第118話 覚醒
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ふぁー、よく寝た。
って、寝てた?
目を開けると、知らないベッドで寝かされていた。
まぁ、古びて腐りかけのカビ臭いベッドだが、ダンジョンの床よりはマシ、みたいな感じ?
そして、傍らには心配そうに見つめるヴァンがいた。
「お目覚めですか、アーク様!
私ジョヴァンヌッア、この時をどんなに待ち侘びた事か……
そんなチンチクリンの身体で申し訳ございませんが、その身体の小僧は異常な強さを持っております故、ご安心下さい。
それに、数年して成長すれば、身体の大きさも丁度良くなるでしょう。
私めも、アーク様のサポートとして死力を尽くす所存でございますニャ!
しかし、本当にお目覚めになられて良かった。
メンデレーエフの身体が崩壊し、アーク様が眠りにつかれた時には、もう2度とお会いできないかと思っていましたが……
この身体の小僧は、クトゥグァにアニマを与えられ、ダンジョンを攻略し、私以外の超魔獣を倒し、あまつさえあのハス太様すら倒してしまいました。
何なんですかね、ガキのくせに?
それはともかく、アーク様はこの事を先見されていたんですね。
流石でございますニャ!
これで、我ら魔法生物が再び世界を恐怖のズンドコに陥れる日も近いですぞ。
さぁ、是非とも我らに御命令を下さいニャ」
?
アークって誰だ?
そして、僕がいなくなった前提で話されている?
僕は半身を起こし、身体を確かめる。
あの爆発の怪我はもう無い。
血抜き君は鞘に入っているし、ペスも付けている。
そして……
右手には見慣れぬ指輪がハマっている。
コレは一体……
多分コレが、ベリアルの指輪なのだろう。
フォーマルハウトのダンジョン最高の宝具、あの日クトゥグァに託され、僕はココに来た。
コレを付けた者は魔導の真髄を手に入れる事が……
できる?
特に変化はないが、何なんだろう?
魔法の知識も、魔力も今までと変わりない。
いやむしろ、魔力は枯渇気味だし、訳がわからない。
どう言う事だ?!
「あのさ、状況が飲み込めていないんだけど、もう少し説明してくれないかな?」
僕はそうヴァンに尋ねる。
「なんと!
まぁ、まだ目覚めたばかりで、記憶が充分に定着していないのかもしれませんニャ。
ならば、私めが説明いたしましょう。
まず、ここはアーク様が以前にお造りになられた亜空間、イスグラードの監禁箱と呼ばれております。
あらゆる魔物や魔法生物が活性化する、神威の迷宮でございます。
ここでは以前、メンデレーエフという男を依り代として、アーク様が様々な魔導の実験をされていました。
我ら魔法生物はその時に造られております。
私めもメンデレーエフの飼猫でしたが……
この様な素晴らしい力を与えて頂く事ができました。
本当に感謝しておりますニャ。
ですが、いくらアーク様が優れていましても、素体のメンデレーエフは所詮人間、やがて肉体に限界がきて、アーク様は御隠れになりました。
それ故に、我らは新たな依り代を探し、アーク様をお待ちしていたのです。
そして、クトゥグァがアーク様に相応しい人間を探し、メンデレーエフの魂から作ったアニマを渡しておりました。
ただ、クトゥグァの奴は根っからの戦闘マニアでしたからな……
かなりの間、ここには誰も来ませんでした。
なのに、ここに来たのはタダの小僧……
最初はもうダメかと落胆しましたが、なんとこの小僧は異様に疾く、強く、そして魔法の扱いにも長けている。
良く良く聞けば、あのクトゥグァにすら、一撃を喰らわしたそうではないですかニャ!
だから、私めは前座にナイアラットホテプをぶつけ、更にはハス太様と戦わせたのです!
そしたらこの小僧、なんとハス太様と相打ちで、更には生き残ってしまいました。
ですので、私めはここに小僧の身体を運び、アーク様の御本体でありますベリアルの指輪をはめたのでございますニャ。
コレで少しは思い出して頂けましたかニャ?」
いや、ほとんど僕の話だし……
ただ、ハス太との戦いの後に、ここに僕を運んだのはヴァンで、そして指輪をはめてアークとやらの依り代にしようとしたのはわかった。
「うん、なんとなくわかってきたけど、まだまだかな。
ちなみに、魔導の真髄はどうやって手に入れるのかな。
もう少し、説明してくれる?」
「ウニャニャ?
魔導の真髄とは、アーク様そのものでございますぞ?
