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第4話 隻眼のゴブリン

朝から買い物に出ていたので、まだ昼前だから……

という事で、調子に乗ってもう1匹ウサギを狩ってみた。

するとさっきより、スルリと切れた。

相変わらず血は出ないけど……

ちなみに、木の枝もスパッと切れるし、斬れ味自体が相当上がっている。


普通は血糊が着くと、斬れ味は落ちるはずなんだけど、この血抜き君に至ってはむしろ斬れ味が上がるようだ。

これは複数の敵を相手するときに、一々血糊を拭く必要が無くなるって事だから、凄いことだ!

でも、逆に長いこと生き物を斬らないと、斬れ味が落ちる可能性もあるんだけどね。


そんなことを考えていると、突然胸ががザワザワしてくる……

これはあの時と同じ感覚だ。


慎重に木に隠れながら、僕はザワザワの強くなる方へ進んだ。

すると、暫く進んだ先にゴブリンがいた!


そのゴブリンは左目が潰れており、右腕がなかった。

つまり、はぐれゴブリンである。

しかし、前回のはぐれゴブリンと違い、片目は見えるので戦闘力は段違いに高いだろう。

それに、前のゴブリンほど痩せていないし、何よりも左手に凶悪な手斧を持っている。

あんな相手にまともに戦ったら、間違いなく殺される!

一瞬、逃げて誰かを呼んで来ようかと思ったが……


そう言えば昔、聞いたことがある。

ある晩に村にはぐれゴブリンが迷い込み、とある一家に侵入して、その一家が寝ている間に全員殺されて、食い荒らされた。

翌朝、別の村人が見つけ、討伐されたが、そのゴブリンは病気で武器もなく、既に死にかけだったという。


つまり、そんなゴブリンでも村に入れば脅威だし、寝込みを襲われればひとたまりもない。

父さんや母さんなら……

なんとかなるかもしれないが、僕やラーナなら余裕で殺されるだろう。

なので、もしここで誰かを呼びに行って見失ったら……

万が一を考えると、逃げる訳にはいかない。


どうせハンターになるたらいつかは戦わなければならない相手だ。

どこまでやれるかはわからないが、やってみよう!

ただ、マトモに戦うのは危険だし……

まずは相手をよく観察する。


ゴブリンは、こちらには気付いていない。

よく見ると、ビッコを引いている?

歩みは極めて遅い。

という事は、斧さえなんとかすれば、勝機はある。


僕は、父さんと昔作った落とし穴を思い出す。

僕は隠れながら、ゴブリンの歩いている方向に進み、ちょっとした窪地を見つける。

そこに、木の枝を軽く詰め、雪を被せる。

そして、ウサギの死骸を置き、木の陰に隠れる。


……まだ来ないかな?

暫くしてもゴブリンは現れない。

方向をミスったか?


いや、もう少しだけ待ってみよう。

来なければ、大人に事情を話し、山狩りをしてもらおう。


シンとした静寂な時間が流れる。

1分1秒が非常に長く感じる。


ガサっという音がし、その方向を見る。

すると、さっきのゴブリンが見えてきた!

そして……


ウサギの死骸を見つけ、近づき手をのばす。

その瞬間、自重で穴に落ち罠にかかる!

やった、落ちた瞬間に斧を手放した。

僕は間髪入れず近寄り、黒い刃を突き立てる。

刃はゴブリンの背中から、心臓の辺りに吸い込まれるように突き刺さり、大量の血が……

吹き出さない。

ゴブリンは一瞬暴れたが、次第にグッタリとし、動かなくなった。


こっ殺した?

「や、やったぞーー!!」

こうして僕は、通算2匹目のゴブリンを倒すことに成功した。


実際は手も足もブルブル震えている。

凄く怖かった。

正直また戦いたいかと言われれば、嫌だと言いたくなるくらいの恐怖だった。


一方で、スルリと心臓にナイフを刺したあの感覚……

非常に気持ちが良かった。

できれば何度も何度も突き刺したい。

恐怖と緊張感が振り切れた様にハイになる感情……

だから、倒した瞬間に周りも気にせず叫んでしまった。

というか、手足が震え涙も出ているのに、笑いもこみ上げ、止まらない。

僕はひとしきり笑った後、やっと感情が落ち着いてきたので、周りを見渡す。


誰もいない。

敵もいない。

村人も普段は来ない場所だし‥

特にこんな雪の日だし。


何故か、ホッとして、僕はゴブリンの死骸を見つめる。

間違いなく死んでいる様だ。

ナイフを抜いても……血は出ない。


心なしか、血抜き君の長さが長くなっている気がする……

気のせいか?

