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第126話 辻斬り

私の名はネビュロス、かつて邪王として恐れられ、一つの大陸を支配した死霊使い。

まぁ、実際は酷死冠と言う冥王様の作った冠の呪いに操られていただけなのだが。

ちなみに、かつての人格はその時に崩壊し、私の人格は酷死冠に形成されたモノなので、本当に私の人格なのかどうかは怪しいが……

そして、勇者に倒され、死した後は冥界で冥王様に仕える従者となった。

しかし、ある時に何者かに召喚され、レオンという強者にまた会うと約束してしまった。

うん、実際はその場のノリで言ってしまったのだがな、死者は召喚後の約束を破れないというルールがあったりするんだよ、その時は忘れていたが。

だから……

なんとしても奴と会わねばならぬが、死者の身で復活するには色々と制限がある。

仕方がないので、冥王様に頼んで転生したのだが……

いや、転生と言っても異世界に行ったわけではなく、元の世界で産まれ直しただけの話で、特別な能力やスキルは与えられない。

だから、私は私の力だけでレオンという強者と出会い、戦わなければならない。

まあ、別に勝たなくても良いのは幸いだな。


こうして、私はとある普通の村の、普通の農家の子供として産まれた。

両親は長い間子供が産まれなかったみたいで、1人っ子の私をとても大切に、大事に育ててくれた。

私が熱を出した時なんて、危険な森に入ってアケビを取ってきてくれたりした。

魔物に遭うリスクもあったのに……

前世には無かった、穏やかな、とても幸せな日々が続いていた。

そんな中、私はスクスクと育ち、毎日を平和に過ごしていた。


そして、私が転生して初めて人を殺したのが、12歳の時だ。

相手は、そうあの優しかった、とても優しかった大切な大切な両親。

寝ている間に心臓を1突きし、一瞬で苦しまずに逝かせる事ができた。


何故殺したかって?


理由は簡単だ。

もしも私が人殺しと知れば、あのお人好しの父と、優しい母は傷つき、苦しむだろう。

それはきっと、とてつもない苦しみとなるだろう。

だから、出来るだけ苦しまず、安らかに死ねる様にしてあげたんだよ。

笑いながらね。

いや、それまで殺せないのが辛くて辛くて、頑張って我慢していたんだから仕方あるまい。

本当、我ながら自分を褒めてあげたいくらいだな。


それから、私は私を知る村の人間を全て殺し、村に火を放って旅に出た。

まぁ、顔見知りで相手の力量は知っていたし、普通の村人ごとき余裕だったけどな。

それからは、1人で各地を転々としながらレオンを探しながら、こうやって辻斬りをしながら強者も弱者も人も動物も魔物も殺しながら旅しているわけだ。


何?

何故そんな説明をするかって?

転生した私には、死霊系の魔法は使えないものの、霊との対話はできるからな。

これはスキルとかじゃなくて、産まれ持っての性質だからね。

言っただろ?

元々は酷死冠によって生まれた人格だってさ。

それに、一回死んだからな、そのせいもあるかもしれないな。

それと、死んでる君なら私の秘密が漏れても問題ないし。

単なる暇つぶしだけなんだけどな。


だからまぁ、あんまり気にしなくてもいいぞ。

ん?

殺された方としては気になるか。

安心していいぞ、私に殺されれば、冥王様の恩寵を受けられるかもしれないからな。

うん、多分だけどさ。

成仏すれば、また転生も叶うだろうて。


ん?

スキルや特別な力が無くても強いって?

まぁ、スキルってわけじゃないけどな、私には息をするのと同じくらい自然に生物を殺す事ができるからね。

なんせ、冥界では獄卒の真似もしていたから。

ちなみに、獄卒って言うのは罪人を魂が擦り切れるまで殺し続ける任の事でな、1日に何万回も殺していれば、そりゃ慣れてくるだろ?


まぁ、それでも前世の時や、レオンの強さと比べたら程遠いがな。

って言うかこの前さ、この大陸の当該の勇者とやらも殺したけどさ、弱過ぎだろ?

