第50話 閑話 アリスの過去 殺しのライセンス
さて、依頼をこなすかな〜
僕は、依頼者以外の家は無視して、村の中心に向かう、途中のオークも適当に倒しながら。
そして、村の中心の広場には……
メタボリックオークが居た。
メタボリックオーク、肥満が美徳とされ、太れば太るほど尊敬されるオークの社会で、至高の存在と称される究極の肥満体。
その身体はセルライトに覆い尽くされ、いかなる物理攻撃をも通さない。
一説によると斬鉄剣ですら、弾力に負け切れないらしい。
一方で、重鈍で動きが鈍いため、オークの象徴的な飾り、文鎮だと思われているが、実際はそうではない。
メタボリックオークは、体内の魔力を使い脂肪や体液を使う事で攻撃をしてくるのだ。
しかも、その速さはかなりのもので、油断して近づいた冒険者が脂肪の触手に捕まり、多くの者が命を失ったらしい。
そして、今現在広間にいるメタボリックオークは、片耳だった。
つまり、今回の殺しのターゲットだ。
しかし……
コイツ、かなりデカイな。
多分、あまりにデカ過ぎて自分では動けないのだろう。
メタボリックオーク用の輿だと思われる、粗末な木の筏みたいな物に乗っている。
そして、ただひたすらに手下のオークが持ってくる食料を食べている。
かなりの肥満度だなぁ……
これだけ離れていても、ピー臭がしそうだ。
そんな事を考えていると……
気づかれた!
ちゃんと気配は絶っていたはずなのに。
かなりの速度で、メタボリックオークの触手が飛び出て来て、僕に迫る!
しかし、僕は偶々持っていた火打ち石を、触手が届く寸前で打ち鳴らす。
そして、触手は急激に燃え、本体まで広がって焼き尽くす。
「燃えろよ、萌えろよ、煉獄の炎〜
火の粉を巻き上げ、天ごと焼き尽くせ〜」
って思わず歌ってしまった。
まぁあまりにも綺麗に燃えていたし……
仕方ないって事で。
ちなみに、偶々持っていた火打ち石は、バズさんが何故か行きにくれたんだけど、メタボリックオークって知っていたのか?
まぁでも、あの触手攻撃はかなりの素早さだったし、普通の冒険者なら火はつけられないだろうな。
僕くらいの動体視力が無ければ意味って事だね……
それに、メタボリックオークが出したのが、体液系の触手なら火はつかなかった。
脂肪の触手だからこそ、火がついたのだ。
もちろん、炎を手にしていたら、メタボリックオークだってわかるし、脂肪の触手を出さない。
一方で、体液系の触手は粘度が低く、あまり距離が出せないと言う欠点もある。
だから、あの距離なら脂肪の触手しか出せないだろう。
僕はあの一瞬でそう計算して、ギリギリを見極めて火をつけたのだ。
狙い通り、メタボリックオークは真っ赤な炎を巻き上げ燃えさかり、手下のオークは右往左往している。
まるでブタの様だな、ハハハハ。
逃げ惑うオークなんて、敵ですらない。
つまり、ただのカモ、いやただの養豚だな。
僕はその場にいたオークを、全て斬り裂いていく。
そして、メタボリックオークが燃え尽きる頃には、ブタの死骸が辺りに散乱していた。
僕は、適当に魔石だけ回収し、村の外に向かう。
まぁ数匹のオークと、オークの子種を植え付けられた女性が残っているだろうけど、依頼外だし関係ないね。
全滅とかは、騎士団か冒険者に任せればいい。
例えその後の被害が増えようが、知った事ではない。
そう思っていたのだが……
油断した!
オークの気配は注意していたが、かえって人間の気配に鈍感になり、気づかなかった。
気づいたら、村の入り口に騎士団がいた。
恐らく、オークからこの村を救いにきたのだろう。
遅いけど……
仕方ない、村人のフリをしてやり過ごすか。
僕はナイフを内股に隠し、何事もなかったフリをして騎士団の前に出て行く。
それに気づいた騎士団員が、「大丈夫?」と言って寄ってくる。
「道に迷った」
僕がそう言って誤魔化すと、その騎士団員は上司らしき人物を呼んでくる。
そして、その上司らしき人物は、僕を見て驚愕し、
「こ、殺し屋アリスじゃないか!
全員、下がれ!
そいつは危険だ」
と叫んだ。
まぁ時々戦場での殺しも請け負うしなぁ……
この上司らしき人物は、僕の事を知っているらしい。
「依頼はオーク、倒したから戦う気は無い」
そう僕が言っても、誰も警戒を解かない。
仕方ない、殺して切り抜けるか?
でも、依頼じゃないからめんどくさいな〜
とかを考えていると、更に上役らしい、強そうな男が出てきた。
「この子が噂の殺し屋か?」
「はい、ランドルト様。
私も一度戦場で見ただけですが……
この可愛さ、間違いありません!」
「そうか……
可愛さ?
まぁいい、ここは私が話をつける。
お前達は、撤退する様に」
「しかし……
全員でかかればあるいは⁈」
「いや、これは命令だ。
私に任せろ!」
男がそう言うと、騎士団員達は撤退を始める。
そして、男がこちらに話しかけてきた。
「部下が失礼した。
私の名はランドルト。
この騎士団の団長だ。
ここにオークが出たと言う通報を受け、やってきたんだが、君が大半を倒してくれた様だね。
感謝する」
「ん、こっちも仕事。
メタボリックオーク死んだから帰る。
邪魔は、しない?」
「メタボリックオークだって?