手に入れるも何も、アーク様が記憶を取り戻されれば、全ての魔導の知識が復活するでしょう。
まぁ、時間はたっぷりありますから、少しずつ思い出していきましょう」
「いやさ、思い出すも何も、僕はアークじゃないから、何も思い出さないよ?
それに、ベルゼさん達が心配だから、そろそろ戻りたいんだけど?」
「な、何故ニャ?
冥界神の魔具である、ベリアルの指輪様の力に逆らう事など……
あり得ないニャ!
お前本当に……
人間か?」
「えっ?
だから、呪いとかそういう類は効かない体質だから、この指輪がどんなに強くても、憑依はされないよ。
まぁ、ヴァンには言ってなかったけどさ。
ちなみに、この血抜き君とかペスもなんとかのマグとか言う仲間らしいよ?」
そう言って、僕は指輪を外してヴァンに見せる。
「何!
本来なら、アーク様が憑依していれば、外れないはずなのに……
我を謀ったのかお前!
死にかけたフリをして、我にベリアルの指輪様を付けさせるとは……
悪逆な策士だニャ!
許さん、許さんぞ、って……
まさか、そのナイフはブラッドイーター様ですか?
それに、ソウルトランス様?
そ、そんな……
小僧、お前そんな強大な魔具を持っていながら……
正気なのか?
あり得ないニャ……
体質とかそんなの聞いたこともないニャ……
強いて言うなら、この作品がハーレム展開に変わるぐらいあり得ないニャ!」
えっと、最後の発言はスルーして……
「ちなみに、コレはベリアルの指輪、だっけ?
魔法の知識が入らないなら、役に立たないか……
それなら別に要らないし、返そうか?」
「う、うむ……
返すなら別にいいか……
だが、しかし……
やはり、それはならん!
せめて、次の依り代が見つかるまでは、お前に預けてやる。
それに、今は無理でも……
いや、なんでもない。
だから、コレからも我はついて行くぞ?」
「いやマジで、使えないなら要らないんだけどなぁ……
このベーやん。
ちなみに、ベリアルの指輪だと長いから、ベーやんね。
まぁ、そんな事はさておき、そろそろここから出たいんだけど、出口はどこ?」
「勝手に略すニャ!
ちゃんと敬意を表わせ、敬意を!
全く、アーク様の偉大さがわかっておらんな。
その方は、冥界神の……
いやなんでもないニャ。
とにかく、略すのは禁止ニャ、わかったな?」
「いや、逆にベーやんだけあだ名が無いとか、可哀想じゃん?
って言うか、そんな事はどうでもいいから、出口を教えてよ」
「どうでも良くないニャ!
……
……
……
お前と言い争っても仕方ないか……
出口はそこの魔法陣だけニャ。
行くぞ、ついてこい」
そう言って、ヴァンは床の魔法陣に飛び乗ると、僕にもそこに乗るように促す。
僕はベッドから降り、怪しげな魔法陣に乗ると、ヴァンは何やら呪文を唱え始める。
これって……
もし、僕1人なら……
出れなかったかもしれないな。
そんな事を考えていると、魔法陣は光りだし……
気づいたら、薄暗い森の中だった。
かろうじて太陽は見えるから、今が丁度正午か。
ちなみに、ヴァンは傍らにいるし、身体に異常はないから転送は成功したようだ。
「さて、それじゃフォーマルハウトに戻らないと。
ベルゼさん達が心配だしね。
ヴァン、ちなみに、ここは何処なのかな?」
「わからんニャ。
出口はランダムだからニャー。
まぁ、何処だろうと我には関係ないしな」
「とりあえず、近辺の魔物の気配は……
少し離れた所にゴブリンの小さな集落がある程度か。
それなら、反対側の方に行ってみよう」
そう言って、僕は歩き出すが……
ヴァンは必死に走っているけれど、所詮は小さな猫……
僕のスピードにはついてこれず、スピードを落とし、時々休憩しながら進む。
まぁ、あの場所から離れたから、魔獣としての力が減ったせいもあるのかもしれないが……
持って運べば楽なんだけど、僕が持つとヴァンが魔力を失って、死ぬからな。
正直、どうしようもないので、ヴァンのペースに合わせて進むと、人里にたどり着いたのは、3日後のことだった。
とりあえず、ヴァンには普通の猫のフリをさせ、僕は村の人に話しかける。
「すみません、ここは何処ですか?」
「ん?
ここか?
ここはスルホ村って言う、the大蒼帝国の1番外れの村だべ。
そんな事も知らんで、ここに来たんのか?
