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第100話 破滅

お腹が空いて目が覚めると、なんだか違和感があった。

誰かに袋を探られた様な……

ついに僕への仕打ちがそこまで来たか、と思ったが、皆が起き始めると、違う事がわかった。

全員の袋が荒らされ、中身が減っている。

ついに……

アイツらが来たらしい。

攻略組、奴らは僕達が寝ている隙を狙いやってきて、袋内の食料や魔石を奪っていく。

ちなみに、食料は廃棄されており、ワザと食料が食べれない様にしているようだが……

なんでそんな事をするのかは誰にもわからない。

でも、そのせいで前回はみんなが死にかけた。

ただ食料を奪うだけでなく、第3階層までの魔物を粗方狩り尽くしてしまうから。


だから、第3階層以降まで行かざるを得なくなり、テネシンは死んだ。

まぁ、正確には第3階層の怪我が元に、だが。

でも、奴らさえいなければ、テネシンもフルオロも死ぬ事はなかった。

恨んでも、怨んでも、憎んでも、負の感情は尽きない相手。

だが……

僕では絶対に敵わない。

逆立ちしても、絶対に勝てない相手、僕では視線を合わすだけで震えてしまう。

絶対に逆らえない雰囲気に、脚が竦んでしまう。

威圧されたら、立てないかもしれないくらい、リーダーのヨグソトースJr.は、それくらい強い。

圧倒的と言う言葉がぴったりな程に……

いや、実際に戦った事はないから、どれくらい強いかはわからないが、イヌゴブリンくらいなら軽く一撃で倒せると思う。

それに、取り巻きのポテ三兄弟もかなり強い。

奴らは1人1人でそれなりの強さを持つのに、連携するとかなり強い。

実際、僕達5人はポテ三兄弟に負けたし。

所詮僕達がその程度なのかもしれないが、奴らには多分今でも勝てないと思う。


でも今は……

ジャンさんとサナさんがいる。

僕は疑われているから、居心地が今は悪いけど。

それでも、奴らに対抗できるなら、我慢できる!

僕はそう思っていたのだが……


いつも通り、ジャンさんは僕達より遅めに起きる。

僕達はそれまでに準備運動したり、武器を用意するのだが……


「無い!

僕の食料と、魔石が無い!

誰だ?

誰が盗んだ?」


ジャンさんは、起きて自分の荷物から食料と魔石が抜かれているのに気づき、犯人を探しだした。

しかし、犯人はここにはいない。

ボロンが、それをジャンさんに説明しようとしたのだが、その前にジャンさんは僕の前にやってくる。


「お前か、クロロ!

なんて事をするんだ。

貴重な食料だぞ、わかっているのか?」


「いや、僕じゃありません。

攻略組が……」


そう言いかけた瞬間、僕はジャンさんに殴られた。

あまり強いパンチではなかったのだが、びっくりして、腰をついてしまう。

そうしたら、ジャンさんは僕に馬乗りになり何度も、何度も僕を殴った。

あ、入口にシアン君がいる……


ジャンさんが長剣を抜き、僕に刺そうとした所で、ジャンさんはサルファ達に止められ、ジャンさんに説明してくれた。


「なんだよ!

そうなら最初から言えよな。

クロロがちゃんと言わないから悪いんだぞ?

しかし……

攻略組か。

僕が勇者として、そいつらを説得しないとな。

奴らは、外にも出れるんだろ?

ならば、皆を外に出してくれるかもしれないしな。

みんな、僕に期待してくれ!」


「ジャンさんなら、できますよ!

なんてったって勇者なんだし。

アイツらには大分苦しめられたんだ、やり返して下さい!」


そんな感じで盛り上がり、皆は暫く談笑していたが、当座の食料を取りに行く事に。

今回はしかも、満を持して全員で行く事に。

僕は、途中までは一番後ろだったが、第3階層に着くと、皆から離れて一番前、つまり囮扱いだった。

実際、何かあったら死んでも知らせろみたいなことを言われたし……

しかし、結局、第3階層の敵は1匹もいなかった。

つまり今回は、第4階層まで行かなければならない。

第4階層は、デミゴブリンが居る、強敵の領域だ。


ジャンさんは、第3階層に敵がいないのを知ると、考え始めた。

そして……


「いきなり第4階層か……

ボロン、どうする?」


「正直言って、僕には自信はありません。

今の僕達では厳しいと思います。

リスクが高すぎます」


「やはりな……

僕もそう思う仕方ない……

ならば今回は撤退しよう!」


そう言って、皆を戻らせようとする。

しかし、これにはサルファ達が反対した。


「ジャンさん!

ちょっと待って下さい。

前回も攻略組は3日間連続で、上層の敵を狩り尽くしてしまったんですよ?

そのせいで、僕達は3日間何も食べる事が出来なかった。

今回も同じなら、これから3日間は食料無しで、水だけで過ごさなければなりません。

そうなったら……

体力が無くなり、ミニゴブリンですら戦うのが厳しくなります。

それに、今回も3日という保証は無いんですよ?

