第117話 閑話 滅死崩荒
奴等が再びやって来たのは、俺達が丘の上の館から敗走した2日後だった。
最初は昨日の夜にやって来て、ダンジョンの入り口を囲むように柵を設置した。
どうやら部品は準備して来たらしく、気づいたら柵で囲まれていた、そんな感じだった。
そして翌朝、柵の向こうには50人位のゴロツキ達が……
大半が弓を持っている。
遠距離から一気に囲んで殺す気か。
まぁ、こちらが穴熊を決めて、出て来なければ無駄になるだろうけど。
「おい、ガキどもいるんだろ?
ビフェニル様がお前らと話したいらしい。
誰か新たに代表を決めて、コッチに来な!」
代表?
俺かクロロの事か?
いや、それなら新しい代表では無いか。
うーん、ひょっとすると、俺とクロロは死んだと思われているのかもしれない。
ならば、今俺達が出ない方が、相手の意図が引き出せる可能性が高い。
そこで、ヨードに奴らの所に行ってもらう。
まぁ、ヨードなら雷槍アンペールの力で、一瞬ならば切り抜けれるし。
敵に力が知られていないだろうから、適任だろう。
「僕はヨード。
話ってなんだ?
僕達に降伏するって言うなら、それは聞けない相談だよ。
ベルゼとクロロの仇、討たせてもらうよ!」
「まぁ待て。
俺様の名前は、ビフェニルだ。
巷では破軍策師とか言われているが、ただのまとめ役みたいなもんだ。
お前らさ、今は仲間が、リーダーが殺されて気が立っていると思うが、冷静になれよ。
子供が数人で、俺達の組織に勝てると思うのか?
確かに魔剣の力で破槌のベンゾピレンや、斬り裂きジャクアルカリを倒したかもしれないが、数の力には勝てないって思い知っただろ?
所詮は1人の力なんて、その程度でしかない。
だから、冷静に考えてみろよ。
俺達全員を相手にして、勝てると思うか?
無理な事はやめておけ、生きている方が価値があるんだぜ。
もしも、冷静に戦いを止めたいならばさ、俺様がお前らを逃してやってもいいんだぜ?
どうだい?」
「それは……
僕だけでは決められない。
ただ条件は聞きたい、要求は何だ?」
「話が早くて助かるね。
まぁ、一度戻って話し合ってもいいが、こちらの要求はシンプルだぜ。
このダンジョンの放棄と、魔法武器を全て渡す事。
それだけでいい、約束を守れば、全員生きて帰れるんだぜ?
なんなら、路銀くらいはくれてやるしよ。
これ以上無駄な戦いをしなくてもいい。
本当なら全員処刑するのが決まりなんだけどよ、こちらの被害もかなりあるからな……
まぁ、そっちもリーダーが死んで、態勢が整ってないだろ?
悪い条件じゃないよな。
まぁ、ゆっくり考えなって言いたいところだが、団長がそろそろ帰ってくるからな……
その前には、カタをつけたい。
今日の夕方まで待つからよ、それまでには返答を寄越しな。
もちろん、Yes以外の選択肢は無いがな」
やはり、奴らは俺が死んだと思っている。
そして、ダンジョンに立て込まれるのを警戒している。
そして、シアンさんから貰った俺達の武器も、奪おうと狙っている。
ちなみに、このまま武器を差し出して降伏しても、絶対に殺されるだろう。
ならば、敵の1番嫌がる事をするか?
いや、違うな……
チャンスは今しかない。
俺は石を2個投げ、ヨードに合図を送る。
「じゃあ、1度戻ってみんなと話し合ってくるよ」
そう言って、ヨードは一旦こちらを振り向き、雷槍に力を込め……
即座に反転して、雷槍の能力で紫電の如き速さで突撃する。
敵は、あまりにもの速さに、反応できない。
そして、ヨードは敵の中心で魔力を全開にして雷を撒き散らし、辺り全ての敵を感電させる。
迅雷招雷、ヨードの必殺技だ。
あまりにもの威力に、雷槍の力で耐性があるヨードですらも、感電して動けなくなる、一撃必殺の奥義だ。
その紫電が消えた瞬間に、俺は皆に号令をかける。
「今だ!
