無の連撃
斉藤と古川は会議用の大机の上に立っていた。U字型の机に総帥の津村と生き残り幹部のゴリラとトカゲがついており、津村の隣には補佐官の遠藤がついていた。
敵は暫くの間呆気にとられていたが、津村総帥の「敵だぞ!」の一言でゴリラとトカゲは椅子から立ち上がった。
津村は言う。
「斉藤と古川と言ったかな。お前たち2人の相手をする前にゴリラとトカゲを倒してもらおう。そうでなくては私は相手にすらならない」
(ふふふっ、馬鹿め。体積の無限肥大化で終わらせてやる)
古川は体の肥大化を実行しようとしたが、不可能だった。その古川の疑問を察したのか津村が解説する。
「ふふふっ、この空間では一定以上の質量を持つ事は許さないのだ。この世界ではお前の肥大化は決して行えん」
斉藤と古川はその世界にかけられたプロテクトを解除しようと試みたが、津村のプロテクトは今の自分達の技術では太刀打ちできない事を悟った。
「無駄だとわかったようだな」
津村はふふっ、と鼻で笑う。
斉藤と古川は今まで乗っていた机から降り立った。相手との距離感がうまくつかめないため降りたのだ。
津村は背中を斉藤と古川に見せると部屋から退出していった。そして出際にこういった。
「ゴリラ、トカゲ。2人とも私についてこい。斉藤と古川の相手は我が補佐官である遠藤が務める」
ゴリラとトカゲは総帥に連れられて退出した。
この細身の40代くらいの地球人ハイランダーのオッサンがゴリラより強いとも思えぬ2人だが、立ちはだかってくるのなら倒すだけだと考えた。
黒のジャージに身を包んだ中年男性、遠藤は笑顔で自己紹介を始めた。不気味な奴で斉藤と古川は心の中で恐怖を感じる。
ゴリラよりも実力者なのか?総帥と補佐官という立場は組織のナンバー2の強さを持つのか?
そう頭の中で考え込んでいたせいで、遠藤の自己紹介も話半分しか聞いていなかった。
「私は業魔総帥、津村様の補佐役を仰せつかった遠藤でございます。地球人ハイランダーですが、肉体改造によって地球人としては最強クラスのちからを持つと自負しております」
次に、遠藤は自らの能力の説明までしだした。
「私は1を0にする能力を持っています。1を言い換えると『有』というあらゆる概念を0、無かった、消滅、消失、消し去ってしまう能力です」
遠藤の話を聞く限り、使い勝手の良い消滅能力か、と斉藤と古川は考えた。
「説明するより、実際見てもらったほうがよろしいでしょう」
遠藤は手のひらを前に出して何か念じたかと思うと、遠藤の手のひらの方向にいた斉藤の体が内側からねじれていったかと思うと、この世界からその存在を消した。
「ご覧になりましたか?今のは斉藤様の『存在』という有を無にしました。彼は歴史に死なないというプロテクトをかけていたようですが、それすら改変させていただきました」
「・・・では、斉藤はもう蘇らないというのか?」
古川の疑問に遠藤が答える。
「何重にもプロテクトをかけましたが、斉藤様が本気になされば私のプロテクトを解除することは難なくできると思います」
「何故お前はここまで自分の能力を説明する?」
「私にそれだけ自分の能力に自信があるという事です。そして私の力量を正確に知ってもらい、早々に降参してくれる事を願いたいのですが」
遠回しなやり方だな。と古川は思う。
急に古川の隣の空間が引き裂かれたと思うと、あの斉藤の姿がそこにあった。彼は帰ってきたのだ。彼は戻ってきたのだ。元の場所に。
遠藤がほう、と感嘆の声を漏らした。
「これは少し戦いがいがありそうですね。私の無の攻撃はあなた達が考えている程甘いものではありませんよ」
遠藤が戦闘態勢に入った。