それならば、多少無理してでも、体力のある今の内に第4階層に行った方が良いんじゃないですか?」


サルファの説明は尤もな意見だったが、既にジャンさんは自分への反論を聞ける様な状態ではなかった。


「サルファ!

お前まで僕を裏切る気か?

僕の決定に口を出すんじゃない!

僕は勇者なんだ、君らを救った救世主なんだろ?

ならば、次も何とかなると信じれば良いじゃないか!

それに、攻略組だって?

ただのチンピラの集まりに過ぎないんだろ?

ならば、勇者の僕の威光に従わせればいいんだよ!」


ジャンさんは、そう大声でサルファにまくし立てる。

しかし、その時丁度下の階段から誰かが上がってきた。

……攻略組?!


「へー、勇者か。

俺の名前はヨグソトースJr.だ。

このフォーマルハウトの街とダンジョンの実質的支配者、ヨグソトースの息子だよ。

つまり、お前らの敵って事だ。


勇者って奴がどんなに強いのか、俺が見てやるよ。

そうだな、俺に勝ったら此処から出してやっても良いぜ?」


「ヨグの兄貴、コイツら程度なら俺達ポテ三兄弟でも充分ですぜ?

わざわざヨグの兄貴が出るまでもありませんぜ」


憎い、憎い、憎い、憎い……

憎っくき攻略組がそこにいた。

だが、相変わらずヨグソトースJr.は、強者の雰囲気を醸し出している。

でも、ジャンさんの言っていた通りの展開になってきた。

ジャンさんなら、奴らを註し、僕達を救ってくれると期待したのだが……


「あ、や、いや、その……

僕はジャンクロードと、言います。

ただの冒険者で、あの、その、勇者とかはコイツらが勝手に言っているだけで……

ヨグソトースJr.様に逆らおうなんて事は全く考えてないというか、なんか……」


ジャンさんは、思いっきり腰が引け、先程までの勢いは無くなってしまった。

なんだよ!

僕にはあんなに強気だったのに。

自分は勇者だとか言っていたのに……


「ふーん、でそのウンコロード君はヨグの兄貴をチンピラ扱いしたわけだが、そんな事をしてタダで済むとは思ってないよな?」


「違うんです、僕はコイツらに言わされたっていうか……

無実なんです、許してください!

そうた、腹が立ったなら、そこにいるクロロとか殴ってもいいですから?」


??

ダメだ……

ジャンさんは、いやジャンは間違いなく勇者ではない。

むしろ、ただのクズだ。

僕は今までの事を思い出し、腹わたが煮えくりかえる思いだった。


「ダメだ、俺は勇者と戦いたいんだ。

いいだろ?

同じ長剣使いなんだ、楽しくやろうぜジャンクロードさんよ!」


そう言って、ヨグソトースJr.は自らの長剣を抜き放つ。

ジャンは、「ヒッ!」と叫んで地面にヘタリ込む。

その姿は、もう勇者としての面影は、僅かすら残っていなかった。


しかし、その瞬間。


「ジャンは、私が守る!」


そう言って、サナさんが弓を構え、魔法を込め始めた!

あの一撃なら……

きっとヨグソトースJr.を殺せるはず、そう僕は期待した。


だが、ヨグソトースJr.はサナさんの力に気づいたのか、構えていた長剣をなぎ払い、サナさんの弓を真っ二つに切ってしまった。

そして、サナさんは、込めた魔力が暴走して、パンっと言う爆音がした後に倒れてしまった。

血は出ていないし、音だけっぽいから、多分大丈夫だとは思うが……

そんなサナさんの勇姿を見て、ジャンは……


「あっ、バカ女。

なんで勝手な事をしているんだ!

僕を巻き添いにするなよ」


と、喚いていた。

それを見て、攻略組は嘲笑する。

しかし、これはチャンスだ。

アイツら今少し、気が緩んでいる。

僕は、アイスブランドを抜き、ヨグソトースJr.に斬りかかる!