まぁ、平和だけが取り柄の村だから、色々な輩が増えて来てはいるけんど……
しかし、こげな子供が1人でこんな辺鄙な村まで来ないといかんとは……
サルファ様達、初代7死仁が生きていたら、きっと嘆かれる事じゃろうな……」
サルファ様?
7詩人?
多分、the大蒼帝国と言う国のスルホ村に来てしまったのだろう、と言う事はわかるが、正直そんな国聞いた事もなく、ここが何処だかは全くわからない。
ただなんとなく、サルファさんの名前が出たみたいな気がして、ちょっと気になる。
でも、先ずはフォーマルハウトに戻る事を考えないと……
「あのさおじさん、僕はバニッシュ王国のフォーマルハウトに行きたいんだけど、ここからだとどう行けばいいかな?」
「バニッシュ王国?
そんな国は知らんが……
フォーマルハウトっちゅうのは聞いた事があるな……
ああ、そうそう、確か聖都シアンの昔の名前だべ!
初代皇帝シアン様と7死仁が国を興した、最初の街だべさ。
この村もサルファ様が魔物から救って下さり、スルホ村の名前を与えられたんだで?
村の中心にあるサルファ様の像、あれはその時に作られた村の宝なんだぞ」
そう言って、おじさんが指差す先には……
少し老けた、もとい大人になったサルファさんみたいな像があった。
そして、その隣には……
僕によく似た、似てるような似てないような……
少し美化されている気がしなくもないような、像が置いてある。
「サルファ様って……
どんな人だったんですか?
あと、隣の子供の像は一体……」
「なんだと?
おめ、7死仁の風刃鞭のサルファ様も知らんとか?
この国でサルファ様を知らんなんて、あり得ないぞ。
それに、隣の御方は初代皇帝、シアン ハイドロ様だべさ。
って言うか、そんな事も知らんで、おめどっから来ただ?」
やはり……
風刃鞭は僕が、サルファさんに適当にあげた武器だ。
なんとなく鞭が似合う感じだったし。
そして、シアン ハイドロは多分僕の名前……
いや、ハイドロ家の家名はクロロさんに貰ったっきり、すっかり忘れていたけどさ……
って事は、今ここが何処かよりも、今はいつなのかの方が重要なのかもしれない。
「あ、ごめんなさい。
僕はアラバ村って言う辺境の村から、来ました。
冒険者見習いで、名前はアズライトです。
the大蒼帝国には最近来たばかりで……
実は良く知らないんです。
ちなみに、今はthe大蒼帝国ができてどれくらい経つんですか?」
「アラバ村?
聞いた事ねーな……
まぁ、いいべ。
今は蒼歴300年だから、the大蒼帝国が建国して丁度300年だべよ。
だから、聖都では大きなお祭りをやっているらしいべな。
まぁ、こっからじゃ馬車で半年はかかるし、ワシら庶民じゃとても行けんがな、畑仕事もあるし。
しかし、最近じゃ魔王が現れたとか言う噂もあるしのぅ、7死仁の力も衰えて、先が見えないと言っている学者とかもいるらしいぞ?
それでも、ワシらにゃ真面目にやるしか他がないしな、おめも立派な冒険者になって頑張るんじゃぞ」
そう言って、おじさんは立ち去っていった。
しかし……
300年?!
確かあの場所に居たのは数日だったのに……
外の世界では相当の年月が過ぎていたらしい。
Ura志麻田老、ある日の事、田老は1匹の鯉を助ける。
その鯉は河を登り、龍となって田老を龍魔殿に連れて行く。
そして、山海の珍味で持て成され、満足して帰る田老。
しかし、帰った村には知り合いが誰もおらず、そこは田老が龍魔殿に行ってから100年後の世界だった。
悲嘆にくれた田老は、龍に貰った7つの金玉を使い、出でよ……
なんとなくそんな昔話を思い出す。
いやまぁ田老はどうでもいいんだが、つまり僕がイスグラードの監禁箱にいる間に、最低でも300年……
多分だが、フォーマルハウトのダンジョンを出て、ヨグソトース団を倒し、近隣の町や村を支配して、建国したのだと思う。
でも建国なんて、そんなすぐにできるものじゃないし、30年はかかるだろう。
つまり、アレから330年以上って事か。
あまりにも現実離れした事態に、もうなんかどうでも良くなってきた。
まぁ元々アラバ村には帰れなかったし……
ベルゼさん達だって、いつかは袂を分かっていただろうしね。
でも……
天涯孤独が現実となった今、僕は一抹の寂しさを感じるのだった。
かつて若者だった男は、自らの人生を思い出す。
それは、充実した毎日だったのか、それとも後悔に塗れていたのだろうか?
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