第31話 孤独
母さんの一言で、アナの妊娠が判明した。
赤ちゃんができる。
どうやって?
僕は素直に聞いたら、みんな僕にはまだ早いって教えてくれなかった。
ともかく、アナがお母さんになるらしい。
って事は、父親は……
当然ジャルだ。
言うまでもないだろう。
あの2人はずっと一緒にいるし。
つまり、僕とアナは特別な関係にはなれない。
知りたくなかったな……
上手く言えないが、とても悲しい気分になり、寂しさが溢れ出す。
後からアルフ兄さんに聞いてみたら、それは初恋なんだろうね、と教えてくれた。
こうして、僕の初恋は終わったのだけど、それ以上に大きな問題が出来てしまった。
それは、パーティーの一時的?な解散、だった。
アナとジャルは、僕達の家の近くの空き家を借りて、本格的にこの村で暮らす準備を始める。
だが、アナは悪阻が酷く、とても森に行ける状態ではない。
また、ジャルも聖魔法使いとして、村人の治療を始め、忙しそうにしている。
この村には医者はいないので、需要は高いし。
ゴブリン討伐に行く余裕なんて全くない。
ちなみに、あの決闘の後、アナは英雄様と呼ばれ、ジャルは勇者、もしくは聖者様と呼ばれるようになった。
金級の父さん達を倒したその実力を認められて。
えっと……
僕は最後に倒れたし、あまり活躍している様に見えなかった様で、英雄の腰巾着と言われている。
まぁ、あの2人は別格の強さだしね……
僕はただ武器が強いだけで、特別な強さはないのだし。
そんな事はどうでも良いのだか、このままパーティーを解散したとしても、僕がハンターを辞めるわけではない。
だから、僕はあの決闘から数日後、いつもの様に荷物を持って、ゴブリン討伐に出かけた。
そう、いつもの様にだ。
いつもの様に、テントを持ち、15日分程度の食料や、各種野営の小道具を持ち、家を出る。
普段なら、ここで三等分して荷物を振り分ける。
でも、今日は1人だ。
僕は1人で森に入り、いつものルートで蛇行しながら進んで行く。
荷物が重い。
そのため、いつもより進むスピードは遅かった。
それに、野営するにも、テントを張ったり、水を汲んだり、火を起こしたり、料理をしたり……
1人だとやる事が多すぎる。
そして……
一番問題なのは、夜寝る時だ。
夜番の交代がいない。
実際、1人で野営するのはこれが初めてだ。
いつもは、ジャルかアナがいたし。
夜中に鹿の金切り声や、猪が地面を掘る音……
そして、寝ている間に熊や魔物が来るかもしれないと言う恐怖感。
僕はこの時初めて真の孤独を感じた。
そして、ほとんど一睡もできないまま、僕は1日目を終えた。
翌日からも、足取りは重い。
進めば進むほど、森が深まっていく。
2日目の野営はテントを張っただけで力尽き、そのまま寝てしまう。
しかし、深夜に目が覚めて、やはり恐怖で眠れない。
「寝れない、全然寝れない、寝た気がしない。
頭の中は眠りたいのに、寝れない。
なんで、僕だけ一人で……
寝ろ!
寝ろ!
寝ろ!
気合い入れたってかえって寝れないじゃないか!
どうしよう?
羊を数える?
羊が1匹
羊が2匹
羊が3匹
…………
羊が336匹…
寝れない。」
1人でぶつぶつと呟いていても、やはり眠れない。
改めて、あの2人に依存していた事を思い知る。
3日目、足取りは更に重くなる。
疲れと眠気で全然進まない。
その日の野営も同様で、全く眠れない。
眠たいけど眠れない。
目だけは閉じて横になる。
だけど、眠ったのか眠ってないのか、全くわからない。
次第に、ジャルへの恨みが強くなる。
ジャルがアナを妊娠させるから……
なんで僕だけが……
寝たいんだけど、怖いんだよ!
