第108話 その先へ
あれから暫くは、ヨードさん達の基礎訓練を行い、それなりに筋力がついた段階で、各自に合った武器を与えた。
ちなみに、外のヨグソトース団の人達はこちらに干渉せず、魔石を持って行けば食料と交換してくれる。
だから、クロロさんの食事も皆に合わせる事になったのだが……
クロロさんは、レーションを一切口にできず、食べては吐いてを繰り返した。
日に日に痩せ細り、禁断症状が続いてクロロさんはヤバかった。
その後、極限まで行ったら、なんとか食べれる様になったみたいだけど、もう2度とパンは食べないって言っていた。
あの時は仕方なかったんだよ〜
クロロさんが生き返った状況では、パンをあげるしか無かったし。
まぁ、この辛さが、クロロさんを更に強くした、そう思う事にしよう。
うん。
ちなみに、クロロさん曰く、死の恐怖よりも数倍辛かったらしい。
何度も自害しようと悩んだらしいが、最終的には煩悩一切の解脱に成功し、ナーディの詰まりが取れたとか何とか言っていたけど……
まぁ意味がわからないし、放っておいたら、元に戻ったので良しとしよう。
それと、僕はいつも通り普通の食事をしていたけど、クロロさんの様子を見て、誰も欲しがらなかったとか何とか?
そんなこんなで数日が過ぎたある日、僕は提案する。
「さて、そろそろ実戦的な訓練も始めるよ。
今日は、魔物狩りダッシュにしようか?
ルールは簡単、1匹狩ったら魔石を持ってここに戻る。
必ず1匹のみしてね?
2匹以上狩ったら反則ね。
1人10匹がノルマで、終わった人から休憩ね。
ちなみに、1番最後は罰ゲームがあるからね?
それと、クロロさんとベルゼさんは第5階層以降縛りね。
2人は低階層じゃつまらないでしょ?
協力プレイは無しで、他の人の邪魔も禁止ね。
それじゃ、よーいスタート!」
皆、一瞬戸惑うも、理解した人から一気に駆け出す。
低階層から始めた方が楽だからね。
一応、みんな第3階層くらいまでなら1人で狩れるし、念のためポーションも渡してあるので、致命傷にならなければ死にはしない。
1匹目を倒し、最初に戻ってきたのはヨードさん。
雷槍アンペールのブースト魔法を使ったみたいだけど……
既に魔力が切れて、バテている。
これは……
2匹目以降がヤバイかも?
その次がサルファさん、武器は風刃鞭で、威力はやや弱めだが、低い魔力で扱いやすく、搦め手が使える便利な代物だ。
3番目がベルゼさん、4番目がクロロさんで、これは順当なところかな。
5番目がブロモさん、武器はファイアブランド、クロロさんのアイスブランドと対を成す炎の剣だ。
6番目はニトロさん。
武器は魔棍グリセロール、三節棍にもなる打撃武器だ。
ちなみに、先端に衝撃を与えると、爆発する非常に扱いにくい武器だが、ニトロさんは器用に使いこなしている。
最後はアスタチンさん。
武器は毒斧アルセニック、斬った相手を腐らせ、毒殺する上、威力は皆に渡した武器の中で最強。
ただし……
重い。
だから、移動が遅く、この勝負には不利かも?
ただ、アスタチンさんもわかっているのか、第4階層から始めているみたいだ。
実際、第5階層までは階段が直進だし、下手に第1階層から探し始めるよりは、効率が良い可能性も高い。
そして、最終的な順位は、1位ベルゼさん、2位クロロさん、3位サルファさん、4位アスタチンさん、5位ブロモさん、6位ニトロさんで、結局最後はヨードさん。
最初に飛ばし過ぎたのが原因で、急がば回れってところだろうか?
