第129話 凶鳥
僕の名前は苦鵜蛾 癬田牢 昔から鳥が好きで、野鳥観察部に所属していた。
そして、奇病で苦しみ、死んだ。
せめて、鳥インフルエンザで死ぬなら本望だったのだが……
死んだ後、邪神に転生してもらう事になった時は、空を飛べる種族になる事を願った。
そして、その願いは叶ったのだが……
生まれ変わった種族は、陰魔羅鬼だった。
陰魔羅鬼、ステータス画面の説明によると、供養されない屍体から産まれる凶鳥らしい。
本当は人型のハーピーや、もっと大きくて、強い鳥、例えばガルーダとかフレースヴェルグとかの方が良かったのだが……
ちなみに、今の僕はタンチョウヅルの様な姿をしており、これはこれで気に入っている。
美しいクチバシに、綺麗な羽、すらりとした脚。
翼を広げると雄大な姿になる。
スキルは火魔法が使える。
しかも、タダの火魔法ではなく、霊属性を追加できるため、相手を燃やすだけでなく、燃やさずに魂だけを焼き尽くすこともできる。
そして、屍体から産まれる凶鳥だけあって、分魂の術で魂を分け、屍体を操ることができる。
今使っているこの身体は、流産しで悲しみに暮れていた若いお姉さんを、子供の声で沼に誘い、沈めて殺して得たものだったりする。
まぁ、普通ならこの世界で流産くらい普通だから、そんな事で悲しむ人はそんなにいないのだが……
このお姉さんの恋人は、運悪くバビッチとか言う山賊に襲われ死亡。
そのショックで流産し、恋人と子供の両方を失った。
しかも、元は貴族の令嬢で、使用人と恋に落ちて駆け落ち。
更には、次女のため、親から勘当されており戻る当てもなく、駆け落ち時に持ち出した資金も尽きかけていた。
そんな、世界を憎み、悲しみ、絶望したお姉さんを、沼の瘴気でじっくりと熟成させて、屍鬼とした逸品がこの身体だ。
だから、操りやすく、強い。
屍鬼としては無限のポテンシャルを秘めていると言ってもいいだろう。
それと、分魂の術にはもう一つメリットがある。
片方が生きていれば、片方がやられても死なない。
だから、どんな強い相手と戦っても、僕は負けることはない。
まぁ勝てもしないけど、この力が有れば楽しく生きていける。
例え、クラスメイトの鷹塔と、絶瀬を殺した、あのガキに見つかっても……
そう、今僕はそのガキと、死魔袋を殺したら女の子に出逢ってしまった。
スノードロップの花咲き乱れる森の道で。
出会い頭にガキは僕に話しかけてきた。
「貴方は……
人間ですか?
身体は人間だし、魂も人間だから、普通は人間なんだけど……
なんかが違う?」
「えっ、私はただの近くの村の村人ですよ?」
僕は女性の振りをして、誤魔化そうとするが……
「シアンよ、コイツは多分屍鬼だな。
恐らく、転生者の魂が屍体を操っている、そんなところだろう。
操っているなら、何処かに本体がいるかも知れんぞ?」
一瞬で女の子の方に見破られる。
どうしよう……
戦うか?
確かに本体が無事なら、ここで戦って負けても問題ないが、本体は飛ぶ力が弱く、逃げるのは遅い。
できれば逃げたい。
「あのさ、確かに僕は転生者で、苦鵜蛾 癬田牢って言います。
この身体も、偶然拾った屍体で、僕が殺したわけじゃないんです。
僕はただ、ひっそりと無難に生きていたいだけで、人間に害をもたらしたりはしないよ?
本当だよ!」
嘘ではない。
この身体は、僕に誘われはしたけど、自分の意思で入水し、望んで死んでいった。
それに、僕自身は元の世界に戻るつもりはないし、このまま鳥の魔物として、自由に楽しく生きていければいい。
だから、自分より強い相手とは戦いたくないし、殺されたくはない。
クラスメイトの仇討ちなんて、毛ほども考えでいない。
「ならさ、なんで最初に村人だって嘘をついたの?」
……
ヤバイ。
実にヤバイ。
そりゃ、普通に考えて嘘はつくだろう。
ただ、この選択肢を間違えれば、僕は間違いなく殺される。
慎重に、慎重に答えなければならない。
「そりゃ、だってさ……
正直に僕は魔物ですっていったら、君はどうしたの?」
僕の選んだ方法は質問に質問で返す事だった。
どうせ言い訳してもすぐに破綻する。
ならば、相手を少しでも混乱させる事が重要。
なんなら、怒りで我を忘れてくれるなら、本体を逃す時間稼ぎにもなるだろう……
「なるほど、確かにいきなり魔物ですとか言われても困るよね。
ブルー、どうかな?
無害な魔物なら元人間だし、見逃しても大丈夫かな?」
「いや、残念ながらコイツは何人か殺しているな。
この身体も騙して死なせたみたいだし。
まぁ、取るに足らない奴だから逃すのは構わないが、時間が経てば成長して復讐に来るかもしれんしな。
今の内に討伐する事をお勧めするぞ」
くっ、一瞬見逃してもらえるかと期待したのに……
余計なことを言いやがって。
だが、これはチャンスかもしれない。
「違うんだ、多分その女の子の勘違いじゃないのかな?
