第51話 閑話 アリスの過去 普通の暗殺依頼
おかしい……
最近めっきり、暗殺の依頼がなくなってきている。
どうしてだろうか?
まぁ、確かに最近戦争が起きていないので、敵将の暗殺の依頼はサッパリないのだが……
魔物への復讐といった、討伐の依頼もほとんどない。
この前会った、騎士団らしき一団が倒しているからだろうか。
メタボリックオークみたいな、強い魔物も結構珍しいしなぁ。
もちろん、普通の暗殺の依頼も無くはないが……
ほっとけば大抵の人は死んでいく世の中で、ワザワザ暗殺の依頼を出してまで殺そうと言う人間は少ない。
よっぽどの恨みでもない限りは。
そう思っていたら、久々の依頼が来た。
だから、陽気に楽しく殺しに行ったのだが……
依頼者は女性で、浮気した旦那を殺して欲しいと言う内容だった。
依頼者の家にたどり着き、ドアを開けると、女が出てくる。
依頼者だろうか?
「依頼受けにきた」
「えっと、貴女は……
近所の子供?」
「違う、殺し屋」
「え?
殺し屋さん?
貴女みたいに小さな子供が?
わかった、殺し屋さんごっこなのね。
でも、ウチには殺し屋さんはいらないの。
だから帰ってね」
「依頼終わらないと無理」
そう言って、殺し屋ギルドの印章を見せる。
「まさか……
本物?!
えっと、ちょっと待ってね。
依頼って何だっけ?」
「浮気した彼氏を殺しにきた」
「そうそう、そうだったわね。
ごめんなさい、あの時は彼と喧嘩して、カッとなってしまったの。
もう仲直りして、元通りになったから、必要ないの。
だから、依頼料の返却はいらないから、キャンセルさせてね?」
そんな事を言われても困る。
殺し屋は確実な依頼達成が必要だと、常日頃から教えられているし……
「無理」
僕がそう言うと、女は泣きついて懇願してきた。
「お願いよ、私、あの人が居ないと、生きていけないの。
お金ならいくらでもあげるから!
ね、ね、それでいいでしょ?」
「無理」
「それじゃ、美味しいお菓子もあげるから。
お願いよ!」
「無理」
そんな話をしていると、部屋から男が出てきた。
コイツがターゲットだろうか?
「ラーラ、この子供は?」
「えっと……
どうやら殺し屋さんらしいの……
どうしよう、パトリック」
パトリック?
確か、ターゲットはゼファーだった気が……
あと、依頼人もベラだったような……
何かが違う?
「こんな子供がか?
ラーラ、いやその顔は本当みたいだな。
お嬢ちゃん、悪いけど、依頼は勘違いだったんだ。
だから、この依頼は無効、それでどうだい?」
「無理、キャンセル不可」
「頼むよ!
誰にも言わないからさ。
バレなきゃいいだろ?
頼むよ」
「ダメ。
邪魔するなら、お前も殺す」
「ダメか……
ならば仕方ない。
わかった、じゃあ中に入ってくれ」
そう言って、パトリックは家の中に僕を誘い入れる。
家の中には……
パトリックとラーラ以外に熊の様に大柄の男が1人、中肉中背の男が3人。
そして、縛られ、気絶した男女が床に転がっていた。
中肉中背の男達は何かを探しており、大柄の男が僕に話かけてきた。
「俺の名はパンター、一応義賊だ。
アンタとは真逆の仕事だけどな、別にアンタを取り囲んで殺そうって訳じゃねー。
俺達は殺しはやらねーしな。
ちなみに、アンタのターゲットはコイツだろ?
だが、申し訳ないが俺達の仕事が終わるまで待ってくれないか?
何、探し物が見つかればすぐにずらかるさ」
「すぐ終わる?」
「ああ、ちょっと待っててな。
だがまあ、なんでアンタみたいな子供が殺し屋なんてやっているんだ?
