表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/145

第109話 閑話 1人のために

俺達が朝起きると、シアンさんはいなかった。

一体何処に……


俺の名前はベルゼ。

元旅商人の父と、剣士の母の間に生まれた、双子の兄だ。

弟の名前はベルベ。

ベルベは小さい頃から共に冒険者を目指したライバル、と言っても弟は10歳の時に聖魔法に目覚め、身体強化魔法や回復魔法を使える魔法剣士に。

俺も兄として、弟には負けない様にと頑張ったが……

やはり、聖魔法がある弟には勝てず、いつしかダメな方と言われるようになってしまった。

だから、俺は中級の冒険者養成所を卒業すると同時に、弟とは違う道に行く事にした。

まぁ、進むべき方向は間違っていたわけだけど、そこでシアンさんに出会った。

シアンさんを最初見た時は、ただの子供にしか見えなかったが、実際は違っていた。

なんか、この辺りの記憶は曖昧ではあるが、一度力比べをした時に、途轍もない力を秘めている事を感じた。

この人には……

絶対勝てないと。

そして、なんやかんやあって、俺はシアンさんに助けられ、刀を与えられて、鍛えてもらう事ができた。

おかげで、今はかなりの強さにはなっているのではないかと思う。

多分、弟のベルベにも負けはしないだろう。

おそらく、弟は今頃、上級の冒険者養成所で剣と魔法の腕を磨いているのだろうが、実戦における恐怖や魔物との戦い方までは教わっていない。

それに、シアンさんの様な苛酷な筋トレはしていないだろうから、例え弟が身体強化魔法を使ったとしても、力やスピードで互角か、それなりに良い勝負になる可能性が高い。

正直、あの短期間でよくここまで鍛えられたと、俺自身も驚いているくらいだし。

それに、今はこの刀がある。

この斬れ味なら、普通の剣や盾くらい余裕で斬り裂く事ができる。

つまり、俺の目的はこのダンジョンで果たされた事になる。

もちろん、俺自身の力ではなく、全てシアンさんに与えて貰ったものなんだけど……

だから、俺はシアンさんに忠誠を誓い、今後の人生全てを捧げるつもりだった。

多分、クロロやヨード達も同じ気持ちなんじゃ無いかと思う。


しかし、そのシアンさんが、いない……

朝起きたらいないし、暫く待っていても帰ってこない。

あのシアンさんに限って、魔物にやられたとかは考えにくいしな……

でも、今の俺達にとって、シアンさんがいない事はかなりの不安を掻き立てる。


「なぁクロロ、寝る前にシアンさんは何か言っていなかったか?」


「すまないベルゼ、僕も何も聞いてなくて……

だけど、シアンさんってたまに1人でフラッと居なくなる事があるしさ……

大丈夫じゃないかな?

それより、シアンさんがいない時にどうするか……

だよ。

このまま待つのか、自主トレか、魔物退治に行くか。

僕達で勝手に決めてもいいのかがわからない。

ベルゼはどう思う?」


「俺は……

シアンさんを探しつつ、魔物退治だと思う。

ただ、1人か2人は残って、自主トレかな。

誰か残っていないと、その間にシアンさんが帰ってきたら困るかもしれないしな。

ブロモとニトロは残ってくれ。

サルファとアスタチン、ヨードは第5階層までを捜索して欲しい。

俺とクロロは第6階層から調べて見るから。

それじゃ行くぜ!」


こうして、俺達はダンジョンを魔物を倒しながら、隈なく探した。

第6、第7、第8、第9階層とシアンさんはいない。

そして、第10階層。

真ゴブリンスピリッツは……

いなかった。

つまり、シアンさんはこの先に行った可能性が高い。

俺達は、隠し部屋に入り、中を見ると……

誰もいなかった。

つまり、シアンさんは1人でこの先に向かった。

そう言う事なんだろう。


「俺達は……

置いて行かれた。

そう言う事なのかな、クロロ」


「そうかもしれないけど……

シアンさんの事だし、何か考えがあるのかもよ?

それに、僕達に言えない理由があるのかもしれないし……

確か、この先の敵はかなり強いって言ってたから、あとアニマが必要とかなんとか言っていた気がする」


「アニマってアレだろ?

