第116話 予感
ヴァンをペットにしたあと、僕達が遭遇した相手は……
テプーさんと名乗る魔人だった。
まぁ、魔人といっても、見た目はただの人間。
貫頭衣の様な、シンプルな衣を纏い、白髪で目の色はブラウン、肌は普通に肌色で魔人と言われなければ、その身に纏う魔力が見えなければ、普通の若者にしか見えない。
しかし、魔力が見えてしまえば、その異常さがよくわかる。
恐らく、筋力はアイルロポダ以上、ミノギガンティア程ではないが攻撃力は高い。
防御力も、鋼鉄の鎧以上、アルマ痔牢程ではないが普通の剣では斬れないだろう。
素早さはガルフ以上、絶倫マン程ではないが相当の速さがありそうだ。
そして、ゴブリガ程ではないがそこそこの再生能力があり、ヴァン程ではないが魔力も高い。
つまり……
ここの魔法生物から見れば平凡かもしれないが、僕から見れば欠点が無く、かなり強い。
「まあまあ、僕なんてただの雑魚モンスターみたいなものだから、軽くちゃちゃと相手すれば良いんだよ。
ちなみに、ここまで来た勇者様の名前はなんて言うんだい?」
「僕は勇者なんかじゃないよ。
名前はシアン、偽名だけどね。
ただの冒険者見習いだよ。
それと、テプーさんは何かに特化していないだけで、かなり強いと思うよ。
特に僕にとっては相性が悪いみたいだしね……
だから、本気で行くよ!」
そう言って、僕は身体強化魔法をかける。
それに対し、テプーさんも身体強化魔法をかけている。
やはり……
アイルロポダがそうだった様に、それにキラーマンティスや魔翁蟲も多分、強い魔物は身体強化魔法が使える事がある。
テプーさんも同じ部類、いやそれ以上か。
最初の嫌な予感は、これが原因だろう。
元々強い相手が身体強化すれば、相当の強さになる。
「ならば、僕も本気で相手してもらうよ。
出でよ魔刀 殺助、この刀は全ての敵を斬るまで止まらないナリヨ!」
テプーさんはそう言って、どこからか刀を取り出す。
空間魔法まで使えるのか?!
その刀は、異様な魔力で呪われており、刀身には"忌天劣 害臣"と書かれている。
なんだろう……
とても禍々しい感じがして、若干吐き気を催す。
僕も血抜き君を抜き払い、一気に間合いを詰める!
だが、タイミングがズラされ、逆に斬り返されて血抜き君とペスで受け止めるも、その後に前蹴りを喰らい……
辛うじて、腹に硬化魔法をかけて防いだが、地面をズズっと擦りながら後退させられる。
やっぱり強いな……
多分、スピードは互角か、僕の方が僅かに優っている、かなりの僅差だけど……
一方で、パワーは圧倒的にテプーさんの方が強い。
それに、技量も高く、正確な攻防が繰り出されてくる。
そして、魔力も体力も充分あり、再生能力まである。
だから、持久戦に持ち込まれたら、僕は負ける。
短期決戦しかないのだが……
そうすると、身体強化をもう1段階上げるしかないが、これには欠点もある。
ネックはヴァンの存在だ……
今の僕では、身体強化をもう1段階上げると、魔法が切れた時に動けなくなるという問題がある。
そうなるとヴァンは僕を襲うだろう。
だから、その前に僕はヴァンを殺さなければならない……
でも、あんまり殺したくないんだよな……
猫だし。
ちなみに、武器の斬れ味は血抜き君の方が上みたいで、テプーさんの刀は打ち合った時に刃毀れしていたが、再生能力のある魔刀で直ぐに復活していた。
だから、武器破壊は難しそうだ……
うーん、打つ手がないなぁ……
どうすれば……
「流石、ここまで来た勇者だね。
でも、僕くらいは簡単に倒さないと、この先は生きられないよ?
