第18話 逃亡
3回目のゴブリン討伐に出掛けた僕達は、雨季の後の森の厳しさを思い知る事になる。
最初の問題は、せっかく作った拠点のいくつかが、水浸しになっていた事だった。
ある程度は粘土で塞いでいたんだけどなぁ……
小高い場所に作った拠点は大丈夫だったので、今後は作る場所にも注意しないとなって話になった。
ちなみに、水浸しになった拠点の資材は腐って使えなくなっていた。
なので、途中で資材が無くなり……
3日分しか進めなかった。
そして、前回の教訓を活かして、今度は作り溜めした資材を沢山持って、再度ゴブリン討伐に出掛けたが、4日目に躓く事になる。
何故ならば……
血吸ヤマビル
体長数㎝
赤黒くて、ヌメヌメしているナメクジの様な軟体動物だ。
雨後に大量発生し、沼から這い出てきて、動物の体表に取り付き、血を吸い続ける害蟲。
落ち葉の下、木の上、ぬかるみに潜んでおり、体温や呼吸を感知して這い寄ってくるため、大量発生した地域に足を踏み入れると、全身の血を吸われて死ぬ事もある。
実際に、大量のヒルに血を吸われ、鹿やウサギが失血死していたし……
特殊な毒(麻酔薬にも使える)を持っており、血を吸われても痛みを感じない様になっていて、気付かない事も多い。更に厄介な事に、無理やり剥がすと皮膚ごと喰いちぎり、傷口が広がり、寄生虫や病毒を植え付ける事もあるので、吸われたら満腹になるまで吸わせるか、塩水をかけるか、火で炙るしかないけど火傷は必須だから危険だと言われている。
偶々塩を持っていたから良かったけど、僕の腕に1匹付いていた時は、パニックになってしまった。
ヒルが取れた後も、病毒で死ぬんじゃないかと不安になり、それ以上の探索は出来なくなった。
まぁ、数日経っても病毒や寄生虫の影響はなく、特になんともなかったんだけどね……
その後の探索は、全身の隙間が無いように服を着込み、ヒルが侵入しやすい場所には塩水を染み込ませる。
これで大丈夫、と思ったのだが……
初夏の蒸し暑い森の中を厚着で進む。
想像以上に体力を消耗する行軍となった。
汗が止まらないが、恐怖で服が脱げない。
結局、5日目でアナがダウンして、僕達は引き返した。
ちなみに、僕とアナはヒルが苦手だが、ジャルは結構平気で、ヒルを察知してデコピンで弾いていた。
うーん、僕も慣れないとダメなのだろうか……
更に今度は、ヒル避けの香草を持ってゴブリン討伐に出掛けた。
そろそろ、湿地も減ってきただろうし。
そう思ったのだが……
甘かった。
もちろん、多少のヒルなら、香草で避ける事はできた。
だが、6日目に通りがかった道は、至る所にヒルが蠢いており、通る事ができなかった。
しかも、ゴブリンの生息域に行くには、此処を通らなければならない……
ジャルが松明を持って近づいてみたが、火の中にヒルが飛び込んで来るため、さしものジャルも怖がっていた。
でも、此処を通らなければ、ゴブリンは狩れない。
僕の夢、僕達の目標は叶わない。
それは……
できない。
仕方がないので、完全武装して特攻を覚悟し、僕が血抜き君を引き抜いたその瞬間……
ザワザワと、ヒルが一斉に逃げ始めた。
ヒルは何故か、血抜き君の半径5メートルくらいまで近づこうとしない。
同じ吸血種として、何かを感じるのだろうか?
それとも、血抜き君はヒルの上位種?
そんなわけないか……
ナイフとヒルじゃ違いすぎるしねぇ。
ともかく、これで僕達は雨後の森の最大の試練を乗り越える事ができた。
更に進んで行くと、あの気配がある?
僕達は気配のある辺りを捜索すると、ゴブリンの死骸があった。
ゴブリンの死骸は、やや時間が経っているのか殆ど蟲に喰われ、骨と皮とちょっとだけの腐った肉のみだった。
だが、魔石はちゃんと残っており、回収する事ができた。
あと、ゴブリンナイフも使えそうだ。
他にも魔石の気配があるので、探してみると……
最終的に3つの魔石、ナイフが3本手に入った。
残念ながら、ゴブリンの耳は残っていないので取れなかった。
耳が取れれば討伐ボーナスが出るんだけどな……
まぁ、ゴブリンを倒したのはヒルだし、仕方ないか。
魔石とナイフは売る事ができるしね。
僕達は、一旦村に戻り、マルコさんの店で魔石とナイフを換金した。
合計1950ジルになった。
魔石が1個500ジルで、ナイフは1個150ジルだ。
僕達には結構な大金だよなぁ……
そして、やはり分配で揉める事になる。
「じゃあ、1人650ジルって事で?」
と、僕が提案すると、
「いや、結局僕とアナは何にもしてないし、ブルーが1350ジルで、残りを2人で分けるよ!」
と、ジャルが反論する。
「いや、ちゃんと分けないと!
