第45話 閑話 レオンの過去 将軍の器
剣の頂と呼ばれたファンデル将軍を倒した。
しかも、凄惨な最期で……
一瞬の出来事に、皆が沈黙してしまう。
これで敵軍が瓦解し、撤退してくれれば御の字なのだが。
しかし、すぐに副将らしき男が指令を出す。
「慌てるな!
ファンデル将軍の指示通り、敵将を囲め!
残りの兵は、グラッセ軍に向かうよう伝令を!
我らビザールレギオンがここを食い止める、その間に敵を殲滅するのだ!」
男の指令で、ビザールレギオンは瞬く間に私を取り囲み、残りの兵はグラッセ軍の方向に駆けていく。
なるほど、ファンデル将軍は自らの死を想定して作成を立てていたらしい。
だから、土魔法を封じたのか。
大規模な魔法さえ防げば、私が本隊に戻るまでの時間がかかる。
死を覚悟して挑めば、ビザールレギオンでも時間稼ぎにはなると言う計算だろう。
そして、本隊を潰しさえすれば、グラッセ軍は進軍できない、例え多くの犠牲を払ったとしても……
流石、良い読みだ。
確かに、グラッセ王国の騎士団や奴隷兵が相手なら、カヌレ王国軍の精兵、しかも3倍以上の兵力で当たれば普通は確実に仕留められるだろう。
死しても軍を動かし、勝ちをもぎ取るスタイル。
やはり、ファンデル将軍はただの武人ではなく、真の将軍と言う事なのだろう。
ならば、私も敬意を表し、全力で打ち破らなければならない!
ビザールレギオンは、私を取り囲んだ後、馬上から槍を構え、一斉に突撃してきた。
しかも、波状攻撃で。
最初に私の愛馬、ファルシオン1号が敵に飲み込まれ、無数の槍先が私を突き刺しに向かってくる。
土魔法は封じられ、使えない?
それならば……
私はファンデル将軍の剣を拾い上げ、魔力を込めて空間ごと引き裂く!
やはり、この剣は敵の魔力を打ち消し、自らの魔力を増幅するらしい。
便利だなコレ。
ちなみに私は土魔法しか使えないわけではない。
得意ではあるけど、身体強化は聖魔法だし、全ての魔法は空間魔法と通じているので、空間魔法も使える。
と言っても、空間魔法は相応の魔力が必要で、この剣が無ければこんなに簡単には出ないけどね。
あと、火と風の魔法も使えるけど、威力はやはり土が一番だ。
ちなみに、水の魔法は若干苦手で、料理くらいにしか使えないんだけどね。
第1陣で迫ったビザールレギオン30人は、皆次元の狭間に身体を持っていかれ、馬と人の差がわからない程の肉塊が散らばる。
それを見ても、第2陣が突撃してくる!
再び、剣を一閃して空間ごと敵を引き裂く。
まぁビザールレギオンは3000人位いるから、30人で100回突撃すればこちらの魔力が切れる、そう考えているのだろうか?
と、考えていたら、流石にビザールレギオンはこちらに近づくのを止めて、槍を投擲してきた。
無数の槍と、その隙間を縫って弓矢の雨が降り注ぐ。
空間魔法では撃ち漏らしが出る可能性が高い。
ならば……
私を中心として、大質量の衝撃波を風魔法で作り出し、槍と弓矢を弾き返す。
風魔法には火魔法を混ぜておき、弾き返した槍や弓矢は燃えながらビザールレギオンに降り注ぐ!
燃えながら苦しむ敵軍の兵士達……
人間の焼ける臭いは、あんまり気分の良いものじゃないな……
しかし、いたずらに時間がかかる割に、敵兵は1/10程度しか減っていない。
大丈夫だとは思うが、ゲイツさんやベリーさん達が気になる。
やはり、土魔法を使うしかない。
と言う事で……
「アースニードル!」
私がそう唱えると、地面から無数の土の槍が出てきて敵兵を突き刺していく。
うん?
最初からこの程度の封印魔法くらい、余裕で破れたし。
土魔法を封じるには、相性の悪い水魔法を地表に薄く、かなり薄く張ればいい。
恐らくファンデル将軍は、約100人の魔導士に水魔法を複合的に張らせているのだろう。
つまり、その100人の3倍を超える魔力で一気に打ち破れば、土魔法が使える事になる。
って言うのは簡単なんだけど、流石に準備に時間がかかってしまった。
ファンデル将軍と戦いながらの準備だったしね。
敵軍は、成すすべもなく次々と死んでいく。
逃げる事すらできずに……
粗方終わった所で、私は魔法を解除し、グラッセ王国軍の仲間達が待つ方向に向かう。
馬が無いから徒歩で!
さっきの戦闘よりもかなり長い時間をかけて、私はその場所に辿り着く。
そして、そこでは……
5000の部隊に蹂躙された、15000人の敵兵の屍が森の至る所に転がっていた。
まぁ当然だろう。
5000の部隊の内、3000は土人形だったし。
実際、部隊の大半を各町の治安維持で駐留させてきたから、人数が少ないのは仕方ないんだけど。
残り2000人の兵達も、土人形相手に地獄より辛いと言われる程の修行を積んだ精兵だ。
うん、途中で何人かは死んだり、リタイアしたしね。
そんな死線を何度も何度も味合わされた屈強な兵達だ。
高々3倍の兵力くらいは倒してもらわないと、先が思いやられる。
理想を言えば、私を迎えに来るくらいの余裕が欲しいのだけど……
まぁ、ほぼ無傷にするためにゲリラ戦を選び、森で待ち伏せて確実に倒したと言う点は及第点だ。
しかも、ほとんど逃していない様だし、かなり奥まで引き込んだのだろう。
そして、私が森に入るとゲイツさんが木の陰から出てきた。
「レオン将軍!