突撃、突っ込め!」
入り口の陰に隠れていた俺達は、一斉に飛び出し、感電しているゴロツキ共の首を刎ねていく。
中には僅かに抵抗したものもいたが……
ただですら弱い相手が、感電で動きが鈍っていれば、もはや木像と変わらない。
ザクリザクリと死んでいく……
気がつけば、辺り一面は血の池地獄に……
生き残ったのは、俺達とビフェニルのみ。
コイツには色々と聞く事がある。
だから、生かして捕らえる様に指示をしておいたのだ。
ビフェニルに目隠しして、縛り上げ、ダンジョンの中に連れて行く。
だが、扉の前まで連れてくると、それ以上は運ぶ事ができなかった。
何故かはわからないが、このダンジョンの中に入るには、何らかの条件を満たす必要があるのかもしれない……
暫くすると、ビフェニルが感電から解け、目を覚ます。
「オイ!
俺様にこんな事して、どうなるかわかっているんだろうな?
さっさと解放しやがれ!」
「ふーん、どうなるのかな?
って言うかさ、アンタには色々と聞かせて貰うために
、殺さなかったんだよ?
だからさ、コチラの質問に答えてくれるかな」
俺は、極めて優しく、ビフェニルに問いかける。
「ふんっ、俺様がそんな事喋るわけないだろ!
何も話さんぞ。
殺すならさっさと殺せ!」
そう喚きたてるビフェニルに、俺は肉を口に無理矢理突っ込み喰わせる。
さっきブロモが取ってきた、新鮮な肉だ。
「ウゲ、何だこの不味い肉は!
硬くて臭くて……
まさか……」
「そう、そのまさかだよ。
今喰ったのは、ゴブリンもどきの肉……
僕達は、それを食べて、死にかけた。
食べ物が無くて、辛くてね。
そして、それが原因で死んだ仲間もいた。
その1人が、僕の弟、フルオロだよ。
魔物の不味い肉はさ、身体を魔素で汚染していく。
これからゆっくりと、お前の身体を蝕んでね。
僕達の気持ちも少しはわかったかい?」
そう言って、クロロが語りかけると、ビフェニルはさっき食べた肉を、ゲーゲーと吐き出してしまう。
「ダメじゃん、吐いたら。
俺は魔物の肉なんて食べた事がないけどさ、ちゃんと食べるまで、食べさせ続けるぜ?」
「頼む!
なんでも話すから、魔物の肉だけはやめてくれ!
お願いだ……
魔素に侵されて死ぬのだけは……
嫌だ!」
そう言って、ビフェニルは気持ちが折れ、色々な事を聞き出せた。
残りの構成員の事、資金の隠し場所、キレートの隠れ家や、ヨグソトース団長があと2日で戻る事も。
それと、ダンジョンの秘密も……
どうやらこのダンジョンは、20歳を超えると入れなくなるらしい。
そのため、20歳以下の冒険者を集めて、魔物を狩らせるというシステムを作ったらしい。
「もう全部話したんだ!
だから、解放してくれよ……」
ビフェニルは、泣きながら懇願する。
だが、そんなんで許すはずがないだろう?
そう思いながら俺は言う。
「あのさ、アンタ逆の立場だったら、助けるわけ?
ヨードに取り引きを持ちかけてたけどさ、あれだって嘘だろ。
それに、散々好き放題して、甘い汁を吸って来たのにさ、助かるとか思っているんじゃねーよ。
みんな、お前達のせいで死にかけた。
確かに俺達も馬鹿だったさ、甘い言葉に誘われたしな。
シアンさんに助けられなかったら、実際死んでいたしな。
まぁ、シアンさんに出会えたって意味では、感謝してやってもいいが……
ここから先は、俺達の味わった地獄を味あわせてやるよ」
それからは、気の向くままに拷問を続ける。
魔物の血を飲ませたり、皮を剥いだり、蹴ったり、殴ったりをビフェニルが死ぬまで続けた。
まぁ、途中で気が狂って、最期は何も話せなくなり、衰弱して死んだけど……
その夜に、サルファとニトロはキレートの隠れ家を急襲して撃破、ブロモとアスタチンは隠し資金を強奪に、俺とクロロは残党を狩り尽くした。
残るは団長のヨグソトースのみ!
それから1日置いて、その日はやってきた。
見張りの町民からの連絡があり、ヨグソトースが馬車でコチラに向かってくるのを確認する。
既に街の人達は、ヨグソトース団の大半を討伐した僕達に服従を誓っている。
まぁ、仮初めの忠誠だろうが、長い支配で力のある者に、盲目的に従う事が身に染みているから仕方ない。
それはともかく、決戦の場所は……
このダンジョンの入り口。
小雨の降る、薄暗い日だった。
ヨグソトースは、ダンジョンの入り口に来ると、馬車を止める。
そして、周りを見渡して剣を抜く。
「オイ!
そこに隠れている奴ら、居るのはわかっているんだぜ?