次はハス太様だからねぇ。
そんなんじゃ、迫り来る暴虐には耐えられないよ」
「だから、勇者じゃないって。
まぁでも、久しぶりの強敵だよ、テプーさんは。
コイツには勝てないかもって……
本気で思ったのは、師父と師母以来かな。
といっても、師父や師母はもっと絶望的に強かったけどね。
だからといって、戦わない訳にはいかないし、なんかさ、なんかが掴めそうなんだよね。
それがなんなのかはわからないけど……
それを見つけるために、行くよ!」
そう言って、僕は再びテプーさんに迫る。
そして、僕の斬撃はテプーさんに避けられ、魔刀で袈裟斬りにされた気が……
一瞬そんな気がした。
実際は一歩踏み出しただけだったが、さっきのは……
予感?
それにしてはハッキリとしていた。
ひょっとすると、予知なのだろうか?
そうなら、テプーさんの攻撃が、右からの袈裟斬りとわかっているならば……
いや、ただの予感だけど、でも他に方法はない。
ならば、やるしかない!
僕はテプーさんに、ワザと見え見えの緩い斬撃を放ち、避けさせ、袈裟斬りを肩からマトモに受ける。
そして、肺まで切らせ、心臓の手前で身体を硬化させ、刀から魔力を奪い取る!
やはり、再生能力のある魔刀ならば、魔力が張り巡らせてあり、僕ならその魔力を奪う事ができる。
骨を斬らせて、魔刀を断つ。
魔刀は魔力を奪われて、ただの刀になった。
とはいえ、魔刀の切っ先は肺を斬り裂いているので、肺の中に血が大量に入り込む……
それなら、この血を使ってやる!
僕は、魔力過多で吐いたあの時みたいに、酸のブレスを想像する。
そして、肺の血液を喀血してテプーさんにおもいっきり吹き付ける。
テプーさんは、至近距離で強酸性で魔力のこもった血のブレスを喰らい、顔中に火傷して、地面に転がる。
「痛い!
痛い!
痛い!
痛い!
なんだコレ、再生が阻害される!
なんだよ一体、おまえ本当に人間か?
暗黒邪龍の生まれ変わりとかじゃないだろうな?
痛い、顔が……
溶けていく……
クソッ!
こんなの反則だろ??
流石勇者……
痛い……
ダメだ……
やっぱり僕には勝てない……
死のう」
そう言って、テプーさんは自らの身体に手を突き刺し……
魔石を取り出して……
自殺??
いや違う、魔石を暴走させての自爆?
咄嗟に僕は、ヴァンを盾にして……
凄まじい閃光と、爆音が鳴り響く。
だか、ヴァンの魔法障壁を破れる程の威力ではなく、僕は無傷だった。
まあ、さっきの刀傷も治ってきたから、いろんな意味で無傷だ。
しかし、さっきの爆発も……
なんとなく自爆するのがわかった気がする……
予知能力に目覚めたとか?
いや、それなら戦闘全般で、相手の動きが読めるはず。
何か条件があるのかもしれない。
さっき斬られた時と、爆発の時……
どちらも、致死的なダメージを喰らう可能性があった。
という事は……
死ぬ時だけ、予知している?
あや、むしろ死んだ瞬間に、記憶だけ過去に戻ったみたいな、そんな気がする……
つまり、実際は一回死んでいて、その記憶を先取りしているか、過去に記憶が転移している。
どちらにせよ、死を回避できるという点で有利だし、色々な対策が取れるから、今後もこの感覚を大事にした方がいいだろう。
しかし、テプーさんには多分、この感覚が当たっていなければ、勝てなかった。
いや、実際は勝ったかどうかも微妙か?
テプーさんが勝手に自爆しただけだしね。
賭けに勝ったって意味では間違いないが、戦いとしては負けた。
こうなると、この先もかなり苦労するのかもしれない。
次はハス太って言う、暴虐らしいし……
「あのさ、ヴァン。
次のハス太って、どんな感じなの?」
「ハス太様と言え、様をつけろ!