ならばこの村は全滅か……
それでも倒してくれて、ありがとう。
何か御礼をしたいのだが?
もちろん、君の邪魔はしないから大丈夫だ」
「報酬は貰っている。
だから、邪魔しなければいい」
「わかった。
私達は君を見なかったし、君の帰宅を邪魔しない。
約束しよう。
じゃ、二度と会わない事を祈っているよ」
「りょ」
僕はそんな会話をして、その場を後にする。
しかし、ランドルトってオッさんは結構強かったな。
メタボリックオークと同等くらいか?
戦えば、面倒な相手だっただろう。
正直、人間は依頼が無いのに倒しても、お金にならないからな〜
無理にリスクを追う必要は全くない。
もちろん、相手がヤル気なら別だけど、邪魔しないならどうでもいい。
そう考えながら、僕は殺し屋ギルドに帰っていくのだった。
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「ランドルト様、あの殺し屋を逃して本当に良かったんですか?
このまま放置すれば、また別の戦場で仲間が殺されるかもしれませんよ」
「ロペよ、あの子供は私よりも格上だぞ?
いや、全十血が束になっても勝てないかもしれない。
そう、雰囲気と言うか、オーラで言えば、レオン様に近い様な感じだった。
それに、私をちょっと面倒な相手くらいにしか、見ていなかった。
だから、あの場は引くしか無いよ」
「私には、ただの子供にしか見えなかったですけどね」
「広間のオークの死骸を見ただろう?
あの大きさのメタボリックオークなら、我々でも全滅があり得たレベルだぞ。
この破壊のランドルトでも、勝てない相手だ。
無駄な死者を出す必要なんてないさ。
まぁでも、あの強さは異常だったな……
今でも背中に悪寒が残っている。
それこそ、伝説の殺し屋のアレニウスの弟子なのかもしれないな……」
「あの200年前に居たって言う、伝説の殺し屋ですか?
しかし、ボイル国のシャルル3世の暗殺に失敗して、姿を消したんですよね?」
「まぁ、表向きはな。
実際は、アレニウスはシャルル3世の所まで迫っていた。
ただ、シャルル3世は喉元にナイフを突きつけられながらも笑ってこう言ったらしい。
「このシャルル3世を殺せるとは、素晴らしい!
お前は最強の殺し屋として、認定してやろう。
少し待て、国宝のガーネットをくれてやる。
それから私を殺すがいい」
そして、国王が言葉通りガーネットを渡すと、アレニウスは呟いたそうだ。
「ふむ、こんな面白いターゲットは、初めてだ。
正直、ターゲットに言われたタイミングで殺す気にはならんな。
悪いが天邪鬼なんでね。
残念だが、ミッション失敗で廃業か……
ちなみに、依頼者はお前の弟だぞ、まぁ兄弟で仲良くやるんだな」
その後、アレニウスの足取りは掴めず、死んだと言う噂もあるが……
アレニウスは長命のエルフって話だしな。
いずれにせよ、我々レオンハートは殺し屋には関わらない。
今回も何もなかったと言う事にしておけ」
「承りました!
部下にもそう徹底させます」
こうして、オークによる村の壊滅は人知れず処理されたのだった。
――――――――――――――――――――――――
「メタボリックを倒してきた。
あと追加依頼で、依頼主殺した」
僕はギルドマスターにそう報告する。
「えっと……
片耳のオークを倒しに行ったら、メタボリックオークが片耳だったから倒した。
ついでに、依頼者がオークに襲われ、種付けされていたから殺してと頼まれだので、追加依頼として殺した。
そう言う事だよな?」
バズさんが、補足して説明してくれる。
「メタボリックオークか、あれはよく燃えるから楽しいよな……
あー、俺も殺してー
いいなぁ、斬り裂いて、ハンマーでグッチャグチャにして、充分天日干ししてから燃やすと、豚肉みたいないい匂いがするんだよ。
まぁそれはともかく、アリスも大分慣れてきたな。
もう一人前だな」
ギルドマスターが僕を褒めてくれた。
珍しい……
「なら、それ、くれ」
そう言って、僕はギルドマスターの大切にしている赤い宝石を指差す。
「そうだな……
俺が認めるくらい強い奴を倒したら、その時はくれてやるよ。
まずはそんなターゲットを見つけるのが、難しいんだけどなぁ。
まぁ頑張れや」
「りょ」
「マスターもあんまり子供を揶揄うもんじゃねーぜ?
それに、大事な物なんだろ。
子供のオモチャにはもったいないぜ」
「ふむ、まぁ大事と言えば大事か……
だが、俺はこれに縛られているしな。
まぁ一長一短だな」
「相変わらずマスターの意図はわからんが、遠慮するなって事らしいから、頑張れよ、アリス」
バズさんの言葉に、僕は頷く。
こうして、当面の僕の目標は、殺し屋ギルドのマスターに認められる相手を倒す事となった。
それが、長く果てなき旅路の始まりとなる事は、今の僕に知る由もなかった。
それはただのよくある依頼だった。
でも、そこで出会った人々は……
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