物凄く強い魔法生物、シアンさんでもマトモに戦ったら勝てなかったと言う、クトゥグァだっけ。

そんな強い魔物を倒さないと、手に入らない物が必要って事か……

確かに、1人しか入れない可能性もあるけど……」


「やっぱりシアンさんには何か考えか、理由があるんだと僕は思うよ。

それに、シアンさんならアッサリとクリアーして、すぐに帰って来るかもしれないしね」


そう言うクロロの言葉に、俺は自分を納得させ、皆の所に戻る。

そして、シアンさんが先に進んだ事を伝え、シアンさんを待つ事を提案した。

俺的にはみんなもっと反発したり、嘆くかと思ったが、シアンさんなら仕方ないと、納得している様だった。


そして、それから数日は、自分達なりに訓練を行い、筋トレや魔物退治を続けた。

俺とクロロは昨日やっと、真ゴブリンスピリッツ3匹を、2人で倒す事ができた。

まぁ、まだシアンさんみたいに、速攻では殺せないけど……

シアンさんについていくには、まだまだ足りない。

俺はそう誓い、修行を続けた。

他の皆も同じ気持ちみたいで、今までよりも更に真剣に取り組んでいる。

だから、その内ヨード達も俺やクロロに追いついてくるかもしれない。

ちなみに、魔物との戦いで軽い怪我人は出ているが、シアンさんはそれを見越していたのか、大量のポーションを残してくれていた。

だから、致命傷にはなっていないし、全員元気だ。


それから更に、数日経ったがシアンさんは戻らない。

俺達は、全員が真ゴブリンスピリッツ3匹を、1人で倒せる様になっており、上層の雑魚ゴブリンなら素手で倒せる様になっていた。

それでもまだ、シアンさんには程遠いけど。


「シアンさん、戻ってこないな……

ひょっとして、あの隠し部屋の先で……」


クロロが不安そうに言う。

だから、俺は言い返す。


「バカ!

シアンさんがやられる訳がないだろ?

俺は生きていると思う。

まぁ、試しに入ってみたら、出れなかったっていうオチはあるかもしれないけど……」


「ぷっ。

確かに!

シアンさん、強いけど、好奇心多いし、たまに抜けてるからなぁ。

すぐ帰るつもりで出かけたのかもね。

きっと帰ってくる、うんそうだね」


ヨードの言葉につられて、皆笑顔になる。


「とは言え、この先どうするかは考えないとなぁ。

このダンジョンでは、これ以上修行になるかは微妙だし、ダンジョンを出て、外に行った方がいいんじゃないかと思うけど?」


確かに……

だけど、ここを離れれば、シアンさんが……

俺は皆に自分の想いを話す。


「俺も外に出るのは賛成だけど……

ただ、それでもこのフォーマルハウトのダンジョンを、拠点にしたい。

ここにはシアンさんが、帰って来るかもしれないし。

だから、できれば外には行ける様にした上で、このダンジョンに居たいと思う。

俺はさ、今はもうシアンさんの為に生きている様なものだから。

全てはシアンさん1人の為に、忠誠を尽くして生きたいんだ。

もちろん、みんなにそれを強制するつもりはない。

どの道、このダンジョンを出るにはヨグソトース団を倒す必要があるから、そこまでの協力でも構わない。

それから俺は、このダンジョンと街をシアンさんの帰れる場所にしたいと思う。

まぁ、シアンさんが帰って来るかはわかんないけどさ、少なくともそれを目標に頑張りたい。

無茶な話かもしれないけど、今の俺達は金級に匹敵する力があると思う。

だから、ヨグソトース団位なら倒せるだろうし、この街の支配権だって奪えるはず……

みんなはどう思う?」


「へー、ベルゼはそこまで考えていたんだ。

そりゃ勿論、シアンさんの為にってなら、僕が賛成しないわけないだろ?

ハイドロ家の家名にかけて、シアンさんの居場所作りに参加させて貰うよ」


「当主がそう言うなら、僕達も従うしかないよなぁ。

まぁ、クロロが反対しても、シアンさんの為なら賛成するけどね」


ヨードがそう言い、ブロモとアスタチンが頷く。


「ま、それには僕の力も必要だよな。

サルファもいいだろ?」


「勿論、ニトロだけじゃ不安だしね。

僕も参加させて欲しいよ」


「みんな……

ありがとう。

全員参加してくれれば心強いよ。

じゃあ、早速作戦を立てよう。

といっても、正直なところ俺達は入口と、このダンジョンしか知らない。

まぁ、とにかく入口の扉を開けるのが優先なんだけど、それは俺がやってみる。

扉の隙間から、閂だけを斬る。

そうすれば、最小限で斬るだけでいいと思うから。

これまでの修行の技量が試される所だけど。

勿論この刀なら、あの厚さの扉でも斬れるんじゃないかなとも思うんだけどね。

それはともかく、俺が扉を斬ったら、4人くらいで扉を押し開けて欲しい。

その役目は、ブロモ、アスタチン、サルファ、ニトロにお願いできるか?」


俺の言葉に、4人は頷く。


「次いで、クロロとヨードは、扉が開いたら左右に展開して、見張りを倒して欲しい。

まぁできれば生け捕りにしたいんだが、相手の実力がわからないし、無理はしないように。

ヤバかったらすぐに退いて。

そして、俺は中央で前から増援がきたら対応する。

まぁ、増援がいるかどうかもわからないけど、状況を見極めて判断する。

とりあえず、こんなところだけど、質問はあるか?」


「成り行き任せだけど、作戦自体はいいと思う。

ただ、リーダーは決めた方がいいんじゃないかな?