たかだかオーガ一匹倒したくらいで勇者とか、語り過ぎだっつーの。

私のこの身体ですら10匹は殺しているのに……

いや、人間が弱くなっただけかもしれないが。


そんな事を考えている間に、死霊は消えていた。

その代わり、「ウワーン」と叫ぶ何か、が現れた。

コイツは……

見た目は魔物だが、魂は人間っぽい。

ならば、話せるか?


「お前、人間なのか?」


私が話しかけると、ソイツは自分の事を話し始める。

まぁ、音ではウワーン、ウワーンとしか聞こえないけどな。

ふむふむ、つまりお前は元は人間で、名前は死魔袋 洞爺、転生者だと言うのか?

外界の邪神に騙されて転生したら、うわんと言う人を脅かすだけの魔物になっていた。

ふむ、寝不足にして弱らせて殺すわけか……

ナイトメアに近い感じだな。

もう既に何人か仲間は死んでいて、鷹塔という女子を殺した子供を見つけ、逃げてきたという事か。

情けないな、男なんだろお前さ。


何?

この種族では勝てないって?

そんな事を言っているからダメなんだよ。

だから、一回死んでみるといい。

えっ?

一回死んでここにいるって?

なら、もうダメじゃん。


私は、自然な感じで小刀をうわん、もといトーヤだっけに差し込んで魔石を抜き取る。

向こうからすれば何が起きたかわからなかっただろう。

ちなみに、私の動きはそんなに早いわけではない。

まぁ、一般人よりは鍛えているが、歴戦の戦士に比べれば身体つきは貧相だし、武具も普通の小刀と皮の服しかない。

多分まともにやれば勇者とやらにも勝てなかっただろう。

いや、レオンには効かないだろうけど。


魔剣ネクローシスと酷死冠さえ有れば、死霊の軍団を作り世界を征服できるんだがな……

いやまぁ、今の身体であの呪いに耐えれるかどうかはわからんけど。

とにかく、トーヤとやらの骸を放置して、私はトーヤが逃げて来た方向に向かって歩く。

これだけの魔石を持つ魔物、と言うか転生者が逃げる相手だ。

相当の強者の可能性が高い。

ひょっとすると、レオンもしくはレオンに連なる者かもしれない。


暫く歩いていると、1人の子供が現れた。

背はあまり高くなく、中肉、でもそれなりに鍛えられた身体つきをしている。

武器は、ナイフが1本、防具も軽装でパッと見は冒険者見習いの小僧だが……

コイツは何者だ?

殺し方を100通りはシミュレーションしてみたが、殺せたのはたった一回だけ。

しかも、会話で油断させ、こちらの攻撃範囲に完全に引き込んだ上で、後ろから確実に事故を装って差した場合のみだ。

力も速さも相手の方が数倍上、更にこちらの動きを確実に読んでくる……

気がする。

そして、例え殺しても、死なない気がする。

コイツはとんでもない化け物だ。

私は、久しぶりに冷汗をかいてしまう。

こんなのは冥王様に会って依頼……

下手に刺激すれば、殺されるかもしれない。

まぁ、それはそれで盟約も切れるし構わないのだが、無駄死にはしたくないので、まずは様子を見よう。

そう考えていると、向こうから話しかけてきた。


「こんにちは、いい天気ですね。

僕の名はシアン、冒険者見習いです。

あなたは?」


シアン、帝国の創始者の名前だったか?

今ではよくある名前だが、確か青って意味だったよな。

ちなみに、今の私の両親から付けられた名前はマルセットだが、真名に関わるので本名は名乗らない。

ネビュロスである事も秘密だ。

だから……


「私はブルー。

ただの人殺し……

かな?」


まぁ、ブルーってのは即興の偽名だが。


「えっ?

ブルー?

僕と同じ……

そっか。



いや、そっかじゃなくて、人殺し?

聞き間違いじゃなくて?

僕を殺しに来たの?」


「いや、残念ながら今の私では、お主は殺せない。

だから、戦う気はないぞ?」


そう言って、私は服をまくり上げシアンに腹を見せて寝転がる。

いわゆる服従のポーズと言うやつだ。

しかし、私が腹を見せるとシアンは少し焦りながら、私から目を逸らす。


「ちょっ!