さっさと出てきな!」
ヨグソトースは、俺達に気づいたらしい。
腐っても、アレだけのゴロツキをまとめた団長か……
かつては、腕利きの冒険者だったという噂もあるし、今の立ち振る舞いを見るだけでも、かなり強い事がわかる。
それでも、コイツはみんなの敵で、超えなければならない壁。
俺達はヨグソトースを囲む様に、全員で出て行く。
「なんだ……
お前らか?
あの異常なガキかと思ったが、いないのか?
しかし、お前ら死にかけのガキだったのに、粋がってやがるな。
俺の部下はどうした?」
「お前の部下なら、もう居ないよ?
みんな冥府でお前を待っているぜ。
後は、お前だけだ、観念しろ!」
「ふっ、俺の部下を倒したか。
だが、アイツらと俺を同じに考えるなよ?
俺の我鰤絵留は閃光の魔剣だぜ。
太刀筋すら見えずに死んでいくがいい!
なんなら全員でかかってきな」
「みんな、悪いがコイツは、俺がやる。
なんか、俺の刀、死狂裂がこの刀とやり合いたいらしい、そんな気がする。
多分、奴の我鰤絵留は光の力だから……
相反する闇の呪刀の血が騒ぐんじゃないかと思う。
だから、手出しは無用だからな?」
そう言って、俺は愛刀の死狂裂を抜き、構えヨグソトースと対峙する。
ヨグソトースの構えには、隙がない。
流石、この街を支配するだけの事はある。
それに、かなりの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。
今までの奴らとは、眼光が違う。
「へー、この俺に1人で来るのか……
俺も舐められたもんだな、あの異様なガキなら別だが、お前如きに1人で来られるとか、俺ももう歳か?
まぁいい、それなら肩慣らしさせて貰うぜ!」
そう言って、ヨグソトースは僕に襲いかかってくる。
速い!
光る刀身が、まるで閃光の様に飛んでくる。
いや、閃光の様に見える、ってところか?
普通なら、剣先が見えず、受ける事も出来ないだろう。
だが、こちらは闇属性の刀だ、だからある程度光を吸収し、見える!
とはいえ、技量的には受けるだけで手一杯……
「へー、俺の攻撃を受けるとはな……
なかなかやるじゃねーか。
ならば、この攻撃はどうだ?」
ヨグソトースはそう言って、半歩下がり力をため、横薙ぎを放つ!
光の筋が……
こちらまで伸びてくる。
一瞬、斬られたかの様な錯覚に陥るが、実際は斬られていない。
闇纏い……
あの日、2度目に死にかけたあの日に、この呪刀を通じて得た闇魔法の1つ。
闇の力を纏い、様々な攻撃を吸収する防御術だ。
ただし、闇の眷属である魔物の攻撃は防げない。
冒険者としては全く意味の無い術だ……
しかし、対人戦ではそうでもない、人相手ならかなりの攻撃を防げる。
特に、相手が光の力なら効果は絶大だ。
全く斬られていない。
「オイ、なんで……
なんで俺の光臨剣が効かないんだ?」
ヨグソトースは先程の攻撃が効かなかった事に、驚いている。
まぁ、俺も効くかどうか、本当のところは半信半疑だったので少し驚いているが……
でも、初めてできたヨグソトースの隙、見逃すわけにはいかない!
俺は、確実に斬れる位置まで踏み込み、渾身の上段斬りを繰り出す。
ヨグソトースは、一拍遅れるが即座に反応し、防御する。
その防御は、こちらの攻撃を完全に受け止められる形になっている。
そして、受けきれば即座に反撃する、そんな形だ。
しかし……
ヨグソトースの剣、我鰤絵留はカキンと言う音を立てて折れ、ヨグソトースは真っ二つの肉塊へと化した……
大量の血を流しながら、タダの屍となるヨグソトースを見て、なんだこんなものか、そんな風に俺は思ってしまう。
もちろん、技量や経験では圧倒的に負けていた。
力や魔力は同程度、普通なら勝てる相手ではなかった。
でも、武器の性能は圧倒的に勝っていた。
相手は普通の魔剣、いや魔剣は普通じゃないけどさ。
対してこちらは、良化された呪刀、シアンさんから貰った特別製だ。
ただ、それは見た目ではわからない。
だから、ヨグソトースは慢心したのだろう。
剣ではなく、俺を見ていただけだったから……
一方で、俺の経験した死ぬほどの努力は、その程度しかない事も再認識させられる。
それでも、俺達のダンジョン攻略は、コイツを倒した事で終わりを告げた。
後は……
次の目標に向かって、やるしか無い。
そう心に言い聞かせるのだった。
少年は、目を覚ます。
そして、長きに渡るダンジョン攻略を終えるのだった。
次回 第118話 覚醒




