第35話 マザー
マザーのいる洞窟……
実際マザー自体は強くは無い。
その周りのゴブリンも幼体で雑魚以下だ。
ただし、数はかなり多い。
この中に入れば……
無数の幼体に囲まれ、腕、足、身体……
を生きたまま喰われ、死ぬのだろう。
かと言って、放置すれば中で共喰いが始まり、強い個体が現れ、ボスになる。
それは再び村の脅威となる。
ならばやはり、殺し尽くさなければならない。
とりあえず、ロープにウサギの肉を括り付け、洞窟にちょっとだけ入り、幼体がいる手間で奥に投げる。
そして、幼体が反応したら引っ張り、洞窟を出る。
すると、ウサギの肉につられて、僕の膝くらいの高さのゴブリンが30匹位出てきた。
入り口には、ウサギの肉がばら撒いてあり、幼体のゴブリンは僕には構わずウサギの肉を夢中で取り合っている。
試しに1匹蹴って見ると、それだけで死んだ。
やっぱ弱いよな……
ただ、数は多い。
一々屈んで斬るのも危ないので、1匹ずつ蹴り殺すか、踏み潰す。
知能が低いのか、仲間が死んでも気にしないし、逃げたりもしない。
まぁ殺すのが楽だしいいんだけどね。
ちなみに、小さくてもちゃんと小さな魔石が入っているので回収する。
次は、ゴブリンの幼体の死骸を投げ込んで見ると、やはりさっきと同じくらい釣れた。
ウサギの肉を回収する必要もないな……
そんな感じで、少しずつ釣りをしながら先に進む。
5回位繰り返したら、ほとんど幼体が居なくなったのだが……
一体どんだけ産んでいるんだ?
まぁ、洞窟の中には結構ゴブリンの幼体の死骸も落ちていたので、多分成体になる数は少ないのだろう。
だがしかし、これが全部成長したら、かなりの脅威となるだろう。
そして、発光する苔の生える薄暗い洞窟を、マザーを目指して進む。
暫くして最奥地に着くと、マザーがいた。
その姿は、一言で表すなら醜悪。
二言で表すなら極めて醜悪。
洞窟の広間に鎮座し、気持ち悪い呻き声を放ちながら、巨大なそれは存在していた。
無数の乳首に乳児のゴブリンを貼り付かせ、ブヨブヨした下腹部からは、時々新たなゴブリンが這い出てくる。
しかも、弱い個体を見つけては、摘んで貪り食べている。
牛乳の腐った様な臭いと、ゴブリンの死骸の腐臭、むせ返る様な汗の臭い、そして垂れ流される糞尿の臭い……
悪臭のオンパレードに、僕はバンダナをマスクにしていなければ吐いてしまいそうだった。
しかしでかいな……
僕の身長の4倍はあるのじゃないだろうか?
体重は10倍以上あると思うし。
とりあえず、こちらを攻撃してくる様子は無いが、乳児ゴブリンがいない場所に慎重に血抜き君を刺してみる。
プニッとした感覚に弾かれそうになるが、グッと押し込んでなんとか挿し込む。
一応血抜き君が血を吸っている様だ。
そう思っていたら、暫くすると血抜き君が勝手に抜ける。
そして、抜けた穴から大量の脂が溢れ出す。
他の場所でも試してみたが、同じ結果だった。
手斧では完全に弾かれて、傷一つつかない。
正直コイツ倒せるのか?
戦闘能力的には全く脅威ではないが、防御力や生命力はズバ抜けている。
脂を燃やしてみるか?
いや、こんな狭い所で燃やしたら、僕も死ぬ気がする。
毒は……
こんなデカイのに効くのか?
まぁ毒なんて持ってないけど。
とりあえず、石をぶつけて乳児ゴブリンを落として遊ぶ。
しっかりとしがみついているが、流石に拳大の石が当たれば落ちる。
それを踏み潰して、殺す。
しかし、100匹近く居るんじゃないか?