いや、気のせいということにしておこう。


そして、ゴブリンの落とした手斧を見てみる。

これは……

戦闘中はしっかり見ていなかったが、多分鋼鉄製だ。

しかも、手斧と言っても非常に軽く、変わった形をしている。

どちらかと言うと、鎌の刃を無理やり金属の取手につけた様な?


少なくとも、重さはないし、木を切るための手斧ではない。

刃は非常に鋭く、ゴブリンの死骸で試して見ると、皮膚や筋肉はスルリと切り裂けた。

斬れ味は非常に鋭い様だ。

ただ、骨は切れない。

つまり、強力な斬れ味で相手の柔らかい部分を狙って斬り裂いて、失血死させる‥

特に首、首狩りみたいな感じだろう、多分。


ただ、まぁ見た目はただの軽い手斧だし、父さんにはこれを買ったと言おう。

血抜き君はなんか……

多分普通の武器とは違う。

父さん達に見せちゃいけない気がする。


そして、僕はゴブリンから魔石を抜き取り、死骸を雪の中に埋め、その場を後にした。

家に帰ってからは、魔石と血抜き君は机に隠し、父さん達に手斧を買った、と言って見せた。

父さんは一瞬、ん?という顔をしたが、軽いし違うか、と言って気にしなかった。

こうして、僕の初めての買い物は無事に完了したのだった。


閑話

ブルーの居る村の、隣の隣の村の話

その村の近くのゴブリンの集落に、1匹のゴブリンが産まれる。

そのゴブリンは生まれつき身体が弱く、狩も充分にできないため、他のゴブリンが狩った残りを漁って生き延びていた。

しかし、ある日迷い込んだ潰れかけの遺跡で、一本の手斧を見つける。

それは軽く、身体が弱いゴブリンでも扱うことができるものだった。

それからは、狩ができる様になり、栄養が充分取れる様になると、次第に身体つきもよくなってきた。

すると、そのゴブリンは、集落のボスに戦いを挑み、喉元を一瞬で切り裂いて、ボスを倒した。

こうして、長となったゴブリンは、自分一人で戦う恐怖からか、普通はバラバラの行動しかしない配下のゴブリンをまとめ上げ、指揮し、集団で敵を倒す様になる。

そして、数年後には村を1つ殲滅するに至る。


ただ、集団戦であっても、そのゴブリンは先陣を切り、喉元を切り裂いて行く事から首狩りと呼ばれた。

しかし、首狩りはやり過ぎたため、ギルドからゴブリンには珍しく、50000ジルの懸賞金がかけられる。

そして、名うてのハンターに追われ、ついに片目と片腕を失ってしまう。


更に命からがら集落に戻ると、配下だったゴブリン達の裏切りに会う。

何故なら、元来ゴブリンは集団行動を好まないからで、首狩りの台頭をこころよく思っていないものが多かったからである。


首狩りは、数体のゴブリンを返り討ちにするも、運悪く片脚の腱を切られてしまう。

そして……

雪の中を片足を引きずりながら、首狩りは当てもなく歩き続ける。

数日間、飲まず食わずで歩いていた。

そんな時に、なぜか目の前にウサギが死んでいる。

ただひたすらに空腹だった。

そして、思わず手をのばすと……


首狩りは薄れて行く意識のなか、この手際の良さ……

俺を倒したのは凄腕のハンターに違いない、ならば……

仕方ないか、そう思い力尽きていった。





父親の修行に耐えた少年は、本格的なハンターへの道に進むため、養成所に通う事を決意する。

そして、雪が溶けて、春が来て‥


次回 第5話 春節祭そして

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