ご無事でなによりです。
我々も今さっき殲滅が終わりましたが……
お迎えに上がれず、申し訳ございませんでした。
しかし、我らグラッセ騎士団がここまで戦えるとは……
もちろん、将軍の用意してくれた土精霊様達が居なければ歯が立ちませんでしたけど、改めて修行の成果を実感しております!」
更にベリーさんも現れ、私の前に皆が揃う。
「レオン様、我々にもこの様な大戦の機会を与えて頂き誠にありがとうございます!
これで、散っていった祖国の同胞達も報われる事でしょう。
本当にありがとうございます!」
ベリーさん達は泣きながら感謝している。
「それじゃ、みんな満足だね。
だったら、この辺で帰ろうか?
もうファンデル将軍より強い相手はいないだろうしさ、そろそろ王宮に帰ってゆっくり風呂に入りたいし。
撤収〜」
私はそう提案すると、皆一様に驚いている。
「いやいや、カヌレ王国の王都まであと少しですよ?
この軍団なら王都を落とす事だって……」
ゲイツ将軍が反論する。
「レオン様、私からもよろしいでしょうか?
私達はレオン将軍に命を救われた身ですので、いつ死のうとも後悔はございません。
しかし、我が祖国フロマージュの民を虐殺し、奴隷と化したカヌレ王国国王ドゥーエと、王女のエリーゼだけは許せません。
特にエリーゼは、蠆盆と言う拷問を好む非情の王女です。
蠆盆とは、飢えた魔物、コボルトやスライムを敷き詰めた大穴に人を落とし、魔物に喰われ、引き裂かれる様を楽しむ拷問です。
実際に我が祖国の女性達が、この蠆盆に落とされ、命を失いました。
その中には私の母と、妹も……
なので、私達だけでも構いません。
カヌレ王国に進軍を許して頂けないでしょうか?」
ベリーさんは本気で提案している。
「でもね、糧食がないのはどうするの?
流石にレーションばかりも飽きてきたし……
実際、糧食はあと3日分しか無いしね。
だから、もしファンデル将軍が戦わずに撤退戦をしていたら……
私達も撤退せざるを得なかった。
それに、当分カヌレ王国は軍を編成できない。
と言う状況を踏まえての決定ではあるのだけど……
まぁベリーさんが満足していないなら仕方ないか、乗りかかった船だしね。
ただ、この先を攻めるにしても、糧食の確保ができないとどうにもならないのも事実だよ?」
「それならば、捕らえた兵を拷問し、食糧庫の場所は突き止めています!
今、数人を斥候に出していますが……
たった今戻ってきました。
食糧庫はどうだった?」
ベリーさんの問いかけに、斥候に出た兵は答える。
「はっ!
複数の敵兵の情報通り、イーストグラスの先に食糧庫らしきものがあるとの事、敵兵は手薄で、狙うなら今かと」
「レオン様、好機の様です!
ぜひ私達に食糧庫の襲撃を御命令下さい。
きっと糧食を奪ってみせましょう」
ベリーは息盛んに食糧庫攻めを提案してくるが……
嫌な予感がする。
「ファンデル将軍は剣だけでなく、稀代の策略家でもあります。
罠の可能性も高いので、土人形で攻めてみましょう。
あくまで慎重に行くなら、その作戦に乗りましょう」
こうして、私達は敵の食糧庫らしき場所に向かったのだが……
敵兵は少なく、土人形が近づいて行くと逃げ出した。
まぁ逃げた兵にこっそりとマーキングはしたけど。
そして、土人形が食糧庫を確かめようとすると……
爆音が鳴り響き、途端に食糧庫が爆破する!
その勢いは土人形すら倒すレベルだった。
まぁ土人形だから、すぐ復活できるけど。
やはり、ファンデル将軍の罠だったか……
こちらが食糧庫を狙うのもお見通し、って所なんだろう。
ただ、これだけの爆発物をそうそう何度も準備はできまい。
そして、ダミーの近くには本物がある可能性が高い。
多分だが逃げた兵の行き先こそが、本当の食糧庫だろう。
私達は全力で駆け抜け、すぐにそちらに向かうと、大量の倉庫らしき建物があった。
兵は先程よりも多く、守りも固い。
しかも、既に撤退の準備を始めている。
……マズイな。
例えば逃げられないと判断すれば、食糧庫に火をつけたりするかもしれない。
そうなったら困るので、私は身体強化魔法をかけ、突撃の号令と共に先陣を切って食糧庫に突っ込む!
固まっている敵兵を流れる様に斬り、土人形を次々と生み出しながら制圧していく。
終わってみると、ほんのひと時で食糧庫は制圧され、私達は無事食糧をゲットする事ができた。
今度こそ、本当の食糧庫だった!
一応魔法で調べたが、毒も入っていない様だし。
皆一様に安堵し、私達は勝利を祝った。
こうして、私達は食糧を確保し、久々の美味しいご飯を食べる事が出来たのだった。
ファンデル将軍の急使が王都にたどり着く。
騒然とする臣下に、動揺する王。
だが、それを収めたのがエリーゼ王女だった。
そして、エリーゼ王女は……
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