じゃあ、僕が750でどう?」
と、僕が提案すると、
「そんなにも貰えないわ。
最低でも、1000はブルーの分でいいと思うの。」
更にアナが反論する。
結局、最終的に僕が800、ジャルとアナが500ずつ、残りをパーティー共有の貯金とした。
っていうか、なんでこうなるんだろうねって、みんなで笑った。
やっぱり、このパーティーは最高だ!
ちなみに、マルコさんには、久しぶりに魔石が手に入ったと、凄く喜ばれ、感謝された。
それだけでも、ハンターになって良かったなぁと、僕は思った。
まぁ、狩って無いけどね。
僕達は資材や食料を十分準備して、更に次のゴブリン討伐に出掛けた。
ヒルの巣窟までは、何事もなく通り過ぎ、ヒルの巣窟では魔石とゴブリンナイフを2個ゲットした!
今回は物凄く順調だ。
そして……
ヒルの巣窟を抜けると、あのザワザワを感じた。
しかも、複数の!
どうやら、魔石の感覚に慣れてきたのか、かなりサーチ能力が上がってきている様な気がする。
僕は、少し外れの位置に単独でいるゴブリンに狙いをつけ、ジャルとアナより先行して斥候を務める。
ジャルとアナに、手でサインをしながら徐々に近づいて行く。
いた!
ゴブリンがウサギを追いかけている。
僕にとっては、初めての無傷じゃないゴブリンだし、ジャルとアナにとっては、初めての死んでないゴブリンになる。
武器はやはりゴブリンナイフで、小柄で防具は持っていない。
ジャルとアナを呼んで、遠巻きに様子を伺う。
「生きているゴブリンって初めて見たけど、なんか怖いな……」
「なんか、独特の恐怖感があるわね。
緊張してきた……」
と、ジャルとアナは少しビビっていた。
「でも、今はウサギに夢中だから、チャンスだと思う。
まず、アナがゴブリンを狙って、それから僕とジャルで倒す作戦で行こう」
小声で作戦を伝えると、2人は緊張した面持ちで頷く。
アナがスリングショットを構え、狙いをつける。
十分な射程距離に入るまでは、慎重に待つ。
アナの表情は真剣で、手に汗を握っている。
そんな事には全く気付かず、ゴブリンはウサギを夢中で追いかけていた。
そして、ウサギに向かって飛びかかろうとした瞬間を狙い、アナがスリングショットで鉄球を撃つ!
だがしかし!
ウサギが咄嗟に方向を変え、ゴブリンの股をすり抜けたため、ゴブリンは反転してしまい……
ゴブリンから外れて、鉄球は近くの木に当たりバスッ!と小さな音を立てる。
ヤバい、ゴブリンに気付かれた!
ゴブリンは無傷で、グギャグギャ言いながら向かってくる。
どうする?
戦うか、逃げるか?
まだ少し距離はあるが……
ジャルとアナの方を見ると、アナが失敗のショックで呆然としている。
咄嗟に、僕はアナの手を取り、「逃げるよ!」と、ジャルに言って、逃げ出す。
ジャルも頷き、すぐに撤退する。
暫く走って、アナの手を放し、ジャルに「先に行って!」と、伝える。
待ち合わせは、ヒルの巣窟の手前の草原、事前に打ち合わせた通りだ。
まぁ、ジャルに魔石を1個持たせてあるから、位置はなんとなく把握できるしね。
僕はゴブリンのペースに合わせ、ジャルとアナの方に気がいかない様、ゴブリンを挑発して囮になる。
もちろん、戦いはしない。
十分引きつけた所で、ゴブリンに煙玉をぶつけ、一気に逃げる。
暫く走っていると、ゴブリンを撒く事ができた。
そして、僕はジャルとアナと合流する。
「私がミスったせいで……
ごめんなさい。
しかも、ブルーを危険な目に合わせちゃったし……」
その後のアナは僕に謝り続けていた。
僕は、
「いやいや、タイミングを指示したのは僕だし、アナは悪くないよ。
っていうか、あのウサギの反転がすごかったよね」
と言い返し、ジャルと2人で宥め賺した。
その後は、再戦する気にもなれないし、疲れが溜まっていたので、ヒルの巣窟を抜け、野営をした。
そして、僕達は村へと帰るのだった。
少年達は、初めての戦闘で得た教訓を活かし、次への糧とする。
そして、勝利を勝ち取るのだった。
次回 第19話 初討伐