僕は何もしない、無害な魔物だよ。
魂は人間なんだから!」
そう言って近づき、隠し持っていたナイフで斬りかかる。
両手でナイフをしっかり握り、低姿勢での突撃。
しかし、ギリギリのところで避けられ、斬り返された。
斬られたのは腕、だがしかし……
斬り口はすぐに元に戻る。
この身体は、屍体。
そして、沼の瘴気でじっくりと熟成した逸品だ。
もちろん、硬さはほとんどない。
だから、斬るのは容易だろう。
しかし、この身体なら斬られても痛くない。
血も出ないし、柔らかい分すぐにくっ付くのだ。
そのため、業火で焼くか、微塵に粉砕するか、魂を直接攻撃しない限り、僕は倒せない。
「無駄、無駄、ムダァ!
君のナイフじゃ僕を倒せないよ」
「うーん、血が無いから血抜き君とは相性が悪いみたいだね。
ブルーもナイフだし、魔法は使えなかったよね?
なら、ブルーはあっちに逃げた本体を追って、多分鳥みたいな姿をしていると思う。
僕は、コイツをなんとかするから」
「確かに、私ではこの屍体を相手するのはちとキツいな。
ならば、こちらはシアンに任せるぞ。
まぁ、全然心配していないが、気は抜くなよ?」
そう言って女の子は僕の本体を追っていった。
だが、所詮はか弱い女の子だろう。
このガキさえ止めれば、勝機は僕にある。
とはいえ、あくまで時間稼ぎのため、暫くは間合いを取り、見合う。
そして、先に動いたのはガキの方。
とんでもないスピードで、ナイフを振りかざす。
だが、僕も傷を受けながらもバックステップで避けていく。
「やっぱり、斬り応えが無いな……
なんか、空気を相手しているみたいな……
しかも、結構速いし、厄介な相手だなぁ」
そう言って、ガキは一人ごちる。
その隙に、僕は反撃してガキに殴りかかる。
ナイフの防御に関係なく、斬り裂かれても止まらない連打に、ガキもたまらず後退りして行く。
これならイケるかも?
そう思った瞬間、ガキが左手の手甲で、僕の右腕を払った。
強烈な喪失感……
魂が、失われる……
僕の右腕が崩れて行く……
「なんじゃこりゃー!」
僕は思わず叫ぶ。
それに対して、ガキは冷静に、納得している。
「なるほど、屍鬼は魂で操っているから、ペスの能力が使えるのか。
魂が無くなればただの屍体だから、崩れるんだね。
しかも、今ので屍鬼って言うか、アンデット系の特徴もわかったし……
あとは倒すだけだね」
そう言って、ガキは手甲を付けた左手だけでジャブのように僕を殴り、僕は次第に消えて……
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どうやら分魂が消えたらしい。
やはり、あのガキは強かった様だ。
だから、逃げて正解だったのだろう……
しかし、今僕はあのガキの相方の女の子に追われている。
これが恋愛系の漫画なら、美少女に追われるのはとても嬉しい事なのだが……
僕は魔物で狩られる側、彼女は人間で狩る側だ。
だから、ひたすらに逃げる。
だが、平野ならともかく、森の中は飛びにくいし、元々そんなに高くは飛べない。
そのため、すぐに追いつかれてしまった訳だが、僕は急反転して女の子と向き合う。
そして……
振り向きざまにファイアブレス!
ただし、丁度お気に入りの身体を失ったばかりだから、魂だけを焼く炎だ。
これで、この美少女の身体が僕のものに……
思わず歓喜で震える。
はずだったのだが……
「悪いな。
こう見えて、私はかつて冥界の深部で働かされて……
いや、働かせて頂いていてな。
あの程度の炎では、私の魂は焼けはしないよ。
ちなみに、ネビュロス、死者の大公と言う話は知っているか?」
美少女は何事もなく、真っ直ぐに僕の首を掴んで話しかけてきた。
これでは、身動きは取れない。
それに、ネビュロス……
確か、あの邪神が注意リストに入れていた……
そう!
ネビュロスの転生体はSランクの危険人物だ。
レベルは確か90以上推奨?
僕の34レベルでは、歯が立つ訳がない。
「その感じだと、やはり私の事を知っているみたいだな。
それに、死ぬ直前の情報が他の転生者にも伝わるみたいだしな。
それならば、真綿で締める様に気絶させてからゆっくりと殺してやるよ」
そう言って、女の子は徐々に僕の首を締めていき……
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危なかった……
この身体は緊急用。
分魂が一体までなんて事は言ってないしね。
僕は今、雀の屍体を操り、逃げている。
これなら気配が小さいし、スピードもかなり早く出る。
さながら弾丸の様に飛べるし、見つかる事はないだろう。
まぁ、雀の身体では魂の器が小さいから、入っている魂もかなり小さい。
だから、元の身体に戻るには、器を広げて魂を回復させなければならない。
肉体の回復と違って、魂の回復にはかなり時間がかかる様だし、この身体で安全な大きな器を作るのも難しい。
だが、生きていれば何とかなるだろう。
僕は、もう2度とあの2人と遭う事がないよう、心から願い、逃げるのだった。
現代知識で無双……
果たしてそれは、本当に可能なのだろうか?
そして、魔導の力はそれに対抗できるのだろうか。
次回 第130話 土人




