第46話 閑話 レオンの過去 王都動乱
レオン達が食糧庫を攻略した頃、カヌレ王国の王都ガストラでは第2王子マリオットの国葬が大規模に行われていた。
そして、数日間に渡る国葬の終わった頃にやっと、ファンデル将軍からの急使が到着した。
王都ガストラ、人口約800万人の巨大な都市
先王のブリッツが整備し、風光明媚な都市として有名だった。
が、しかし、先王が急死し、今の王ドゥーエが戴冠した頃から凋落し、貧富の差が激しくなる。
更に、ドゥーエの第二子としてエリーゼ王女が誕生した事で、更に暴政へと発展してしまう。
エリーゼ王女は見目麗しく、とても頭が良かった。
国王ドゥーエはエリーゼ王女をとても可愛がり、彼女の言う事は全て叶えた。
王は常にエリーゼ王女の言う事を聞く、いつしか市井では「エリーゼのために」と言う歌が揶揄して歌われる程に……
一方で、エリーゼ王女は小さなころから冷徹で、残忍な性格が発露し、気に入らない人間を次々と処刑し始めた。
きっかけは、10歳の時、父親である王に逆らった者が、断頭台にかけられるのを見た事だった。
エリーゼが開口一番に発したのは……
「私もやりたい!」
だったと言う。
そして、気に入らないメイドから始まり、教師や衛兵を経て、市民の処刑に至るまでにはあまり時間がかからなかった。
処刑の方法も、最初は断頭台、剣での斬首から始まったが、毒殺、火焙り、絞首刑と、次々とバリエーションが増えていった。
エリーゼは、その処刑を見るたびに、血が流れるのを見て興奮し、叫び声を上げるのに歓喜し、顔面が蒼白になるのを見て大笑いする。
次第にエスカレートするさまに、ファンデル将軍が王に抗議すると、エリーゼはファンデル将軍の処刑まで画策を始めた。
ただ、流石に王でも、全軍の指揮権を持ち、文武に優れたファンデル将軍を処刑する事は出来なかった。
そんな事をすれば、国が滅ぶ、愚王でもその程度の分別はあったのだ。
それでも、エリーゼの策略でファンデル将軍は南方からの侵略を防衛する任に当たる事になる。
例え南方が平和で、敵がいないとしても。
こうして、ファンデル将軍はビザールレギオン引き連れ、いない敵を倒すまで帰れない任に着く事になる。なお、この時ファンデル将軍は第3王子のザイナホンを南方に同行させている。
カヌレ王国には3人の王子がおり、気狂い王子と言われた第1王子マグラや、傲慢すぎる第2王子マリオットについては更生不可能と見て、賢明で温和な第3王子ザイナホンを王都から離し、自らの手で育てるためだった。
後世の歴史家は言う。
この時ファンデル将軍が王都に残っていたら、恐らくグラッセ王国は滅び、カヌレ王国が大陸を支配する暗黒時代が来ただろうと。
実際、レオンの初陣がファンデル将軍相手なら、レオンは生き残っただろうが、別動隊に騎士団も、王国も滅ぼされていただろう。
もしくは、適切な降伏条件に従い、戦争にすらならなかった可能性が高い。
もちろん、レオンが切れて、大陸中が火の海に飲まれた可能性もあるが、後のレオンの行動をみるとそれはなかっただろう。
かくして、ファンデル将軍が王都を離れ、エリーゼの蛮行はエスカレートして行く。
そして、エリーゼが18歳の誕生日を迎える頃には、国内だけでは飽き足らず、国王や王子を唆して戦争を扇動し、占領した国の民を拷問で処刑し続けた。
そう、この戦争はエリーゼが処刑を楽しむ為の遊びの様なものだったのだ。
生きたままの皮剥、鳥葬や大量の斬首や蠆盆と言った拷問を次々と考えつき、実行して行く。
その遺体は王都の外側に放置され、その付近の貧民街では疫病が蔓延した。
こうして、戦火は広がり、国内外で荒廃が進んでいく。
先王ブリッツが生涯をかけて切り開いた穀倉地帯も、戦争の糧食として全て徴収され、火をつけられた。
なんとか維持できているのは、侵略されていない国と、ファンデル将軍のいる南方だけ。
だが、それすらも狙われており、グラッセ王国に攻めたマリオット王子の軍が敗退したのを理由に、ファンデル将軍を招集した後で、掠奪軍が派遣されたくらいだ。
ただ、この掠奪軍はファンデル将軍が用意した策で、ザイナホンが討伐する事になる。
多大な犠牲は払ったのだが……
こうして、派遣した軍を大敗で失い、掠奪軍すら無くしたカヌレ王国の王都にはもうほとんど兵が残されていなかった。
あとは衛兵と近衛のみ。
そして、急使が伝えるファンデル将軍の敗戦……
誰もが予期せぬ出来事だった。
皆が沈黙する中、急使の言葉を聞いた国王ドゥーエの発した一言は、
「あの役立たずが!」
だった。
命がけで馬を走らせた急使は、ガックリと項垂れ、ファンデル将軍の最期の手紙を言葉で伝える。
「王よ、この手紙を読んでいると言う事は、私はもうこの世にいない事になります。
今回の敵はかなりの強敵です。
私が及ばなかった事を、心からお詫び申し上げます。
念のため、私が死んだ後も敵が侵攻できない様に策を施しましたが、恐らくは時間稼ぎにしかならないでしょう。
このまま待つのは敗北だけ、願わくば北に雌伏し、再起の機会を図って頂きたい。
北のベイクド候には、話を通しています。
最期に、この国の繁栄と国民の幸せを祈っております」
急使の述べるファンデル将軍の言葉に、臣下は皆涙する。
だが、国王ドゥーエは慌てふためき、「誰の責任だ!」と、わめき散らしている。
そこに、エリーゼ王女がやってきて、笑いながら国王に話しかける。
「お父様、老害の1人が死んだくらいで、何を慌てなさっているのですか?