コイツらが全部成体になったらかなりの脅威となるが……
実際はそんなにはいないし、多分成体になる前にほとんどが死ぬのだろう。
自然淘汰は魔物にも適用されるんだなぁ。
半日近くかかって、全部の乳児ゴブリンを落として殺す。
いい加減気分が悪くなってきたので、一旦外に出ると夕方だった。
仕方がない、戻るか……
夕飯は食べる気にならず、川で身体を充分に洗ってから、僕はヒルの巣窟に戻って寝る事にした。
のだが、やはりお腹が空いて深夜に起きる。
仕方がないので、草原でご飯を準備し、月や星々を眺めながら食事を摂る。
満天の星空を眺めていると、ゴブリンとかボスとかアナとジャルの事とか……
もうどうでも良くなってきた。
このままここで暮らすのも悪くは無いかもしれない。
いや、それならやはりマザーは倒さないと!
僕は思い直して対策を考える。
とにかく攻撃が効かない。
血抜き君なら刺せるけど、相手が大き過ぎる。
せめて、頸動脈とかに届けばいいんだけど……
待てよ?
アレなら使えるかもしれない。
とりあえず、僕は二度寝して、早朝に起きる。
そして、草原と森を抜け、ボスゴブリンのいた場所に。
あのマッチョなボスゴブリンは、未だ死骸を無残に晒している。
そして、その近くに槍が残っている。
僕は槍の穂先を外し、代わりに血抜き君を取り付ける。
まぁ無理矢理付けた感は否めないが、いいか。
そして、再びマザーに向かう。
マザーは、自分の子を食べ尽くしたのか、自分の腕を割とマジで齧っている。
その異様な光景に、思わず帰りたくなる。
ちなみに、新たなゴブリンは産まれていない様だ。
やはり、ボスゴブリンがいなくなったからなのだろうか?
うーん、やはり男と女の神秘とやらが関係しているのだろう。
いろんな大人の人に聞いたけど、「おませさんだなぁ〜」と言われて、誰も教えてくれなかった。
そう言えば、母さんに聞いたら、彼女ができらたわかるわと言われだけど……
前に「彼女にするなら母さんより強い子にしてね」、と言われたっけ。
いや、そんな人見つけるのは無理だし!
正直、この前みたいに手加減してるなら別だけど、本気の母さんに勝てるとは思えない。
あと、父さんも多分。
それはさておき、マザーの首筋を目掛け、血抜き君の槍を突き刺す!
何度か突き刺していると、頸動脈に当たったみたいで血抜き君がぐんぐん血を吸っていく。
次第にマザーの全身が青ざめていき、ついにはグッタリして上半身のみ倒れこむ。
僕は血抜き君を抜き直して、更に頭の近くから血を吸っていく。
暫くはマザーが痙攣していたが、完全に沈黙し、ついには死んだ。
だが……
本当に大変なのはそれからだった。
まず、デカすぎて解体ができない。
一応、色々試していたら、硬直してきたのか冷えてきたのか少し硬くなってきたので、手斧でも斬れる様になった。
なったけど、斬り裂くのは難しい。
斬っても斬っても終わりそうもない。
とりあえず、なんとかよじ登って、耳だけは斬り取る。
後は魔石なんだが、どうするかなぁ……
地道に皮を剥ぎ、肉を少しずつ斬り刻む。
どのくらい経ったかはわからないが、なんとか魔石の付近まで開く事ができた。
やはり大きいな、僕の手のひらをいっぱいにしたより更に大きな魔石が入っていた。
しかも純度が高いのか、透明で綺麗だ。
僕は、それを一気に剥がす!
こうして僕は、マザーの魔石を手に入れた。
これで多分、アナへの想いは断ち切れるだろう……
そう考えながら、家路へと急ぐのだった。
ちなみに、それから数日経ってからあの草原に行ってみたが、ゴブリンの気配は一切なかった。
これで当分魔物はいない。
僕は、村を守ったと言う満足感と、ハンターとして仕事が無くなったと言う虚しさの両方を噛みしめるのだった。
少年は想い人のために頑張り、そして祝福して想いを断ち切る。
当人達は知らないまま。
次回 第36話 血魂式