お主の様な小僧では、ご尊顔を拝する事すら、本来は許されないお方だぞ!
その力はまさに台風の如き暴虐。
見るもの全てを切り裂き、一切の躊躇はない。
そして、全ての魔法や防御を貫く毒手は、狙った獲物を必ず殺す。
例外はないぞ?
最恐にして、最狂……
それがハス太様だ。
だから、悪い事は言わん、やめておけ」
「いや、ここを戻ってもさ……
出口って無いよね?
それとも、他に行き場ってあるの?」
「それは……
無いな。
だが、死ぬよりはマシじゃないのか、普通の人間は。
死なないで生き残る道を選ぶ、我はそう聞いているが?」
「んー、どちらかと言うとさ、僕は死に場所を探している、みたいな?
今ここで死ぬよりも、何もしないでゆっくりと死んで行く方が怖い。
そんな感じ?
まぁ今は、そんな簡単には死ねないんだけどね。
だから、行くだけ行ってみるよ。
ヴァンは怖いなら、ここで待っていてよ」
「ならば、勝手にするがいい。
我はここで待っているからな。
勝手に行って、勝手に死ねばいいさ」
そんなヴァンの言葉を後に、僕は先へと進む。
そして、そこに居たのは……
クラゲ……
頭から白濁液を吐き出し、ウネウネと揺らめく触手を持った、クラゲの様な魔人……
「AIAiaHHHHH!
IAIAIAHHHHHHHHHHH!」
クラゲ魔人は僕を見ると、凡そ言葉とは判別できない、謎の叫び声をあげて襲ってきた!
コイツは、今までの敵の様に、言葉は通じない。
僕は、即座に身体強化魔法をかけるが……
速い!
そして強い!
どのルートを選んでも、僕は突き刺されて死ぬ……
何度も何度も、突き刺され死ぬビジョンが見える。
このままでは、絶対に勝てない!
ちなみに、第1段階の身体強化魔法は、各部位を活性化し、動きを強化、加速する。
普通に強化する、そんな感じだ。
だが、第2段階は、概念として強化する。
イメージを具現化する、魔法というのに相応しい強化方法だ。
つまり、イメージ通りの強さを、魔法で無理矢理実現するのだが、そんな事をすれば、身体への負担は限りなく大きい。
だから、いくら再生能力がある僕でも、使えば当分は動けなくなる。
しかし、四の五の言ってる場合じゃない。
アイツが相手なら、生き返ってもすぐに殺される。
多分、無限に死ぬまで殺される。
ならば、やるしか無い!
第2段階発動!
コレを発動すると、視覚は役に立たないから、目をつぶって突っ込んで行く。
そして、鋭敏な魔力感知だけで触手を避け、血抜き君で斬り払う。
時にはペスで受け、弾く。
全ての触手を斬り落とし、本体に触れたら、思いっきり、ハス太の中の魔力を暴走させる。
ここまでの間ですら、ほぼ一瞬だが、これ以上は保たないから一瞬で勝負を決める必要があった。
そして、魔力が暴走したハス太は……
当然の如く暴発して、さっきのテプーさんの爆発とは比べ物にならないくらいの威力で、轟音を立てて爆発するのだった。
辛うじて、魔力を吸収しながら防御して、衝撃を和らいだものの、全身の痛みと激しく打ちつけたショックで、意識を失うのだった……
「ふむ、この小僧がここまで来るとは……
まぁ、身体は小さいが、あの方の依り代となるべき存在としては十分か。
ふふふ、コレでやっと我らが悲願が……」
薄れ行く意識の中、僕はヴァンがそう言うのを聞いた気がした。
何とか生き残った若者達は、逆襲へと向かう。
全ては、1つの目的のために……
次回 第117話 閑話 滅死崩荒




