第125話 修業再び
たかとうさんと言う元人間のゴブリンについて。
背は僕と同じくらいで、見た目は普通のボスゴブリン程度。
見た目だけなら特段強いという感じは全くしない。
でも……
気配だけならかなりの強者だ。
これがレベルの強さ、という事なんだろうか?
多分だけど、純粋な強さだけなら、師父を超えるかもしれない。
そして、今の僕では勝てず、死ぬかもしれない事も……
うーん、なんだかワクワクしてきた。
このまま強い敵と会えず、ただ無為に毎日を惰性で暮らす事はできる。
1人でひっそりと朽ち果てて死ぬ事も……
でも、転生者という強者がいる事がわかった。
これが胸を躍らせないと言ったら嘘になるだろう。
だから……
全力で殺し合う!
僕は、現状の限界まで身体強化し、一直線にたかとうさんに向かって斬りかかる!
まるで矢のような速さで迫り、ナイフを振り下ろす……
しかし、その前に、それ程速くない横振りの棍棒が……
これ以上無いと言うくらい適切に、僕の身体を確実に捉えて打ち据える!
多分、僕のスピードも合わせて威力が出たのだと思うが……
僕は胴体を完全に粉砕され、肉片を撒き散らしながら吹き飛ばされる。
まぁ、頭は無事だったけど……
ほとんど首だけで吹き飛んでいき、僕の意識は、失われていった……
気がつくと、僕は五体満足で森の奥に寝転んでいた。
流石に全身を粉砕される痛みは強烈だったなと思いつつ、僕は立ち上がる。
どうやら、僕が死んだと思って、たかとうさんは見逃してくれた様だ。
いや、実際は死んでいるし、この手甲、ペスの能力で魂のストックがあるうちは生き返るだけなんだけど。
流石にあれだけ粉砕されてまで生き返るとは思わなかったけれど、大丈夫だったらしい。
ふー、やはりたかとうさんは強い相手だった、特にスキルの効果だろうがあの素人みたいな振りが、あそこまで綺麗にハマるとは……
偶然も偶然なくらいの攻撃が、神懸って出てくる効果があるのだろう。
それと、身体能力も僕より遥かに高かった。
それこそ高位の魔獣みたいな、そんな強さを持っていた。
アレがレベル差って奴なんだろう……
多分だけど。
まぁ、でも……
頑張ればなんとかなる、今までだってこれくらいの差は埋めてきたわけだし。
やり方次第ではなんとでもできるはず。
ただ、今のままで再突入しても死ぬだけだし、たかとうさんなら生き返るのがわかれば対策するだろう。
だから、ここは一旦引いて、修業をしなおさないと……
唯一の心残りはヴァンを置いてきてしまった事だが、どうもたかとうさんと同じ場所にいる気配がする。
多分拾われたのだろう。
食べられないと良いんだけど……
ソレはともかく、僕はたかとうさんの洞窟から離れ、見通しの良い平原にたどり着く。
さて、しかしどうするかなぁ……
多分、あの棍棒の一撃はスキルの効果で必ず当たる。
だから、棍棒を斬るか、あの一撃に耐える事、それしか勝機は無いような気がする。
そうすると、身体強化を更に上げるしかないか……
実際、魔力は充分あるし、強化は肉体の限界に合わせて抑えてある。
本気を出せばあと10倍は強化できるだろう。
だけど、今の1.5倍の魔力を込めるだけで……
右手に魔力を込めると、大量の血を撒き散らし、右手が爆破した。
このままだとジワジワ死ぬから、全身に魔力を込め、肉片を撒き散らして死ぬ。
ふー、やっぱり死ぬよね。
痛いし、辛いし、気持ち悪いし……
できれば死にたくはない。
でも、身体強化魔法で死ぬと、1%位は強化魔法耐性が増えている気がする。
いやもうぶっちゃけ気のせいレベルだとは思うが、他に方法はない。
どうせ魔力も、魂のストックも充分にある。
だから、試す価値はあるのだろう。
効率を上げるため、右手、左手、右脚、左脚と連続して順番に爆破させる。
いきなり全身だとムラができて爆破しない可能性があるからだ。
多分、爆破していない場所は強化されていないし。
ちなみに、痛みは爆破する場所が増える程増える。
