第47話 閑話 レオンの過去 ガストラ戦役
例によって、途中の村や町に寄ったため、レオン達がカヌレ王国王都ガストラに到着したのは、イーストグラスの戦いの15日後だった。
「いやー、話には聞いていたけど、大きな都市だね。
人も沢山住んでいるだろうし……
降伏させて、責任者を更迭くらいで終わらせないかな?」
私はベリーさんに尋ねる。
「いえ、大部分は倒したといえ、近衛や衛兵が残っています。
高々2000人の兵に降伏などしないでしょう。
しかも、国王ドゥーエやエリーゼ王女はプライドが高いですから。
例え国民全員を犠牲にしても、降伏はしないでしょう」
「そか〜
というか、無辜の民が襲ってきたら、どうしようかね。
倒してまで攻めるのは、ちょっとね……
って、なんか城門から大量の人が出てきたね。
特に武器は持っていない様だけど。
……嫌な予感がする」
私はすぐに土人形を呼び出し、大量に出てきた貧民らしき人々に向かわせる。
そして、土人形が貧民らと接触すると、突然閃光が放たれ、轟音が響き渡る!
咄嗟に、アースウォールを張り、衝撃波を相殺したが、アレが直撃ならば、こちらはほぼ全滅していただろう。
実際、土人形は全滅し、アースウォールも五層の内、第3層まで破壊されているし。
しかも、爆風は波状攻撃の様に続いており、土の壁を補給しつつ防ぎ、なんとか耐えきる。
暫くすると、音が止んだが、一体何人を犠牲にしたのだろうか?
と言うか、アレは多分暗黒魔法の類だ。
禁術……
身体強化を他人にかける禁忌なんて、目じゃない程の禁術だ。
この大陸では、かつて暗黒魔法の使い手が邪王として全土を支配し、人々を恐怖と混沌と腐敗と暴力の世界に陥れた。
そう言う歴史があり、再び暗黒魔法の使い手が現れた時は、全ての国が結束してこれを討つ、と言う盟約がある。
ちなみに、別の大陸から来た光の勇者と4人の大精霊の加護を受けたエレメンターによって、暗黒魔法の使い手は倒され、この大陸に平和が戻った、らしいのだが、勇者の子孫が興したと言われるカヌレ王国から暗黒魔法使いが出るとは……
皮肉なものだなと思った。
それはともかく、最早国同士の争い、と言う訳にも行かなくなった。
暗黒魔法の使い手を倒し、その関係者全てを討たなければならない。
「みんな落ち着いて聞いて欲しい、恐らく先程の攻撃、敵軍は暗黒道に堕ちたのだと思う」
私がそう言うと、皆の顔が蒼ざめ、騒めき出す。
「まさか……
邪王の再来と言う事でしょうか?
これは既に我々だけの話では無くなっていますね。
どうしましょう、一旦引きますか?」
ゲイツ騎士長が聞いてくる。
「いや、ここで倒さねばこの大陸全土が災禍に見舞われるでしょう。
私が全力をもって討ちます。
なので、部隊を選別し、未来ある若者は本国や途中の街などに伝令を!
残りは……
例え死地でも、着いてきてくれますか?」
「我らレオン将軍のためなら、いつでも死ぬ覚悟はできています!
是非、フロマージュ隊を前衛に!
必ずや道を切り開いてみせましょう」
ベリーさんは、覚悟を決めた顔で私にそう言った。
「私達も、この大陸を思う気持ちは同じです。
グラッセ王国騎士団、レオン将軍配下は死地など恐れません!」
ゲイツ騎士長も、戦う覚悟を決めた様だ。
「ならば、我々は暗黒魔法使いを、カヌレ王国軍を人類の敵として必ずや討ち果たす!
今回の戦いは皆の命を保障できないが、その戦いぶりは後世に伝えられるだろう。
それでは準備が整い次第、進軍する。
光の勇者の御加護を!」
「「「光の勇者の御加護を!」」」
こうして、粛々と部隊分けと進軍の準備が進められるのだが……
「申し訳ありません、本来ならレオン将軍こそ、この大陸に必要な未来ある若者なのですが……
我々には将軍のお力を貸して頂くしか手がありません。
その代わり、この老骨の命ぐらいでしたら、存分にお使い下さい!」
ゲイツ騎士長はそう言って深々と頭を下げる。
それを見たグラッセ王国騎士団の若者達が、真剣な眼差しでこちらに来る。
「私達も、伝令ではなく戦いに参加させて下さい!
レオン将軍達だけを死地に向かわせる訳にはいきません。
お願いします!」
それに対して、ゲイツ騎士長は若者達を怒鳴りつける。
「お前達!
レオン将軍のお気持ちを無にするつもりか!」
「騎士長、それでも!」
若者達は食い下がる。
「まあまあ、ゲイツさん。
君達も、勘違いしちゃいけないよ?
