第29話 レクイエム
僕達は再び朝に話し合い、村に帰って父さんと母さんにミル兄さんの事を話すと決めた。
若干足取りは重いが、出来るだけ早めに村へと帰る。
正直なところ、母さんがどれだけ怒るのか、悲しむのか、想像出来ないし、考えると胸が痛む。
多分、それはアナとジャルも同じだろう……
家族同然に迎え入れてくれた恩人、以前ジャルは父さんと母さんの事をそう言っていた。
孤児院と同じで、本当の親よりも大切な存在、アナはそう言っていたし……
その2人に、貴方達の息子を殺した、そう告白しなければならない気持ちは、非常に重いものだろう。
正直、僕には耐えられないかもしれないくらい、大変な事だと思う。
でも、ジャルとアナの決意は固く、自分達が殺される事も覚悟している。
そんな2人を僕は止める事は出来ない。
もちろん、野営しながらの帰りなので、そんなに早い訳ではないが、刻一刻と村は近づいていく。
次第に僕達は緊張で無言になっていく。
そして……
話し合いから5日後に、僕達は村に着いた。
僕達は、すぐに僕の家に向かう。
時刻は夕暮れ前
家に入ると母さんが「ただいま、早かったわね」と迎えてくれた。
だけど、僕達の表情を見て察したらしく、「父さんが帰ってからにしましょう。夕飯後に聞くわ」と言ってくれた。
その日の夕飯は、皆静かで、ラーナですら黙って食べていた。
そして、夕飯後に、ラーナとアルフ兄さんが席を外し、僕達は話し合いをする事にした。
まず、最初に話し始めたのは、母さんだった。
「ジャルとアナが帰ってくる数日前に、ミルの魂と同期した魔導人形が壊れたの。
多分、その事と関係しているのよね?」
母さんは兄さんの死を知っていた!
全然そんな素振りを見せなかったのに……
一方で、父さんは知らなかった様で、酷く驚いていた。
そして、すぐにジャルが椅子を降りて、土下座し、話し出した。
「申し訳ございませんでした!
僕が、ブルーのお兄さん、ミルさんを殺しました。
謝って許されるとは思いませんが、お二人には話さないといけないと思い、ここに来ました!」
と、ジャルが言うと、
「違うんです!
実際に殺したのは私なんです」
と、アナが泣き出してしまう。
これを聞いた父さんは、「なんでなんだ!」と、怒鳴りかけたが、母さんに、「貴方は黙っていて」と、静かに止められる。
そして、母さんが質問を続ける。
「正直なところ、ミルは結構魔力が強かったから、ジャルとアナでは到底勝てないと思うんだけど、不意打ちや、卑怯な手を使ったの?」
「それは……
僕がアナに、プロテクトとブーストの魔法をかけ、それでなんとか魔法を無効化して勝つことが出来ました」
「ジャル……
貴方、それがどう言う意味かわかっているの?
アナを殺すつもり?
