第123話 忍びの端くれ
我が名はベンゾー、我が主人のタカトォ様の忍びだ。
我らはタカトォ様に力を与えられ、ただのザコとして冒険者達に狩られる存在から、人間共を蹂躙する強者へと引き上げられた。
特に師団長の力は素晴らしく、最強のブーポポルニクス様に至っては……
ブルル、思い出しただけでも恐怖が蘇ってくる。
あの方が出てくれば、そこには敵味方問わず肉塊しか残らない。
我が軍の最終兵器と言っても過言ではないだろう。
しがし、ブーポポルニクス様程ではないが、ガトゥンワ様もかなりの強者であるが……
連絡役の話では、ガトゥンワ様が小さな村を襲った際に殺されたらしい。
相手は正体不明だが、身の丈3メートルはある大男とか、聖なる力を持つ勇者だとか、口に出すにも憚れるアレだとか噂されているが……
しかも軍隊並みの人数で、我らが仲間達を虐殺し尽くしたらしい。
全く人間という奴は厄介極まりない。
まぁ、タカトォ様は人間の中に転生者の裏切り者が居る事を疑っていた。
真の敵がどうとか……
ちなみに、我らが主人のタカトォ様も転生者らしく、我らが知りもしない知識を持っている。
それに、主人の真の力は見た事がないが、タカトォ様はブーポポルニクス様にも匹敵する力を持っているのだと思う。
一度聞いた事があるが、能ある鷹は爪を隠す、という事で秘密らしい。
まぁ我々には隠す意味がサッパリわからないが、我らには想像すらできない壮大な理由があるのだろう。
これから迎え撃つ強大な敵を想像しながら、ガトゥンワ様が戦死した村の方角を目指す。
まずは、ベテャムキン様とショボンヌ様に事情を説明せねばならぬし。
2日ほど走り続け、ベテャムキン様の陣営へとたどり着く。
「ベンゾーか?
おまえが出てくるとは……
主人からの危急の連絡か?」
ベテャムキン様は痩せ型で、細身のゴブリンだからボスゴブリンとしては並み以下の力しかない。
しかし、タカトォ軍随一の切れ者で、頭が良い。
だから、我が来ただけで状況を察して質問をしてきた。
「ハッ!
ご存知だとは思いますが、ガトゥンワ様が謎の敵に討たれました。
タカトォ様はこれに全力で当たり、倒すように命じられております。
ベテャムキン様も御出陣頂くように御願い致します」
「安心しろ、ベンゾー。
既に我が師団の兵は準備を済ませつつある。
だから明後日には出陣が可能だろう。
それに、ショボンヌにはこちらに合流するように伝令を出している。
まぁ、2師団で当たれば倒せぬ敵などほとんどおらぬだろうて」
「流石はベテャムキン様。
しかしながら、タカトォ様は転生者の関与を疑われておりますから。
くれぐれも油断されぬようご注意下さい。
それに……
ブーポポルニクス様もこちらに向かってきております。
お気をつけ下さい」
「な、なんと……
主人も本気という事か。
ブーポポルニクスの奴が来れば……
我が師団の被害も甚大だろう……
ベンゾー、悪いが先に行って、敵の情報を調べてきてくれ。
場合によっては、我らは引いて、ブーポポルニクスを直接ぶつける方がいいかもしれんからな。
頼んだぞ」
「承知、では先行して敵を見極めます。
ただ、ガトゥンワ様がやられてから5日は経っていますし、相手も近くに来ているかもしれません。
ベテャムキン様もお気をつけ下さい」
そう言って、我は全速力でショボンヌ様の陣の方へと向かうのだが……
半日程走った後、少し先を見ると何故か子供が居る?
しかも、こちらに向かって歩いているのだが……
我は忍びぞ?
いくら全速力とはいえ、子供如きに見つかる様な間抜けではないし、側から見たら普通は気付かないはず。
というか、この近く人間の村なんて無いし、こんなところに子供が1人で歩いて来れるはずがない。
そんな事を考えていたら、その子供は我が目の前にいつのまにか立っていた。
歳は子供と青年の間くらいか?
見習い冒険者の様な貧相な武装で、何故か籠を持っている。
我は恐怖のあまり、愛刀 小鴉丸を子供に向かって振り抜く。
だが、小鴉丸は掠りもしない……
避けられた動作すらわからなかった。
忍びとして鍛えた我が、だぞ?
