第113話 閑話 油断
破槌のベンゾピレンを倒し、ヨグソトース団の事務所を制圧した俺達は、今後の方針を話し合った。
「幹部と言っても、大した事は無かったな。
まぁ、武器の差が圧倒的過ぎたのが勝因ではあるけど……
この先も、楽勝かもな?」
そんな俺の問いかけに、クロロが答える。
「後は……
閃光のヨグソトースが団長で、斬り裂きジャクアルカリ、破軍策士ビフェニル、魔壊師キレートだったか?
団長のヨグソトースは、あの御者のオジさんだよね。
あの人は、多分相当強いよ。
一回だけ、ゴブリンと戦うところを見たけど、一閃で3匹を殺していた。
だから、1対1だとベルゼでもキツイかもしれない。
シアンさんなら余裕だと思うけど。
後は、斬り裂きジャクアルカリは、名前を聞いた事があるかもしれない。
確か、どこかの街で、衛兵を30人斬ったと言う男だったと思う。
ビフェニルとキレートは、未知数だけど……
魔壊師って職業は聞いたこともないから、わからないよ?」
「そう言えば、魔壊村って村があると言う噂は聞いたことがある。
槍とか斧とか、あと十字架を投げて魔物を倒す人達がいるとかなんとか……
かつては魔王すら倒す一族だったけど、村がゴブリンの一団に襲われて滅んだって話だった様な……
キレートはその村の生き残りなのかもしれない。
まぁ、あくまで推測だけど」
「ビフェニルって、かつて王都の将棋大会で、無敗を誇った天才、ビフェニルの事かな?
確か、あまりにも将棋が強すぎて……
最後はゴロツキを集めて、スラムで人を使った戦略ゲームをしていた罪で捕まった、そんな噂話を聞いた事がある。
確か、死刑になったって話だったけど……」
魔壊師についてはサルファが、ビフェニルについてはブロモが補足してくれる。
「それだけの人物が揃っているなんて……
ヨグソトースって何者なんだ?
本当に、ダンジョンを仕切っているだけのチンピラ集団なのか?
まぁ、考えても仕方ないか。
それより、次は丘の上の本拠地へ向かおう。
さっき逃げた奴らから、連絡がいっているかもしれないから、敵が待ち構えているかもだけど、俺達ならやれるはず。
腹ごしらえをしたら、行くぞ!」
こうして、俺達は事務所に残っていた食料で腹を満たし、丘の上の本拠地へと向かう。
まだ朝だからか、街路にいる人は少ない……
いや、さっきまでの方が人が多かったから、退避しているのかもしれない。
伏兵に注意しながら、俺達は慎重に進んでいく。
しかし、拍子抜けするくらいに、敵が出てこない……
俺達に恐れをなしている?
それとも、無駄な犠牲を出さないように退避しているのか。
だけど、あの荒くれ者達がそんな事をするか?
そう思いつつも、皆どこか僅かに緊張感が抜けていた……
そして、丘の上の本拠地に着くと、そこには……
林に囲まれた煉瓦造りの大きな建物、広い広場があり、建物の前には1人だけが立っていた。
男は、俺達を見ると、嬉しそうに話しかけてきた。
「よー、遅かったなぁ?
途中で寄り道でもしてたのか。
いかんなぁ、道草は喰うものじゃないぜ。
喰うなら刃物にしようぜー、俺がじっくりねっとり喰わせてやるぜ?
俺の名はヒト殺しのジャク、人は斬り裂きジャクアルカリとか呼ぶけどよ〜。
俺は斬り裂き魔なんかじゃねーんだよ。
ヒト殺しなだけ、みたいな?
俺は肉が裂けるのが好き。
俺は悲鳴をあげて、血みどろなのが好き。
とにかく、殺らせろ!」
「あのさ、なんでお前1人なんだ。
他の奴らはどうした?
逃げたのか?」
「あ?
他の奴なんて居ねーぜ。
ビフェニルの奴が、俺1人でやっていいって言ってたからよ。
それに、他の奴らなんて、俺の蛇骨鞭の間合いに居たら邪魔だしよ。
それよりも、早くやろうぜ。
早く俺に殺されてくれよん」
そう言って、男は背中から金属製の鞭を取り出す。
長い……
俺達の身長の5倍はあるのではないかというその鞭を、男は軽々と振り回す。
「アイツは僕がやるよ。
同じ鞭使いだし、ベルゼ達じゃちょっと相性が悪いかもしれないしね。
さあ、僕が相手してやるから、かかってきな?」
そう言って、サルファは風刃鞭を取り出し、構える。
「ハン?
そんな短い鞭で俺の蛇骨鞭を倒すだと?
チンケでチン○で矮小な、そんな鞭でかよ。
笑わせるぜ、はっはっは。
なめるなよ小僧!
あっ、でもお前が死んだら、俺が死体をペロペロしてやんぜ?」
「おい、お前今さっき、この鞭を侮辱したのか?
許さんぞ、このビチグソ野郎!
僕の事ならいくら侮辱されても構わないが、この鞭は、シアンさんから貰ったこの鞭だけは、悪く言う奴は許さない!