いや、でもそれが成功したなら……
貴方達が勝つ可能性も充分ありえるわね。
正直なところ信じられないけど……」
「違うんです、ジャルじゃなくて、私が使うように頼んだんです。
だから、悪いのは私なんです!」
「問題は誰が悪いかじゃないわよ。
つまり、正々堂々とミルは戦って負けて死んだ、そう言う事で合っているわね?」
「はい、そうです。
ミルさんに、仇討ちを受けてもらいました。
それに、僕達が勝てたのも本当に偶然で、ミルさんは凄く強い魔術士でした」
「仇討ち……
貴方達の身内なら、孤児院の関係者ね。
なるほど……
ミルが銀翼に入ったと言う噂は本当だったのね。
大体わかったわ」
どうやら母さんは、納得したらしい。
僕と父さんは、話の展開が早くて、ちょっと訳がわからなかったので、僕はもう一度話を聞いてから確認した。
「つまり……
要約すると、ミル兄さんが銀翼十字団と言う宗教団体に入り、敵対する聖十字教団の孤児院の神父で、アナやジャル達の養父でもあるその人を殺した。
だから、アナとジャルは仇討ちでミル兄さんに決闘を挑んだ。
そして、ミル兄さんはかなり強く、ジャルがアナに一か八かの勝負で魔法をかけてなんとか倒した。
そう言う事で合ってる?」
僕の質問にジャルは頷く。
続けて母さんが質問する。
「ちなみに、ミルが決闘を受けずに逃げる事も出来たと思うんだけど……
貴方達の決闘を受けた理由は何か、言っていた?」
「それは……
ブルーのお父さんとお母さんには、知られたくないからと……
自由がなくなるからって、言っていました」
それを聞いて、父さんと母さんは頭に手を当てて、「うーん」と、唸った。
「やっぱり、ミルね……
あの子らしいと言うか……
昔からそうだったわね。
わかったわ、貴方達がミルを倒したのは間違いない様ね。
しかも、ミルが神父様を殺した事が原因だった。
その事については、親として私から謝らせて頂きます。
ごめんなさい。
でもね、それでもやっぱり、親として納得はできないの。
誰が悪いとかじゃないし、貴方達の事も、本当の子供の様に思っているのだけど……
私達の産まれた故郷では、子供が殺されると、殺した相手に決闘を挑まなければならないの。
これを鎮魂決闘と、言うんだけど、貴方達は受けてくれるかしら?」
ジャルとアナは一瞬驚いた顔をするが、覚悟を決め、「わかりました」と、返答した。
アナとジャルが父さんと母さんと戦う。
実力差は圧倒的……
1分でカタがつくだろう。
そして、アナとジャルは死ぬか、戦えない身体になるかもしれない。
「ダメだよ!
2人だけは、ダメだ!
僕もジャル達の側で戦う!」
「そんな!
これは、とアナの問題だよ、ブルーには関係ないし」
「関係ないなんて……
そんな寂しい事言わないでよ!
それに、これは僕らのパーティー、スカイハイの問題でもあるんだから。
リーダーである僕の命令でもダメかい?
僕も加えて3人で父さんと母さんと戦う。
いいね?」
「いやでも……
これ以上僕達の問題にブルーを巻き込むわけにはいかないし。
それに、ブルーのお父さんとお母さんが良いとは言わないと思うんだけど」
「うーん、私は良いわよ?
ブルーの成長ぶりも確認できるし。
あなたも良いわよね?」
「まぁ、母さんがそう言うなら……
ただ、最低限のルールとして、試合形式の決闘にさせてもらうぞ。
殺し合いは無しだ。
どちらかが戦闘不能、もしくは降参したら終わりとする。
それならば、良いと思う」
「わかったわ、元々憂さ晴らし程度でしかないし。
貴方達もそれで良いわね?
お互い死力を尽くしましょう。
ふふふ、久しぶりに腕が鳴るわ」
「それじゃあ、鎮魂決闘は3日後の昼食後、村外れの草原で行う。
俺は村長に話をしておくから、ブルー達はしっかり準備しておくようにな」
父さんがその場を締め、こうして僕達は父さんと母さんと戦う事になった。
うーん、実際母さん達は、ミル兄さんの死を悲しんでいるのだろうか?
そう思っていたら、その夜に父さんと母さんが泣いているのを見てしまう。
「私達も、仲間や家族、色々な人の死を経験してきたし、こんな世界だから子供が死ぬ事なんていくらでもあるんだけどね。
でも、自分の子供が死ぬのは悲しいみたいね。
ブルー、貴方は私達より先に死なないでね?」
「まぁ、頑張ってみるよ。
というか……
目下の脅威は父さんと母さんだけどね?」
僕がそう言うと、父さんと母さんは苦笑いしていた。
少年達は、最強の敵と相対する事になる。
しかし、子供はいつか親を超えなければならない。
今がその時、そう信じて、少年は戦いに挑んでいく。
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