ヨードさんは、罰ゲームとして、僕に魔力を全部抜かれた。
まぁ、魔力を全部抜く事で、魔力総量を底上げする修行でもあるんだけどね。
ただ、魔力を全部抜かれると、気絶してしまうし、起きても頭痛がするとか、あまりいい修行ではないんだけど……
その翌日は、全員で第3階層、イヌゴブリンの隠し部屋、ジャンに嵌められた、あの無限沸き部屋に向かった。
無限って言っても、500匹で打ち止めだけどね。
7人いれば、1人70匹の計算だから、余裕だろう。
隠し部屋を開け、やや狭いが全員で入る。
すると、後ろの扉が閉まり、イヌゴブリン10匹が現れた。
「それじゃ、フォーメーションAで!」
僕の掛け声で、アスタチンさんが前に出る。
左右にはサルファさんとヨードさん。
先ずはアスタチンさんが、毒斧で薙ぎ払い、5匹のイヌゴブリンを殺す。
そして、サルファさんの風刃鞭と、ヨードさんの雷槍で、左右から残りを屠っていく。
「次、フォーメーションB!」
次いで、クロロさんと、ブロモさんが出てきて剣を構える。
「凍てつけ!」
「燃え尽きろ!」
2人の掛け声が同時に響き、イヌゴブリン達は凍るか燃え出した。
そして、2人とも余裕で1匹ずつ殺していく。
「そして、フォーメーションC!」
ベルゼさんと、ニトロさんが前に出て、ベルゼさんは防御しつつダメージを与え、ニトロさんは、激しい棍捌きと、爆風で敵を寄せ付けない。
この2人は、防御もできるから相性が良いと思ったが、読み通りみたいだ。
速攻で5匹ずつを倒した。
それからも、パターンを変えながら、300匹位までは何とかなったのだが……
そろそろ限界かな?
「じゃ、そろそろ僕が見本を見せるね?」
そう言って、皆を下がらせ、イヌゴブリンに向かい、一閃、素首を一気に刎ね飛ばす。
もちろん、イヌゴブリン達はバラバラに動き、襲ってくるがしっかり動きを読めば、大した事は無い。
「こんな感じで、軽く一回で倒せるでしょ?
まぁ、アスタチンさんの斧は重いから難しいけどさ、他の人はこれくらい出来るように頑張ってね」
「いやいや、そんな簡単に言われても、難しいですよ?
僕達には感知能力は無いですし……
ちなみに、今のは本気じゃ無いんですか?」
ヨードさんが尋ねる。
「えっと、身体強化魔法を使ってないから、まだ速くできるよ?
ちょっと待ってね、次は身体強化魔法有りでやって見せるから」
そう言って、僕は身体強化魔法をかけ、先程と同じ様に一閃で斬り倒していく。
まぁ、さっきよりも速く、力もこもっているので、イヌゴブリンの死骸のバラバラ感が凄いけど……
「凄い……
さっきのはかろうじて赤い閃光が見えたけど、今度のは一瞬……
僕には、ほとんど見えませんでした。
いきなりイヌゴブリンが死骸になった、みたいな感じで……
流石ですシアン様!
あっ、じゃなくてシアンさん」
「まぁ、身体強化魔法は身体を鍛えてないと、反動で死ぬ事もあるし、万能って訳では無いけどね。
ちなみに、僕はもう1段階までなら強化できるんだけど、僕の師父、えっと以前教わっていた師匠は更に2段階、時間すら操る事が出来たんだよ?」
「あと2段階ですか?
もう、想像もつかないですね……
それと、シアンさんはそんな凄い師匠のところを卒業したんですか?」
「いや、実際は修行の途中で亡くなってしまって……
残念ながら卒業ではないかな。
まぁ、永遠の目標みたいなものかな?
だから、僕なんてまだまだだよ、そして君らも頑張ればもっと強くなれるはずだから。
さぁ、あと180匹位だから、さっさと片付けるね?」
そう言って僕は、次々と湧いてくるイヌゴブリンを殺していく。
ザクリザクリと死んでいく……
時々は捕まえて魔力を吸収したり、蹴って飛ばしたり、殴って粉砕していく。
残りは30匹、そろそろ皆も回復してきただろうし。
「フォーメーションA!」
突然の掛け声にも、機敏に対応して3人が出てくる。
うんうん、ちゃんと待っていたみたいで何よりだ。
まぁ、一番最初程のキレは無いけど、合格点……
はまだ遠いな。
もう少し踏み込まないと……
武器の性能に頼り過ぎる感じは、しないでもないし。
「次、フォーメーションZ!」
フォーメーションZは全員での一斉攻撃、状況を見ながらの、可変的な自由な攻撃を売りにしている。
まぁ、こんな狭い場所だから、本来はあまり現実的ではないが、間合いの感覚を掴むためにはいいと思う。
「最後はフォーメーションZZで片付けて!」
フォーメーションZZは、さっきのフォーメーションZと違い、殲滅戦だ。
先程は譲り合って確実に殺していたが、今度は我先にとターゲットを奪い合う。
まぁ怪我だけはさせないように言ってはあるけど、最後だし、大丈夫だろう。
こうして、無事に500匹を倒し終わった。
そして、前回同様に倒し終わると後ろの扉が開いた。
足元には500個の魔石が転がっている。
僕達はそれを回収し、皆に告げる。
「みんな、お疲れ様。
まだまだの部分もあるけど、みんな大分強くなりました。
だから、今日はこの魔石を全部使って、食事に変えようと思うんだけどどうかな?」
「えっ?