例えテメーが伝説の斬り裂き魔だろうと、絶対にブチ殺す。
冥府でケルベロスのナニを咥えさせてやるぞ!」
「イイねぇ、粋がっちゃってさ。
むしろ、逝っちゃったのかい?
それじゃ行くぜ!
俺の奥義、斬り斬り舞を喰らいな!」
そう言うと、ジャクアルカリは鞭を蛇のようにしならせ、舞踊る様に縦横無尽の攻撃を繰り出してくる。
しかも、鞭の各所に刃が仕込まれており、触れたものを斬り裂く、狂気の舞……
確かに、これでは周りに仲間は置けない。
強い、これでは絶対に近づけない……
しかし、サルファの風刃鞭だって、シアンさんから貰った特別製だ。
負けるわけがない。
サルファは、敢えて荒れ狂う鞭の波の中に飛び込み、斬り刻まれて肉塊に……
なるわけもなく、的確に風刃鞭でジャクアルカリの蛇骨鞭を打ち返し、ゆっくりと前に進んでいる。
しかも、サルファは風刃鞭の風刃を出していない。
「クロロ、あのさ……
サルファってあんなキレキャラだったっけ?
俺はサルファが怒るの自体、初めてみたんだけどさ……」
「サルファはさ、結構熱いよ。
でも、僕達の前ではかなり遠慮しているからね。
彼は、ボロンと良くパーティーを組んでいたし。
だから、色々と負い目があるみたいだからね。
ちなみに、シアンさんにも1度質問していたよ、僕はボロンと仲間だったのに、こんな凄い武器を与えてくれても良いのか?
ってね。
それに対して、シアンさんは何て言ったと思う?
『サルファはサナを襲うのに加担したの?
加担していないなら、別にいいよ。
それに、その武器程度で僕は殺せないし。
裏切りたいなら自由にしても良いんだよ?
サルファさんの好きにして良いんだからね』
ってさ。
シアンさんらしいよね。
でもさ、サルファは泣いてお礼を言っていたよ。
サルファは結構、貧乏な家で育ったみたいでさ、元の武器を手に入れるのに大分苦労したんだって。
だから、伝説級の魔法武器なんて夢のまた夢だったみたいでさ、命よりも大事ですって。
まぁ、それもシアンさんに、
『ただの武器だから、命の方を大事にしてね、あっ、1回殺した僕が言っても説得力ないか……』
って言われていたけど。
そんな感じでさ、サルファにとってはとても大切な武器なんだろうね。
もちろん、僕やベルゼにとっても、シアンさんから貰った武器は特別だろ?」
「もちろんだよ、クロロ。
まぁ、確かにシアンさんなら、要らなかったら捨てていいよとか言いそうだけど、俺達にとっては身に余る凄い武器だからな。
ちなみに、そろそろ勝負はつきそうだな」
サルファは、あの蛇骨鞭の攻撃を全て弾き返し、ジャクアルカリの手前に辿り着く。
そして、ジャクアルカリを滅多打ちにする。
「ビチグソが!
ビチグソが!
ビチグソが!
楽には死なさんぞ!」
サルファは、ジャクアルカリの皮膚を剥がしながら、何度も打ち据える。
恐らくその痛みは相当のもの……
うん、今後サルファは怒らせないように注意しよう。
そして、最後には風刃の一撃で、ジャクアルカリを粉砕し、血と肉片が舞い散る……
こうして俺達は2人目の幹部を倒した。
「しかし、なんか幹部って言っても大した事は無いな……
このまま、余裕でいけるんじゃないか?」
俺は油断して、そう呟いてしまう。
だが、そんな甘いわけもなく、何かを感じたクロロが叫ぶ。
「後ろから、何か飛んでくる!」
それは、槍や斧、ナイフに……
巨大な十字架だった。
全員で後ろを振り返って、なんとか撃ち落とす。
しかし、林の中のどこから飛んで来るかがわからない!
相手は位置を変え、色々な方向から、姿を見せずに投擲武器で襲ってくる。
林に向かうか?
いや、俺達が退がれば、館の中の奴らが大挙して背後から襲ってくるだろう。
それは少しマズイ。
しかしだ、このままでは誰かが怪我をするかもしれない。
「一旦、館に退避する!
中には沢山いるかもしれないが、血路を開くぞ!」
そう言って、俺は皆を退がらせようとした。
館の中なら、投擲武器は使えないし、広い場所よりも俺達には有利だし。
しかし……
それが一番の失策だった。
俺達が館の前に辿り着くと、窓が一斉に開き、矢が放たれた!
咄嗟に、ブロモがファイアブランドで大半を焼き払ったおかげで、致命傷には至らなかったが、俺を含め数人が矢を喰らってしまう……
そこからは、館からの敗走しかなかった。
もちろん、敵も俺達をやすやすと逃す気はなく、例の謎の投擲攻撃が執拗に続く。
更には街には無数のゴロツキ共が配置され、俺達は分断されてしまう。
そして、ダンジョンに辿り着いた時には、クロロと俺の2人だけになっていた。
しかも、矢傷や斬り傷を受け、全力で走ってスタミナも消耗している中、俺達は20人程のゴロツキに囲まれてしまったのだった……
相変わらず変な敵ばかり……
少年は、少しうんざりしながらも先へと進む。
しかし、その先に待ち受けていたのは……
第114話 平凡




