかし、かなり全力で打ち込んだ攻撃が、あんなにも簡単に避けられるとは……
今のところ、スピードは僅かに勝っているが、パワーでは完全に押し負けている。
ただ、あの体捌きに比べ、剣筋はややぎこちない気もする。
ひょっとすると、長剣は得意武器じゃないのかもしれないな。
それでも、剣技と魔法を組み合わすスタイルは、かなりの脅威だ。
恐らく、勝機があるのは全力の一撃のみ。
とにかく、たった一度のチャンスを作り、レオンの心臓を突き刺す!
僕は、土魔法の壁を乗り越え、レオンに迫る。
そして、先程と同じ様に右手の雄で斬りかかる。
レオンがそれを長剣で受けるのを確認したら、更に左の雌を長剣に叩きつけ、その反動で靴の中に隠し持っていた毒針を蹴りでレオンの心臓に突き刺す!
はずだったのだが、とてつもない衝撃を受け、僕の意識は……
果たして、アリスの運命は如何に?
レオンは禁忌の扉を開き、そして産まれた国を後にする。
その意思を、信用できる者達に任せて。
次回 第55話 閑話 レオンとアリスの過去 結魂