しかも、痛みに麻痺する前に元に戻るから、ずっと新鮮に痛いままだ。
上がるのは魔力耐性だけで、痛みの耐性は変わらない。
それと痛みで意識を失えば、中途半端に無駄に死ぬ事になるし。
冷静に、迅速かつ確実に死ぬ事が必要で、自分でいうのもなんだけど、全くもって正常とは思えない狂気の沙汰だと思う。
いや、本当に辛いし……
でもこれが一番合理的で、確実な方法だから仕方がない。
もちろん、このまま逃げると言う選択肢もあるけど、そうしたら僕は僕じゃ無くなってしまうだろう。
それは何回も死ぬよりも辛い事だから、容認はできない。
だから、やはり死に続けるしかない。
そして、死ぬのを10回繰り返すと気のせいじゃないかもって程度には魔力耐性が増えてきた。
20回でそこそこには、30回でまあまあには、40回でハッキリとわかるレベルで、50回で1.6倍近くの魔力が込められる様になってきた。
ふう、3日3晩飲まず喰わずで死に続けて、やっとこれだけは強くなったか……
ちなみに、1.6倍の魔力を使うと、スピードもパワーも2倍以上になる。
そう、魔力と威力は比例しない、指数関数的に増えると言っていたのは、師父の言葉だった。
その代わり、魔力の制御は更に難しくなる。
制御の気を抜くと、腕の関節が外れ、筋肉が断裂し、一瞬で動けなくなる。
まぁ、回復魔法で治せるからいいんだけど……
戦闘で使えるかどうかは微妙だよな。
ただ、今回は硬化で硬くさえすれば良い。
あの一撃さえ防げは良いのだし。
試しに近くにいた突進系の魔物、化け猪を見つけたので無防備に前に出て、奴の突進を受けてみたが、かなりの重量が乗った突進にも関わらず僕の身体はびくともしない。
前までなら、少し飛ばされていたかもしれないけれど、やはり目に見えて強化されている。
うん、確かに強くなっているが……
それでも、あの一撃を防げるかは微妙か。
そうなるとやっぱり……
やはり、アレを試すしかないか。
そうは言っても、先立つものが無いといけないので、僕は狩を始める。
魔物はもちろん、獣も鳥も、虫だって狩れるだけ狩り尽くす。
幸い、近隣に人間はいないから、遠慮なく屠って、殺して、その魂を狩り尽くしていく。
10日程狩をしていると、30回分は魂が溜まってきた。
魔物も充分居たから、魔力も結構溜まったし。
まぁ、その代わりこの辺り一帯は虫も住まない死の領域と化したけれど……
って言うのは言い過ぎで、小さな虫なんて全滅は難しいんだけどね。
でも、広い草原に風の音しかしないくらい、今は何もいない。
あるのは朽ち行く死骸のみ……
それと、この狩りで少しずつ身体強化魔法のパワーアップにも慣れてきた。
これならある程度戦闘にも使用できるだろう。
ポイントはいかに無意識下で制御できるか、なんだけど大体の感覚さえ掴めれば問題ない。
それに、この指輪、ベーやんも微妙にだが魔力を調整する効果があるみたいだし。
やはり、ただの魔物と会話できるだけの指輪ではないのかもしれない。
実感し辛いのがたまに傷だけど、ヴァンの言う事も少しは聞いて大切にするかなぁ。
って言っても手入れの仕方もわからないからまぁいいか。
それじゃ、たかとうさんの所に行くか……
僕は、再びあの洞窟に向かって走り出すのだった。
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あの子供、シアン君が死んでから数日が経った。
いや、アレからあの不気味な武器を探したが見つからなかったし、本当に死んだのかはわからない。
代りに拾った猫のヴァンは、良い話し相手になってくれているからいいのだけど……
「んで、結局さ、シアン君って何者だったわけ?」
「あの小僧は、アーク様の依代であるベリアルの指輪様を身につけてても呪われない体質のただの小僧だ。
まぁ、だけど所詮は小僧だしニャ。
偉大なる御方の加護を受けていても、お主の様な強大な魔物には勝てぬしな。
やはり、人間である時点で限界なのかもしれんニャア……」
「まぁ、私も元は人間なんだけど?