魔石を食べるんですか。
ちょっとそれは……」
「違う違う、僕が交渉して、レーション以外に変えて貰ってくるね。
みんなは安全地帯の所で、待っていてね」
「なら、僕が荷物持ちをしますよ。
ついて行きます!」
と、クロロさんが付いてきた。
僕は、扉の前に行き、扉の向こうで門番をしているオッさんに話しかける。
「オジさん、オジさん。
今日はね、魔石を500個持ってきたんだけど……
たまにはレーション以外と変えてくれないかな?
肉とか肉とか、パンとかさ。
ダメかな?」
「あん?
500個だと……
冗談はやめておいた方が身のためだぞ?
って……
マジか!
確かにそれだけあれば……
いや、でも団長にバレたら……」
「いいから言う事を聞け!」
僕がそう言って、催眠魔法をかけると、オッさんは虚ろな目をしだす。
「はい……
わかりやした……」
そう言ってオッさんは、扉から離れて何処かへ。
そして、暫く待っていると、大量の肉とパンを持って戻ってきた。
「肉とパンでございやす。
お納めください」
オッさんから食料を受け取り、僕は魔石と交換する。
まぁ、オッさんの記憶は消える様にしたから、魔石は渡さなくてもいいんだけど、別にイヌゴブリンくらいの屑魔石なんていらないしね……
「シアンさんはやっぱり凄いです!
強いだけじゃなく、交渉もできるなんて。
まるで……
あれ?
誰の事だっけ?
前にも交渉して……
うっ、頭が……
痛い」
クロロさんは、ジャンの事を思い出したのか、急に頭が痛くなったみたいだが、やはり記憶の欠陥に問題が出ているのではないかと思う。
まぁ、致命的なレベルの頭痛ではないが、戦闘中ならマズイかもしれない。
もちろん、時が経てば更に記憶が曖昧になって、問題なくなるんだけど……
その後、僕達はみんなで肉を焼き、パンを食べた。
僕以外は久しぶりの普通の食事になるため、みんな笑顔でワイワイと食べた。
でも……
こういう幸せな時間は、とても楽しい。
みんな僕の言う事を聞いてくれるし、多分、いや過分に尊敬してくれている。
このまま、僕がみんなのリーダーとして、率いていく事も出来るだろう。
だが……
しかし、何かが違う。
何がが物足りない。
多分それは、共に考え、戦うという事だと思う。
僕は、父さん、ヤーフルさん、師父と師母に教わる時も、自分の意思を持って教わってきた。
ジャルやアナ、ボルツマンさんや孤児達、そしてジャンやサナは自分達の意見を持って接してくれた。
でも、今のメンバーは、僕を尊敬し、従い、全てを信じている。
それは、依存、盲信ではないのだろうか?
ひょっとすると、僕が怖くて恐怖しているのかもしれない……
心の奥底では。
そう思ってしまうと、このままみんなと行動する事が、みんなのためにならないと感じてしまう。
もう一緒には遊べない……
ん?
そうか、僕は単に皆と遊んでいるつもりだったのか。
確かに僕にとっては、遊びみたいなものだったし。
ひょっとすると、ジャンはそれを感じていたのかもしれない。
だがら、僕の事を避けたのか……
みんなと笑顔で談笑しながら、僕は本心ではそんな事を考えていた。
そして、その後……
皆が疲れ、眠りについた後、僕は1人最下層の隠し部屋へと向かうのだった。
少年が抜けた後、若者達は苦悩する。
そして、自分達が選んだ結果とは……
第109話 閑話 1人のために