そして、その子供は平然と我に声をかけてきた。
「やっほ。
忍者ゴブリンとか珍しいね。
って、やっぱ言葉はわからないかな?」
何故だかその子供が話す言葉が理解できる。
コイツ本当に人間か?
しかし、その言葉は逆らい難い雰囲気がある。
タカトォ様の様に……
いや違う、もっと異質で気持ち悪い何かだ。
「お前、何者だ?
言葉、わかる」
我とて忍びの端くれ、逆らい難い雰囲気としても最小限の情報流出に留める様に言葉を選ぶ。
「僕はシアンだよ。
冒険者見習い……
って言っていいか微妙だけど。
やっぱベーやんの効果かな?
ゴブリンと会話できるみたいだし、やっとベーやんの使い道がわかったよ」
子供がそう言うと、籠の中のアレが話し出す。
「だからベリアルの指輪様と呼べと言っておるだろう!
姿形は指輪なれど、高貴なお方なるぞ!
敬意を持って接するがいい、って聞いているのかシアン!」
籠の中には猫が、いやアレは魔猫。
我などあの肉球で叩かれれば一撃でミンチになるだろう……
何故あんな強大な魔物を、この子供は従えているのだ?
「別にベーやんでもいいじゃん。
って言うか、ヴァンは黙っていてよ。
それより、忍者ゴブリンさ、キミのボスはどこにいるのかな?
さっきも、双剣を持ったボスゴブリンを倒して来たんだけど、あんな弱いのがロードじゃないよね?」
まさか?
既にショボンヌ様の師団が壊滅?
嘘だろ、こんな子供が?
ひょっとして、ガトゥンワ様を殺ったのも……
そして、心では喋るまいとしても、身体は勝手に反応して喋ってしまう。
「双剣は、ショボンヌ様……
ロードは、タカトォ様……
場所は西の洞窟……
クッ、殺すなら殺せ!
これ以上の屈辱には耐えきれぬ」
「んー、ごめん。
キミはとっくに死んでるよ?
もう聞く事は無いしね。
じゃ、そう言う事で」
気づくと、我が腕は両方とも地面に落ちていた。
いつの間斬られた?
そして、腕を見るために下を向くと……
我が首は地面に吸い込まれる様に……
―――――――――――――――
しかし、ショボンヌからは連絡の返事が来ない。
まぁそろそろベンゾーが着く頃だし、入れ違いだったかもしれないが……
なんだか胸騒ぎがする。
そんな事を考えていると、見張りのゴブリンが血相を変えて我が天幕に入ってくる。
「ベテャムキン様、お逃げ下さい!
アレは、ヤバイです!
我らが盾として食い止めますから、裏口から逃げて下さい!」
「ちょっと待て。
落ち着いてちゃんと説明せよ。
敵が攻めて来たのか?
ならば、いつも通り陣形を組むのだ。
それに、我が敵を見極める。
逃げるのはそれからだ」
「いやいや、アレはマジでアレなんですって!
そんな余裕はないんですって!」
そう言って、見張りのゴブリンは我を外に逃がそうとする。
確かに、我はボスゴブリンの中で最も弱い。
だが、普通のゴブリンよりは強いのだが……
それでも、見張りゴブリンは我の手を取って強引にでも裏口から連れ出そうとする。
我はその手を振りほどき、外を見やると……
そこには地獄が広がっていた。
至る所で、仲間のゴブリンの死、死、死、死……
我が配下はいつも通り陣形を組み、適切に当たっている。
敵を囲み、その隙間から長槍で突く、離れての投石での一斉攻撃。
これはブーポポルニクスの暴走を止めるために作られた、玉砕覚悟の必殺の陣なのだが……
全く機能していない。
しかも相手は1人、良くは見えないが小さくてとても素早い。
ならばと、我はあの部隊を投入するように指示を出す。
破塵隊、魔力を暴走させ、自爆する部隊だ。
しかも、見た目でわからないよう、普通のゴブリン兵に紛れさせている。
これならば……
味方にもダメージはあるが、我が配下は恐怖を捨ててでも勝利するように教育してある。
まぁ、普通は破塵隊を出すような事はせぬが、相手が相手だけに仕方あるまい。
さぁ、爆散するがいい!