「フルオロの敵!」


僕は、僕のできるだけの最速でヨグソトースJr.の脇腹あたりを斬りつける。

だけど……

攻撃は浅く、僕は奴の鎧の表面しか斬り裂けなかった。

そして……

ヨグソトースJr.の反撃を喰らい、斬られた。

一撃の下に、僕は大量の血をブチまけ、その場に倒れた。


「ツマラン、この程度か。

興が冷めた、ポテ達帰るぞ」


そう言って、攻略組は帰って行った。

一方、ジャンやサルファ達は第3階層に逃げた。

僕を放置して……

激しい痛みが身体を、容赦なく貫き、僕はもう動けない。

大量の血が流れ、目の前を赤い色が染め上げていく。

薄れていく意識の中、僕はフルオロとテネシンを見た。

故郷のプルトニウムの唄が聞こえた……


クロロさんが殴られるのを見て、僕はその後の様子を見るため、こっそりとジャン達一行の後をつけていた。

しかし、クロロさんを見ていると、最初の頃のジャルを思い出す。

あの時のジャルも、理不尽な仕打ちに耐えていたっけ、アナを守りながら。

なんか……

ジャンにジャルの面影を感じながら、そのジャンに虐げられているクロロさんにジャルの苦悩を垣間見てしまう。

僕は、世の中の不条理に、なんだか少し嫌になってしまう。

もっとみんなで協力ができればいいのに……

誰が上とか、誰が下とかにこだわり過ぎて、周りが見えなくなっている。

でも、それができるほど、人間の心は強くない、そういう事なんだろう。


そして、その後が更に最悪だった。

結局魔物は見つからず、第4階層へ行くかどうかで内輪揉め。

それから調子に乗ったジャンが、大言を吐き、間の悪い事に攻略組がそれを聞いてしまう。

しかも、ジャンはヨグソトースJr.の強さにビビり、醜態を晒していた。

手の施しようの無いクズ……

もう少しみんなの意見を聞き、謙虚になれば良かったのに……

でも、こんな状況じゃなければ、本当は良い人のはずなのに……

どこかで、ジャンを信じたい、そう思う自分もいる。


そんなジャンを庇う様に、サナが弓を引いて、斬られた時は凄く焦った。

もし、かすり傷一つでも付けていたら……

ヨグソトースJr.の腕は、僕に斬り落とされていただろう。

まぁ、サナが無事だったから、出て行かなかったけど。

そして、ジャンのサナに対する暴言も、我慢した。


しかし、その隙を突いて、クロロさんがヨグソトースJr.に斬りかかった。

間合いは悪くない。

だが、悲しいかな実力差は明白だった。

流石にヨグソトースJr.も鎧を切られたのだから、あの程度の反撃は当たり前だろう。

ちなみに、サナの一撃なら、相手がヨグソトースJr.でも致命傷になったし、反撃した相手がサナならヨグソトースJr.は僕に半殺しにされていた。

まぁ、クロロさんだから、わざわざ反撃なんてやらないけど。

ジャンだったら……

今のジャンなら悩むけど、すぐに助けるとは思う。

サルファさん達なら、間違いなく助けない。

そう思うと、ヨグソトースJr.って運が良いのかも?

場合によっては、天運持ちなのかも、それこそ勇者の様に……

やっている事はチンピラだけどね。


ん?

別に僕は、クロロさんを助けないとは、思っていない。

今はタイミングを見ているだけだ。

ヨグソトースJr.達攻略組が去り、ジャン達は第3階層へと逃げる。

クロロさんは、1人置き去りに……

幸い、斬撃は心臓や他の臓器には達していない。

ただ、太い血管が切れているので、出血量はかなり多い。

今は貧血で朦朧とし始めたくらいかな?

あと少しで、多分痙攣が始まり、普通ならじわじわと死に至る。

だが、ここはダンジョン。

徐々にダンジョンの魔素が、クロロさんに侵食していく。

放っておけば、すぐにダンジョンに吸収されてしまうだろう。


さて、それじゃやるか。

僕はまず、クロロさんの中の魔素を全て吸収する。

魔素は、次々とダンジョンから湧いてきてクロロさんを侵食しようとするが、僕の吸収の方が早い。

そして、魔素を吸収しつつ、傷口に薬草汁を適当にぶっかける。

買った時は粗悪品の回復薬だったけど、これも良化してあるから、多分効果はあるとは思う。

実際に、魔素の侵食は減ってきたし。

まぁでも、本人的には死にかけのさっきよりも苦しいかもしれない。

顔が痛みで苦悶の表情に変わってきたし。

呼吸もむしろ荒くなってきた。

ひょっとすると、ダンジョンの魔素には、身体を麻痺させる力があるのかもしれない。

だから、魔素が抜けると痛みが強くなるのかも?


とはいえ、これだけ措置すれば、もう即死はないだろう。

でも、最終的に貧血で死ぬかどうかはクロロさん次第。

念のため、出血時に効果があると言われる、鉄分を多く含んだ真っ赤な薬草の入ったポーションと、塩を少量溶かした水をクロロさんに飲ませる。

意識がないから、口を強引に開けて、気道に詰まらない様に一気に流し込む!

これで窒息して死んだら、その程度の運命って事で。

それは僕の責任ではないし……


とりあえず応急措置は終わったので、僕はクロロさんを背負い、第10階層へ。

クロロさんを隠し部屋のベッドに寝かせ、様子を見る。

まぁ、若干苦しそうだけど、死にはしないだろう。

魔素の侵食も起きなくなったしね。


こうして、僕はクロロさんだけを救う事ができた。

本当に守りたい人を置き去りにして……

だけど、今の僕には何もできないし。

ただ、僕はその人の無事を祈るだけだった。

少年が助けた若者は真実を知る。

いや、知ってしまう。

そして、生き延びた若者の決断は……


次回 第101話 選択

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