負の感情がスパイラルになる。
でも、夜の間にテントを出ることができない。
翌朝、僕はこのまま進む事に耐えきれなくなって、テントを解体せず、武器防具以外の荷物の大半を放置して村へと一直線に帰った。
ちなみに、あれだけあった道のりも、ウイングブーツの全速力なら三時間程度で戻れてしまった。
そして、脇目も振らず家に帰り、自分の部屋に閉じこもって寝た。
その後、食事以外はベッドから出る事が出来ず……
多分熱もあったと思うし。
ジャルとアナがお見舞いに来たけど、会わずに追い返す。
今は2人の幸せそうな笑顔を見たくない。
そして、3日後には熱が下がり、ある程度体力が戻ってきた。
でも……
でも……
外が怖い。
このままでは、ハンターにはなれない。
ふと思い出す。
僕は何でハンターになろうとしたんだっけ?
お金のため?
皆んなのため?
名誉のため?
アナとジャルのため?
違う!
僕は、魔物を殺し、刻み、バラして、心臓から魔石を引き抜くことが何よりも楽しいからだ。
動物の狩は食べるためで楽しいとかは感じない。
人を殺すのは抵抗があるし、性に合わない。
魔物、特に強い魔物を狩りたい!
だからハンターを目指したんだ!
なんか、忘れていた感情を思い出した気がする。
そうか、仲間とかじゃなく、僕が狩って狩って狩って狩って狩りまくりたいだけなんだよ!
そう思うと自分への怒りが込み上げる。
ふざけんな。
ただ甘えていただけじゃないか!
元々1人のはずだったんだし、1人なら1人のやり方がある。
僕は再度気持ちを落ち着け、冷静に考える。
今回逃げ帰った事にも意味がある。
失敗を分析し、次の成功につなげる。
考えろ、考えるんだと、僕は自分に言い聞かせる。
そもそも、荷物が多すぎたのが問題だった。
そして、僕1人なら脚が速い。
それならば話は早い。
僕は、意を決して外に出て、マルコさんの店に向かう。
久しぶりの太陽は、眩しいな……
そして、いくつか買い物をすると、早めの夕食をとり、充分に寝た。
そして、翌朝早めに起きて、準備を簡単に済ませる。
その後は、森に向かって一気に駆け出す。
僕は最短ルートでヒルの巣窟を目指す。
食事は4日分、しかも簡易な軽めの携帯食だけ。
消臭剤をしっかりかけ、走る時の臭いは残さない様に気をつけている。
ちなみに、寝具は寝袋だけ。
着替えは、下着を2枚のみ。
最低限の荷物で、森を駆け抜ける。
勝手知ったる森の中だから、道に迷う事はほとんどない。
途中に目印用の魔石を埋め込んであるので、迷っても僕は軌道修正できるし。
とにかく、ウイングブーツの能力を活かして全速力で先に進む。
その甲斐あって、僕は半日でヒルの巣窟にたどり着いた。
僕は、ヒルの巣窟の手前辺りでウサギを狩り、水を川で汲んでから、携帯食と一緒に食べた。
1人だし、無言で一気に食べる。
食事が終わると、僕は片付けをしてから更に先に進む。
そして、血抜き君を抜き、ヒルの巣窟に入っていく。
いつも通り、サーっとヒル達が引いていく。
そして、僕はヒルの巣窟の中央付近に行き、そこで寝袋をひいて、寝た。
ヒルの巣窟は、ヒル以外の生き物はほとんどいないから静かだ。
むしろ、家より静かかもな……
僕は、静かで安全?な森の中でグッスリと寝る事ができた。
まぁ、こんな吸血生物に囲まれて、普通なら動物や魔物よりも怖い場所なんだけどね。
我ながら、狂気の沙汰だと思う。
でも、血抜き君があれば問題ないし、僕にとっては落ち着く場所だったりする。
実際、よく寝れたしね。
湿っぽいのは欠点だけどさ。
それはともかく、僕は寝床を確保できた。
そして、これからが狩の時間だ!
そう思い、僕はヒルの巣窟を抜け、ゴブリンのいる場所へと向かうのだった。
少年は本来の目的を思い出し、自らの道を見つける。
例えそれが狂気を孕んだ道だとしても。
殺して、刻んで、捌いて、撒き散らす!
少年は自らの欲望に忠実に、ハンターとして正しい行いをしているのだから……
第32話 殺刃鬼