……
……
……
何故だか、爆散する前に確実に仕留められてしまう。
しかも、ついでに囲んだ兵も全滅する。
なんだアレは……
この時になって、初めて我は事の重大さに気づく。
アレはヤバイ……
マジで。
しかし、今更逃げる事は出来ない。
戦っても、負けるだけ……
いかん、これでも我はタカトォ様の軍の頭脳だ。
考えろ……
毒矢は、当たらない。
魔法は、発動前に殺される。
罠は……
仕掛けていない。
想定外だ。
想定外過ぎて何もできない。
そんな事を考えている間に、ソレは我が目の前にやって来る。
我が師団の全滅という結果を伴って……
こうなったら仕方あるまい。
最後の手段だが、生き延びる事が優先だ。
我は……
地面に平伏し、頭を擦り付け、泣きながら助けを乞う。
まぁ、人間に我らの言葉はわからないだろうが、必死さが伝わればいい。
実際に、我は幼少の頃にコレをやって、人間の冒険者から逃げ延びる事に成功している。
まぁ、その後に仲間を増やし、復讐は果たしたのだが。
人間は弱き者に手心を加える事がある。
特に女子供はその傾向が強い。
あの時もバカな女冒険者が見逃してくれた。
今回のアレも、見た目は子供だし、少しは期待できるかもしれない。
まぁ、ダメならどの道死ぬだけだ。
「ダズゲで、ダズゲで、タスケテ、ボスケテ、ダバスコ……」
「えっと、キミはボスゴブリンだよね?
戦わないの?」
?
何故かソレは、我にわかる言葉で語りかけてくる。
コイツ人間じゃないのか?
それに、逆らい難いその言葉に、恐怖すら感じる。
コレは間違えたら死ぬやつだろう。
我は必死に考え、慎重に言葉を絞り出す。
「私は身体も小さく、弱いです。
ダカラ、貴方の様な強者とは戦えない。
貴方と戦う意思はなかった。
仲間が貴方に歯向かったのは謝ります。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
助けて、殺さないで、お願いします」
「うーん、そこまで言われたら仕方ないか。
ならさ、キミらのボスのタカトォについて教えてくれないかな?」
奴の要求はタカトォ様の情報だった。
だが、それを話せばタカトォ様を裏切る事になる。
話さなければ奴に殺され死ぬし、話してもタカトォ様に殺されて死ぬ……
ならば、偽計しかあるまい。
徹底的に嘘をつき尽くす。
「タカトォ様は、金髪碧眼のゴブリンでございます。
身の丈は3メートルを超え、武器は激槌ビードレクスです。
ブボブボ言うのが口癖ですが、凶暴で暴れ出すと手がつけられません。
必殺技は劣喰斬でございます」
言えた。
ちなみに、今のは全部嘘だ。
さっき言ったのは全てブーポポルニクスの事でタカトォ様のことではない。
奴にブーポポルニクスを当たらせ、タカトォ様には辿りつけない様にしてやる。
確かに奴は強いが、体格差から考えてブーポポルニクスには敵うまい。
所詮は人間、小賢しい技では圧倒的な暴虐の前では無力だからな。
しかし、その人間は意外な事を口にする。
「ふーん。
それって半分嘘だよね?
ゴブリンでも進化すると嘘もつけるんだね。
知らなかったよ。
まぁ、そんな事どうでもいいけどさ」
バレた。
何故だ?
いや、そんな事はどうでもいい。
ならば、仕方あるまい……
魔力の暴走による自爆、アレは破塵隊だけしか使えない技ではない。
発案者である我にも使えるのだよ。
我は素早く印を結び、呪文を唱え、自爆しようとする。
タカトォ様、お役に立てず申し訳ありません……
せめてこの人間は我が……
しかし、あと少しという瞬間に、ブモーという叫び声が聞こえ、強烈な一撃を喰らい我は吹き飛ばされる。
アレは激槌ビードレクス?
恐らく、ブーポポルニクスが来て、我ごとあの人間に攻撃したのだろう。
地面に打ち付けられた我は、全身の骨を粉砕され指一本ですら動かせない。
そして、ぼろ切れの様に我は地面に転がりながら、意識が薄れて……
第124話 未知の世界との遭遇