しかも、結構ガチだよな。
いや、その物腰からわかるぜ。
かなりの修羅場をくぐってきた雰囲気を感じるしな。
俺も、ちょっと前までは、クレープ王国で兵士長をやってたからな、見ればある程度わかるんだよ。
だがな……
話せば長くなるが……
先王は非常に高潔なお方でな、クレープ王国はとても平和な国だったんだよ。
しかし、王子、いや今の国王の嫁として、隣国の姫がやってきて……
陵辱姫と呼ばれるソイツは、カヌレ王国の王族の遠戚らしいんだが、陵辱姫が来てから、国がおかしくなり始めたんだ。
まず、先王が急死して、王子が王位を継承する。
ここまではよくある話だが、その後で国王も病気がちになり、代わりに陵辱姫が執政する事になったんだ。
丁度その頃、カヌレ王国が倒れ、グラッセ帝国が興きて近隣の国が帝国に併合されていたんだが、陵辱姫はグラッセ帝国の皇帝妃になったエリーゼにいち早く恭順の意を伝え、クレープ王国は帝国の属領となり、平和が約束された事が民に伝えられた。
そして、陵辱姫の民衆の人気が上がり、名実共にクレープ王国は陵辱姫のモノとなった。
そして、熱狂的な信者、今はレイパーズって言うんだが、ソイツらが集まり、この国の中枢を担う様になってから、国が変わり始めた。
最初にグラッセ帝国への租税として、重税に次ぐ重税が課せられた。
ちなみに、後から知ったんだが、他国ではそんな重税はないらしい。
むしろ、異常な程の減税と、貧乏な国には支援金すら出るって話だ。
そして、重税の次はいわれの無い罪で、民衆が逮捕され、拷問が繰り返された。
特に魔法で発情させた馬を使い、老若男女問わず陵辱する。
そんな拷問が大好きだったらしく、ついた渾名が陵辱姫って事だ。
それでな……
俺が仕事で重税を徴収している間に、アンタと同じくらいの俺の娘が、陵辱姫の馬車の前を通り過ぎたって理由で斬り捨てられた。
可愛い子だったんだよ……
なのに……
更に、俺の妻と母は熱心な聖十字教徒だったんだが、急に邪教扱いされて、捕まったんだ。
多分陵辱刑で殺されたんだろう……
遺体はすぐに燃やされ、見る事すら出来なかった。
だから、俺は同じ境遇の奴らと軍を抜け、義賊を始めたんだ」
「それで?」
「いや、単に娘と同じくらいのアンタにさ、なんとなく言い訳を聞いて欲しかっただけさ。
おっと、探し物が見つかったみたいだな……
やはり、この女は陵辱姫の間者か。
そして、重税の行き先はグラッセ帝国のエリーゼ皇后って事だな。
よし!
テメェらずらかるぞ、それとこの2人に用はないから、アンタが好きにしな」
「待って、囲まれてる」
多分、10人くらい。
衛兵や自警団ではない。
かなりの手練れの暗殺者ってとこか?
この義賊達よりは遥かに強い。
出ていけば瞬殺だろう。
そして、どうせその後で僕を殺しにくる。
めんどくさいが、せっかくだし肩慣らしに倒すかな。
そうだな……
利き腕じゃない左だけで倒す事にしよう!
そう思っていると、パンターが提案してくる。
「ヤバイ、レイパーズの奴らだ。
ここは俺達で足止めするから、アンタはラーラを連れて、逃げてくれないか?」
「団長!
私だけ逃げるなんて出来ないよ!」
「いや、ラーラはこの書類を頼む。
でないと……
誰かが生き残らなければ、クレープ王国は終わりだ。
頼む!」
「団長……
わかった、アリスちゃんだっけ。
私と逃げてくれるかな?」
「却下。
邪魔するな、殺すぞ?」
僕はラーラ達の提案に、丁寧に説明してあげた。
と、思う。
ただ、ちょっとイラついたせいか、睨んでしまったらしく、パンター以外は失禁してへたり込んでしまったのだが。
僕は、ナイフを一閃し、鞘に戻す。
そして、縛られていた男の首が落ち、大量の血が隣の依頼人の女に降り注ぐ。
依頼人の女は、一瞬目が覚めて、絶叫した後にまた気絶してしまった。
「ちょっと肩慣らしに、外のゴミを片付けてくる。
邪魔するなら一緒に殺す。
死にたくないならここで待ってろ」
そう言って、僕は外に出るドアを開ける。
当然室内にいる誰もが動けなかった。
僕がドアを開けた途端に、一本のナイフが飛んでくる。
多分刃先に毒が塗られている。
僕は反転するようにナイフを避け、左手で柄を握ってナイフを奪い、即座に駆け抜ける。
この僕に投げナイフ一本とか、舐めてるのか?
まずは正面の奴から、次のナイフを投げる前に、ゼロ距離にまで近づき、心臓をナイフで突き刺し、即死させる。
すると、隣の奴が毒霧を吐いてくる!
仕方ないので、最初に殺した奴を盾にして、毒霧を避け、更に踏み台にして空中を2回転して毒霧使いの脳天にナイフを突き刺す。
残り8人
そして、次は6本のナイフが全方位から飛んでくる。
最初からそうすれば良いのにねぇ。
油断するから後手後手に回るのにさ……
僕は、今持っているナイフを投げ、別のナイフに当てて相殺する。
更に、4本のナイフを避けた後で、最後の1本を掴み、敵の所にダッシュで向かう。
もう予備がないのか、敵はナイフを投げずに3人同時にかかってくる!
頭、胴、脚と、精密な連携で僕を斬り裂こうと踏み寄るが……甘い!