今回の戦いは、全土の王国、全ての人達が結束して戦わないといけないんだ。
だから、1秒でも速く、死ぬ気で伝令を務めて欲しい。
私達に万が一何かあった時のために……
かなり重要なミッションだよ。
それを任せるんだ、前を向き、胸を張りなさい」
私がそう言うと、若者達は黙り込み、悔しそうな顔で「必ずや、任務を務めてきます」と引き下がる。
まぁ、ぶっちゃけ若者達って言っても、私より年上なんだけどね〜
向こうからしたら、年下の私を置いて、逃げるような真似はしたくないのだろう。
だけど、今回は万が一もあり得るし、例え戦いに勝っても暗黒魔法使いを逃したら……
違う意味でこちらの敗北だ。
だから、最低でもグラッセ王国、できれば各国の協力が欲しい。
そして、実際は私以外の人は、ほとんど戦えないしね。
準備が終わり、さあ出陣という時に、相手の軍も城門から出てきて陣を敷き始める。
中央には、大きな輿があり、黒衣を纏った女性が鎮座している。
その周りにフードを被った、魔導師らしき者が5人。
そして、金の鎧を着た近衛らしき兵団が約3000。
土人形と同じ数か……
その動きは、まるでカラクリ仕掛けの様に整然と並べしている。
……なんだか、嫌な予感がする。
こちらが様子を見ていると、敵軍から1人の使者が来る。
使者は、何故かたどたどしい口調で、戦いの口上を一方的に告げる。
「バンゾクドモヨ……
ワレラガアルジ
エリーゼサマハ
キサマラノシンリャクニオイカリダ
シヲモッテツグナウガイイ!」
そう言って、突然襲いかかってくる。
私は、即座に反応し、ファンデル将軍の黒剣に聖魔法を乗せ叩き斬る!
使者は、真っ二つになるのだが、中は骸骨……
やはり、死霊兵か。
生者を死者に変え、使役する暗黒魔法。
これも、邪王の好んだ魔法だったはず……
聖魔法でなければ、殺すことができない、不死身の兵団。
私は一旦皆を下がらせ、土人形で相対する。
当然だが、どちらも死なない兵団なので、戦いは膠着する。
私が一体ずつ倒しているが……
キリがない。
しかも、夕方になるにつれ、死霊兵は強くなっていく。
夜になればヤバイかも、そう思い始めた頃、魔導師達が倒れ始める。
恐らくだが、闇の力が増幅した死霊兵達へ供給する魔力が足らなくなってきたのだろう。
自分の部を弁えない力は身を滅ぼす。
それに伴い、死霊兵も崩れ落ち、大地に還っていった。
残るは輿に乗った黒衣の女だけ。
我々が囲むと、笑って言った。
「私は世界に愛されし存在!
我が名はエリーゼ カヌレよ。
貴方達の様な蛮族が近づいていい存在ではありませんわ。
しかし、ここまで来た事は褒めて差し上げますわ。
そうですね、褒美に、絶対的な力を見せて差し上げますわ?
出でよ、ネビュロス!」
そう言うと、王都ガストラに暗黒の魔方陣が浮かび上がり、先程の貧民や死霊兵の魂すら飲み込んでいく。
そして、私達の目の前に一体の死霊兵を召喚する。
邪王ネビュロス
その身体つきは小柄ながら、巨大な大剣を背負い、禍々しいオーラを放つ死霊の王
あの巨大な大剣は、魔剣ネクローシス
触れたものは全て腐り落ち、壊死していくと言う、かなり危険な魔剣だ。
実際見た目は大剣を背負い、豪華なマントをつけた、ただの骸骨なんだが、威圧感が半端なく、私以外の人は全て膝をつき苦しそうにしており、馬は泡を吹いて倒れている。
そう、私以外のと言う意味は正確で、エリーゼすら輿から落ちて苦しそうにしている。
この感じ……
下手すると、土の大精霊以上か。
私は、まず身体強化の魔法をかける。
そして、更に極身体強化の魔法を上掛けする。
ちなみに、極身体強化の魔法は、土の上級精霊との戦いで編み出した術で、魔法で身体を錬成して、全身の魔力回路を作り変え、身体強化を更に上げると言うものだ。
ただし、多分これでも足らない。
私は更に、超越強化の術を上掛けする。
超越強化は、土の大精霊に勝つために産み出した術で、身体ではなく、時空と時間を操作して、自分だけのスピードを上げる。
ちなみに、極身体強化なしで超越強化を行えば、身体が崩壊するだろうけど……
魔剣ネクローシスに触れるのを避けるため、私はファンデル将軍の黒剣に聖魔法を乗せ、音速よりも速くネビュロスに斬りかかる!
しかし、ネビュロスはこれを受け、更に切返してくる。
打ち合う事数合、実際には1秒程度かもしれないが……
パワーもスピードも互角?
いや、相手の方がどちらも上だ。
死霊化すると、生前の数倍の力が出るらしいけど、超越強化すら凌ぐとしたら完全に化け物だ。
そんな事を考える間も無く、様子見は終わったとばかりに、強烈な一撃が放たれる!
辛うじて受け止めるが、私は吹き飛ばされ、倒れこみ背中を強打する。
ヤバイ、斬られてはいないが、ダメージはデカイ。
そして……
「また来る」
そう言い残し、ネビュロスは消えていった。
恐らく、エリーゼの魔力が切れたのだろう。
あれだけの化け物を1秒以上召喚したのだから仕方ないが……
そして、私は意識を失ってしまうのだった。
意識を失うレオン
そして、目覚めるとそこは、誰一人としていない廃墟となった、カヌレ王国王都ガストラだった。
なんの為の戦いだったのか、その意義を失いながらも、戦後の復興を目指すのだと自分に言い聞かせるのだった。
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