僕は、作戦を立案したベルゼがリーダーに相応しいと思う。

他の人はどうかな?

賛成の人は拍手して」


ん?

俺がリーダー?

確かに提案者は俺だが……

リーダー向きではないと思うのだが。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、クロロの提案にみんな賛成し、拍手している。

俺以外。


「えっと……

本当に俺でいいのか?

俺はあんまり協調性とかないし、勝手な事をするかもしれない。

みんなをまとめられるかもわからない。

それでもいいのか?」


「ベルゼは大丈夫だよ。

一緒に組んできた僕ならわかる。

それに、リーダーに必要なのは、適切な状況判断と、強い意思決定だと思う。

後はそれを伝えるのも、みんなをまとめるのも、僕がサポートするから大丈夫。

ベルゼは、みんなの先頭に立って、率いてくれれば良いから」


クロロの言葉に、皆が賛同する。

あまり自信はないが……


「それなら、シアンさんが戻るまでは、俺が仮のリーダーを務めさせて貰うよ。

まぁ、副リーダーのクロロが参謀役を務めてくれるらしいから、俺は好きなようにやるって事になるけど。

でも、みんなの気持ちは一緒だと信じている。

シアンさんが戻る場所を作る、ただそれだけだ!」


皆が頷くと、オー!と応答する。

そして俺達はダンジョンの入口へ。

まずは、見張りがいるか、クロロが確かめる。


「あの、魔石を交換したいんですけど。

今大丈夫ですか?」


「ああ、いいぜ。

それじゃ、ここに出しな」


見張りの言葉に従い、クロロは魔石の入った袋を取り出す。

上層の屑魔石だが、50個は入っている。


「おい、えらい数が多いな。

ちょっと待ってろ。

おい、ビビロお前も数えるのを手伝え!」


「へい、兄貴」


2人目の声がした。

つまり、扉の先にいるのは、最低でも2人。

ただ、それ以上はわからない。

そして、今なら魔石を数えていて、こちらの動きには気づかないはず。

俺は、扉の前で刀を構え、上段から一気に、無心で振り下ろす。

剣は、扉の隙間に吸い込まれる様に、スルリと通り、小さくカンッという音を立てた。


「今だ行くぞ!」


俺の掛け声と共に、4人が扉を押し、扉はあっさりと開く。

突然の事に驚く、中年のオッさんと、ガラの悪そうな若者。

あまりの驚きに、武器も取らずに硬直している。

その隙に、クロロとヨードが斬り込む!

ズシャッっと言う音がして、相手が倒れる。

俺は、他に敵が居ないかを確認するが、今のところ大丈夫らしい。


ちなみに、扉の向こう側はまだ洞窟だった。

なんか……

扉の手間よりも薄暗く、無機質な感じがする。

そして、後ろの様子を見ると、クロロとヨードが青ざめていた。

その下には……

絶命したオッさんと、半死の若者……


「ど、どうしよう?

僕は、人を……

手加減したつもりだったのに……」


そうか……

俺達は魔物なら沢山殺してきたが、人間相手は初めてだった。

それに、最近では下層の魔物を軽く狩れる様になってきたし、普通の人よりはかなり強くなっている。

だから、ただのゴロツキくらいなら、軽く殺せてしまうのか……

ふふっ、最初だったら死んでいたのは俺達だろう。

改めて、シアンさんへの感謝が湧き上がる。

それはともかく、これは乗り越えなければいけない道の1つだ。

シアンさんも、修行の為に人を殺したらしいし。

ならば、仮でもリーダーとして、俺がやる事は1つ。

俺は、倒れている若者にトドメを刺し、オッさんの首を刎ねる。

流れる血潮、嫌な感触が刀を伝わるが、これは俺の罪だ。


「クロロ、ヨード、気にするな。

殺したのは俺だから、お前らは殺していない。

それに、これは始まりに過ぎない。

強くなれ、シアンさんの為に」


「ベルゼ……

ありがとう。

確かに、僕達は強くならなければならない。

わかったよ、次は躊躇わない。

ベルゼの罪は僕の罪だしね。

僕達はみんなの為に、みんなはシアンさんの為に。

どうせ、コイツらゴロツキだって、人を殺しているだろうし、弟のフルオロの仇でもあるから、悩む必要なんてないかもな。

僕は覚悟を決めた、ヨグソトースを殺す!

ヨードも、大丈夫かい?」


「ああ、大丈夫だ。

まだちょっと手は震えているけど、次は確実にヤレる。

任してくれ」


こうして、俺達は大きな一歩を踏み始めたのだった。

少年は出会う。

人語を話す魔物に……

そして、その先を目指して……


第110話 深層の入口

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