なんで脱ぐんだい?

女の子なんだから……

そんな事をしちゃダメなんだよ!」


ああそう言えば……

前世で意識を得た時には半死体状態だったから、性別なぞ気にもならなかった。

冥界でも、魂の状態ならば性別はさほど重要ではない。

だが……

この身で転生した際には雌として産まれた。

とはいえ、女の子らしくとかはわからなかったから、両親は大分不思議がっていたな。


しかし、今ならばシアンはスキだらけだ。

これならタイミングが合えば殺せたかもしれないな。

いや、腹をまくり上げて寝転んでいる状態じゃ無理だけど。

このままでは話が出来なさそうなので、仕方なく服を直し、正座して再度シアンに話しかける。


「シアンよ、お主はレオンを知っているか?」


そう、シアンからはそこはかとなくレオンの匂いを感じる。

もしも、シアンがレオンに連なる者ならば、盟約はこれで完了する。

まぁ、レオンが生きていれば別だが、私の推測では私が転生した時期は、レオンと会ったあの時代とズレている。

だから、レオン本人じゃなくとも、レオンに連なる者かレオンの転生体を見つければ私の盟約を解除する事ができるのだ。

そして、シアンの答えは……


「えっ!

ブルーは師父を知っているの?

でも、師父はとっくに死んでいるし……

別のレオンさんの事じゃなくて?」


「魔力が規格外で、とてつもない身体強化を使うレオンと言ったら、他にはいないと思うのだが……

人違いなら仕方あるまい」


「いや、それなら僕の師父なんだけど……

って、死んだのは300年前のはずなんだけどさ。

君はひょっとして、不死者とかそんな感じ?」


うむ、間違いではないのだが……

正確には元不死者だ。

しかし、不死者は確か、即討伐の対象だったか?

答え方を間違えれば即斬られる。

何故だか、シアンには斬られたくないと、背筋が凍る。

と言うかレオンが死んだのが300年前だとして、シアンは何故レオンを知っている?

いや、知っていると言うか、師事していたのかもしれない。

するとシアンは300歳以上と言う事か?


「私はただの人間だ。

いや、転生したから前世でレオンを知っていて……

不死者ではないぞ?

というか、シアンこそ300年前から生きていたのか?」


「えっと、僕はなんかよくわからん空間で、外の時間が早く流れてウラシマ効果がなんとかだった……

かな?

よくわからんけど、そんな感じで気づいたら300年後だったんだよね。

だから、300年前に師父には色々と修業を受けたんだよ。

君も師父に修業を受けたなら、兄弟子、じゃなくて姉弟子になるのかなぁ?」


「私は会っただけだから……

弟子ではないぞ。

まぁしかし、これで盟約は切れたから私は自由だ。

だから、シアン、お主についていくぞ。

いいよな?」


「えっと、人殺ししないならいいけど?」


「それじゃ私の存在意義が……

まぁでも仕方あるまい。

お主が死ぬまでは、人殺しは我慢してやろう。

それで良いな?」


「まぁ、それでいっか。

じゃあ、よろしくねブルー」


こうして、私はシアンと出会い、一緒に旅する事になったのだった。
















「ちなみにその猫の魔物はなんだ?」


「我が名はジョヴァンヌッアなり、高貴なアーク様に仕える従僕だ。

ん?

貴様も……

いや、なんでもない」


「あ、コレはペットのヴァンだよ。

たまに難しい事をなんか言っているけど、気にしなくていいから。

この指輪、ベーやんから作られた魔猫らしいよ。

あとね、このナイフが血抜き君で、この手甲がペスだよ」


そう言われ、シアンの指輪と、ナイフと、手甲をよく見ると……

酷死冠と同じ呪いの装備だった。

やはり、シアンは人間なんだろうか?

そして、この先私はどうなってしまうのだろうか。

不安な旅が今始まるのだった。


ソレは無機質で、冷たい存在だった。

だからこそ……

熱く、暑く、厚くなりたかった。


第127話 バーニングナックル

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