さっきのをちゃんと見て予習しとかないと。
上がガラ空きだよ。
僕は敵を踏み台にして駆け上り、態勢を崩した奴らを斬り裂く……
と、思ったら狙いすました様にナイフが飛んで来た。
なかなかやるねぇ。
こうした駆け引きは、オークやゴブリン等の魔物では楽しめない。
対人戦特有のものだ。
でも、飛んで来たナイフは丁度3本、ならば……
僕は空中で全て弾き返し、着地する。
そして、そのナイフは全て下にいた3人の敵に突き刺さり、致命傷となって死亡する。
因果律が働いたらしい。
残りは5人。
今度は槍使いと、鎖鎌か。
鎖鎌で絡めとり、槍で突く、そんなスタイルだろうが……
いくら技を極めても、鎖鎌や槍が投げたナイフより速いわけがない。
アッサリ躱して、鎖を掴み、思いっきり引っ張る。
そして、鎖鎌使いは態勢を崩し、つんのめった先で槍の穂先に刺され絶命する。
更に、槍使いは僕が近づき、トドメを刺す。
槍使いが刺される、うん皮肉なもんだね。
残りは3人。
槍使いがやられたタイミングで、2人が足音を消して近づいてくる。
実際、音なんてほとんどしてないけど、何故だか運命的なものを感知してわかってしまう。
近づいた2人が、僕を捕まえようとした瞬間、スッと屈んで、2人の隙を潜り抜ける。
ん?
火薬の臭い……
僕は脇目も振らず、ダッシュで2人から離れると、爆風が巻き起こり、軽く吹き飛ばされる。
自爆攻撃か……
ダメージはほとんど無いが、風圧を喰らってしまった事に腹が立つ。
いや、敵に怒っているのではなく、自分の不甲斐なさになんだけどね。
まぁ、でも悔やんでも仕方ないし、気持ちを切り替えて残る1人と対峙する。
「私の名はシラヌイ。
レイパーズ暗殺部隊の総長だ。
お前は……
そうか、死神アリスか。
何故だ?
何故我々の邪魔をするんだ?」
暗殺部隊のリーダーっぽい男が、そう僕に聞いてくる。
多分、コイツはまあまあ強いな。
前会った騎士団の団長より、チョイ弱いくらいかな。
だったら片手で丁度良いくらいかな。
「この家の依頼だった。
ただ、それだけ」
「たったそれだけの理由?
ちなみに、ターゲットは女か?」
「依頼人が女。
ターゲットは男」
「そうか……
実は、我々はその女を助けに来たのだ。
だから、お前のターゲットの男が殺されても一向に構わないんだ。
という事で、我々が殺し合う理由はない事になるな。
だったら、引き分けと言う事にして、引いてはくれないか?
私はこれでも、この業界で五本の指に入ると言われているから、シラヌイと引き分けたと言えば自慢できるぞ?」
「嫌」
「ならば金を払ってやろう。
いくらだ?
いくら欲しいんだ?」
「貴様の命」
「何故だ?
無駄な戦いなんて意味が無かろう。
いや、違うか。
まぁ攻撃したのはこちらが先だしな。
いずれ追手がくる可能性を考えたら……
この場でどんな条件を出しても無意味か。
ならば仕方ない!
私の本気、見せてやろう」
そう言って、暗殺者のオッさんはなんかの薬品を飲み出す。
アレは……
身体強化薬か?
暗殺者のオッさんの全身の筋肉が膨れ上がっていく。
だが、あの薬は劇薬のはず……
途中で解毒しなければ、本人が死ぬ。
「さあ、行きますよ?」
暗殺者のオッさんは、人間離れしたスピードでこちらに迫り、両手のナイフで襲ってくる。
強い!
メタボリックオークより少し強いくらいだ。
しかも、毒のナイフはかすり傷でも致命傷になり得る。
一撃でも喰らう訳にはいかない。
激しい連撃を、左手のナイフのみで捌いていくが、流石に防戦一方になってしまう。
「どうしたんですか?
先程までの勢いがありませんね?
それに左手しか使えないとは、死神アリスも噂程ではありませんね。
さあ、死んで下さい!」
いや、両手使ったらツマラナイしなぁ。
とは言え、防戦一方もツマラナイ。
ちょっとずつだが、相手のスピードにも慣れてきたし、左手の筋肉もいい感じにほぐれてきた。
なので、相手のナイフを受ける時の強さを、ほんの少しずつ強めていく。
一回に強める力量がごく僅かでも、数百、数千と打ち合えばかなりの力になる。
だが、暗殺者のオッさんは薬で身体強化しているので、そんな細かな違いなんて感じない。
だから……
突然、暗殺者のオッさんはナイフを落としてしまう。
実際、かなりの力で弾いていたからなぁ、手が痺れたのだろう。
僕はダメージが無いように、適切な角度を維持していたから平気だけどね。
「グワッ!
貴様何をした?
腕が……
腕が動かん!」
暗殺者のオッさんは驚き、硬直している。
「終わり」
僕はそう言って、暗殺者のオッさんの首を刎ねる。
ふー、いい運動になったな。
しかし、この程度で五本の指に入るとか、大した事がないな。
僕はそう思い、パンターさん達のいる家の中に戻ったのだった。
きっかけは些細な偶然、だがそれが大きな運命のうねりへと連なっていく。
そして、その運命は……
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