でもさ、転生してから色々な人間と戦ってきたけど、あの子供程変わったのはいなかったわよ。
それとも私が出会ってないだけかしら?」
「伝承で言えば、あの小僧よりも名が轟いている人間は何人かいるニャ。
それでも、普通はそんな人間はいないしニャ。
ただ、あの小僧は特に変わったイレギュラーであるのは間違いないと思うぞ。
自前の魔力はないわ、相手の魔力を吸うわ、ベースの肉体は貧相なのに速いわ、偉大なる御方を3つも持って平気だとかニャ」
「いやまぁ、僕なんて師父達に比べたら大した事はないんだけどね?」
突然の声に、ハッと前を見るとそこにはシアン君がいた。
気づかなかった……
ヴァンと話していて油断していたのもあるが、やはり気配察知のスキルは欲しいな。
じゃなくて、やはり生きていた。
しかし、あれだけ粉砕されても生きているとか……
本当に人間か?
ヴァンが魔力を吸うとか言ってだけれど、不死の吸血鬼みたいなものなんじゃないのだろうか。
「シアン君、貴方って本当に人間なの?
実は転生者でヴァンパイアって事はないわよね。
いや、うん、やっぱり種族は人間みたいね。
それでも、何度生き返ろうと私には勝てないわよ?」
「うん、確かに僕じゃたかとうさんには勝てない可能性が高いと思うよ。
でもさ、負けたままじゃ死ぬよりも辛いから。
それに、強い相手に挑戦するのはとても楽しいしね。
だから、また僕の相手をお願いします」
この子に脅しは効かない、か……
ならば、全身全霊を持って迎え討つまで。
この前と同じ様に棍棒を持ち、外に出て対峙する。
しかし、いくら殺しても生き返るとするなら……
生き返れなくなるまで殺し尽くさなければならないか。
そうなると、フルスイングで吹き飛ばすわけにはいかないかな。
だけど……
なんか嫌な予感がする。
シアン君だって、何の策も無しに再戦しに来てないだろうし……
それでも、戦うしかないだろう。
負ければ私が死ぬ。
逃げる場所は無いし、帰る道もない。
首括る紐も……
ない。
いや、私は何を考えていたのだろう?
ゴブリンになったのは最悪だが、楽しくやってきたじゃない。
2回目の死なんてまっぴらごめんだわ!
私は棍棒を剣道の上段斬りのイメージで構え、シアン君と向き合う。
シアン君も、ナイフを抜き払い、お互いを見つめ合う事数秒……
前世ならこれだけでも恋に落ちていたかもね。
そんな自嘲気味の思考を嘲笑うかの様に、シアン君は真っ直ぐ向かってくる。
そう、ただ純粋に、ひたすらに真っ直ぐに。
代りに速度とパワーが段違いになってはいるが。
なんだ、ただ強くなっただけか。
レベルは上がっていないみたいだけど、なんらかの力で強くなった。
ただそれだけらしい。
そんなんじゃ、私のスキルは避けられない。
努力とか、技とか、運とか、そういうのを全部無視した先のシステムという形でスキルは存在している。
だから、私が適当に振れば絶対に当たる。
ププッ。
私は僅かに嘲笑しながら棍棒を振り抜く。
そして、一瞬でシアン君を肉片に変え、飛び散る肉片を舌舐めずりすると……
?
痛みが、違和感が首筋をなぞる。
そして、視線が横滑りして、急降下する。
あれ?
なんで私、地面に落ちているの?
薄れ行く意識の中、私はやっとこの異世界が終わるのだと、なんだか安堵するのだった。
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ギリギリだった。
あのスキルを回避するには、多分この方法しかなかっただろう。
これまでの修業で、何度も死んで、生き返るタイミングがわかってきたんだけど、ごく稀に魔力を大過剰にして全身をムラなく綺麗に爆散すると、復活のタイミングがかなり早くなる事がわかった。
まぁ、生き返った直後は意識はあんまりハッキリはしないが、死ぬ前に身体に動きを意識させ、自動で動く様にすれば問題なく攻撃ができる。
いや、距離とかタイミングとか、そもそもかなり運任せとかの問題はあるが、なんとかなったと言うべきか?
それに、血抜き君の切れ味がたかとうさんの防御力を超えていたのが勝因になったと思う。
とにかく、無事にではないが何とかたかとうさんを倒すことができ、僕は生き残る事ができたのだった。
そして、少年は出会う。
運命の相手に……
第126話 辻斬り