確かに沢山の兵は失ったかもしれませんが、まだまだこの国には屈強な近衛や衛兵がいますわ。
それに、相手は所詮田舎者の兵団、世間知らずのならず者達ですわ。
卑怯な手を使ったに違いありません。
ですから、落ち着いて下さいな。
お前達も、王都を離れるなど許しがたい事ですわ!
ファンデルの甘言に惑わされてはいけません。
この伝令は斬首、他の者もファンデルが死んだ事を口外してはなりませんよ?
私達は王都でかの敵を討ち倒し、新たな時代が来た事を証明するのです。
わかりましたね?」
「流石我が娘、と言うか我もそう思っていたぞ。
伝令とファンデル将軍の部隊の関係者を全て斬首。
そして、至急近衛と衛兵を再編成せよ!
指揮はエリーゼ、お前に任せる。
なんとしても、田舎者達の軍勢を叩き潰すのだ!!」
「将軍の任、確かに拝命致しましたわ、お父様。
それでは明日から準備を始めます。
皆の者、覚悟をしておく様に!」
こうして、エリーゼは将軍の任に着いたのだが……
大半の臣下はヤバイと察知し、その日を境に王都から逃げ出してしまった。
しかし、当のエリーゼ本人は全く気にせず、何故だか貧民街で貧民狩りを始め、女子供、老人も関係なく次々と投獄し始めた。
その様子に、国王ドゥーエは不安になり、エリーゼに問い質す。
「エリーゼよ、貧民などを狩ってどうするつもりだ?
そんな事をしていて、この国が守れるのか?」
「大丈夫ですわ、お父様。
私の入手した情報では、レオンと言う男、確かに魔法の腕は凄い様ですが、まだまだ経験が浅く、お人好しで、甘い様ですわ。
だから、貧民が助けを求めれば……
確実に足を止めるでしょう。
ですから、貧民に自爆用の魔石を持たせ、レオン達にぶつけてやれば、哭き叫びながら自爆する貧民と、逃げ惑い死んでいく敵軍の姿の両方が見えますわ」
「しかし……
貧民共がちゃんと働くのか?」
「大丈夫ですわ、ちゃんと精神汚染の魔法で洗脳していますから。
場合によっては死すら恐れない、無敵の兵団になりますわよ?」
精神汚染の魔法、邪法中の邪法で、暗黒魔法をベースに人の魂を汚染し、改変する。
この魔法で汚染された人間は、インプットされた目的に従う様になる。
ただし、死ぬまで効果が切れないし、複雑な命令はできない上、殺せとか犯せとかのワードしかインプットできない。
つまり、狂人の出来上がり、と言うわけだ。
しかも、拷問を受けたり、身近な人の死を見た後はかかりやすく、低い魔力で大勢にまとめてかけられる。
こんな仕様だから、当然どの国も使用を禁じており、カヌレ王国でも使用すれば、貴族ですら死罪を免れない。
そもそも、そんな魔法は一切の伝承が抹消されており、何故エリーゼが知っている?
と言う思いが、国王ドゥーエの頭によぎる。
そして、この時初めてエリーゼの恐ろしさを知る。
「い、いかん!
そんな禁術を使えば、王族と言えと……」
ドゥーエはエリーゼに反論する。
「お父様、既に敵はかなり近くにまで来ておりますわ。
どのみち、この術を使わなければ、私とお父様は敵に捕まり死罪。
まさか、降伏しようなんて考えてませんよね?
相手は蛮族にも等しい奴等ですわよ。
降伏しても、私達は死刑に……
そして、王都は掠奪や蛮行により、民達は永劫の苦しみを味わうのですわよ?
それならば、例え暗黒魔法を使おうとも、戦うべきですわ!
あと、この魔法はマグラ兄様が開発したものですわよ?
なので、最終的に全ての責任はマグラ兄様がとってくれますわ」
そう、長男のマグラは暗黒魔法を開発したために、狂ってしまい、現在では地下に幽閉されている。
……実際は暗黒魔法に手を染めるよう唆したのが、エリーゼなのだが。
こうして、国王ドゥーエはエリーゼに説得され、そしてこの大陸で最高に最低な戦乱、ガストラ戦役の幕が開けるのだった。
エリーゼの奸計とレオンの魔力
互いに持てる力を出し尽くし、戦った末に待っているものは……
果たして、レオン達は禁忌の魔法に対抗できるのだろうか?
次回 第47話 閑話 レオンの過去 ガストラ戦役




